研究のきっかけ
お菓子教室の先生が試作を食べるせいで、糖化してシミが多くて困ると話していた。どういう意味か不思議に思って調べると、糖化というのは過剰に摂取した糖が体内のたんぱく質と結びつくことだった。糖化したたんぱく質は劣化し、最終的にAGE(終末糖化産物)になる。AGEは細胞や臓器に炎症を引き起こし、老化を早める要因になるという。誰の体にも加齢とともにAGEが溜まるが、個人差がある。蓄積度が高い人は糖尿病をはじめ、がん、心筋梗塞、脳梗塞、アルツハイマー型認知症など、多くの病気にかかりやすくなることも知った。
研究の目的
多くの人に糖化の危険を知ってもらうきっかけを作るため、何かできることはないか。リトマス紙やpH試験紙のように、糖化の進行具合を簡単に判断できるものがあれば、理解が進むのではないかと考えた。
トーストやホットケーキを焼くと、表面がきつね色に変わっていく。糖とたんぱく質による化学反応(メイラード反応)で起こった色の変化で、体のなかでこれと同じことが起こるのが糖化だ。トーストと同じように糖化が進むにつれてたんぱく質の色が変わるため、色の変化から糖化の進行具合がわかる。
最初は糖化に応じて変わる何色かの色に感覚的に点数をつけてみたが、それでは科学的に糖化度を示したとはいえない。今回は、糖化が始まってからその最終段階までの色見表を90色まで増やす。90色それぞれを、大分産業科学技術センターの分光色差計を使って、同じ基準で数値化したい。分光色差計は測定対象に光を照射し、反射(または透過)した光を波長ごとに分解して色を数値化する機器だ。90色を科学的な数値にすることで、糖化の進行度を正しく知ることができるAGEスケールを作る。
AGEスケール
AGEカラーコードの制作
糖化が始まってから最終段階までの90色の色見表(以下、「AGEカラーコード」)は、自作することにした。AGEカラーコードの色を決めるため、実験で糖とたんぱく質を糖化させ、色の変化を観察した。
用意したのは果糖、ゼラチン、水、容器、ヨーグルトメーカーだ。人体を構成するたんぱく質の30%はコラーゲンで、実験ではゼラチンをコラーゲンに見立てて使う。水300mlを80℃に温め、ゼラチン5gを混ぜる(この液体を以下、「コラーゲン基本液」とする)。コラーゲン基本液に果糖を10%の濃度で混ぜた10%果糖溶液を用意した。10%果糖溶液を3本の容器に分けて入れ、1本は常温に置き、残りの2本は40℃と60℃に設定したヨーグルトメーカーで保存した。右が6日目、19日目の3本の写真だ。写真中央の40℃で保存した容器は、19日目でも少し黄色味を帯びただけだった。右の60℃で保存した容器は、時間の経過とともに薄黄色、茶褐色、焦茶色と色が変わっていった。濃い褐色になった10%果糖溶液に紫外線を当てるとAGEの特徴である光を放ち、糖化が進んでAGEができていることが証明された。
常温と40℃の10%果糖溶液の色がほぼ変わらなかったのは、糖化は糖とたんぱく質に熱が加わって起こるからだ。トーストも、焼かなければきつね色にはならない。体内では体温で糖化が起こりAGEが蓄積するが、口から入る食品のきつね色の部分にもAGEは含まれている。加熱する温度が高いほど多くのAGEが含まれ、とんかつ、唐揚げ、ステーキ、焼き鳥など、揚げたり焼いたり炒めたりした動物性脂肪食品に多い。

上が6日目、下が19日目
AGEスケールの完成
AGEカラーコードはエクセルのグラデーション機能を使って作ることにした。糖化が始まった直後の様子が細かくわかるように、薄い色を多めに割り当てる。糖化の進行具合をより正確に表すことができるように、色の追加と補正を繰り返した。16作目にようやく、納得のいく90色のAGEカラーコードが出来上がった。
完成した90色を、分光色差計で3回以上測定した。ソフトウエアを使い色ごとに、色の濃さの指標であるK/S値(450nm=褐色成分が光を吸収する波長)の平均値を出す。糖化の反応開始時を0、終了時を100として、K/S値の相対値を90色分求めた。こうして完成したのが、下のAGEスケールだ。

