第55回入賞作品 中学校の部
オリンパス特別賞

顕微鏡下の世界
―植物花粉の観察と花粉発芽の研究―

オリンパス特別賞

茨城県石岡市立府中中学校 1年・2年
茨城県石岡市立府中中学校 1年・2年
菊地美羽・菊地勇伊
  • 茨城県石岡市立府中中学校 1年・2年
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  • 第55回入賞作品
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    オリンパス特別賞

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研究の動機

 小学生のころから、雑誌の付録の顕微鏡で虫の羽や植物の葉などを見て楽しんでいた。妹が中学生になり、新しい顕微鏡を買ってもらったので、2人で花粉の観察を始めた。丸い花粉や三角形の花粉、周りにトゲのようなものがある花粉、糸を引いている花粉などさまざまだ。サクラの花粉では、芽のようなものが出て、どんどん成長する姿にびっくりした。これらのことをきっかけに研究を始めた。

研究のねらい

(1)いろいろな花粉を顕微鏡で観察し、形や色などを調べる。

(2)花粉を水やいろいろな濃度の砂糖水に入れて、変化や特性などを調べる。酸素や二酸化炭素などに対する反応も調べる。

研究の準備

 できるだけ安価になるように、大量に使用するスライドガラスをアクリル板で作った。カバーガラスには、食料品パックなどの透明なポリエチレン板を小さく切って使った。スライドガラスの花粉標本を入れる木箱も作った。顕微鏡写真を撮るために必要なカメラと顕微鏡のアダプターも、塩ビ管を利用して自分で作った。

〈1〉いろいろな花粉

【観察】3月23日のスギに始まり、10月6日のセイタカアワダチソウまで計105種類の花粉を調べた。

《結果》

形について、大きく6つに分類した。

◇球形

丸形:スギ、ウメ、サクラ、ホトケノザ、ハルジオン、シバザクラ、レンギョウ、オオイヌノフグリ、イチゴ、パンジー(紫)、チューリップ、ポピー、ヒメオドリコソウ、オオデマリ、ペチュニア、ヘチマ、カクイソウ、ホオズキ、ヒメジオン、ドクダミ、マツバギク、ヒルガオ、アザミ、サンパラソル、シャラ(ナツツバキ)、キキョウ(紫、白)、トウモロコシ、オクラ、ベゴニア、ニチニチソウ、トランペット、オモチャカボチャ、ヘリオトロープ、オシロイバナ、クサフジ、パッションフルーツ、イヌタデ、キンモクセイ

トゲのあるもの:マリーゴールド、ポーチュラカ、ダリア、ホタルブクロ、ムクゲ、ハイビスカス、カボチャ、キンケイギク、アサガオ、ヒマワリ、アスター、ルドベキア、フヨウ、コスモス、マルバルコウソウ、キバナコスモス、セイタカアワダチソウ

◇卵形

スイセン、モクレン、カラスノエンドウ、エンドウ、アブラナ、ツバキ、フジ、シロツメクサ、ネギ、ラベンダー、ジャガイモ、ガーベラ、ブロッコリー、タンポポ、トマト、ナス、クリ、スカシユリ、ピーマン、アジサイ、シラユリ、ゴーヤ、リンドウ、ザクロ、ハス、サルビア、ミソハギ、ヒガンバナ、ツユクサ、ソバ

◇三角形

モモ、ノウゼンカズラ、ヒメオドリコソウ、ホタルブクロ、ヤマボウシ、オオイヌノフグリ、キュウリ、ナス、ピーマン、フジ、ホオズキ、ホトケノザ

◇四角形(長方形)

ヒョウタン、ホウセンカ(赤、紫)、テッセン

◇五角形(多角形)

パンジー(黄)、メランコジウム、サルスベリ

◇その他(多数集合形)

シャクナゲ、マツ、ツツジ(ピンク、白)、ベニキリシマ、ジニア

《考察》

球形が全体の50%、卵形27%、三角形12%、それ以外は13%と、丸に近い形が8割近くを占める。花粉の大半が虫媒花であり、虫の体に付着されやすくするための植物の工夫、知恵と推察される。花粉にとげがあることで、虫の脚や体に付きやすい。多数集合形では、マツのように花粉に空気袋を付けて風に飛ばされやすくする工夫や、シャクナゲやツツジのように、花粉に糸が付いていて、虫の体に付くとイモづる式にたくさんの花粉が付く仕組みのものもある。

