今年は大きく分けて2つのテーマで研究を進める。
《テーマ1》
家の庭のダンゴムシを秋から夏まで続けて観察し、気温や周りの変化と発生数の関係を調べる。
〈研究1-1〉観察
〈方法〉
庭に4つの観察地点(①庭の南側の木の周り、②流しの周りの日かげ、③庭の北側の木の周り、④玄関前のプランターの周り)を決める。 観察日の気温とダンゴムシの数、生息場所が似ているワラジムシの数も記録する。観察時刻はいつも午前10時とする。
〈結果〉
〈研究1-2〉ダンゴムシはどのようにして冬を越していたのか。
〈方法〉
ダンゴムシを入れたビンを冷蔵庫に入れ、様子を24時間、観察する。
〈結果〉
ダンゴムシは寒くなると土の中にもぐっている。
〈研究1-3〉1日の中でのダンゴムシの発生数を調べる。
〈方法〉
④地点で1日5回、4時間おきに発生数と気温を調べる。
〈結果〉
〈テーマ1のまとめ〉
ダンゴムシの発生数と気温や周りの変化には、やや関係があるように思えた。年々少なくなっていると感じたダンゴムシは減っているわけではなく、探し方が悪かったのかもしれない。
《テーマ2》
迷路の条件を変えるなどして、ダンゴムシの交替性転向反応の起こり方を調べる。
〈研究2-1〉迷路上にエサを置いても交替性転向反応は変わらずに見られるか。
〈研究2-2〉迷路上の一部分を暗くしても交替性転向反応は変わらずに見られるか。
〈研究2-3〉迷路上の一部分を明るくしても交替性転向反応は変わらずに見られるか。
〈研究2-1~3のまとめ〉
どの迷路でも交替性転向反応が見られた。ダンゴムシはエサに集まりやすいし、暗い所の方が好きだ。こうした特徴よりも交替性転向反応を起こしやすいと考えられるが、こっちにエサがあるとか暗いとか、判断できなかった可能性はないだろうか。光やにおいを感じるところはどこなのか。それは、どれくらい先まで判断できるのか。
〈研究2-4〉2つ目の曲がり角に、直進できるルートを作っても交替性転向反応は変わらずに見られるか。
〈研究2-5〉十字路のある迷路を歩かせたら、交替性転向反応の起こり方はどうなるか。
〈研究2-6〉左→左と進むような迷路を作り、一度わざと交替性転向反応をくずしても、次の曲がり角でも交替性転向反応が見られるか。
〈研究2-4~6のまとめ〉
十字路のある迷路、左→左と進む迷路では交替性転向反応が見られたが、直進のある迷路では見られなかった。
〈研究2-7〉迷路の一部分を上り坂にしても交替性転向反応は変わらずに見られるか。
〈予想〉
これまでは平らな迷路で実験してたが、交替性転向反応を示すルートを上り坂にしたら、ダンゴムシはこれを避けて、交替性転向反応が見られなくなると考えた。
〈研究2-7のまとめ〉
ダンゴムシが坂の途中で引き返したり、坂道の下で止まって考えているような様子が見られた。その結果、どの上り坂の迷路も、交替性転向反応を示さなかった。交替性転向反応が起きるためには、道が平らでなければならない。
〈研究2-8〉迷路の一部分を下り坂にしても交替性転向反応は変わらずに見られるか。
〈研究2-8のまとめ〉
下り坂(傾斜15°、30°、45°、60°)の迷路では基準の迷路より高い割合で交替性転向反応が見られた。45°では割合が低かったが、これはいきなり45°から実験を始めたので、ダンゴムシがとまどってしまったためと思われる。
〈研究2-9〉壁がでこぼこしている迷路を歩かせても、交替性転向反応は変わらずに見られるか。
〈予想〉
昨年の実験で、触角のないダンゴムシを歩かせても交替性転向反応は変わらずに見られた。壁にそって歩いていたので、体の側面に壁を感じるところがあるのかもしれない。でこぼこの壁に変えれば、反応も変化すると考えた。
〈研究2-9のまとめ〉
交替性転向反応は見られた。
〈研究2-10〉道はばを狭くしても、交替性転向反応は変わらずに見られるか。
〈方法〉
これまでは道はば2cmの迷路で実験してきた。これをはば1cm、ダンゴムシの体のはばに合わせた迷路で実験した。
〈研究2-10のまとめ〉
交替性転向反応は強く見られた。
なぜ交替性転向反応を起こすのか。東京都の多摩動物公園の先生に質問した。ダンゴムシは触角で感じているという。しかもダンゴムシには1対の大きな触角(第二触角)のほかに、もう1対の小さな触角(第一触角)があるというから驚いた。ハンディスコープで観察したら確かにあった。昨年、触角のないダンゴムシでの実験で交替性転向反応が変わらずに見られたが、この小さい触角の働きが関係していたのかもしれない。
今年の研究から分かったこと
① |
ダンゴムシの発生数と気温や周りの変化には関係がある。 |
② | 寒くなると土の中にもぐって冬を越す。 |
③ | 交替性転向反応は上り坂にすると示しにくく、逆に下り坂にすると示しやすくなる。 |
④ | ダンゴムシには触角が2対あり、大きい方を第二触角、小さい方を第一触角という。 |
ダンゴムシのたった10mm前後の小さな体には、まだまだたくさんの秘密がつまっている。これからも研究を続けて行きたい。
審査評[審査員] 高家博成
並木さんは長年にわたってダンゴムシ(オカダンゴムシ)の観察を続けてこられました。
地味な生物のためか、身近でありながらあまり深くは研究されてこなかった種類ですが、迷路の実験をしながら、条件をいろいろと変えて性質を見極めようとしています。これは、実験の方法としてはとてもよいことで、審査員に高く評価されました。触角切除の実験では、私もよく知らなかった結果が出ていることに驚きました。 触角以外の部分(たとえば別の部分の触覚器官や視覚など)も影響しているかも知れませんね。
次の段階としては、体のしくみをよく調べた上で、もう一度いままでの実験を振り返ってみてください。体が小さくて、観察の困難な点もあるでしょうが、将来の宿題としましょう。
指導について並木弘勝
小さい頃から手にとって遊んでいたダンゴムシを「もっと詳しく調べてみたい」と思ったのが、研究のきっかけでした。それから5年間、いろいろな実験や観察を行ってきました。
2年目に偶然行った迷路の実験から、ダンゴムシの歩き方に興味をもち、後半の3年間は、この事について、条件の異なる数多くの迷路を作り、研究を進めてきました。更に、5年目である今年は、10ヵ月に渡り定点観察も行いました。
「なぜ?」と子どもが発した疑問を大切にし、一緒に考えたり実験の方法をアドバイスしたりしてきました。予想通りの結果が出ず、試行錯誤の連続で、専門家の方に質問しにでかけたこともありました。
今回の受賞を、大変嬉しく思っております。研究にあたり、助言してくださった皆様に深く感謝致します。