第48回入賞作品 中学校の部
文部科学大臣奨励賞

To be, or not to be
-雨の中を「走るべきか,走らざるべきか」それが問題だ-

文部科学大臣奨励賞

三重県鈴鹿市立神戸中学校1年
河合 千晶
  • 三重県鈴鹿市立神戸中学校1年
    河合 千晶
  • 第48回入賞作品
    中学校の部
    文部科学大臣奨励賞

    文部科学大臣奨励賞

研究の動機

夕方、学校での部活動を終えて帰宅しようとしたところ、激しい雨だった。
あいにく傘は持っていない。
家まで約600m。迎えを待つにしても30040分はかかる。
走れば5分、速めに歩いても10分。腹を決めて走って家に帰ったら、体は冷えて制服はビシャビシャ、背中には泥水がはねて「とびしゃり」がついてしまった。なるべくぬれないように帰るには「走るべきか、走らざるべきか(To be, or not to be)」。
科学的に調べたい。

研究の方針0問題点の整理

傘をささずに雨の中を走るか、歩くかしたときの体のぬれ方は、自分の体験や友だちの様子の観察から、次の4種類に分類できる。

上からの雨が髪、肩に当たるケース
斜め前方からの雨が顔、体の前(腹、ももなど)に当たるケース
地面に落ちた雨が、くつを介して「とびしゃり」として、ふくらはぎ、おしり、腰に当たるケース
なぜか背中(肩甲骨から腰まで)がぬれるケース

 ここでは、路面の状態やくつの形状、走り方のくせ、足の運び方の違いなどによって大きく変わるので研究の対象外とし、次の2つの視点で調べる。


上または前方からの雨に注目する。
背中がぬれることを解明する。

 しかし、これらの研究のために都合よく雨は降ってくれない。雨が降ったタイミングで実験するにしても学校と家を走ったり、歩いたりして何往復もすることは現実的に難しい。ぬれた量を測定するにも問題がある。そこで実験器具を作ることにした。

実験装置「クルリン」の開発

雨の中を移動する実験器具には次のことが必要だ。

一定の速さで動き続けること(少なくとも家と学校の行き来にかかる10分間は動き続けたい)。
動く速さは毎秒1010mであること。「歩く速さ」は、学校から家まで600mを約10分なので時速3.6㎞(秒速1m)。「走る速さ」は、50m走でのタイム(8秒)や実際に学校から家までかかった時間(5分)などから考えて秒速5m。
ぬれた量を「真上から」「前方から」「後方から」に分けて測定できること。
雨によるぬれた量だけを測定できること。
雨が降ったときだけでなく、いつでも実験できること。

これらの条件を満たす実験装置として回転ロボット「クルリン」を作った。ペットボトルと試験管を組み合わせた「雨水受水器」を腕木に取り付け、雨にみたてたシャワーの下、一定速度で回転させる。
その雨水受水器にたまった水を、雨でぬれた量としてはかる仕組み。

雨水受水器は、逆さにしたペットボトルの上部、あるいは側面を切り取り、ここから入った水をボトルの下に取り付けた試験管にためて、メスシリンダーではかる。
 降水量は次の式で求められる。

インターネットで調べると、降水量が「1時間に1mmの雨」というのは「傘をもっていない人が、ささなくても何とかがまんできる程度」の「普通の雨」。5mmは「強い雨」、10mmは「すごい雨」、20mmは「夕立ち」だという。実際にどのくらいの雨の量になるのか、計算した。
私が雨を上から受ける部分の面積(S)は、肩はばが40cm、前後のはばが25cmだから、

今年の1学期に体験した夕立ち(降水量20㎜)の場合はその20倍、17ml×20=340mlの雨を頭からかぶったことになる。これは牛乳びん約2本分の水となるので大変な量だ。
実験装置「クルリン」では、学校から家まで歩く(あるいは走る)といった直線運動ではなく、それを回転運動に変えて、長時間、一定速度で動くことを実現する。受水器を、腕木の中心から半径r(㎝)の位置に固定して、毎分n回転の速さで回転させる。

これが毎分n回転するから、1分間に受水器の動く距離は0.0628r×n(m)。このときの受水器の動く速さ(秒速)は、0.0628rn(m)÷60(秒)=0.0010466rn(m/秒)
となる。
「クルリン」のモーターについては、父に相談した。
15㎏もの荷重にたえ、安定して回転するようなラジコン自動車で使う中型モーターが適当だと教えられた。
電源についても7013Vの電圧が必要で、回転し始めは5Aもの大電流を消費する。さらにモーターは電圧が下がると回転数が少なくなることから「定電圧装置」といって、100Vのコンセントから直流を作り出す電源装置を使うことにした。

