学校にはクーラーも扇風機も、うちわもありません。暑い日は、仕方がないので下じきであおいでいますが、うちわであおいだような強い風は来ません。どうしてなのか、形や大きさ、かたさが関係しているのかなと思いました。そういえば、家にあるうちわは大きさが違っても、どれも同じような形をしています。なぜかふしぎです。どのようなうちわが一番あおぎやすくて、風が強くなるのか調べてみることにしました。そして、自分だけの「スーパーうちわ」作りに挑戦することにしました。
家のうちわは、どれも同じような形をしています。でもお祭りなどのうちわは、少し四角い形をしています。家では自分をあおぐために使っていますが、お祭りでは目立ったり、おみこしをあおいだりするのに使っています。同じうちわなのに「風を送るため」と「目立つため」の二つの使い方があるようです。もしかしたら、私が暑いときにいつも使っているうちわの形は、風を送るために一番よい形なのかもしれません。そこで、うちわの形を変えて、あおいだときの風の強さのちがいを比べてみることにしました。
【実験1】
うちわの形を調べる:私が家で使っているうちわは、角が丸くなっている。両側から紙がはってある。紙の間に骨がある(27本)。あおいだときに少し曲がる(かたくない)。重さは20g。
《疑問》
角が丸くなっているのはどうしてだろう。
《予想》
角があるとあおぎにくいだろう。強い風がうまく来ないだろう。人などにあたったときに、あぶないだろう。
【実験2】
角があるとあおぎにくいのか。
《方法》
2本のうちわの骨にそれぞれ画用紙をはり、画用紙のはしを丸くしたもの、角をそのままにしたものを作る。あおいだときの感じを比べる。
《結果》
使いなれていないせいか、角があるとあおいだときに何だか顔や体にあたりそうで、こわく感じました。あおいだときの風の感じは角があってもなくても、それほどちがいはありませんでした。
【実験3】
角があると強い風がうまく来ないのか。
《方法》
板で作った「風の強さ測定器」(あおぐ中心から角度をつけ、10㎝おきにロウソクを立てる)を使い、実験1の2種類のうちわ(ふつうの丸いうちわ、角のあるうちわ)であおぐ。あおぐ回数は3回まで。実験は3回ずつ行い、何本のロウソクが消えたかで、風の強さを比べる。
《結果》
〈ふつうのうちわ〉3回とも全部のロウソクの火が消えた。ほとんど1回あおいだだけで消えた。
〈角のあるうちわ〉3回ともロウソクの火が消えた。風の強さは、ふつうのうちわとあまり変わらない。でも自分に向けてあおいだとき、角がとがっているせいか、何だか少しこわく感じた。
【分かったこと】
角があってもなくても、風の強さはほとんど変わらない。角があると、あおいだときに少しこわい。角があると、ぶつけたときに自分や人がけがをするかもしれないし、こわれやすくなったりする。うちわは、角がない方が使いやすい。
《疑問》
うちわの下(つけ根)のところに、紙がはられていないのはどうしてだろう。もし下のところまで紙をはったら、どうなるのだろう。
《予想》
下まで紙がはってあってもなくても、風の強さはあまり変わらないだろう。
下まで紙がはってあると、あおいだときに風がうまく来ないのでは。
【実験4】
紙をはっていないところ(=はったところ)の広さを変えると、風の強さは変わるのか。
《方法》
紙のはるところを変えた2種類のうちわ(先半分にはったもの、下半分にはったもの)であおぎ、何本のロウソクが消えたかで風の強さを比べる。
《結果》
〈先半分〉3回とも1、2回あおいだだけで、全部のロウソクの火が消えた。ふつうのうちわであおいだときと同じ。でも風の強さは、ふつうのうちわの方が強いようだ。
〈下半分〉ふつうのうちわや、先半分に紙をはったうちわに比べて、明らかに風の強さは弱かった。紙のはってある位置が先の方かつけ根の方かではなく、紙のはってある広さにちがいがあるからだと思う。3回あおいだだけでは消えなかったので続けて何回もあおいでみたが、やはり全部のロウソクは消えなかった。
【実験5】
紙をうちわの下まで、全体にはったもので調べる。
《結果》
風の強さは、ふつうのうちわであおいだときとほとんど変わらなかった。でも、あおいでいるときに、何だかうちわのつけ根がグラグラしているような気がした。
【分かったこと】
紙の広さは、なるべく広くした方が強い風が起きやすい。ただし、つけ根まで紙をはってしまうと、うちわの強さは弱くなってしまう。
【実験6】
《結果》
