第46回入賞作品 中学校の部
2等賞

鎮守の森から学ぶこと
広葉樹にみる耐火耐熱性のメカニズム

2等賞

茨城県水戸市立見川中学校 3年
大図 美究
  • 茨城県水戸市立見川中学校 3年
    大図 美究
  • 第46回入賞作品
    中学校の部
    2等賞

    2等賞

研究の動機と目的

 水戸市森林公園をフィールドに進めている研究「森づくりの提言」も3年目となる。茨城県では2005年6月に「全国植樹祭」が開催され、その主木にシイ・カシ類の常緑広葉樹が選定された。
  今回は樹木の持つ働きに注目し、

耐火耐熱性において、葉が厚く表面に光沢があり、水分を多く含んでいる常緑広葉樹は火に強いことを検証する。
その検証過程で、熱の伝わる仕組みを解明する。

――これらを目的として、研究に取り組んだ。

研究の方法

 広葉樹の中から常緑樹と比較用の落葉樹を数種類選び、その葉と枝を加熱して、 (1)どの程度の温度までなら耐えられるか (2)温度と水分蒸発量の関係、といった基礎データを収集する。 さらに、今回選んだ樹木の中 から比較的熱に弱い樹木を研究対象として燃焼させ、(1)外側からの状態の変化(2)内部組織の構造上の変化、を観察する。樹木のどの部分または位置が熱に対して強いのかを考え、熱の伝わり方を解き明かす。

実験1

樹木の葉、枝の熱に対するデータを収集する。樹木の特徴を整理し、今後の研究で樹木を選ぶ際の基準とする。

《方法》

加熱した砂の中に葉、枝を入れ、一定時間蒸す。砂で蒸すのは、葉や枝を直接火で加熱すると、熱が均等に伝わらないからだ。

蒸す前後の重さを測定し、その差から蒸発した水分量を求める。
葉はすべての面積を求め、1平方cm当たりの重さを求める。蒸す前を100として蒸発した水分の比率を算出する。
蒸してから30秒後、1分後、2分後、3分後、5分後、10分後の表面温度を、非接触温度計で測定する。
蒸す温度:葉は100℃、200℃、300℃、枝は200℃、300℃、400℃。
蒸す時間:1分間
対象とした樹木:常緑広葉樹、落葉広葉樹、葉の厚さから10種類選ぶ。
常緑広葉樹=〈ブナ科〉シラカシ・スタジイ・マテバシイ〈クスノキ科〉クスノキ
落葉広葉樹=〈ブナ科〉コナラ・クリ〈モクレン科〉ホオノキ・コブシ〈バラ科〉ヤマザクラ〈ミズキ科〉ヤマボウシ

《結果》

〈葉〉

100℃で水分蒸発比が50%を超えたもの=ヤマボウシ・ヤマザクラ・クリ
100℃での水分蒸発比が10%から20%だが、300℃になると50%を超えたもの=スタジイ・マテバシイ・シラカシ・ホオノキ
全体の樹木を通して、葉の持つ水分量は平均50%から60%を示した。
蒸した後の温度変化=加熱300℃、30秒後には、熱に弱いとされるヤマボウシ・ヤマザクラは30℃から50℃なのに対し、スタジイ・シラカシ・マテバシイは70℃から80℃を示した。

〈枝〉

全体的に200℃では水分蒸発量は枝重量の20%以下、300℃では30%から50%以上、400℃ではほぼ300℃と同じだった。蒸した後も高温を示したのは、樹木の材が柔らかいヤマザクラとクリだった。高温とならなかったのはクスノキだった。

実験2

枝を燃やす実験を行うための基準を決める。

《方法》

サンプル樹木として、火に弱い(熱への反応が速く、大きい)ヤマザクラを選び、ガスバーナーで枝の1個所を燃やし続け、その状態を観察、記録する。

《結果》

実験の基準値を、枝の太さ1cm以上、燃焼時間5分以下、火力は800℃から1000℃とした。(これは山火事で樹幹に届く火の温度は1000~1200℃といわれるからだ)

実験3

枝を燃やし、炭化の進み具合を時間を追って観察する。

《方法》

燃やす温度は約800℃、時間は180秒(3分)まで15秒刻みで行う。サンプル樹木はヤマザクラ(太さ直径1.5センチ)とし、これを180秒までの分として計12個用意する。燃え口を削り、状態を観察する。

《結果》

燃焼後30秒で、樹皮の奥が見える。(中まで進んだ)
60秒で次の層が少し見える。
90秒でも、60秒で進んだ層の燃焼範囲が広がっているが、奥には進んでいない。
105秒から180秒まで、表面は焼けた状態が進んだように見えるが、中心に進んだ深さは変わっていない。

