第48回入賞作品 中学校の部
1等賞

水の音って何の音?Part3
茶釜が奏でる水の音と、沸騰のメカニズムを科学する

1等賞

島根県出雲市立河南中学校2年
田原 弘規
沸騰
  • 島根県出雲市立河南中学校2年
    田原 弘規
  • 第48回入賞作品
    中学校の部
    1等賞

    1等賞

研究のきっかけ

 ある日、祖母が言った。「お湯を沸かす音が心を落ち着かせてくれる」と。茶の湯つまり茶道の世界では、千利休が湯の沸き加減について「蚯音(きゅうおん)」「蟹眼(かいがん)」「連珠(れんじゅ)」「魚眼(ぎょがん)」「松風(しょうふう)」の5段階に分け、「松風」がお茶に一番よい温度だという。「蟹眼」「連珠」「魚眼」は泡の大きさや特徴をいったものだ。「蚯音」は水を加熱したときに初めて出る音で、ジジジという連続音。「ミミズ(蚯蚓)が鳴く音」ということだが、昔の人が虫の「ケラ」の鳴く音をミミズが鳴く音と勘違いしたようだ。「松風」はシュンシュンという音で、水の沸騰音を松林に風が抜ける音にたとえたものだ。
 どうして沸騰する間にそんなに音が変わるのか?それぞれの音源は? 特徴は? 泡はどう関係しているのか? ぼくの心に火がついた。

【はじめに】

茶釜の音を聞いてみる。音が鳴り出すまでの時間が長く、「蚯音」はせずにいきなり「松風」の音が始まった。ボコボコという沸騰はしない。なぜ「蚯音」が聞こえなかったのか? なぜ激しい沸騰に至らないのか? 水の中の様子が分かるように、ビーカーを使って観察することにした。

【実験1:弱い火力での水温、泡、音の変化】

アルコールランプで加熱し、水の中央部で温度を測った。〈44℃の状態〉ビーカーの壁や底に小さな泡ができ、大きさを変えずに上昇して水面で割れるが、音はしない。〈88℃の状態〉底から小さな泡の粒が上がり、水中に広がる。これとともに「松風」の音がして、だんだん大きくなった。茶釜と同じく沸騰まで時間がかかり、沸騰も激しくない。「蚯音」は分からなかった。

【実験2:強い火力での水温、泡、音の変化】

実験用ガスレンジで加熱した。〈85℃の状態〉実験1の88℃のときとほぼ同じだが泡の数、粒の数は多い。沸騰も早く、程度も激しい。これでは「松風」の音を楽しむ余裕もない。弱い火力が茶釜の条件だ。加熱後の時間と温度変化のグラフを見ると、沸騰前に温度の上昇率が低下している部分がある。水とビーカー周りの空気とで温度差が大きいので、熱が逃げているのではないか。

【実験3:加熱時の水温と周りの空気の温度差】

水温とビーカー真横の温度差は、アルコールの方がガスよりも大きい。ガスはビーカーの周囲からも加熱してい るが、アルコールの場合は周囲から熱が逃げている。

《予想》

茶釜で「松風」の音が続いているときは、「逃げる熱」と「与える熱」がつり合っているので温度が上昇しない。熱は「弱い沸騰」に使われ、「強い沸騰」になるまで熱が回らない。「弱い沸騰」の状態で熱を逃げにくくすれば「強い沸騰」になるはず。

【実験4】

弱い沸騰が続くときに水面にサラダ油を入れ、熱が逃げにくくした。いったん温度は下がったが、予想通り、間もなく徐々に上昇し、沸騰も激しさを増した。

【実験5:水量と音、泡の関係】

鍋に500ml、1000ml、1500ml、2000ml、2500mlの水を入れて加熱、水中マイクで音の出方を拾った。沸騰には程遠い低い温度で小さい泡が底に発生し、水面に上昇してプチッ、プチッという割れる音がした。泡は水量が少ないほど低い温度で発生した。

【実験6:水を加熱したときの泡の変化】

ハイスピードハイビジョンカメラで撮影し観察した。泡の変化には4つのパターンがあることが分かった。水底を離れるとつぶれてしまう「パターン2」の泡は、浮上した泡(水蒸気)が冷やされて水に戻るからだ。さらに加熱され周りが熱くなってくると、泡はつぶれずに水面まで浮上し「パターン3」の泡になる。「パターン1」の泡は、沸騰に関係がなく、水に溶けていた気体が溶け切れなくなって出てきたものではないか。

【実験7:沸騰させた水を冷まし、再び沸騰させたときの泡と音】

予想通り「パターン1」の泡は出なかった。今回、完全な「蚯音」が聞けた。「蚯音」はやがて「松風」の音に変わった。初めに発生した「パターン2」の泡が「蚯音」と「松風」の音を出す。水底のあちこちで瞬間的に泡ができて、浮上することなくすぐにその場で消えていくときの音が「蚯音」。水底の泡が浮上して、水面に達する前につぶれるとき出るのが「松風」の音だ。
各音の振動数MAPを見ると、「蚯音」のときだけ2kHz付近の高い音があり、「松風」の音と激しい沸騰のときにはない。ケラの鳴き声の主な振動数も2kHzなので、そのため「蚯音」に聞こえたのだ。「松風」の音では1kHz付近の音が多くなり、激しい沸騰になると高い音がなくなり、300kHz付近の低い音だけになる。では、なぜ「パターン1」の泡があると「蚯音」が聞こえなかったのか。

