第49回入賞作品 中学校の部
継続研究奨励賞

メダカの研究 パートII パートIII

継続研究奨励賞

愛知県刈谷市立雁が音中学校科学部メダカ班 3年・2年・1年
都筑章弘 他6名
  • 愛知県刈谷市立雁が音中学校科学部メダカ班 3年・2年・1年
    都筑章弘 他6名
  • 第49回入賞作品
    中学校の部
    継続研究奨励賞

    継続研究奨励賞

研究の動機

 理科室で飼われていたメダカと出会い、いろいろな研究をしてきた。メダカに詳しい愛知教育大学元教授の岩松先生を訪ねたら、刈谷市北部の小堤西池で採集したメダカの子孫(雄2匹、雌5匹)をいただいた。絶滅しかけている貴重なメダカで、「上手に飼育すれば、1万匹に増やすことができます」と励まされた。僕たちは「刈谷メダカ」と名付けて繁殖に取り組み、飼育条件や行動パターンなどについて研究してきた。

研究の目標

 昨年度は、飼育の最適条件を明らかにすることができた。さらにメダカに刺激を与えると、一瞬ピュッと動き、尾ビレが右か左に曲がることも分かった。そこで今年度は刈谷メダカを1万匹に増やし、自然に戻す。メダカにさまざまな刺激を与え、どんなときに尾ビレが曲がるかを調べる。

追究1:刈谷メダカを1万匹に増やし、自然に戻す。

(1)最適飼育条件:飼育箱(水槽)に濾過器をつけると、メダカは成長や産卵のためのエネルギーを泳ぐためだけに使ってしまう。飼育箱に金属類を入れるとpHが弱アルカリ性で安定する。さらに入れた鉄がさびてくると「鉄バクテリア」が発生し、それを食べる微生物が増える。これによってメダカのエサとなる微生物を大量に発生させることに成功した。また飼育箱に土を敷くと、pHが弱アルカリ性になり微生物が増える。最適なのは中学校の畑、中庭、花壇の土だ。

(2)刈谷メダカ1万匹繁殖計画:4月時点の刈谷メダカの数は雄191匹、雌143匹。これを1万匹に増やすために、飼育箱として発泡スチロールの箱100個を用意し、学校の中庭に並べて「メダカパーク」を作った。刈谷メダカは4月下旬から9月下旬に産卵する。143匹の雌が毎日平均20個を生むと、1日に2860個の卵が手に入る。孵化率は7割、成魚になれるのは自然淘汰などで4割なので、10日後の生存数は1315匹となる。この計算だと、17日で1万匹を達成できるはずだ。しかし20日後に確認できた子メダカは458匹、さらに1週間後は853匹。結局、8月のお盆明けに3286匹を確認できた。これらのメダカを小堤西池に戻そうとしたら、同池は国指定天然記念物なので放流できないことが分かった。そこで、保護区にはなっていない200mほど離れた水路に、昨年からいる親メダカの雄5匹と雌15匹、今年生まれた稚魚80匹の計100匹の刈谷メダカを放流した。

追究2:さまざまな刺激をいろいろな方法で与え、どんなときにどちらに尾ビレが曲がるかを調べる。

 刈谷メダカを使い、刺激を与えると本当に尾ビレが曲がるかどうか、予備実験をした。メダカを入れたビーカーにそっと近づきのぞき込んでみたら、メダカはビクッとしたように動き、そして何かを察したかのようにピタッと止まった。そのとき、メダカの尾ビレが90度くらい曲がっていた。次に起こる危険に対しての準備だと考え、僕らは尾ビレが折れ曲がっている状態を「待避行動」と名付けた。ヒトに利き腕や利き足があるように、メダカにも尾ビレを左右どちらかに曲げやすい「利きビレ」があるという仮説を立てて、実験することにした。

《実験1》

水槽をたたくと尾ビレはどうなるか。

〈方法〉

水槽に1匹のメダカを入れ、動きが落ち着いたところで水槽を手でたたく。これを1匹のメダカに30回ずつ、100匹に行った。

〈結果〉

尾ビレの曲がる割合は右49%、左48%。曲がらなかったのは3%だった。

《実験2》

前後左右からの刺激。

〈方法〉

水槽の同じ所をたたくのではなく、上から見たメダカの頭の方向(前側)、尾ビレの方向(後側)、さらに左右からというように方向を変えてたたいた。

〈結果〉

右から刺激を与えたメダカは76%が尾ビレを左に曲げた。左からの刺激には72%が右に曲げた。後側、前側からの刺激には左右がそれぞれ半々だった。

《実験3》

周囲を隠してたたく。

〈方法〉

メダカはたたく前に、先に動いてしまうので、水槽を紺色の画用紙でおおい、手の動きを隠した。

〈結果〉

水槽をたたくと39%が動いたが、61%は動かなかった。動いたメダカの前後左右からの各刺激に対する曲がり方は、いずれも左右半々と、ばらつきがあった。メダカは目でたくさんの情報を得ているのかもしれない。

