おととしの茎崎町周辺の環境調査から、本研究は始まりました。
おととしの結果
pH・COD・硝酸イオン・アンモニウムイオン・リン酸イオン・電気伝導度などを調べました。
その結果、水質は季節によって、あるいは場所によって変化することが分かりました。この変化の原因を調べることを次の年の課題に加えました。
昨年の結果
3つの大きな課題に基づいて研究しました。
① | 気象と水質の関係について: |
② | 川底の土と水質の関係について: 川底の土を 採集し、純水とまぜ、ろ過しました。 ろ液のpHと川のpHを比べたところ、土のpHはどこも一定の値を示し、水質の変化の原因ではないことが分かりました。 |
③ | プランクトンと水質の関係について: 川の水・プラ ンクトンなどの生物を採集し、どのようなプランクトンがいるのかを調査して、場所ごとの表を作りました。 その結果、透視度の良い所は、動物プランクトンが多く、植物プランクトンが少ないことが分かりました。 また、プランクトンの水質への影響を調べるために、川の水を2つ用意して、1つにぶどう糖、もう1つに 化学肥料を入れました。その結果、化学肥料を入れて、植物プランクトンが多くなった方の水は、植物プランクトンの光合成によって1日のpHの変化が大きいことが分かりました。 |
しかし、次のような疑問が残りました。
① | 雨によって水質が変化するなら、川に流れ込む排水も水質を変化させる原因になるのだろうか。 |
② | 川底の土のpHは関係なかったが、イオンなどは関係するのではないだろうか。また、水草や水中の溶存酸 素などは、水質の変化の原因になっているのだろうか。 |
③ | 植物プランクトンは、光合成をすることによって、 水質にどう影響しているだろうか。 |
調査場所とその様子
仮説1 流れ込む排水によって、川の水質が変化する
仮説2 川の中の土と水草、流れによって水質が変化する
仮説3 植物性プランクトンの光合成によって水質が変化する
① | 仮説1について |
② | 仮説2について アンモニウム水溶液を作り、水だけのもの・水草を入れたもの・土を入れたものを3つずつ用意し、それぞれ、何もしないもの・エアーを入れたもの・かきまぜるものを作り、モデル実験を行い、どの状態がアンモニウムを分解しやすいか観察した。同様の実験をリン酸水溶液でも行い、分解の速さを調べた。 |
③ | 仮説3について 水を2つ用意し、1つには化学肥料を入れ、もう1つにはブドウ糖を入れ、人工的に植物性プランクトンと動物性プランクトンを発生させ、pHなどの1日の変化を調べた。 |
(1)調査場所とその様子(図1)
(2)排水・田畑の土・川の水の調査結果(場所別変化)
① | pHの場所別変化 |
② | 透視度の場所別変化 雨が降った時、川底が石の場合、透視度は変化しないが、川底が土の場合は、雨の攪拌作用によって、水 がにごり、透視度が悪くなる。透視度は、流れの速いポイントの方が高い。三日月橋や新地の値が低いのは、 植物性プランクトンが多すぎて、視界をせまくしているものと考えられる。 DOのグラフと関係させて考えてみると、DOが高い場合は、透視度がよく、低い場所は透視度も低くなっている。しかし、DOが高すぎると、透視度は逆に低くなってしまう。それは、DOを高くする植物性プランクトンが視界を悪くしているからである。 |
③ | CODの場所別変化 予想通り、田畑で肥料を使い始める4月からのCODが大きくなっていた。また、土は水の値より大きいことが分かった。冬では数値が場所によってばらつきがあった。ばらつきは、夏に近づくにつれて小さくなっていた。これは、肥料からの有機物が流れ込んだためだと考えられる。場所別にみて、上流の方では高く、中流で低くなり、下流でまた、高くなるという傾向があった。上流で高いCODが水質浄化能力の高い日本工営前から堂免橋を通過するため数値が低くなるのだと考えられる。下流、特に新地でふたたび高くなるのは、有機物であるプランクトンが多いためだと考えられる。 日本工営前から堂免橋の水質浄化能力が高いことは、水質浄化モデル実験で分かった。 |
④ | リン酸イオンの場所別変化 稲荷川のリン酸イオンは1年中0.1~0.2mg/l ぐら いの値を示している。また、周辺の土や排水は、非常に高く、川の水は、それに対して低くなっている。浄化モデル実験より、水草と土がリン酸イオンを低くする働きがあることが分かっている。したがって、 1) 周辺の土や排水中のリン酸は高いが、川に流れ込む間 または川に流れ込んでから、水草に吸収されたり、土で分解されたりしている。 2) 稲荷川周辺で使っているリン酸の使用量が少ないと考えられる。 |
⑤ | アンモニウムイオンの場所別変化 土や排水のアンモニウムイオンの値が高い所があるのに、川の水の値は低く、12月~8月までどのポイントでも大きな変化はなかった。それは、排水が川に流れ込んでも、エアレーションのモデル実験のように、川の底にある土や川の流れによって流れ込む空気がアンモニウムイオンを分解してしまったからだと考えられる。 |