実験4

ヤマザクラの断面を顕微鏡で観察する。どんな構造になっているのか、炭化した部分がどこまで中心に進んでいるのか。

実験5

枝を染色し、観察する。水の経路、構造を確認する。

実験6

枝の各層を外から順に削ってゆき、熱の伝わり方を調べる。熱はどの程度まで樹木の内部に伝わるのか。燃やすと切り口から泡が出てくるが、その出る位置(熱の出口)を確認する。

《方法》

直径約2cmのヤマザクラの枝の1カ所を燃やし(温度約800℃で2分間)、表面と内部(各層)の温度を測定。

《結果》

中心部分(表の「中心」と6)に熱は伝わらない。表面に近い2、3は温度が高い。3と5で温度差が大きい。4の部分で熱を下げる機能が働いていると推測できる。泡は、初め2と3の間(境目)から出てくる。その後、3と4の間から出てくる。4と5の間、5と6の間からは出てこない。

実験7の1

枝を内部の層ごと別々に燃やしてみる。
熱に対して、層ごとにどのような変化を示すか確認する。

《方法》

燃焼は温度1000℃で2分間。その後の温度変化を時間を追って(30秒後、1分後、2分後、3分後、5分後、10分後)測定、状態を観察する。層ごとに削ったヤマザクラを4種類用意する。実験6の結果から、中心部近くは熱が伝わらないので、対象から除いた。

《結果》

実験7の2

「7の1」と同じ実験を、コナラ・クスノキ・スタジイ・マテバシイの4種類の樹木でも行う。

《結果》

外側の樹皮があるほど炭化の進み具合が遅く、木部のみの場合は炭化が速く進む。5種類の樹木の中で、スタジイは最も炭化が遅く、量が少ない。次いでマテバシイ。コナラが中間。ヤマザクラとクスノキは炭化が速く、量が多い。クスノキは樹皮が硬く厚いが、木部の炭化は速い。炭化量が多いほど、温度が低く抑えられている。

実験8

葉のついた枝を燃やし、熱の葉への伝わりを調べる。

《方法》

枝の1カ所を燃やす。火口から約5cm上の樹皮の温度を測る。測定位置は徐々に上方に移動させ、枝の分岐に近くなったら葉の温度を測る。

実験9

葉のついた枝を燃やし、熱が冷めてから内部を削って、熱がどこまで伝わっているかを確認する。

《方法》

約1000℃で燃焼5分間。樹木は、樹皮がはがれやすく熱の伝わりが速いヤマザクラを使用した。

まとめと考察

耐熱性:加熱による水分蒸発量は、常緑樹では100℃で10%程度だったが、落葉樹では50%を超えた。 300℃で常緑樹は50%を超えた。葉は厚く硬い(表面に光沢がある)ほど温度低下が遅く、水分を多く含むほど内部に熱を保有し、高温に耐えられる。 耐火性:樹皮が硬く、内部の木部の材質が硬い(木目が細かい)ほど熱が伝わりにくい。含水量が多いほど、樹木内部に熱を保有することができる。樹木は炭化作用で熱が広がることを抑止している。

指導について

指導について大図倫夫

 今回のポイントは、樹木の枝葉を熱がどのように伝わるかを、科学的手法を用いて解明することにありました。
 指導上、ひとつの方法手法にとらわれないよう、視野を広げた見方ができるように助言をしました。しかし、その心配をよそに彼女は、試行錯誤を繰り返しながらオリジナルな方法を考案しました。枝葉の水分蒸発量を求めた時は、加熱した砂の中に入れることで熱の伝わりを均一にする工夫をしました。樹木内部の熱の伝わりを確認する時は、直接外側から削るという手法をとりました。柔軟な考え方と大胆な発想に感心させられました。
 今回の受賞は、根気強く探求を続けた成果を評価していただいたと、大変喜んでいます。
 この受賞を励みに、さらなる成長を期待したいと思います。最後にこの場を借りて、理科担当の石川豊先生、稲野邊滋先生、協力してくださった皆様に感謝いたします。

審査評

審査評[審査員] 金子明石

 この研究は広葉樹の耐火耐熱性について調べたものである。10種類の広葉樹をとり上げ、枝の一部をガスバーナーで、100、200、300度に焼いた時の水の失い方、熱の伝わり方、炭化の状況、枝の内部の観察を行い、ていねいに記録している。ヤマザクラが最も熱に弱いことで指標樹木として特にくわしく見ている。葉が焼かれる時の葉の耐火性などから樹木の特性や葉の特徴を分けている。広葉樹の種類によっては一部炭化することで内部の温度上昇を防いでいるという。この研究から神社や寺院が火に強い木で守られていることがよく理解できます。世界中の落雷による野火が毎年おこる地域では厚い樹皮を炭化させて内部の細胞を熱から守っている樹木が存在することを思い出させてくれました。

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