鹿児島大学教育学部附属小学校

2010年
取材

理科室には楽しい仕掛けがいっぱい

 同校は第50 回自然科学観察コンクールで25 点の作品を応募、オリンパス特別賞( 川畑早樹子さんの『のぞいてみよう! 淡水プランクトンの世界』)、佳作(塚田匠海君の『飛行機のつばさにかくされたひみつ』)をダブル受賞、また「学校奨励賞」「指導奨励賞」にも輝いた。指導奨励賞の有村和章先生(2010 年4月に転勤)と共に、理科の指導にあたっていた宮﨑幸樹先生にお話をうかがった。

受賞の新聞記事が扉に

 5月半ばの鹿児島はすでに初夏の光に包まれていた。正門脇にそびえる樹齢120年のクスノキが涼しい木陰をつくり、校庭で花壇に水やりする子供たちも白とライトブルーの夏服姿だ。
  理科室の扉には、川畑早樹子さん(当時5年生)が『のぞいてみよう! 淡水プランクトンの世界』でオリンパス特別賞を受賞した時の新聞記事が張られていた。「川畑さんは2年生のころから毎年、生き物をテーマに地道にコツコツと研究を続けていました。そんな積み重ねからの受賞なので我々も本当にうれしいです」と宮﨑幸樹先生は笑顔で語る。

理科室には工夫と仕掛けがいっぱい

 理科室の雰囲気はとても明るい。南国の日差しのせいばかりではなく、写真や図、イラストをふんだんに使ったコーナーが部屋のあちこちに展開されているからだ。「今日の空模様は?」というタイトルで雲の名前を解説するコーナー、「生き物はいく(俳句)」の投稿コーナー、ゲーム感覚で理科室の実験器具についてマスターできるコーナーもある。子供の目線にあわせて、好奇心を刺激する仕掛けが至るところに散りばめられているのだ。
  「『理科って面白い』『自然には不思議がいっぱいある』と気付く目を育てたいと思っています。子供たちが本来持っているはずの力を引き出すために環境づくりには力を入れています」
  これらのコーナーは4人いる理科の先生がそれぞれの得意分野を担当している。備品の置き方もシンプルかつ実用的だ。棚には同じ大きさに統一されたボックスが整然と並び、箱に張ったラベルを見れば中身も一目瞭然。「発泡スチロール」「電流計」「ニクロム線」「くぎ」……。誰もがすぐに必要な道具を探せるうえ、スッキリと美しい。
 

観察や実験に使う道具は子供にもわかりやすく収納されている

観察や実験に使う道具は
子供にもわかりやすく収納されている


理科室の実験器具について学べるコーナー。イラストに描かれた器具の名前や使い道が答えられると「最高達人」として認定証がもらえる。「今日の空模様は?」の コーナーもわかりやすく雲の名前を解説している

理科室の実験器具について学べるコーナー。
イラストに描かれた器具の名前や使い道が答えられると「最高達人」として認定証がもらえる。「今日の空模様は?」の コーナーも
わかりやすく雲の名前を解説している

画用紙をつなげた蛇腹式ノート

 理科室が楽しければ、そこでの授業もまた楽しい。理科の時間には、いわゆる学習帳ではなく、B4サイズの画用紙を二つ折りにしてノートとして使うのが同小のスタイルだ。
  「マスや罫線があると、きちんと書かなくてはという意識が強くなりがちです。画用紙なら植物のスケッチや人体図なども自由に描けるし、思いついたことをパッと表現できます。また、理科には化学・生物・地学などいくつものカテゴリーが含まれるので、1冊のノートにすべてを書いてしまうと、後で単元ごとにまとめにくくなってしまうんです」と見せてくれたのがこちら(写真参照)。
  画用紙ノートを1枚ずつセロハンテープでつなげていくと、蛇腹のような折り畳み式のノートになる。この方式なら後でカテゴリー別にまとめやすい。例えば5年生で学ぶジャガイモの観察と、6年生で学習する植物の単元をアルバムのようにつなげていくことができるのだ。
  「どの子のノートも最終的には教室の幅に収まりきらないほどの長さになります。自分が学んできたことの蓄積がわかるし、達成感も味わえると思います」
 

