第45回入賞作品 中学校の部
1等賞

なぜ小豆は煮くずれを起こすのか?
表皮に起こる横割れ現象との関わりを探る

1等賞

愛知県刈谷市立依佐美中学校 2年/3年/1年
江川 明宏 他4名
  • 愛知県刈谷市立依佐美中学校 2年/3年/1年
    江川 明宏 他4名
  • 第45回入賞作品
    中学校の部
    1等賞

    1等賞

研究の動機

 ある日、おばあさんと一緒に畑作業に出かけました。見たことのない豆を見つけ、「これ、なあに」と聞くと、おばあさんは「小豆だよ」と教えてくれました。収穫した小豆でおばあさんがおはぎを作ってくれました。鍋の中で小豆を煮込んでいる様子を見た僕は、「どうして小豆はこんなに煮くずれるのだろう?」と不思議に思いました。以前、大豆の煮豆が食卓に出た時、豆の形がしっかりしていたのですが、小豆は煮くずれていて豆の形がないのです。科学部の仲間に不思議に思ったことを話してみると、一緒に調べてみようということになりました。

研究を始める前に

 小豆がどうして煮くずれを起こすのか、インターネットで調べました。「名簿図書館」というサイトに「裏技大百科」というコーナーがあり、「豆の煮くずれしない方法」として「ポットにたっぷり熱湯を用意し、豆をざっと洗い、たっぷりの水で落としぶたをして火にかけ、煮立ってきたら弱火にし、柔らかくなるまで煮ます。水気が少なくなったら熱湯を静かに注ぎ、さらに弱火で柔らかくなるまで煮詰めます。(中略)途中熱湯をさすのがコツです。水をさしたなら、煮くずれします」とありました。さらに、和菓子の老舗「総本家駿河屋」さんのホームページには「小豆の煮方  前日に豆をきれいに洗い、たっぷりめの水に漬け込み、豆を充分に吸水させておく。(中略)今までの煮汁を全て捨て、同時に豆に冷水をかけて煮くずれを防ぐ」とありました。僕たちは「水をさしたら煮くずれするのか?」それとも「冷水をかけて煮くずれを防ぐのか?」本当に困ってしまいました。そこで、どちらが煮くずれを防ぐのか、調べてみました。

予備実験

 どちらの方法が煮くずれを防ぐのか、煮た豆を1粒ずつ調べてみると、「裏技大百科法」では11・4%、「駿河屋総本家法」では10・8%の豆が煮くずれていました。さらに、表皮が横割れした小豆を発見しました。

この横割れは何なのでしょうか。僕たちは、研究の柱を次のように決定しました。「なぜ小豆は煮くずれを起こすのか?0小豆の表皮に見られる「横割れ現象」との関わりを調べる0」

本実験
 僕たちは、今後の研究で最も大切な小豆の煮方を、煮くずれる率のやや高い「裏技大百科法」に決めました。煮くずれ現象が多く起きれば、その原因がより究明しやすいのではないか、と考えたからです。

追究1 小豆の横割れ現象を調べる

 新・裏技大百科法(30gの小豆を洗い、500ccのビーカーに120gの水を入れ、小豆を入れて煮る。沸騰したら弱火にし、水が少なくなり豆に浸るようになったら熱湯を30cc注ぎ、1時間後、豆を取り出す)で実験するうちに、「縦割れ」や「縦横割れ」現象も発生することに気がつきました。

追究2 割れが起きる条件を調べる

実験1 小豆を煮る水の量を変えて調べる
  水量が小豆の3倍を超えると割れ率が極端に低下することがわかりました。4倍を超えると割れ率は11%台まで下がりましたが、その後水量を増やしても10%を下回ることはありませんでした。縦割れや縦横割れ率が横割れ率を上回ることはありませんでした。

 

実験2 小豆の吸水時間と割れ率を調べる
  小豆の吸水は割れを低下させることがはっきりとわかりました。特に、吸水時間が6時間を超えると割れ率が何と6%に減少しました。

 

実験3 割れが発生する温度を測定する
  小豆30g、水120gで、水温が5度上昇するごとに小豆をすべて取り出し、割れ率を調べました(温度変化による割れ率の違いをはっきりさせるため、小豆を吸水させませんでした)。割れは60度を超えると急激に増加することがわかりました。

 

実験4 落としぶたの効果を調べる
  アルミニウム箔で落としぶたを作り、割れ率を調べました。落としぶたは割れを起こしにくくする効果があることがわかりました。

 