実験:上または前方からのぬれ方

予想

歩く人にも走っている人にも、上からの雨は等しく降っている。走った方が雨に打たれる時間が短くなることから、ぬれにくいと思う。
前方から受ける雨については、経験の中で、走ると体の前がぬれやすいことを知っているが、雨の中にいる時間は短い。歩くときは前方からの雨は少ないが、雨の中にいる時間は長い。体の総量として、走るときと歩くときとでは、どちらがよりぬれてしまうのか判断できない。しかし、雨が降ってきたら、なるべくぬれないようにと、自然に走り出してしまうのが人間の本能。本能からの行動は正しいことが多いので、走った方がぬれにくいと考えたい。

方法

ペットボトルの上部、前面を切り抜いた受水器を、腕木の回転中心から10cm(A)、13cm(B)、16cm(C)、19cm(D)、22cm(E)、25cm(F)、
31cm(G)、34cm(H)、37cm(I)、40cm(J)、43cm(K)、46cm(L)の地点に置く。シャワーの水量を調整し、1時間あたりの降水量が1mm、5mm、10mm、20mmの
場合について、それぞれ一定時間、一定の回転数で「クルリン」を回転させて、受水器に
たまる水量を調べる。

 実際的には、上部を切り抜いたペットボトル(受水器)を3本、前面を切り抜いたペットボトルを3本それぞれゴムで一まとめにして、腕木に置いた試験管立てに立てる。その時、ペットボトルどうしの間隔があるので、A0L地点のうち、飛び飛びに3地点ずつしか1回に測定できない。そのためA0Lの12地点を4回に分けて測定。腕木のバランスをとるために、上部を切り抜いたペットボトルと前面を切り抜いたペットボトルを互いに反対側の同じ地点に置いた。

 シャワーの調整:予定通りの1時間あたりの降水量を得るために、前記の、降水量と容器にたまった雨の量(χ)、受水器の口の面積(S)の関係式を使い、シャワーの蛇口を調節してχの量になるように降水量を合わせる。実際には時間をかけず、10分間(1時間の1/6)ほどの短時間で調整したいので、次の式で計算した。

 ところが1時間あたりの降水量が1㎜、2㎜の場合は1mlほどのわずかな水を検出する必要があり、正確な実験ができないことから20分間に増やした。計算値通りにシャワーを調整するのには苦労した。また一度予定の降水量に調整したら、10分間出しっ放しにしてから実験に取りかかるため、とても時間がかかった。
  なお、シャワーによって受水器にたまった水や腕木などがぬれることでクルリンの総重量が増え、回転数が変化するのではと心配したが、一度回転数を合わせると、計測中は変わらなかった。

方法

回転運動によるA0L各地点の速さ(秒速)と上部を切り抜いた受水器、前面を切り抜いた受水器のそれぞれにたまった水量の関係をグラフにした。

 

分かったこと

※ある一定時間あたり
 上からの雨は、速さに関係なく一定
 前からの雨は、速さに比例する。
さらに、速さが303.5m/秒付近で、上からぬれる量と前からぬれる量が等しくなることに気付いた。これは時速10012kmで軽く流して走る速さに相当する。

まとめ

上からの雨は走っても歩いても一定だ。1秒間にk(ml)だけぬれるとすると、
t秒間にぬれる量=kt
となる。
  前方からの雨は、動く速さに比例して多くなることから、毎秒v(m)で動いているとき、比例定数aを使って、
t秒間にぬれる量=avt
と書ける。

  学校と家との距離をl (m)、かかる時間をt(秒)、速さを毎秒v(m)と考えると、という関係式で表される。

学校から家までの間に上からぬれる量をy(ml)、前からぬれる量をz(ml)と表すと、

l(m)の距離を毎秒v(m)で雨の中を進むとき、体の上と前のぬれる量の総和x(ml)は、

これらk、l、a、vのうちvだけが変化する量で、それ以外は決まった数値だ。このことからxの意味を考えると、次のことが分かった。

結論

上からぬれる量yは、速度vが大きくなるほど小さい値になる。(反比例の関係)前からぬれる量zは、速度vに関係なくいつも一定の値を示す。
  この結果は衝撃的だ。とくにについては、走ると前からの雨をたくさん受けるため、激しくぬれる経験をしている。にもかかわらず、歩こうが走ろうが前面のぬれ方に関係がないとは驚きだ。
 具体的な式としてx=20/v+5で考えた。vが0に近いとき、つまりすごくゆっくり歩いているときは長時間、雨の中を進むことになり、上からのぬれ方y=20/vが増えるためにxは大きくなる。一方、vが大きくなったとき、つまり速く走ったときはぬれる総量xは小さくなるが、どれだけ速く走っても前面のぬれる量z=5よりもxを小さくすることはできない。

