私のおばあさんの住んでいる浜松市には中田島砂丘があり、きれいな風紋ができる。その写真を未悠さんと見たときに「どうして、こんなきれいな風紋ができるのだろう」と思った。
① | 風紋ができている場所:砂がかわいて、大きな石やごみなどがなく、細かい砂の所にできていた。 |
② | 砂はどのくらいの風速で動くか:風速計で測ると、風速5m/sを超えた時に砂が動く。 |
③ | 風紋の波模様の形の様子:風上側が長くゆるやかな傾きで、風下側は短く急になっていた。 |
④ | 風紋の波模様の砂粒の様子:透明なプラスチック板に粘着テープをはり、波模様部分に垂直にさし込んで断面を写し観察した。風紋を形づくる砂はさらさらしていて、波模様の山の部分には比較的大きな砂粒が多く、谷の部分には細かい砂粒がたくさんあった。 |
⑤ | 風紋の波模様の間隔:少しずつせまくなっていた。 |
【実験1】風速5m/s以上の時、風紋はできるか。
《方法》
実験室内で中田島砂丘の砂をシートの上に敷き、ブロワ(送風機)を使って風速5m/s未満(4.0m/s以上)の風、5m/s以上(7.0m/s未満)の風を10分間あてた。
《結果》
風紋は5m/s未満ではできず、5m/s以上でできた。
【実験2】風速がどんなに強くなっても風紋はできるか。
《方法》
ブロワを砂に近づけたり、遠ざけたりして風速を変えた。
《結果》
風紋は風速9~10m/sの風でできた。10m/sを超えると、砂が吹き飛ばされ、風紋はできなくなった。
【実験3】学校の運動場の砂でも風紋ができるか。
《方法》
シートの上の運動場の砂に、風速6~7m/sの風を10分間あてる。
《結果》
風紋はできなかった。できる砂、できない砂があるようだ。
【実験4】中田島砂丘と運動場の砂粒の大きさを調べる。
《方法》
砂200gをふるいにかけて、粒の大きさごとに分け、その重さを量った。
《結果》
《考察》
中田島砂丘の砂は、直径0.5~0.25㎜の大きさの粒がたくさんある。風紋ができる砂粒は細かく、大きさがそろっていることが分かった。
【実験5】運動場の砂でも、小さい砂粒だけを集めれば風紋ができるか。
《方法》
運動場の砂をふるいにかけて、直径1㎜以下の砂ばかりを集める。これに風速6~7m/sの風を10分間あてた。
《結果》
きれいではないが、風紋ができた。
【実験6】湿った砂でも風紋ができるか。
《方法》
中田島砂丘の砂、運動場のふるいをかけた砂(直径1㎜以下)を霧吹きで湿らせ、風速6~7m/sの風を10分間あてた。
《結果と考察》
どちらの砂も動かず、風紋もできなかった。3日後、砂は完全にかわいていた。かわいた運動場の砂の表面は固まっている。中田島砂丘の砂にも、かたまりがあるように見える。
【実験7】湿った後にかわいた砂でも風紋ができるか。
《方法》
湿った後でかわいた中田島砂丘の砂、運動場の砂に、風速6~7m/sの風を10分間あてた。
《結果と考察》
中田島砂丘の砂の小さなかたまりは、1粒ずつの砂に分かれ、風紋ができた。運動場の砂は風紋ができなかった。固まった表面はほとんど崩れず、そのままの形だ。砂のさらさら度が違うからではないか。
【実験8】中田島砂丘の砂と運動場の砂のさらさら度を調べる。
《方法》
砂を漏斗(ろうと)から流して、机の上に砂山を作る。その砂山の傾斜角度を分度器で測る。傾斜角度が小さいほど砂は粘り気がなく、さらさらしていると考えられる。それぞれの砂で10回ずつ行い、平均値を調べた。
《結果》
運動場の砂での傾斜角は35.5°、中田島砂丘の砂での傾斜角は30.8°だった。中田島砂丘の方がさらさらしている。
追究1のまとめ:風紋ができる4条件は、①風速5m/s以上、10m/s以下の風が吹いていること。②砂粒が直径1㎜以下で、ある程度粒の大きさがそろっていること。③砂粒が一粒ずつに分かれ、かわいていること。④砂がさらさらしていること。
【実験9】風紋ができる時、砂がどのように動くか調べる。
《方法》
ビニールシートの上に砂を置き、片側から息を吹きかけて、砂の動く様子を観察した。
