第54回入賞作品 中学校の部
3等賞

「心電図」の研究

3等賞

岐阜県大垣市立西部中学校 3年
長野楓
  • 岐阜県大垣市立西部中学校 3年
    長野楓
  • 第54回入賞作品
    中学校の部
    3等賞

    3等賞

研究の動機

 小学6年生の時から人の体について学び、研究してきた。今年は「心電図」について研究した。その理由は、幼いころに病院で「心臓の音に雑音が混じる」と言われたことがあるからだ。その時の雑音はどういう形で、今とはどんな違いがあるのか。波形を見ることができれば、面白いと思った。さらに昨年の研究(バイタルサイン)で、脈拍計で正しく心拍数が測れないことがあった。脈拍計の原理は心電図と同じだという。心電図はどのようになっているのか、その時に知りたくなったことも研究のきっかけだ。

研究の概要

 心臓や心電図の基礎知識を得るため、教科書やインターネットで心電図について調べた。次に、実際に心電図を測定する「心電図計」を作り、実験した。さらに、活動電位の条件を変えて各種疾患の心電図を描く「活動電位シミュレータ」や、各種疾患の心電図を解析する「心電図解析プログラム」も自作した。最後に、誰でも心電図から病気を判定できる「心電図判定マニュアル」を独自にまとめた。

心電図の勉強

◇心電図の基本

 心電図は、心臓の電気的な活動の様子をグラフの形に記録したもの。心臓の病気の診断や治療に役立てる。

刺激伝達系:心臓の電気信号は右房の「洞結節」から出て、→房室結節→HIS束→右脚・左脚→プルキンエ線維と伝わる。
基本的な波形:P波=心房が刺激を受けた時の波形。QRS波=心室が刺激を受けた時の波。T波=心室の興奮が消失する時の波。

記録法:電極を生体のどこに取り付けるかによって分類される。一般的なのが「12誘導心電図」。これには手足3カ所に付けた「四肢誘導」(第Ⅰ~Ⅲ誘導、aVR・aVL・aVF誘導の6本)と、胸に6個の電極を付けた「胸部誘導」(V1~V6誘導)がある。

◇病気と心電図波形

 心臓疾患の特徴的な波形を調べた。
伝導刺激系:心房・心室細動、心房・心室粗動、心房・心室頻拍、洞性不全症候群(洞性徐脈、洞停止・洞房ブロック、徐脈頻脈症候群)、房室ブロック(1~3度房室ブロック〈2度房室ブロックはモビッツ型とワエンケバッハ型〉)。
不規則な心臓動作:期外収縮(上室性期外収縮、心室性期外収縮)。
脚ブロック:右脚ブロック(完全右脚ブロック、不完全右脚ブロック)、左脚ブロック(完全左脚ブロック、不完全左脚ブロック)。
虚血性疾患:心筋梗塞、狭心症。

心電図計の製作

 心電図計を自作した。部品や回路については、父に教えてもらった。
〈計測部〉2チャンネル心電図増幅器:心臓の電気信号は数mVと微弱なので、約1,000倍の増幅とした。四肢誘導とゼロ点の電極は、違った種類の金属では“電池”となって0.2~1.0Vの電圧が発生するので、同じステンレスにした。信号の入力にはノイズの入らないマイク用シールド線を使った。後の実験で、汗によって電極に直流の電位差が発生することが分かり、さらに入力部には直流カットのコンデンサーを追加した。単三電池8本で作動する。
〈記録部〉USB接続型オシロスコープ(父に借用)、付属する記録ソフト(PicoLog)。
〈データ変換部〉実行ソフト:EXCEL 2003、言語:EXCEL−VBA、パソコン(Windows XP SP3&SP3)。

心電図実験

 自作の心電図計で、家族や親戚の心電図を測った。

《結果と考察》

(1)基本的な測定

心電図計の信頼性の確認:父が病院で測定した心電図と比較したら、S波が深いこと、T波が基線に戻らず、一度マイナスに振れることが分かった。原因は信号の電気ノイズを除去するフィルターにあると推定された。
呼吸性不整脈:姉の脈拍数が不安定であることが分かった。ネットで調べると、若者に多いという。追加実験すると、私と姉が、呼吸の状態による呼吸性不整脈の症状と一致した。

(2)姿勢の違いによる測定:

座った状態の方が、仰向け状態よりも、高めに出る傾向だ。これも原因は信号の電気ノイズを除去するフィルターにあると思われる。信号のプラス、マイナスは同じレベルの必要があるが、プラス側に片寄っている。

(3)通常行わない位置での測定:

aVFと水平方向の電極、および、aVFと背中を含む上下方向の電極の間の心電図を測り、さらに“ベクトル心電図”でも比較した。私と姉とは似た傾向だが、父の心電図は違った。原因は不明だ。

(4)12誘導心電図:

自作の心電図計は2チャンネルなので、12誘導心電図は一度に測定できない。そのため、四肢誘導についてはⅠ波とⅡ波から導出計算し、V1~V6誘導については、みぞおちに置いた中点基板と各点間で測定した。(1)と同様、「S波が深く、T波が基線に戻らずに、一度マイナスに振れる」現象以外は、おおむね正しい結果だった。