千晶理論1
上からと前からのぬれる量の総量は走った方が少ない。
体の上(頭)がぬれる量は、雨の中にいる時間が原因となって、走った方が少ない。
体の前がぬれる量は走る、歩くに関係なく一定だ。
背中のぬれる量については、今回の実験からは何も言えない。
については、前面を切り抜いたペットボトル(3本中の2本あるいは1本)を後ろ向きにして「クルリン」 で実験した。回りこみによって水はたまったが、水の量と速度などとの関係ははっきりしない。
研究の動機

傘をさしながら前に進んでいるのに、なぜ背中がぬれてしまうのか。
そのメカニズムを解明したい。

方法

風の流れが見える実験器具「ベクトルゥー」を開発した。長さ2.5㎜ほどに切りそろえたストローに旗を付け、これを400個あまり、木の板に縦横が等間隔になるよう釘で止めたもので、扇風機で風をあてると、旗の矢印の向きで風の流れが分かる。

結果 まとめ

風上に置いた人形などの模型の後ろには、空気の流れの大きな乱れが発生した。風が強く、模型が大きかったりすると、矢印が風向きとは逆のものや、激しく回転し続けるものが増えた。車や自転車のレースで前方の車両が後続車両を吸い込むような「スリップストリーム」が模型の後ろにも発生しているのではないだろうか。

千晶理論1
雨の中を走るときに背中がぬれるのは、次のことが原因となり、雨を巻き込む。
体がまっすぐ正面に向かっているときには、体の後ろに空気の乱れが生じる。
足を踏み出して体が斜めになるときには、体の後ろに空気のうずが発生する。
That is NOT the question

「突然の雨に走るべきか、走らざるべきか」と研究を始めたが、大した問題ではなかった結果に驚いている。 「雨にぬれる」という研究対象にしにくいテーマを整理しモデル化、単純化して一定の成果を得ることができた。今後は他の要因も重ね合わせ、さらに研究を進めていきたい。

指導について

指導について鈴鹿市立神戸中学校 川北 学

 研究構想を聞いたとき、素晴らしい着眼だが科学研究の対象になり得るのかと当惑した。理科の授業での彼女は論理的思考に長けており、ドキッとさせられることがある。そこで、「雨に濡れること」の意味を整理して、調べることを明確にすること、本質を的確に具現したモデルを考えること、そのために必要な実験器具を工夫することを助言した。
 試行錯誤する中、雨の中を安定して運動し続ける器具「クルリン」や、視覚化の器具「ベクトルゥー」を開発したことが成功の鍵であった。真夏の炎天下、一週間以上かけてクルリンで480個のデータを取ったり、インターネットや本で探した22もの専門機関へ風速を測定するアイデアを手紙で質問したりして、見事に科学の土俵に乗せていった。
  彼女の実験を通じて、夢や目標の実現のためには、コレと思ったことはすぐに行動する態度と、諦めず粘り強く挑戦する意気込みが重要であることを再認識したところである。

審査評

審査評[審査員] 瀬田 栄司

 日常生活で、急に雨が降り出し、「走ろうか、歩こうか」ということがままあり、それを研究テーマにした着想がよい。そして、ぬれることを解析し、その測定のために創意工夫して実験器具を開発、根気強く測定した点もよく、その結果から計算式を導き、理論を築きあげ、主題に迫る結果を得ることができた。また、雨の中を走るときに背中がぬれる原因を追究するための実験器具開発も行い、それを視覚的にとらえることができたことも感心しました。
 主題解決のための一連の研究過程で、実験器具開発、計算式、理論を論理的に考え、工夫し、確実に追究していく強い姿勢が感じられ大変すばらしいものとなりました。そして、疑問や分からないことをいろいろな関係者に問い合わせ、その応援する温かさを感じたことは大変よい体験でした。

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