糖化反応の分析
完成したAGEスケールを使って時間や温度、濃度などの条件をさまざま変えながら、糖化反応の分析をした。
糖の種類ごとに時間や温度、濃度への依存性を分析
コラーゲン基本液に砂糖、ブドウ糖、果糖をそれぞれ混ぜ、保存する時間(日数)や温度(常温、40℃、60℃)、糖の濃度(0〜10%)の違いで、糖化反応がどう変わるかを調べた。保存時間が長く、温度は高く、糖の濃度が高くなるほど糖化度は高かった。砂糖に比べて果糖やブドウ糖の反応速度が速く、果糖が最も糖化を進めた。
コラーゲン濃度の違いでも、糖化反応を確かめてみた。コラーゲン濃度1.7%の基本液より、水120gにゼラチン12gを加えた10%コラーゲン溶液のほうが、糖化度が上がった。糖化度はコラーゲン濃度にも依存していた。
糖化と固まりやすさ、融けやすさの関係
糖化がゼラチンの固まりやすさや融けやすさに与える影響を調べてみた。コラーゲン基本液に使うゼラチンは、冷えると固まる。コラーゲン基本液にそれぞれ0〜10%の濃度で果糖を混ぜ、容器に入れて60℃のヨーグルトメーカーで保存する。3日後に冷蔵庫へ移して3時間後、取り出した容器を横に倒して固まり具合を比較した。その結果、果糖が入っていないコラーゲン基本液は固まったのに対し、10%果糖溶液は固まらなかった。この時の10%果糖溶液は薄黄色で、糖化度は1.17だった。
上の実験と同じ方法で作ったコラーゲン基本液と果糖溶液のすべてを冷蔵庫でしっかり固めた後、常温に戻して15度傾けて置く。10分後に直立させて底から固まっている部分までの長さを測った。また、AGEスケールで各容器の糖化度も確認した。すると糖化度が高い溶液ほど固まり部分の長さが短く、融けやすいことがわかった。

固まっている部分を測定、数字は果糖濃度
市販の飲料水(透明なもの)による糖化反応を分析
コラーゲン基本液の水を市販の炭酸水、果糖ブドウ糖液糖入りミネラルウオーター、サイダーに置き換えたものを用意し、60℃のヨーグルトメーカーで保存して糖化度を比べた。その結果、7日目の糖化度は炭酸水は0、ミネラルウオーターも1未満だったが、サイダーは1.75もあった。10%果糖溶液の7日目は1.4だったから、それより高い糖化度となった。
色つきの飲料水の糖化反応を測る
市販の飲料水は色のついたものが多く、色で判断するAGEスケールを使うのは難しい。そこで、糖化度が進むとコラーゲンが融けやすくなる性質を利用する。3種類の色つき飲料水を用意した。3種とも含まれる果糖濃度は10%程度だ。コラーゲン基本液と、コラーゲン基本液の水を3種に置き換えたものをヨーグルトメーカーで糖化させ、2日間経過したところで冷蔵庫で固めた。常温に出して傾けて置き、70分後に底から固まったところまでの長さを測った。基本液が2cm弱の長さがあったのに対し、飲料水は3種とも0.5cmもなく、ほぼ同じ長さだ。同程度に糖化が進んでいることがわかった。
[審査員] 小澤 紀美子
小学校時代の自分の病気の経験から、糖化の進みにくい食事方法、生活習慣や病気の予防や治療に関して意欲的に取り組んできた研究です。身近な方(お菓子教室の先生)の「試作をたくさん食べるので糖化してシミが多くて困る」というつぶやきを不思議に思い調べ、簡単に糖化の進行具合を判断できるAGE(体内で生成される老化物質)スケールを策定し、糖化のことの理解促進に役立てようとした研究です。砂糖、ブドウ糖、果糖の時間経過・糖の濃度の違い・温度・コラーゲン濃度の違いによる糖化反応の比較実証、さらに糖化がたんぱく質の分解酵素に与える影響分析を行い、市販の飲料水(透明)、ジュースに含まれる糖化の実証実験を行い、体内でできるAGEの量は血糖値×時間で決まることや調理の際に高温のほうが多くAGEが形成されることを明らかにし、一般人でもAGEの量を確認する安価で安全に実験できるスケールの提案が評価されました。
うちらぼ 加世田 国与士
宮﨑さんは、4年間の研究活動を通して、基礎的な知識と技術を着実に身に着けるとともに、科学的に考えて行動する力を育んできました。お菓子教室の先生から「試作品をたくさん食べるので糖化でシミができやすい」という話を聞いたことをきっかけに糖化について学び始め、やがて家族の健康への関心、さらには超高齢社会における健康問題へと視野を広げていきました。
日頃から「ないものは自分で作る」という姿勢で研究に向き合い、AGEスケールの作成や糖化度の解析方法を考案しました。対照実験や再現性を確認する地道な作業にも丁寧に取り組み、探究心と使命感を深めていく姿が印象的でした。常に次の課題を見つけ挑戦し続ける姿勢は頼もしく、「研究は答えが分からないからこそ面白い」という言葉に、大きな成長を感じました。予防医療の発展、健康寿命の延伸を想い研究を続ける大志ある若き共同研究者に感謝します。