第45回入賞作品 小学校の部
1等賞

イモリの天気予報 6年間の観察記録

1等賞

福島県福島大学教育学部附属小学校 6年
橋本尚樹
  • 福島県福島大学教育学部附属小学校 6年
    橋本尚樹
  • 第45回入賞作品
    小学校の部
    1等賞

    1等賞

はじめに

イモリとの出会い

 小さいころから休みの日といえば家族と小川や水田近くに行き、水生生物を採集することが大好きでした。その日のことはまだ鮮明に思い出すことができます。小学1年の秋に父や弟と福島市の水原地区に虫を探しに行った時のことです。観察していると、貯水池の底から水面へ上がってきた生き物がいました。すぐに水底に戻ってしまいましたが、背中が黒く、おなかがオレンジ色で、とっさに「イモリ(アカハライモリ)だ」と大声を上げてしまいました。その時はイモリを採集できる網を持っていなかったので、捕るのは次の機会まで待つことにしました。貯水池にイモリが棲んでいることはわかりましたが、捕獲するのは大変でした。貯水池には高いフェンスが安全のためつけられていて、大人でもやっと水面に網を出せるくらいでした。しかも、イモリもなかなか水面に上がってきません。それでも数匹捕まえることができ、喜んで家に戻った覚えがあります。当時すでにアメリカザリガニやドジョウや魚なども飼っていましたが、イモリも大切に育てようと思い、本をいろいろ読んでみました。

イモリを観察するようになったきっかけ

  イモリのことを書いている本を読むと、天気予報ができるというところに目が留まりました。ぼくは本当にそんなことができるのかどうか興味を持ったので、イモリをよく観察することにしました。
小学1年から5年までの観察

捕獲場所と飼育方法

 イモリは福島市の水原地区貯水池と飯舘村の水田脇用水路などで捕獲しました。市販の飼育ケース(幅35cm、奥行18cm、高さ23cm)に底から5cm くらい水を入れ、石や植木鉢を中央に置きました。エサは市販のイトミミズやたまに捕まえてきた小魚を与えました。

 

天気予報の判定基準

 本には、イモリが「水の中」にいる場合は「晴れ」、「ケースをよじ登っている」と「雨」と書いてあっただけでしたが、ぼくは「水中にいる」時を晴れとし、ケース壁によじ登ったり、石や植木鉢の上にいて「体全体が水面より上」にある時は雨としました。また、ケースによじ登っていても「体が一部水中についている」時は「曇り」というように、新たに曇りの項目も加えました。

石の上に2匹=雨
水中に3匹=晴れ と判明
植木鉢の上に1匹=雨
植木鉢側壁に1匹: 尾が水中に=曇り
水中に3匹=晴れと判明

 

観察結果のまとめ

  2000年2月7日から03年8月31日までのイモリの行動から判定した翌日の天気予報や気象観察データを月単位でまとめました。


  01年7月11日よりケースに入れるイモリを5匹に決め、同時に室温・湿度を記録することにしました。02年7月からは水温の項目を追加、03年8月からは「曇り」と「雨」イモリの動いた高さも記録しました。一方、自宅では測定できない気圧を01年7月までさかのぼり、気象庁ホームページから入手し、表中に加えました。
  「石のケース」と「植木鉢のケース」のイモリの行動を足し合わせ、二つのケースで1匹でも「雨」イモリがいれば、全体で「雨」の予報をつけました。また明日の天気予報は午後7時前のテレビニュース、イモリの観察時間は午後7時ごろの1場面の行動を記録しました。

イモリとニュースの予報の的中度について

  イモリの方が断然ニュースより当たっていることがわかります。00年2月・5月・6月・7月、01年2月、02年3月・4月・7月などは、イモリの予報がほとんど的中しました。
 傾向として、湿度変化が大きい時にイモリの的中率が低下します。温度については、湿度ほどではありませんが、変化が大きいとはずれやすくなるようです。平均気圧に関しても、変動のある時期ははずれやすいように思えます。石ケースと植木鉢ケースでは、ばらつきは多いものの石入りの飼育ケースのイモリの方が当たり数は多いようです。植木鉢の頂上が石よりも高いことや面積も石の方が広いということで、イモリにとって石の方が上がりやすいのかもしれません。

問題点と課題

 今回のイモリ観察は、午後7時の時点での行動観察と飼育環境の気象データ測定です。天候のダイナミックな変化を追うためには、観察回数を増やしていくことが必要なのかもしれません。というのも、イモリの行動がいつ頃の時期の天気を予知しているのか?あるいは本当に予知しているのかという疑問もあるからです。行動に個体差がないかどうかも問題です。つまり「なまけものイモリ」と「天気予報ができるイモリ」がいるのかどうかです。個々のイモリに背番号をつけ観察するのが最適と考えられます。また、イモリの成体を捕獲して観察してきましたが、生後何年なのかが確実ではなく、卵からかえるところから飼育・観察していくことも必要と思いました。