〈2〉花粉の持つ特性と変化

【実験1】花粉の発芽実験

《方法》

30種類の花粉に、水と砂糖水(濃度2、4、6、8、10%)を滴下し、時間の変化とともに発芽の様子を調べる。

《結果》

水だけで発芽したもの、水とすべての砂糖水で発芽したもの、ある濃度の砂糖水だけで発芽したもの、いずれでも発芽しなかったものなどがあった。

【実験2】いろいろな種類の砂糖水に対する反応

《方法》

白砂糖、テンサイ糖、黒砂糖、グラニュー糖、三温糖の水溶液(濃度2~10%)で、ホウセンカの花粉の発芽を調べる。

《結果と考察》

どの種類の砂糖水からも花粉の発芽がみられた。実験に使う砂糖はどれでもよい。ただ黒砂糖や三温糖のように、色のあるものは観察しにくい面もあった。

【実験3】酸素と二酸化炭素に対する反応

 植物は呼吸に酸素を使い、光合成に二酸化炭素を使っている。これらに花粉がどのような反応を示すのかを調べる。


酸素に対する反応

《方法》

ペットボトルの1/3に砂糖水(濃度2%)を入れて栓をして上下に振り、空気中の酸素をよく溶け込ませる。その砂糖水でホウセンカの花粉の発芽を調べる。ボトルを振る回数は0回、5回、10回、15回で比べる。


二酸化炭素に対する反応

《方法》

ペットボトルの1/3に入れた砂糖水(同2%)の中にストローを使って息(二酸化炭素)を吹き込む。その砂糖水でホウセンカの花粉の発芽を調べる。息を吹き込む回数は0回、5回、10回、15回で比べる。

《結果と考察》

では、たくさん振ったものほど、順調に花粉から発芽し、花粉管もより長くなるなど、成長が良かった。花粉の発芽には酸素が必要だ。では息を5回吹き込んだものの発芽が良く、花粉管の長さも伸びた。しかし10回、15回のものは発芽したが、花粉管の伸びが弱く、元気さが感じられなかった。二酸化炭素は花粉の発芽には不適当だ。
 5回吹き込んだものは溶けた二酸化炭素の量が少なく、かえってこれが幸いし、花粉の発芽を刺激したとも推測される。以前、人工呼吸の学習で「少量の二酸化炭素はヒトの脳を刺激する力がある」と聞いた。花粉にも同じことが当てはまるのではないか。

感想

 花粉が発芽し、花粉管が伸びて成長していく様子などを顕微鏡で観察し、その神秘さや研究の楽しさ、素晴らしさを体験した。今後は、今回どうしても発芽しなかった花粉の再実験や原因の調査、寒天などを使った培養方法の研究に取り組んでいきたい。

指導について

指導について菊地 匡規

 本人たちは、小学生の頃から自宅にあった小さな顕微鏡で虫の羽や植物の葉などを見て楽しんでいました。妹が中学生になったのをきっかけに、新しい顕微鏡を購入し、2人で本格的に花の花粉観察を始めました。まるい花粉やトゲのある花粉、糸を引いている花粉などいろいろな花粉があることを見つけました。さらにサクラの花粉を観察した時に芽のようなものが出て成長して行く姿に驚かされ、花粉の発芽についてもさまざまな実験をしました。いろいろな濃度の砂糖水の中に花粉を入れて発芽の様子を観察したり、砂糖の種類をかえて実験したり、めしべのすりつぶした液や空気(酸素)、二酸化炭素の影響なども調べました。これらの結果から花粉の発芽にはそれぞれの花に適した濃度があり、めしべの液や酸素には発芽を助長する働きがあることを発見しました。今回の研究を通して多くの成果を上げることが出来たのは、2人で協力し意欲的に取り組んだ努力の結果だと思います。

審査評

審査評[審査員] 邑田 仁

 光学顕微鏡と自作の撮影装置を組み合わせた花粉の形の観察と、花粉の発芽を観察した研究である。顕微鏡を用いた定番のテーマであるが、この研究には撮影装置の工夫が生かされている。さまざまな研究機器が市販されているが、その性能を引き出すのは使う人間であることを忘れてはならないだろう。道具や機械を使いこなして「自分のものにする」ことにより、本来の使用目的や使い方を超えた性能を引き出し、よい成果を上げることが可能な場合があるからだ。この研究では花粉の表面を調べることで終わっているが、花粉の断面を見ることはできないだろうか。発展を期待したい。

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