画用紙を張り合わせた蛇腹式のノート。学んだことをカテゴリー別にまとめられる

画用紙を張り合わせた蛇腹式のノート。
学んだことをカテゴリー別にまとめられる

 

問題の解決法を授業で身につける

 理科の授業は毎回、問題を解決するというスタイルで進めていく。
 「問題、予想、方法、事実、考えの過程ですね。これを繰り返すことで自由研究をするためのベースができます。授業がすべての基本です」
  教室の目立つ位置に「事実をもとに考える」と大きな張り紙があるように、「事実」から「考え」を導くプロセスをとりわけ重視している。「クラスでは『語り』を大切にしています。授業の中ではまず『事実』を一人で考えてみます。クラス全員分で40 個の考えが出ますよね。それを4人ごとの班で話して10個にまとめ、さらにクラス全体で一つの考えに集約するようにしています」

夏休みの自由研究は足場固めから

 「せっかく自由研究をやるからには結果を出してあげたい。でも、何をどう攻めたらいいかわからない子供も多いので、簡単にできるテーマを用意するなどの工夫をしています」。同校では各学年(3年~6年)とも3つのステップで自由研究をフォローしている。
1.夏休みに入る前、授業内で「1枚自由研究」を完成させる
夏休み前の授業で、「1枚自由研究」を指導する時間を3時間とっている。手軽にできて時間内で完結できるテーマ、例えば『割れないシャボン玉を作るにはどうしたらいいか』などを紹介し、実際に体験することで夏休みの自由研究への足場を固める。
2.夏休み前半、「自由研究相談日」で個別相談
7月下旬、理科室を開放し、希望者に個別アドバイスを行う日を設定している。 「この段階では『ロケットがいい』『アリンコを調べたい』など、およそ7割が漠然としているので、話を聞きながら視点を絞って見通しを持たせるの が我々の仕事です」 「なぜロケットなの?」と問いかけることで、「テレビで見た時の噴射がすごかった。どうやったらもっと飛ぶのかなぁ」などの思いや動機がわかり、研究の方向性を見出すことができる。
3.夏休み後半、2度目の「自由研究相談日」を設定
8月後半には2度目の「自由研究相談日」を設定、2日間にわたって個別相談を行う。この段階ではデータのまとめ方などについてアドバイスすることが多い。
 「9月に提出された作品はいくつかのコンクールに応募します。特にシゼコンは全員に参加賞がいただけるので、夏に頑張った証しになっています」

自然に対する感性を育てたい

 意外なことに、子供のころは理科は得意ではなかったという宮﨑先生。
  「虫は大好きだったんですけどね……。でも、大学生になって改めて理科を学び直したら面白くなりました。だから『人生どうなるか、わからんぞ』と子供たちにも話しています」
  理科は苦手という子供の気持ちもわかるからこそ、少しでもその楽しさに触れられる環境を作ってあげたいという思いは人一倍強い。
 「環境が人を作るのだと思います。『初夏の風ってさわやかで気持ちいいな』と素直に感じられる感性を持った子供を育てたいですね」
  大きなハチの巣や木の輪切りを見て「なぜ?」と感じる柔軟な心。子供たちの胸に未知なる世界へのときめきを届けたい。そんな思いから、今日も宮﨑先生は「不思議っていっぱいあるんだね」と子供たちに語りかけている。

学校プロフィール

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鹿児島大学教育学部附属小学校
ホームページ
〒890-0065 鹿児島県鹿児島市郡元1 - 20 - 15
電話 099-285-7962
児童数=978人 各学年=4クラス、複式学級あり
宮﨑幸樹

宮﨑幸樹先生( 36歳)
6年生担任

噴煙を上げる桜島をいただく鹿児島市。鹿児島大学教育学部附属小学校は明治11年に開校、今年で創立133年という歴史を誇る。 978人という児童数は国立大学法人の附属小学校の中でも全国一の規模である。

学校取材レポート
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