⑥ | 硝酸イオンの場所別変化 稲荷川の水の硝酸イオンは、冬場、日本工営前から 古橋あたりまで高く、その上流下流が低い値を示す傾向がある。しかし、夏場は、日本工営前から古橋あたりが低くなり、上流下流は、冬場とあまり変化がない。 冬場は排水が無く、雨も降らないことから、川の水に対して影響は考えにくい。また、水質浄化モデル実験の結果から、硝酸イオンを吸収する働きの強いものは、水草などの植物であることが分かった。さらに、川底の様子を調べたところ、水草などの植物が多かったのは、日本工営前から古橋あたりであった。以上のことから、硝酸イオンは、水草が大きく関係している。 |
(3)排水・日畑の土・川の水の調査結果 (月別変化)
1.pHの月別変化
2.透視度の月別変化
3.CODの月別変化
4.リン酸イオンの月別変化
5.アンモニウムイオンの月別変化
6.硝酸イオンの月別変化
(4)ペットボトルを使った水質浄化モデル実験
1.pHの変化では、どれも中性に近づいた。特に土を入れたものは、早くから急激にその変化があらわれている。このことから、川の水質浄化には土が大きく関わっていると考えられる。エアレーションを使ったり、 攪拌を行ったもののpHの変化が安定した変化になっていることから、川の流れやそれによって溶け込む空気には土や水草の水質浄化を助けるカがあるのだと考えられる。さらに、エアレーションを使ったもの、攪拌を行ったものでは、土が一番影響を受けていた。このことから、土があり、川の流れが速く、空気の溶け込みやすい環境にある場所ほど、水質浄化能力が高いと考えられる。
2.リン酸イオンは水草、土を入れたものが低くなっていた。このことから水草と土には、リン酸イオンを吸収または分解する能力があると言える。攪拌を行ったり、エアレーションを使うと、水草はその働きが強くなった。
3.アンモニウムイオンは土を入れたものの値が低くなっていた。
4.硝酸イオンは、何も入れないものも数値が低くなっているので、硝酸イオンは時間とともに分解されると考えられる。
5.CODは土とエアレーションを使うと低くなった。
(5)プランクトンの調査結果
1.場所別のプランクトンの種類 | 2.プランクトンの働きによるpHの変化 |
① | 流れ込む排水は稲荷川にどのような影響を与えるか 排水は、川の水とpHで同じような変化をしているので、関係していると言える。硝酸イオンは関係していないのではないかと考えられる。 |
② | 透視度の場所別変化 土は汚れた水を浄化する働きがあり、酸性の水を短時間で中和し、また高いCODを短時間で低い値にする事ができる。また、土は酸素が加わることにより、さらに効率よく水質を浄化することが分かった。 |
③ | CODの場所別変化 プランクトンは主にpHに大きく影響している。植物プランクトンの多い木崎橋・古橋・堂免橋はプランクトンの光合成によりpHが高くなっていると考えられる。 |
④ | リン酸イオンの場所別変化 稲荷川の水質浄化及び水質変化は水草・川底の土・水の流れによって溶け込む酸素・植物プランクトンの光合成によって行われている。そして、稲荷川の水質浄化能力は、日本工営前・高崎橋・古橋・堂免橋の付近が最も高い。これは、それらの場所に水草が多く、土があり、水が瀬になって流れていることから説明できる。 |
指導について茨城県稲敷郡茎崎町立茎崎中学校 桑名 康夫
本校では理科教育の一貫として、身近な環境の調査を通して生徒の自然への関心・意欲を高めることをねらいとしている。
平成10年度から開始した水質調査は、毎年研究に関わってくる生徒達によって支えられてきた。初年度は身近な河川・湖沼の水質調査を行い、季節・時間・場所によって水質が変化することが分かった。2年目は「水質はなぜ変化するのか」という疑問の解決を目指し、①雨水、②川底の土、③水中の生物、に視点をあてて調査した。その結果をもとに今年度は次の4つの視点から調査研究を進めた。①流入する排水と河川の水質との関係、②周辺の 田畑に含まれる肥料分と河川の水質との関係、③水中のプランクトンの水質への影響、④河川の水の溶存酸素と水質との関係。
以上のように、3年間にわたって身近な環境についての調査研究を進め、しだいに生徒が自然の事象に対して深く追究し、関心・意欲・態度が養われてきた。今後とも継続してこの調査研究を行い、問題解決能力を養っていきたい。
審査評[審査員] 金子 明石
この研究は一昨年から始まり、3年間の集大成です。きっかけは 10年前の水質調査と比較しようということであると述べています。年ごとに得られた結果を分析し、新たに生じた疑問について次年度に調査するやり方で進めており、大変科学的なやり方だと思います。稲荷川の多数の場所で継続的に観測を行い、調査項目ごとに考察しています。年間通しての定点観測は大変根気のいるものです。水質のpHが植物プランクトンの光合成によって変化することは水草を用いた実験からも分かることですが、川のにごりと植物プランクトンの関係をおさえた上で、pHの変化を見ていたり、 水のpHが場所によって異なっても川底の泥のpHはどこも安定していて、この泥が水質浄化に役立っていることを確かめるなど、他の研究作品に見られない内容があり、高い評価をうけたのだと思います。3年目の調査でもまた新しい疑問が生じたようです。更 に研究を進めてくれるものと期待しています。
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