考察
 これまで、割れの特徴や防ぐ方法をたくさん発見しました。しかし、割れが煮くずれの原因になるのか、わかりませんでした。そんな時、隣の理科室で「泥だんごが光るわけ」を研究していた成田さんがやってきて、「この小豆はどのくらい煮たの?いいにおいだね。食べていい?」と尋ねてきました。僕たちは、この言葉にハッ!としました。今までの実験は加熱時間を1時間と決めてきたからです。それ以上煮続けると、どうなるのか。さっそく実験に取りかかりました。

 

実験5 加熱時間と割れ率を調べる
  結果に驚きました。加熱を始めて70分後には割れ率が15%を超えました。80分後には縦横割れ率が横割れ率を追い越しました。縦横割れ現象で、横割れも縦割れも今まで以上に大きく深くなった状態を発見しました。これはまさに、煮くずれの始まりを示しています。



追究3 顕微鏡で煮くずれのメカニズムを探る

 小豆の表皮付近の断面には、長細い表皮細胞が見え、内側には小さな細胞群が、さらに内側には大きな細胞群が見えます。6時間吸水させた小豆の表面には、横割れ現象が起きそうな膨らみが見られます。小さな細胞群も大きな細胞群も、細胞内のデンプン粒が大きく膨らみ、細胞を変形させています。この細胞の変化が小豆全体を巨大化させる原因だったのです

  吸水させた小豆を煮た後、顕微鏡で観察すると、「加熱によってデンプン粒が水温50055度付近で糊化し始める」「60度付近では糊化が進むだけでなく、細胞群の分離も進む」ことがわかりました。
  さらに加熱が進むと、小豆の内部から分離した細胞群が飛び出しました。まさにこれが、小豆の煮くずれの瞬間でした。
感想と課題

 学区内にある和菓子の老舗「荒川屋」のご主人を訪ね、研究内容を見ていただきました。荒川さんは「これなら立派な小豆博士だ!」とほめてくださり、「小豆はとっても難しい豆なんだ。季節によって水に浸す時間も違うし、煮る鍋の材質だって選ぶんだ。ふっくら柔らかく煮るには、まず10年は修業が必要だ。あんこがうまいのは職人の苦労の証だよ!」と教えてくださいました。僕たちはご主人のお話を聞き、改めて小豆の不思議にとりつかれました。最後に、今後の課題を以下に示します。
 (1)容器の材質を変えると、煮くずれ方はどう変化するか(2)小豆以外の豆では、どのような煮くずれ方をするか(3)ジャガイモなどに含まれるペクチン(水溶性の食物繊維)は、60070度で野菜の細胞間の結合を強める働きがあることを知ったが、小豆に含まれる食物繊維にもそのような働きがあるのか。

指導について

指導について刈谷市立依佐美中学校 柴田洋児

 この研究は、科学部部長の江川君が「小豆を煮るとなぜ煮くずれを起こすのか」不思議に思ったところからスタートしました。
  生徒たちは、小豆を用意するために何度もスーパーへ走ったり、豆について詳しくなるために豆腐屋さんや和菓子屋さんまで何回も足を運んだりしました。
 研究の方向性が定まってくると、小豆をとにかく煮て、煮くずれが起きる条件を調べる日々が続きました。何万個という小豆を調べる中で、時には意見の対立が生まれることもありました。何度も実験を失敗し、データを取り直すこともありました。しかし、煮くずれが起きる条件を発見したとき、生徒たちの顔に笑顔と自信が出てきました。
  このたびの受賞を生徒ともども喜び、深く感謝しております。今後も私たちの身近にある何気ない疑問を大切にして、理科研究を続けていきたいと思います。

審査評

審査評[審査員] 中村日出夫

 大豆の煮豆は煮くずれないのに、小豆が煮くずれを起こしているのを見て不思議に思い、その謎を調べた本研究は、丁寧な観察や多くの実験を通して科学的な手法で探究し、研究を分かりやすくまとめていることは大変評価される。特に、事前調査や予備実験を通して先行知識を確認し、疑問を明確にして小豆の変化を見い出し、それらの現象が起こる条件を解明していることは立派である。データの処理や分析も緻密であり、写真やグラフも分かりやすく、顕微鏡写真を多く用いて科学的にメカニズムを考察している。何よりも本研究は探究する疑問の中心を外す無駄がなく、研究内容が分かりやすく、読み手を惹きつける魅力あるまとめ方が評価される。小豆の煮くずれ現象の条件やメカニズムについて丁寧に究明し、本職の和菓子屋さんまでも感心させるに至っていることも立派である。今後の課題として残る内容についても、更に研究を継続し、発展させることを期待する。

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