《実験4》

視覚への刺激を与えるとどうなるか。

〈方法〉

敵となるような大きな魚の写真を割り箸にはり、メダカの前に出した。

〈結果〉

あまり反応がなかった。

《実験5》

懐中電灯の光を当てる。

〈結果〉

多少の移動はあったが、ピュッという動きはしなかった。懐中電灯を4つに増やしても、ほとんど変わらなかった。

《実験6》

カメラのフラッシュをたく。

〈方法〉

メダカの写真を撮るときフラッシュをたいたら逃げたので、改めて試した。

〈結果〉

水槽を手でたたいたときより割合は減ったが、右側からのフラッシュに60%が尾ビレを左に曲げた。左側からには69%が右に曲げた。

《実験7》

カメラのフラッシュに負けない光を当てる。

〈方法〉

もっとすごい光ではどうか。マグネシウムリボンを燃焼させて、メダカの前に出した。

〈結果〉

ピュッと動くどころか動き回ってしまい、データを取れなかった。さすがにあの光には耐えられないようで、実験に使ったメダカに申し訳なく思った。

《実験8》

体に直接刺激を与える。

〈方法〉

水中に手を入れ、落ち着いたところでゆっくり体に触った。

〈結果〉

右側から触れると、63%がピュッと動いた後に尾ビレを左に曲げて止まった。左側から触ると、71%が右に曲げた。実験2の結果と同じ傾向がみられた。

《実験9》

真上から刺激を与える。

〈方法〉

自然界のメダカの生活では、360度どこからでも敵は襲ってくる。直径5㎜ほどの砂利を、メダカの上(高さ30cm)から落としてみた。

〈結果〉

驚いて逃げ回ったが、尾ビレの曲がり方には差が出なかった。

《実験10》

離れた刺激を感じられるか。

〈方法〉

メダカから前後左右に約5㎝離れた所に砂利を落とす。

〈結果〉

たたいたり、触ったときの実験よりは差が大きくなかったが、右の方に砂利を落とすと尾ビレは左に曲がり、左に落とすと右に曲がる傾向がみられた。

 これまでの実験結果(1~10)で、メダカに「利きビレ」があるという仮説が覆されてしまった。困っていると、メダカの「待避行動」が、僕たちが鬼ごっこをしているときに、鬼から逃げるために右に行ったり、左に行ったりする動きと似ていることに気がついた。メダカを観察すると、尾ビレを曲げて止まった後は確かに、ジグザグに角度をつけて逃げている。「ジグザグ行動」と名付け、尾ビレの折れ曲がりとの関係を追究することにした。

《実験11》

ジグザグ行動の観察。

〈方法〉

メダカに、前後左右から水槽をたたく刺激を50回ずつ与え、ビデオカメラで撮影する。メダカの動きを線にして、一枚の紙に描く。

〈結果〉

尾ビレの実験と同様に、メダカの右側から刺激を与えると左に動き、左側から刺激を与えると右に動く傾向があった。

〈考察〉

ヒトはとっさに危険を感じると、頭を隠したり守ったりする。メダカも同じで、刺激から少しでも頭を遠ざけようとする。メダカは刺激を受けると、まず尾ビレを刺激が来た方向に曲げ、その動きで、たとえば右からの刺激ならば反対の左の方にピュッと逃げる。さらに次の衝撃に備えて、尾ビレを反対側に曲げる。「ジグザグ行動」と「尾ビレの折れ曲がり」には関係があるのだ。

 

反省と課題

 今回の研究では、メダカを増やすことと待避行動にこだわった。メダカの動きには無駄がない。しかし生態については、まだまだ分からないことがある。体色変化と環境やエサとの関係なども、これから明らかにしなければならない。また、刈谷メダカの1万匹繁殖も達成できなかった。幸いにも、学校近くの「高田池」の使用許可が得られた。本当のため池でメダカを育て、個体数や生態などを調べていきたい。

指導について

指導について刈谷市立雁が音中学校 川畑輝昌

 3年前、生徒からメダカの研究をしてみたいと言われたときは研究になるのか不安だった。しかし、それは杞憂に終わった。研究を進めていく中で今まで知らなかったことが明らかになり、生徒が地道に研究に取り組むことの大切さを痛感した。
  1年目、2年目は、飼育・繁殖する条件について追究した。水温の年平均を25℃前後に保つことや良いえさを与えることで、繁殖できることが分かった。その結果、愛教大の先生からいただいた刈谷固有の7匹の刈谷メダカを今年の秋までに3,000匹までに増やすことができた。3年目は、これまで疑問であった待避行動を追究した。その結果、コイやフナなどは一直線に逃げるのに、メダカは尾びれを曲げてジグザグに逃げることが分かった。
  3年間の研究を通して、自然の巧みさや多様性、規則性を肌で感じることができたのではないかと思う。

審査評

審査評[審査員] 瀬田栄司

 本研究は現在、刈谷市の池では絶滅してしまったメダカの子孫を大学研究室から分けてもらい、“刈谷メダカ”と名付け、その生態研究に取り組み継続、発展させたものです。これまで、大学や養魚場、そして動物園など専門の方々に意見を伺い、自分たちで試行錯誤しながら繁殖の最適条件を探り、メダカの行動パターンを観察し、体色変化を研究してきました。本年度は、さらにその研究を発展させ、「刈谷メダカ1万匹繁殖計画」「メダカの刺激とその反応」などの研究に取り組んできたものです。一見見過ごされるような行動についての研究は素晴らしいものです。本研究はパートとあるように、これまでメダカの生態と最適繁殖条件を探るなどしてきましたが、その根底には研究を通して醸成されたメダカへの深い愛情が感じられます。科学部メダカ班の生徒の皆さんが本研究を継続し、発展させてきた姿勢を称賛致します。

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