【実験8】

ビーカーの底にスピーカーを固定し、炭酸水とガス抜き炭酸水での音の変化を調べた。その結果、炭酸水のように泡が水中にたくさんあると、低い音は強くなり、高い音は弱くなることが分かった。

【実験9】

三角フラスコで発生させた水蒸気を、別のビーカーの水中に出し、「パターン2」の泡の音を水中ステレオマイクで調べた。やはり泡が割れたときに音を出す。「パターン2」の泡は打ち上げ花火のようだ。「蚯音」はそれが地上で爆発したようなもの。つまり地響き、容器の振動によるものではないだろうか。

【実験10】

ビーカーの水を再沸騰させ、「蚯音」がするときに火を止め、容器の底をガラス棒でたたいた。振動数MAPを見ると、たたいたときの高い音と加熱するガスの音を合わせたものが「蚯音」だった。スチール缶、ステンレスコップでも確認できたが、アルミ缶ではたたいても高い音は出ず、「蚯音」もしなかった。
実験8の結果と合わせると、泡がこの高い音を消したため「蚯音」がしなかったのだ。

【実験11】

「パターン4」の泡は、大きくなりながら浮上している。これは泡の温度が100℃以上あるため、周囲の水を気体にしながら大きくなるのではと考え、浮上する泡の温度をデジタル温度計で測った。その結果、水中央部の95℃に対し、泡が激しく出ているところ(水と泡の平均温度)は99.9℃だった。やはり「パターン4」の泡の中は100℃を超えているようだ。
では、泡の元は何か? 底についた空気の粒だと予想し、

【実験12】

でアルミ缶詰の底に「目打ち」で傷をつけ、あるいは水中で傷をつけるなどして加熱した。
両方の傷だけでなく、傷のない部分からも泡が出た。「目打ち」の先端を底から持ち上げたときにも泡は出た。空気の粒の中の圧が下がり、周囲の水に溶けていた空気がさらに吸い込まれ、大きく泡になったのでは。

【実験13】

「パターン2」の泡で、つぶれた後の粒を小さな試験管に集めた。水蒸気なら冷えるとすぐに水に戻るが、65℃に下がるまで残っていたので、この粒は空気の粒だ。

【実験14】

「パターン4」の泡は同じところから出続ける。泡が上昇しても、底には水蒸気の泡が残っているからだと考え、丸底フラスコで泡が出ているところを外から氷で冷やしたら、その後いくら加熱しても泡は出なくなった。

【実験15~17】

デジタル温度計と棒温度計の差異についての実験。

【実験18】

茶釜での加熱変化を見ると、水面直下と中央部はいつも同じ水温で、底の水温はそれよりも2℃~4℃高かった。熱がよく逃げている。ポイントは「弱火」だ。「蚯音」も「松風」の音も聞き分けができた。振動数MAPで見ると、茶釜の底をガラス棒でたたいたときの音が、やはり「蚯音」に含まれていた。

実験を終えて

 沸騰の分類が、千利休と私とで一致することが分かった。「蟹眼」とは小さな泡が水面にプチプチ出る「パターン1」の泡。「蚯音」と「松風」の音は「パターン2」、「魚眼」が「パターン3」、「連珠」は泡が底から水面に連なって出る「パターン4」だ。千利休の分類で泡と音がごちゃ混ぜなのは、私が透明容器で横から見ているのに、千利休は上から水面を見ているからだ。

指導について

指導について出雲市立河南中学校 石倉 浩史

 かの千利休が「湯が沸く音の中でも『松風』がお茶に一番良い」との言葉を残している。水の音の研究part3はこの言葉に関心を抱くところから始まる。利休の言う水が沸騰するまでに発生する音とは茶釜の中でどんな泡が出ているときなのか。水温変化にともなって発生する音のコンピューター解析とハイビジョンカメラが捉えた泡映像のシンクロという高度な技術で突き止めた。この技術は昨年度の研究で磨いており、お手のものである。
   かつて利休が楽しんだ音とはどんな泡が出ていたときなのか、科学的に推測できたところがこの研究の成果である。また、実際に茶釜を使うことで茶の世界では強火で沸かせないこと、湯温も高くならないこと、そして『松風』とは適温時に聞ける音だと気づくこともできた。
   茶釜の音から始まったこの研究で、茶の湯の世界とは、ゆったりとした時間と空間、そして湯の音を楽しむもの、と利休が確立した文化にふれることができたことも面白い。

審査評

審査評[審査員] 小澤 紀美子

 昨年度からの水の音の研究をさらに深化させ、連続受賞となりました。おめでとうございます。家での風呂当番から始まった研究も3つめの作品となりました。この研究は、千利休が茶の湯で湯の沸き加減を5つの段階音、蚯音、蟹眼、連珠、魚眼、松風に分けて、松風がお茶に一番いい温度と述べていることに科学的な解明をした作品です。温度と泡の大きさ、容器の大きさと形、水の量などの関連をさまざまな角度から追研して、泡が音を作りだしていることを解明している努力に敬服します。4種類の泡のパターンを見いだし、パターン1の泡が蟹眼、パターン2の泡が蚯音と松風、パターン3の泡が魚眼、パターン4の泡が連珠の音をつくりだしているという結果を導き出しています。今後も、この研究のように昔から言われていることに科学の目をむけ、研究を続けてください。期待しています。

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