《結果》
①息を吹きかけると、手前の砂はなだらかな傾斜に沿って押しやられた。②しばらくすると傾斜は急になり、その傾斜の先の砂も動きだしてくぼみが作られ、風紋ができ始めた。③くぼみから先にも傾斜ができた。
《考察》
実際の砂丘では、波打ち際からすぐに風紋ができていない。波打ち際では砂が湿っていて、砂が動かないからではないか。
【実験10】実際の砂丘を想定して風紋のできる様子を調べる。
《方法》
最初に風(息)があたる部分の砂を湿らせ、実験9と同様に行う。
《結果》
湿った砂は動かず、その先のかわいている場所から砂が動き、くぼみができ始めた。
《考察》
①砂丘に風があたると、かわいた砂が動き、移動してくぼみができる。②くぼみの傾斜は、だんだん急になる。③その傾斜の先で、砂が勢いよく動き、移動する。④こうして、くぼみとくぼみの間に山ができていく。⑤そのうちに傾斜も緩やかになる。
【実験11】風紋ができ始める時、風の動きはどうなっているか調べる。
《方法》
風の流れを、水の流れに置き換えて実験する。傾斜をつけた発泡スチロールを砂丘に見立て、観察しやすいようにアルミニウム粉末を浮かべた水を斜面に沿って流した。斜面には一つくぼみを付けた。
《結果と考察》
水(風)がくぼみではね上がり、また斜面にあたるという流れが連続した。これが風紋になっていく。でも風紋の断面が、同じ三角形なのはなぜか。風で砂山ができると風下側が崩れるので、いつも同じ角度に保たれるからではないか。
【実験12】風紋の風下側の角度、砂山が崩れた傾斜角度を調べる。
《方法》
①中田島砂丘の風紋の写真を使って、風下側の角度を測る。②板を立てた片側に砂山を作り、板をはずして崩れた側の傾斜角度を測り、①と比較した。
《結果》
風紋の風下側の角度も、砂山の崩れた時の傾斜角度も23°と同じだった。
追究2のまとめ:下図のようになる。
デジカメで何千枚も写真を撮り、ここには載せていない実験や観察もたくさん行った。今思うと、それも大事な経験だった。時間がなくて明らかにできなかったこともある。今後も調べていきたい。
審査評[審査員] 邑田 仁
身の回りの自然現象の不思議に気づいて感動することがある。注意深く見ている人はより多くの不思議を見つけるだろう。それらはたいてい自然現象の結果であり、なぜ、どのようにしてそれができあがったのかを明らかにできればもっと感動が大きくなるだろう。この研究では風紋について現地でくわしい観察を行っており、風紋がどうやってできあがったかについて、ひととおりの考察ができているように思われる。それだけでも、自然現象に対する洞察力が評価できる。しかし、そこでとどまることなく、風紋ができる過程をいくつかに分解し、ひと区切りずつ、できるだけ自然状態に近い条件を自分たちで再現して検証したことがとてもすばらしい。このようにすれば、同じやり方を使って別の人でも確かめることができる。その意味で、どんな場所で実験を行なったか、どのような機材を使ったかなどを説明しておけばもっと厳密な研究発表になっただろう。
指導について刈谷市立富士松北小学校 池田 正紀
特に印象に残った3つのことを書きます。
1つ目は、湿らせた砂を放置しておいた時、砂丘の砂は固まらなかったのに対し、運動場の砂が固まってしまった場面です。砂の性質の違いが明らかになった場面を偶然に見つけることができたのです。
2つ目は、砂が飛んで山になり、波模様ができると考えていましたが、実験結果は、そうなりませんでした。しかし、逆転の発想で、風が砂を削って谷を作ると考えると、全ての実験結果が結びつきました。見方を変えることができたから分かったことです。
3つ目は、なかなか結論が出ず、苦しかった時も実験で風紋が出来ると、その美しさに心を奪われる2人がいました。亜衣さんと未悠さんが実際に風紋を見て自然の巧みさに心から感動したことが、『はてな?』を解き明かす原動力の一つになったと思います。
最後まで、地道に頑張る2人の姿勢が、上の3つの贈り物を届けたのだと思います。