第48回入賞作品 中学校の部
2等賞

三沢川流域に生息するサワガニたちの生活
―生息分布と体色パターンの研究―

2等賞

東京都稲城市立稲城第五中学校 2年
荒井 麻里
カニ
  • 東京都稲城市立稲城第五中学校 2年
    荒井 麻里
  • 第48回入賞作品
    中学校の部
    2等賞

    2等賞

研究の動機

 稲城市は多摩丘陵の北東部に位置し、北側を多摩川が流れる。三沢川は市内を東西方向に流れ、多摩川に合流する長さ約10㎞の川だ。源流や上・中流には、小さな流れ(しぼり水)や湧水の出ている所がある。サワガニのすめる環境が残っているのではないかと思い、生息分布を調べることにした。また三沢川には、図鑑に出てくるような赤いサワガニはいない。不思議に思い、体色と生活についても研究しようと考えた。

研究Ⅰ:三沢川流域におけるサワガニの生息分布

《方法》

サワガニのいそうな湧水やしぼり水の水源地を地図や航空写真で調べ、流域をサイクリングするなどして確認し、調査地に選んだ。サワガニは石や倒木などをどかして手で採取し、現地で体色や大きさ(甲幅)、雌雄、生息の状態などを記録した。

《調査地》

三沢川の源流域4カ所(黒川~)、上・中・下流の3カ所、三沢川の支流域2カ所(下谷戸、菅仙石)、湧水の水源地6カ所(天神山、弁天洞窟、坂浜、ふれあいの森、ふれあい農場、大塚牧場)。三沢川流域外のその他5カ所(神奈川県清川村宮ヶ瀬の水沢川、藤野町の佐野川など)

《調査回数》

2005年1月30日から07年10月21日まで計38回行った。

《結果と考察》

三沢川流域15カ所のうち10カ所で計745匹観察、その他の流域外5カ所のうち3カ所で計71匹を観察した。

主な生息地の状況:
〈坂浜〉調査地の中で最も多くのサワガニ計420匹(調査11回)を4~10月に観察できた。三沢川右岸の用水路で、梨畑、ブドウ畑に隣接している。絶滅種のホトケドジョウも群れて生息している。湧水が出ているところから約100mが生息区間で、水の暖かくなる6月ごろから活発に活動する。
〈天神山〉調査8回で計161匹を見つけた。自然の湧水と人工的に整備された自然石を置いた崖の環境が調和し、サワガニの生息地を守り続けている。観察期間は湧水量が比較的多く、冬でも水温が高いせいか、一年を通じて観察できたことには驚いた。しかしこの天神山も道路と遊水地の開発工事が始まっている。
〈黒川〉まわりを森が囲む自然豊な場所だ。 黒川では6回の調査で計63匹を観察した。2005年は用水路の中と湧水の出るところで見つけたが、07年は用水路では見つからなかった。水源地の水質汚染、農薬や肥料の影響も考えられる。
〈ふれあいの森〉森の谷間の湧水にサワガニが生息する。調査3回で計43匹観察できた。市が管理する公園内なので、流れをたどり調査することはやめておいた。
〈弁天洞窟〉多摩丘陵南山のしぼり水を集めて流れる。3回の調査で計27匹見つけた。川底は自然の土で、森の中から人家や田畑と接しないで流れているため、水が汚染されていないことが生息の要因と考えられる。
 サワガニの活動期間は春から秋。天神山では真冬(1月)にも観察されたが、通常のサワガニは冬の間、石の下などに巣穴を作り、冬眠に近い形で過ごしているようだ。

研究Ⅱ:三沢川流域におけるサワガニの体色パターンと生活

《方法》

三沢川流域のサワガニと神奈川県清川村宮ヶ瀬、藤野町のものとを比較。体色は甲羅全体の色の見え方で判別し、青色、紫色、赤褐色、褐色、黒褐色で分類した。一部、色彩色差計でも測定した。サワガニの生活研究は、生息調査と飼育観察によって行った。

