福岡県福岡市立山下門中学校他と
福岡市立少年科学文化会館

2004年
取材

 

中学校、小学校が別々にやっていた作品集

夏休みの理科自由研究の成果を発表する福岡市内中学の作品展は、今年で20回目となる。市内83校の中学に呼びかけて作品が寄せられるのはだいたい7割の学校から。校内審査で1校10点以内という制限を設けており、審査対象となる総作品数は350点前後。駐車スペースの関係などから別の会場で展示していたが、昨年から少年科学文化会館に戻って開催するようになった。
一方小学校の科学作品展が始まったのは4年前から。それ以前は子どもたちが夏休みの宿題で研究作品を持ってきても、出してやる場がなかった、と奥本先生は振り返る。奥本先生は小学校で理科の専科を受け持っていたことがあり、また前職の市教育委員会でも理科主任の立場にあり、理科自由研究に対する思いはひとしおのものがある。教育委員会から学校に戻った今年、福岡市144校すべての小学校に案内状を出して出展を呼びかけた。区ごとに審査して1区12点、市内7区の作品が福岡市博物館に集められて、作品展を開いた。

少年科学文化会館を核とした先生たちの新たな動き

会館と学校の先生との間に長い間密接な連携は見られなかったが、昨年、安永先生が会館に赴任したことが大きな転機となった。
安永先生はまず、宮原先生、山口先生が参加している福岡市の中学校理科研究会の会議場として会館を利用していただくようにした。また、体験教室や授業、科学イベントなどに、先生たちがボランティアで指導員を引き受けてくれるようになり、学校の先生たちとの関係が深まっていった。
奥本先生が中心になって動いていたリフレッシュ理科教室に中学の先生方が加わるようになったことも、小・中の先生の交流を促進することになった。

初めての試み「小・中学校理科研究作品展」

宮原先生が語る。「安永先生がここに来られて、せっかくこういう場所があるのに、作品展の会場としてここを使わない手はないだろう、ということで、去年からここで中学の作品展を開催するようになった。去年は中学、小学校がそれぞれ独自にやっていた。いいことをやっているのだから、これからは一緒にやって、つながりを持とう。理科離れを解消するキッカケになるかもしれない」と。
少年科学文化会館の小・中学校への橋渡し的な働きかけもあって、小学校の展示会場となった福岡市博物館から少年科学文化会館に作品を運び込んで、10月2、3日、「小・中学校理科研究作品展」が初めて開催された。

 

福岡市立下山門中学校
山口哲也先生(33歳) 理科担当
福岡市西区下山門3-12-1 生徒数581人

創立18年目の下山門中学は、全学年5クラス、生徒581名。部活動が盛んで、昨年度はテニス部が団体で九州大会、個人では全国大会に出場し、今年度はサッカーが新人戦・中体連九州大会出場を果たした。授業は基本的にすべての教科を班学習で行い、みんなが話し合い、助け合う学習スタイルをとっている。昨年度と今年度は、選択授業の理科で実験コースを設けて、自然科学観察コンクールへの出品を目標に実験に励んでいる。
「昨年3等賞をいただいた2人の生徒は、たまたま私の選択の理科の授業を2年、3年と続けて受けた子たちでした。『カイロ』についての研究は2年の途中から始めています。最初は鉄と炭素、水の量、食塩の量を変えてカイロのことばかりやっていったのですが、『せっかくやるんだったら新しいのを作ったらどうや、今までにないようなのを』という発想をちょっと入れてやりました。私も結果がどうなるかわからないことばかりで、生徒といっしょに楽しんだ、というか、研究をどきどきしながら見守ったという感じ。『出来るかどうかわからないけれど、とりあえずやってみよう』みたいなところがあるんですね。怖いもの知らずなんです。
専門家に直接問い合わせて指導をあおいだりもします。昨年の『四つ葉のクローバーの研究』は、生徒が北海道大学教授にいろいろ問い合わせてやった。『真空の実験』は、メールでNASAに問い合わせたのですが、返事はもらえませんでした。」
 


ペットボトルで太陽熱水器を研究する下山門中学の生徒


 


福岡市西区にある山下門中学校と
自然科学観察コンクール3等賞入賞を祝うたれ幕


 


福岡市立少年科学文化会館


カイロの研究(3等賞受賞)をした2人はこの研究で学校推薦を受け、志望高校に入学しました。理科での推薦はこれまで前例が無く、本人もご両親も喜んでいました。
(コンクール事務局より)