真ん中だけのときは、ふつうのうちわとほとんど変わりなかった。紙の広さはふつうよりずいぶん狭いのに、風の強さが変わらないのはふしぎだ。両がわのときは、あきらかにふつうのうちわより弱かった。紙の広さは真ん中のものとそれほど変わらないのに、風の強さはだいぶちがった。
【分かったこと】
紙の大きさがほとんど同じなら、うちわの真ん中に紙をはった方が強い風が起きやすい。
うちわより下じきやノートであおいだ方が、風が弱いような気がする。もちろん形もちがうが、かたさや厚さがちがうからではないか。形や大きさが同じでも、材料や厚さがちがうと風の強さはどうなるのか調べてみる。
《予想》
やわらかすぎるとフニャフニャして風は起こらないが、かたすぎても風は起こらないだろう。
【実験7】
うちわの厚さがちがうと、風の強さもちがうのか。
《方法》
下じきと、同じ大きさの厚い画用紙(200K)、うすい画用紙(120K)、厚い発泡スチロール(厚さ2㎝)、うすい発泡スチロール(厚さ5㎜)、木の板(厚さ5㎜)を用意する。それぞれを手に持ってあおぎ、「風の強さ測定器」を使ってロウソクの消えた本数で風の強さを調べる。
《結果》
〈下じき〉なれているせいか、ふつうにあおげた。うちわに比べて風は少し弱く感じたが、ロウソクの火は全部消えた。
〈厚い画用紙〉下じきに比べ、手に持ったときに少しフニャフニャした。ロウソクは30cm以上離れたものが消えずに残った。
〈うすい画用紙〉厚い画用紙に比べて、もっと風が弱く、20㎝の所にあるロウソクも1度消え残った。フニャフニャしてあおぎにくかった。
〈厚い発泡スチロール〉紙のようにやわらかくないので、下じきのように全部ロウソクが消えると思ったが、50㎝離れたロウソクが消えなかった。あおいだときは、下じきに比べて少しかたく感じた。手には持ちやすかった。
〈うすい発泡スチロール〉あおいだときの感じが、一番下じきに近い。でもロウソクの火は50㎝離れた所のものが消え残った。
〈木の板〉手で持ったとき、大変重く感じた。あおぐともっと重かった。風の強さは下じきのときと変わらず、ロウソクもほとんど消えた。
【分かったこと】
うちわは、うすすぎても厚すぎても、あおいだときに強い風を起こすことができない。下じきくらいのかたさが、ちょう度よい。
《疑問》
うすい紙やかたい木の板であおいだときに、風の強さがちがったのはどうしてだろう。大きさも材料も同じで、厚さだけがちがう板であおいだときの風の強さのちがいを調べる。
《予想》
うちわは、かたすぎてもやわらかすぎても、強い風は起こらない。少しかたいくらいの、あおいだときに「しなる」(曲がる)くらいのものが一番強い風が起きるだろう。
【実験8】
うちわのかたさがちがうと、風の強さもちがうのか。
《方法》
下じきと同じ大きさで、厚さを変えたプラスチックの板(厚さ0.2、0.35,0.5、1.0、1.5㎜)を用意した。手で直接持つと「しなり」が分からないので、目玉クリップではさみ、それを手で持ってあおいだ。
《結果》
〈厚さ0.2㎜〉うすい紙と同じく、フニャフニャしてあおぎにくかった。風も強くない。うすい紙に比べ、ロウソクの消えた本数は少し多かったが、これは持ち方を変えたからではないか。
〈厚さ0.35㎜〉厚さ0.2㎜のときに比べて、あおいだときに少し手ごたえを感じた。消えたロウソクの本数も増えたが、消え残りも多かった。
〈厚さ0.5㎜〉厚さ0.2、0.35㎜のときよりも、ずいぶんと手ごたえを感じ、ロウソクの消えた本数も増えた。
〈厚さ1.0㎜〉持ったときの感じは、下じきによく似ている。あおいだときもフニャフニャした感じはなかった。ロウソクも、下じきのときと同じように全部消えた。
〈厚さ1.5㎜〉持ったとき少し重く感じた。木の板のときと同じように、あまりしならず強い風が起きないのではないかと思ったが、ロウソクは全部消えた。
【分かったこと】
あおぐものがやわらかすぎても、かたすぎても、強い風を起こすことはできない。やわらかすぎると、しなり(曲がり)すぎて強い風を起こすことができないし、かたすぎるとうまくしならず、木の板と同じような強い風を起こすことができない。強い風を起こすには、ちょう度よいかたさや厚さがあるようだ。木の板のように重いものは、手がつかれてしまうのであおぎにくい。
【実験9】
あおぐものがしなると、風の強さがちがうのか。
《方法》
実験7、8で使った材料の端を5㎝ほど机の上に乗せて押さえ、机から出たもう一方の先がどれだけ下がる(しなる)かを測る。
《結果》