《結果と考察》

〈1〉サワガニの体色パターン:三沢川流域に生息するサワガニは青色系だ。体色は成長とともに褐色系、紫色系、青色系と変化し、最終体色は青色系だ。

サワガニの体色:青色、紫色、赤褐色、褐色、黒褐色およびそれらの色が混ざり合った色調のものが見られた。体色は甲羅、はさみ、足、眼のまわりなどで異なっていた。青色系の一匹のサワガニでも甲羅は青色、はさみは白色、足と眼のまわりは灰青色という状態だ。甲羅の色も前側、後側で違うものもあった。
多くは前側の色が濃く、後側の色が淡い。赤褐色系のサワガニでは前側が濃い赤褐色、後側が明るいオレンジ色のものがいた。
地域別の体色パターン:甲羅の幅が20㎜以上の大型のサワガニで見ると、三沢川流域の坂浜、天神山などは青色系、神奈川県宮ヶ瀬の水沢川、藤野町の佐野川では黒褐色系だった。
体の大きさと体色パターン:三沢川流域坂浜、天神山では10㎜以下はすべて褐色系、15㎜以下ではほとんどが褐色系で、わずかに赤褐色系が混じる。15㎜を超えると紫色系が出てきて、20㎜ になると褐色系、赤褐色系、青褐色系、青色系となっていく。27.5㎜以上ではすべてが青色系となっており、最終体色は青色系と分かる。宮ヶ瀬の水沢川では20㎜以下はほとんどが褐色で、20㎜を超えると赤褐色系が混ざりながら、最終的には黒褐色系となる。黒褐色系にはわずかに紫色を含んでいた。
オスとメスの体色パターン:ともに15㎜未満は褐色、15㎜以上になると紫色系や青色系が出てくる。メスは25㎜まで褐色系のものが残る割合が高く、25㎜以上でも紫色系が30%程度残り、青色系のサワガニの割合は低い。オスは最終体色が青色系になる比率がメスより高い。
飼育したサワガニの体色変化:No.38のメスの体色が褐色―紫褐色―青灰色と変化しており、同一個体で体色が褐色系から最終体色の青色系まで変化していくパターンを完全に観察できた。



〈2〉サワガニの生活

脱皮:サワガニも脱皮しながら成長する。おしり側が破れシャツを脱ぐように、形がまったく崩れることなく古い皮をはずしてしまう。大型のサワガニでは脱皮する前に、濁った色になることがある。脱皮したては、透き通ったコントラストの強い色調をしていて、体はふにゃふにゃで軟らかい。体が硬くなり、色がはっきりするまでは1週間程度かかるようだ。驚いたのは、折れたはさみや足を脱皮時に再生することだ。この機能は、はさみや足が折れてしまうほどの過酷な環境で育ってきたためか、身を守るためにわざとはさみや足を落とす護身術なのか、いずれにしてもすごい。
子育て:サワガニは一生を淡水で過ごす。メスは卵を産むと、幼ガニになるまでお腹に抱えて育てる。
卵はきれいなオレンジ色。3㎜ぐらいの大きさに成長すると、その中に幼生が透けて見えるようになる。そして幼ガニの誕生。お腹の中で小さなカニたちが何匹も一緒に過ごす。観察したものでは30匹ぐらいいた。甲幅は約3㎜で、透き通った褐色をしている。やがて親ガニからもらった養分がなくなると、幼ガニは親から離れ、脱皮しながら成長していく。初めての脱皮は親から離れ1カ月ほどしてからだ。メスは甲幅17㎜程度になると、卵を産むようになる。このときの体色は褐色、紫色、青色のものがいた。必ずしも青色が大人の色で、青色になってから初めて卵を産むわけではないようだ。もしかしたら、青色系のメスはおばさんガニか、おばあさんガニなのかもしれない。
はさみ:オスは片方のはさみが大きくてかっこいい。メスのはさみは、左右が同じ大きさで小さめ。オスでは左右どちらが大きいのか。三沢川流域の76匹のうち右が大きいのが55匹、左が21匹で8:3の比率。右のはさみが大きいカニが多かった。

研究のまとめ

 サワガニがすむのは湧水やしぼり水が出ている水源地付近のみであり、何とかへばりついて生き延びている状況だ。この残された自然環境をできるだけ守っていけるよう、友達や地域の人たちと努力したい。

指導について

指導について荒井 智治

 小学5年生、このまちに生息するサワガニが青いことに不思議さを感じ研究がはじまった。カニの観察・飼育は小網代の森(三浦半島)をテーマに小学生の時しており、カニに関する興味と基礎知識はもっていた。三沢川流域でのサワガニの研究では生息地・体色・生活という項目で進めた。6年生で結果を一度まとめ、体色パターンの仮説を立てた。この仮説を統計的にまた飼育個体で完全に褐色から青色に成長していく姿を観察し証明したいという強い意識、そして新たな発見や次々と浮かび上がる疑問への興味を高いレベルで持続させることにより「三沢川流域には青色系のサワガニが生息する」という結論を導くことができた。
 この研究を通し自然とじかにふれあい感じ合うことにより、今後このまちの自然をこのまちの人々とどのように守っていくのか、自分に今何ができるのかを考え歩みはじめている。

審査評

審査評[審査員] 金子 明石

 東京都心から25㎞に位置する三沢川には湧き水やしぼり水が出る場所があり、サワガニがいるのではないかと関心をもったのが研究のきっかけという。最初に川に沿って景観調査を行い、調査ポイントの目やすを決めたのが科学的である。15カ所中10カ所でサワガニを見つけている。三沢川と離れた川でも調査を行い、3年かけて816匹を観察する根気強さに感心しました。図鑑などに載っている赤い個体は稲城にはいなかったところから成長と体色について分析している。甲幅20㎜以上では、三沢川は青色系、水沢川と佐野川では黒褐色系であった。甲幅10㎜以下では全て褐色系で、成長にともない赤褐色、紫色、青褐色、青色と変化し、27.5㎜以上では全て青色系である。雌は褐色系が残る割合が高く、雄の最終体色はほとんどが青色系であることから、雌は青色になる前に死亡するものが多いと麻里さんは推測している。学術的にも高く評価できる優秀な研究である。一部飼育するものを除いて、その場で記録し解放していることは資源保護のためにも立派な態度である。

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