福岡市立姪浜中学校
宮原卓史先生(36歳) 3年理科担当
福岡市西区姪の浜2-20-23 生徒数1006人

「私の選択授業では、1学期にいろいろ調べて好きな実験をやらせる、2学期はたとえば環境という課題を与えて実験をさせる、3学期には得られたデータや新聞記事を使って、環境に関する提言を発信する新聞を作ろう、ということで1年間を組み立ててやったことがあります。
実験、観察のまとめ方を工夫するよう教えています。数字の羅列ではなく、それをグラフにしたり、表にしてみて、見る人がわかりやすいようにするにはどうするか考えさせます。」

福岡市立西長住小学校
奥本 晃先生(50歳) 教頭
福岡市南区西長住1-9-20 生徒数402人

「自由研究の進め方としては、小学生はまだ研究の仕方を知りませんから、テーマの設定の仕方、それから何のためにどのような実験をして、どういう結果が出た、このことからこういうことがわかったという結論までのパターンをまず指導して、これが科学者のまとめかたと同じなんだよと言っています。
私は予想をとても大切にしたいと思っています。それから予想、実験方法、結果、まとめ、考察といったタイトルを必ずつけるようにも言っています。」

福岡市立少年科学文化会館
安永宏紀先生(45歳) 指導主事
福岡市中央区舞鶴2-5-27
TEL.092-771-8861
http://www.city.fukuoka.jp/shobun/

「今年初めて小・中合同の展覧会が実現して、子どもたちの成長にあわせて先輩たちのいろいろな作品を見ることができるようになり、とてもよかったと思います。小学生が中学生の作品を見て、ボクたちもあんなのが出来たらいいなという夢を持ってくれて科学に取り組んでくれたらうれしいですね。
子どもたちが科学に気軽に触れられる環境を作っていけるよう、去年から新しい事業プランを起こして、少年科学文化会館としての役割を果たせるように動き始めています。
自然科学観察コンクールは、子どもたちの作品を出す機会が増えるので、これから参加させていただきたいですね。部門がないのは出しやすいですし…。」

 

学校プロフィール

学校プロフィール

福岡県福岡市立山下門中学校他と
福岡市立少年科学文化会館
昨年、第44回自然科学観察コンクール〈中学校の部〉で、福岡市立下山門中学校カイロ研究班の「カイロ研究から新開発!!!」が3等賞に入賞した。同校は最終選考にも別の1作品が残る快挙だった。これまで自然科学観察コンクールへの応募点数が少なかった福岡市で、同校は初の応募。コンクールに向けた新しい動きが…と期待して福岡市を訪れると、今年初めて開催が決まった「小・中学校理科研究作品展」の準備に追われる4人の先生方が対応してくださった。場所は、作品展が開かれる福岡市立少年科学文化会館の会議室。
写真左から<br />

写真左から
宮原卓史先生=姪浜中学校
奥本 晃先生=西長住小学校
山口哲也先生=下山門中学校
安永宏紀先生=少年科学文化会館

【福岡市立少年科学文化会館】 少年の教養の向上と涵養を図り、その健全な育成に寄与することを目的として、福岡市が設置した社会教育施設。開設は昭和46年5月で、同56年にプラネタリウム館を増設した。福岡市中央区の中心エリアにあり、鉄筋コンクリート造り地下1階、地上6階建て(一部3階建て)。延べ床面積は7628㎡。プラネタリウム・科学展示室・ホール(764 席)・図書室・学習室・工作室などの施設が整っている。管理は福岡市教育委員会。 科学、音楽、図工などを勉強する少年科学文化教室、映画、演劇、人形劇などを鑑賞するこども芸術劇場などの活動や、さまざまな展示品をとおして、「見る」「聴く」「触れる」ことにより科学や文化への興味、関心を高める学習の場となっている。
●小学校3年生会館1日学習 少年科学文化会館の中核をなす事業の一つで、市内144校の小学3年生が必ずここで丸1日授業を受ける。理科の授業と、美術、工芸、音楽などの文化関係の授業を受け、プラネタリウムや展示物を見学したり体験して過ごす。
●リフレッシュ理科教室 社団法人応用物理学会と少年科学文化会館の共催で、当初は小学校の先生と大学の先生が集まっていたが、今年から中学の先生も参加するようになった。今年は夏休みに開催し、1日目は「リフレッシュ理科教室」で教員のための勉強会、翌日は、前日の勉強会に参加した教員による小、中学生のための「夏休み理科実験・工作教室」を行った。
●福岡市小・中学校理科研究作品展 福岡市内の小学生と中学生が、夏休みや授業中を利用して実験、観察した理科研究(研究作品・研究論文・発明工夫など)を発表、展示する。開催期間は、2004年10月2日(土)、3日(日)。

学校取材レポート
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