家の大掃除をしていると、障子の紙が黄色く変色していることに気づきました。何とか元通りになる方法はないかとインターネットで調べてみると、「大根おろしのしぼり汁を障子にぬると、黄ばんだ紙が白く強くなる」と書いてあるページを見つけました。本当ならすごいことです。みんなで研究を始めることにしました。
大根のおろし汁を黄ばんだ紙にぬると元通りに白くなるか。また、強くなるか。その秘密を調べる。
《追究1》本当に紙が強くなったのか調べる。
〈方法〉
紙をプラスチック容器の口に張り、その上に単4乾電池を落として破れたときの高さを「紙の強さ」とし、比べてみる。使用する紙は和紙、習字の半紙、プリントに使う洋紙、画用紙、新聞紙。それぞれ、絵筆で大根のおろし汁をぬったもの、水をぬったもの、何もぬらないそのままのもの、の3種類を用意しました。
〈結果〉
やはり大根のおろし汁をぬると、紙は強くなる。
【いろいろな紙の強さ】(cm)
〈水だけ〉 | 〈大根〉 | 〈そのまま〉 | |
和紙 | 55 | 65 | 55 |
画用紙 | 55 | 60 | 50 |
洋紙 | 50 | 60 | 50 |
新聞紙 | 20 | 25 | 35 |
半紙 | 25 | 15 | 15 |
大根の何が紙を強くするのか。調べてみると、大根には特に「ビタミンC」と「消化酵素」が多く含まれます。これらが原因ではないかと考えました。
《追究2》ビタミンCをぬった紙の強度をはかる。
〈方法〉
レモン、オレンジ、みかん、グレープフルーツのしぼり汁を和紙にぬり、追究1と同じ方法で調べる。
〈結果〉
果物によって紙が強くなったり、弱くなったりした。ビタミンCは多いはずだから、紙を強くする原因とは言えない。
【ビタミンCをぬった紙の強さ】(cm)
グレープフルーツ | 55 |
オレンジ | 35 |
レモン | 65 |
みかん | 45 |
《追究3》「酵素」入りの洗濯洗剤をぬってみる。
〈方法〉
水に洗剤27gを溶かし300mlの水溶液を作った。和紙にぬり、追究1と同じ方法で調べる。
〈結果〉
和紙は弱くなった。酵素が紙を強くする原因とは言えない。
《追究4》大根のおろし汁をぬった紙がどうなっているのか、顕微鏡で観察する。
〈結果〉
紙の繊維が互いにからみ合っている。
大根のおろし汁がついて乾くと、紙同士がくっついてしまうことに気がついた。「紙のでんぷんが、のりになるのでは」。
《追究5》ヨウ素液を紙にたらし、顕微鏡で観察する。
〈結果〉
洋紙は全体的に青紫色に変わり、色は均一だった。和紙は青紫色が網目状で、よく見るとすじが何本もあり、それ以外の所は色が変わっていなかった。
紙にでんぷんがあることは確認できたが、でんぷんがのりの役割をするなら、水だけでも和紙と和紙はくっつくはず。でんぷんと大根のおろし汁が出会い、のりの役割をするものに変わったと言えます。ヨウ素液で試してみると、大根のおろし汁につけた紙は色が変わりません。やはり、紙の中のでんぷんが何かに変わったようです。でも、それは何か……。「大根は消化によい」と母も言う。でんぷんが消化酵素で違う物に変わるなら、「それはブドウ糖だよ」と先生。
《追究6》大根のおろし汁で、紙のでんぷんがブドウ糖に変わったのか。
〈方法〉
ブドウ糖の試験紙で調べてみる。
〈結果〉
大根のおろし汁をつけた紙は、あっという間に反応があったが、水をつけた紙はまったく反応がなかった。
これで分かりました。大根のおろし汁に含まれる消化酵素が、紙に含まれるでんぷんをブドウ糖に変え、それがのりのような役割をし、紙を強くしていたのです。
① |
大根のおろし汁をぬると、和紙や洋紙、画用紙で強さが増す。 |
② | 大根に含まれる消化酵素が、紙を強くする原因でもある。 |
③ | 紙が強くなるのは、でんぷんがのりのような役割をする物に変わるからである。 |
まとめ
今回の実験で分からなかったこと。
① |
大根のおろし汁で、黄ばんだ紙が白くなるのはなぜか。 |
② | 和紙にヨウ素液をたらすと、全体的に染まらず、網目状に染まるのはなぜか。 |
この2つの不思議に、またチャレンジしたいと思います。
審査評[審査員] 星野昌治
家の障子の黄ばみは、とても気になるところであり、紙ももろくやぶれやすくなっています。 「何とか元通りに、障子の紙を白く強くすることはできないものか。大根おろしのしぼり汁を障子に塗ると、見違えるほど白く、丈夫になるというのは、本当だろうか。紙にはどんな秘密があるのだろうか」などの疑問をもち、研究に取り組みました。
大根の汁を塗って、いろいろな紙の強度を調べる。大根の汁に含まれるビタミンCや消化酵素と紙の強さとの関連を調べる。大根の汁を塗った紙を顕微鏡で詳しく調べるなど、丹念に根気強く実験や観察を行い、次々に生まれてくる疑問や問題を、みんなで協力しながら追究していく態度は、大変りっぱです。
気になる障子の黄ばみに目を向け、みんなで興味・関心をもちながら、実験・観察を通して、身の回りの自然や日常生活の不思議さ、おもしろさを実感している様子が伝わってきます。素晴らしい内容の研究でした。大根1本をすりおろすのは大変でした。ご苦労さま。
指導について刈谷市立東刈谷小学校 内藤大裕
障子の黄ばみを何とかして元通りにしたいと考えたことが、研究のきっかけである。紙を元通りにするために、身近なもので紙が変化するという現象に驚き、最後まで研究を意欲的に進めることができた。
最初に、いろいろな紙で実験したところ、ほとんどの紙において紙の強度が増した。それには大根に含まれるビタミンCや消化酵素が関係しているのではないかと考え、果物や洗剤など、身近なものを使ってそれを検証していった。これは、子どもたちのアイデアである。実際に顕微鏡で大根のしぼり汁をぬった紙の繊維を見てみると、繊維が絡みあっているのがはっきり見えた。ヨウ素液や尿試験紙を使って、紙に含まれるデンプンが糊のようなものに変わることに秘密があることが分かった。
これからも身近な「なぜだろう」を探究して、いろいろな研究に取り組んでほしいと思っている。