しなり方とロウソクの火が消えた本数をグラフに表した。材料やその厚さによって、しなり方にだいぶ差があった。
【分かったこと】
ある程度しなった方が、強い風が起きやすい。しなる幅が大きすぎると、風の強さは弱くなる。しなりがまったくないと、少ししなるときと比べて風の力は弱い。下じきくらいの大きさだと、3~5㎝ぐらいしなるときが一番強い風を起こすことができる。
紙のかたさや厚さを変えてあおいだときに風の強さがちがうことが、研究2の実験から分かった。でも、いつも使っているうちわには、それほど厚くてかたい紙がはってあるのを見たことがない。うちわと下じきを見比べたとき、一番大きなちがいは「骨があるか、ないかだ」と考えた。
【実験10】
うちわの骨の数を減らすと、風の強さもちがうのか。
《方法》
骨の数が11本、15本、27本のうちわであおぎ、風の強さを比べる。
《結果》
〈11本〉
3回行ったうち2回で1本のロウソクが消えなかった。消えたロウソクの中にも、3回あおいでやっと消えたものがあった。あおいだときに少しフニャフニャしている。うすい紙のときと同じようにフニャフニャするようでは強い風は起きない。
〈15本〉全部のロウソクが3回あおぐうちに消えた。骨11本に比べると、少しかたく感じた。
〈27本〉1回あおいだだけで全部のロウソクが消えた。骨27本はふつうのうちわと同じ数だ。
【分かったこと】
うちわの骨ははってある紙を支える役目があるので、数が少ないとフニャフニャしてうまく風を起こせない。多すぎても重くなったり、木の板のようにかたくなりすぎたりして、うまく風を起こせない。27本という骨の数は、強い風を起こすのにちょう度よいようだ。
研究1~3の結果を元に、自分だけのうちわを作ってみた。強い風を起こすには「紙がかたいこと」「あおいだときにしなること」「重くないこと」「あまり厚すぎないこと」さらに「角が丸いこと」「体の大きさに合っていること」も大切だ。骨の材料は軽くて丈夫でよくしなり、なおかつ安いものとして「竹ひご」にした。紙は一番軽そうなしょうじ紙(和紙)。持つところにはバルサ材を使い、自分の手に合った形にけずった。
「スーパーうちわ」を作ってみたら、昔から使われているうちわとそれほど変わらなかった。今も昔も、使いやすいうちわの形は同じだということ。また、うちわの骨も昔は竹、今のものは竹やプラスチックが使われているが、それは軽くて丈夫で、よくしなると同時に、作りやすいためだ。本当に「あおぐ」ためなら、昔からの形のうちわが使いやすい。
研究を通して「うちわのふしぎ」がよく分かった。そして「うちわ」にこめられた昔の人の知恵におどろかされた。
審査評[審査員] 高家 博成
日本の夏には欠かせないうちわですが、竹中さんは、どんな形で、どんな材質や構造のうちわが、あおいでよく風を起こすのかを、実験で確かめました。
その方法は、たいへんおもしろいことに、ろうそくの火をあおいで消えるかどうかで決めるのです。あおぐ範囲にたくさんのろうそくを立て、それぞれに火をつけて、工夫したうちわをあおいで、どのくらいの距離で、どのくらいの範囲までの火を消すことができるか、というものです。
うちわの骨組みや貼る紙にもいろいろ工夫してみました。
その結果、昔から使われているうちわの形のすばらしい造りに、あらためておどろいた、と記しています。
人の手であおぐ、ということは、実験としては確実でないように思えますが、これは何回かくりかえすことで確かなもの、としています。審査員はユニークな方法に感心していました。
指導について竹中 尚士
私たちが住む地域は、日本でも有数の酷暑地帯にある。07年も隣町で「最高気温39.8度」を記録した。そんな毎日の生活の中で「団扇であおぐと風がくるけれど、下敷きであおいでも、うまく風がこないのはどうしてだろう」という素朴な疑問から、「自分だけのスーパー団扇を作りたい」といった願いをもち、今回の研究がスタートした。「風の強さはあおぐ物の形に関係するのだろうか」という疑問から始まり、あおぐ物の材質や形状等の違いへと、疑問が広がっていった。研究を進める中で、彼女が一番頭を悩ませた問題が、「風の強さの測定方法」であった。この問題を解決したのは、「風が吹くと、ロウソクが消える。」という生活体験であった。そんな体験を実験に生かすことから、数値として「風」を捉える方法を見出した。「身近な疑問を、身近にある物を活用して解決する力」こそが、これからの彼女の理科好きを一層高めてくれると信じている。