(5)筋電の影響:

左右の片手に力を入れた時、Ⅲ波に筋肉からの信号が入った。計算誤差かとも考えられたが、他のデータとの比較で、Ⅲ波の導出計算は正しく行われていた。

(6)運動前後での測定:

力80%の200m走の後で、R波の波高変動が大きかった。心臓への負荷で、心筋の安定性が少し崩れたためか。心拍数も高まったが、全体の波形に変化はなく、心臓はよく働いている。

活動電位シミュレータ

 各種疾患の心電図のシミュレーションのために、必要な条件設定を自分で行い、表計算ソフトにプログラムを組み込んだ。
 心電図(心臓の活動電位)の発生理由については「2細胞モデル」で説明されるが、Q波やS波の発生理由が分からず、京都府立医科大学の田中義文名誉教授のアドバイスをいただいた。条件設定さえ行えば、かなりいろいろな病気の心電図を作り出すことができたのは成果だった。

心電図解析プログラム

 各種疾患の心電図データは、愛知県内の内科医、太田隆之先生が心電図表示ソフト「たんぽぽ」用として、ホームページで公開していた。許諾を得て利用させていただいた。データは父の協力を得て解析し、EXCELに読み込んで、心電図解析プログラムを作った。
 勉強しながら作成したので、使いやすいとは言えないが、心電図を多方面から解析するための機能は備えることができた。ただし、「ブルガダ症候群」の心電図波形については、仮説の段階であり、検証ができていない。

心電図判定マニュアル

 医学的な知識も経験もない人でも、心電図の波形から病気や心臓の状態を判定できるようにした。波形の特徴や確認すべき項目をできるだけ分かりやすく分解し、場合分けした。特徴的な疾患については、実際の心電図を提示し、見比べられるようにした。同じ病気でも、心電図の描き方がまったく違う場合もあるので、その特徴や理由も併記した。
 中でも、心拍数の「徐脈」「正常」「頻脈」から始める「タイミングからの判定」は、うまく条件分けができた。しかし狭心症や心筋梗塞は、図鑑のようなまとめ方になってしまった。心電図以外の要素が必要だ。

感想と今後の課題

 心電図によって、心臓の動きを知ることができた。心電図波形を読み取り、基本の波形とどこがどう違うか見分けることで、人の命が助かることも分かった。人の心電図波形は、運動した時や姿勢を変えた時などに変化するため、何気ない行動が心臓にまで影響するのだ。緊張した時などに、心拍数が上がるのも、心と身体がとても近くつながっているからだ。実験とシミュレータの作成によって、活動電位から心電図が発生する仕組みを理解することができた。父の協力で、心電図を解析するプログラムを完成させることができた。これにより、普通の心電図では分かりにくい病気の心電図の理解に役立った。実験と病気の心電図の解析を通じて心電図マニュアルを完成させ、さまざまな心臓の状態や病気を理解した。家族や親戚の心電図を測定して分かったのが、心電図の波形にもそれぞれ個性があるということ。さらに、一人ひとりが生きていること、人としての命の重さも実感できた。

指導について

指導について長野 晴夫

 本テーマは、昨年度完成させる予定でいたが医学を学んだことのない指導者ではアドバイスができない上に、中学生の研究としては難しすぎて一旦は断念した。しかし、子供の心電図に対する熱意は予想以上であり、再挑戦をすることにした。よって、私自身も勉強しながらの研究となり、おおよその着地地点の想定が難しく仮説の検証が弱くなった。また、研究に当たっては、中学生では習わない解析手法やテクニックを多く使うことになり迷いはあったが、将来、未開拓の研究に挑む場合、インターネット情報や各種論文等から先人の知恵を上手に借りながら目的の研究を進める「賢さ」が必要であると考え、積極的に活用するようにアドバイスした。今回の研究では、指導者の知識不足から間違った知識や研究結果になっている可能性がある。しかし、そんなことは、将来、本格的にその分野に進んだときに修正すればよいし、研究を通じて修正能力を身につけたと信じる。

審査評

審査評[審査員] 髙橋 直

 心電図という、中学生にとってはかなり難しいものを対象にした研究である。心電図計を自作して測定を行い、さらに活動電位シミュレータという心電図の成り立ちを理解するためのソフトウェアや心電図解析プログラムまで自作している。そして最後には心電図を判定するためのマニュアルまでまとめてしまっているのは、すごいとしか言いようがない。通常の心電図だけでなく、普通は医者にかかってもあまりお目にかかることがない、ベクトル心電図についても探究している。本来は収縮信号を出さない部位が異常信号を出すことによって起こる期外収縮について、そのベクトル心電図から異常信号の発生場所を推定できるという仮説を導き出し、収縮信号を発生する医療機器であるペースメーカーが装着された部位と装着した方の心電図から、その正しさを確認するというあたりは、専門医も顔負けではないだろうか。
 大学生でも理解が難しいのではと思われる論文であり、将来どのような分野で活躍してくれるのか、楽しみな中学生である。

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