新たな気持ちで臨んだ今回の研究
 昨年末の実家の引っ越しを機に、死亡したイモリがいて、小学2年の2月から続けていた観察が途絶えてしまいました。しかし、昨年までの研究で得たことをもとに新たな検討課題を設け、イモリが活動を再開する春からの観察にがんばろうと心に誓いました。

今回設定した主な研究課題と結果

イモリと天気ニュースとの予想比較   今回は同じ飼育ケース内にコケのついた石と土を入れた植木鉢を置いた。これまで石と植木鉢の両方で予報をしていたのとは異なる点であり、植木鉢に土を入れて底を下にする点も新たな試みである。実はこの点が新たな疑問を持つ結果をもたらしました。石に上がる場合と植木鉢内の土の上にいる場合では別な予報を示しているのでは?と考えました。というのも、同じく雨と扱うと予報結果がいままでより悪くなるからです。今回の検討では植木鉢の土の上にいるイモリ=曇りと扱うことに決めました。5月、6月、7月とも今まで通りにイモリ>テレビニュースでの予報という結果を得ることができました。
オス・メス群での比較
  月別予報の当たり数には差が見られなかった。
選抜イモリと動きの鈍いイモリの比較
  オス・メス群で動きのいいイモリを選抜し、動きの鈍いイモリ(太ったメスが当てはまる)と予報の当たり数を比較した。その結果、選抜イモリに軍配が上がった。当然の結果と判断されるが、動きの鈍いイモリ群は、ほとんどが晴れ=水中にいた。
イモリの成長過程を観察する
  大量のイモリが春先に捕獲でき、何匹かのメスが産卵した。
 
24時間観察
  ビデオカメラで毎時ごとにケースを録画しました。活発に動く時間帯(夕方から夜間)と動きのない時間帯(深夜帯)が確認できました。
最後に

 この研究のおおもとといえるイモリ採集が困難になってきている。いままで捕獲できた水原地区では1匹も捕まえられず、02年から03年にかけては飯舘村にて捕獲しただけである。比較的生命力の強いイモリがこのようでは、他の水辺の生き物が心配である。事実種類は違うが、タガメ・タイコウチなどは見かけることはないし、ゲンゴロウもいなくなった。脱農薬、減農薬を進めるなど、水辺の生き物ばかりでなく、いろいろな生き物が生きていける環境作りも大切であると思った。

指導について

指導について橋本直人

 小学1年時にやっとの思いで採取できたイモリに感動し、生き物図鑑のイモリで天気予報ができるという記載に深く興味を持ったことがこの研究のはじまりでした。ニュースの天気予報と比較し本当に的中していました。イモリの予報はなぜ当たるのかを気象データから考察することとし飼育場所での温度・湿度などを実測し、年次ごとに測定項目を増やし、測定できない項目は気象庁ホームページからも入手しました。今回の小学6年では観察するイモリを意図的に選抜し、さらに飼育環境の変更にあわせてイモリの予報判定基準を再考させました。また次世代イモリのため産卵時から注意深く観察・飼育させてみました。
  この6年間の研究を通じて、イモリの天気予報は何に起因するのかを解明できたとはいえないが、いろいろな面から探求しようという気持ちを持ち続けたことが良かったと思う。
  最後にこの場をお借りして、本研究に必須であるイモリ採取に協力してくれた方々や研究の節目で助言をいただいた理科担当の武藤賢一郎・込山宏・鳴川哲也各先生に感謝いたします。

審査評

審査評[審査員] 金子明石

 小さい時から生きもの好きだった尚樹君! とうとうやったね、1等賞おめでとう! 小学1年の秋に昆虫をとりに行ってイモリに出会い飼育を始めた。最初の絵日記から6年生の記録表に記入するやり方になるまで大変な進歩です。2年生から5年生までの毎日の連続観察と6年生で気になっていたことを追加研究しています。イモリの行動から天気を予報する研究は、かなり前に佳作に入選し、話題となり、本にまでなったという記憶があります。その研究より尚樹君の研究の方が数段上にあると思います。環境データの項目を学年進行につれ増やし、記録のとり方、分析的態度も優れています。雌雄差はほとんどないという。
 夕方7時頃のイモリの位置で予報します。水中にいると「晴」、石などの上にいると「雨」、体の一部が水中につかっていると「曇り」、後に追加した土の入った鉢の上にいると「曇り」として的中率を高め、TVニュースの予報よりよく当たっています。湿度変動が大きい時や気圧変化の大きい時期には、的中率が下がる傾向がある。尚樹君の根気強さには感服しました。

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