研究の動機と仮説
ビオトープの近くにあった看板の説明を読むと「アサザは絶滅が心配される」とあった。だが、先生は「アサザと同じところにあるジュンサイの方が危ない」と言う。そこで「牛久自然観察の森」の園長さんに聞いてみると、「ジュンサイもアサザも両方危ない」と言う。園長さんの紹介で、ミュージアムパークの人に電話をした。すると「アサザは(保護)プロジェクトがあるが、ジュンサイにはそのような会がない。だから、ジュンサイは減ってきている。理由としては、コンクリートによる埋め立てではね返ってくる波が強くなったり、池や沼の開発が大きい」と言う。そして天然のジュンサイは、アサザより少ないという。一体なぜなのか。「ジュンサイのような切れ込みのない葉は、水位が上がると葉柄や根に大きな負担(力)がかかってしまうのではないか」とボクは考えた。また、葉柄の強さも関係しているのではないか。ボクは牛久沼に何としてでもジュンサイをよみがえらせたい。そのためにも、これらの仮説が正しいのか調べることにした。
研究の課題・実験・考察
課題。 ジュンサイの葉は、波の影響をどのように受けるのか。
実験。-1
目的 どれだけの波の力に耐えられるか調べる。
方法 水槽にアサザ、ジュンサイ、スイレンの葉を浮かべ、下敷きを水中に入れて動かし、波を送る。
考察 葉が動いてしまうので、波の影響の正確な情報が得られないのではないだろうか。そこで、固定して実験してみる。
実験。-2
方法 重り(400g)のついた糸をそれぞれの葉につけ、水槽に浮かべる。プラスチック製の小物入れを水中に入れて動かし、波を起こし、10回中何回沈んだかを調べる。
考察 固定しようと思って葉に糸を付けたら葉が回ってしまい、自然の状態でなくなる。この方法でも正確な情報が得られないのではないだろうか。今度は葉柄を付けて実験する。
実験。-3
方法 葉柄はアサザが14cm、ジュンサイが15cm。他の点は実験Ⅰ-2と同じ。
※表の見方(○=全く沈まなかった場合、×=沈んだ場合、△=葉の上に水が残っている場合、□=一度沈んでから、浮き上がってきた場合。平均というのは、沈んでから浮き上がってくるまでの時間の平均)
考察 一番波の影響を受けたのはジュンサイの葉だった。ジュンサイの絶滅と波の力は関係があるといえるのではないだろうか。
発見。 (1)ジュンサイは、うずまきには弱いが左右に揺れる波には強い(2)ジュンサイは沈みにくいが、一度沈むとほとんど浮き上がってこない(3)アサザは浮き上がる時に切れ込みから水が出ていき、抵抗なく浮き上がってくる ジュンサイは切れ込みがないため、沈むのにも浮くのにも葉柄や根にとても大きな負担がかかってしまうのではないだろうか。
課題。 切れ込みのないジュンサイの葉は、水位の変化によってどのくらいの力が
かかるのだろうか。
実験。-1
目的 水位の変化によってジュンサイの葉にかかる力を、アサザとスイレンの葉と比べる。
方法 直径10cmのアサザ、ジュンサイ、スイレンの葉柄を切り取り、そこに糸をセロハンテープで付ける。その糸に5gずつ重りを付け、沈むまでの重さを調べる。
考察 アサザとジュンサイを比べると、ジュンサイの方が上回っている。なぜだろう。次の実験でこれを調べる。
実験。-2
目的 葉の形の違いによって水から受ける力はどれだけ変わるのか。
方法 (1)直径10cm(小)と直径20cm(大)のアサザ、ジュンサイ、スイレンの葉をいろいろな素材で作る。その葉の中心にセロハンテープで糸を付ける。そこに重りを5gずつ付けていき、沈むまでの重さを調べる(2)実験には、かさ、紙やすり、クリアポケット、パッケージ1、詰め替え用パッケージ、パッケージ2、プラスチック(弁当のふた)を使う。
考察 (1)大で比較できるのは、かさとクリアポケットのみだ。この二つの裏に、梱包用シート(通称プチプチ)を付け、浮力を上げて次の実験をする(2)それぞれの大と小を比べると、大きい葉の方が葉柄や根に大きな負担がかかっている。もっと詳しく調べるため、直径5cmのアサザとジュンサイの特小を作る。大と小はこのままの大きさだ。
実験。-3
目的 三つの葉にかかる力の差をはっきりさせるため、葉の浮力を上げて調べる。
方法 梱包用シートの付いたアサザとジュンサイの大と小と特小、スイレンの大と小を調べる。
考察 葉の裏に梱包用シートをつけると、浮力が上がりすぎてアサザとジュンサイにかかる力の差が縮まってしまった。よって、両方の差がはっきり出るパッケージ1 とプラスチックを使うことにする。直径10cmの小のみ表を作ると、両方にかかる力の差が大きいベスト2は、パッケージ1(差は10g)とプラスチック(差は5g)だった。大きい葉の方が、葉柄や根にかかる力は大きいが、ジュンサイとアサザを比べると、大きさはほとんど同じなのでジュンサイの絶滅とはほとんど関係ないと思う。では、ジュンサイの絶滅はどうして起こるのだろう。アサザとジュンサイの最大の違いは「葉の形」だ。ジュンサイの葉に切れ込みを入れると、葉柄や根にかかる負担を少なくできるかもしれない。
発見。 アサザ、ジュンサイ、スイレンを比較すると(1)ジュンサイの切れ込みのない葉は水から受ける力が最も大きい(2)どの葉も大きいほど水から受ける力が大きくなる ジュンサイの根や葉柄は水から受ける抵抗が最も大きく、かかる負担も大きくなる。
実験。-4
目的 ジュンサイの葉にアサザのような切れ込みを入れると水から受ける力は小さくなるか調べる。
方法 ジュンサイの葉に4パターンの切れ込みを入れる。それに5gずつ重りをぶらさげていき、葉が沈むまでにかかった力を調べる。切れ込みは、A=縦に長く(3cm)、B=縦に短く(1・5cm)、C=横に長く(3cm)、D…横に短く(1・5cm)
考察 パッケージ1、プラスチックで作った葉はどちらも、切れ込みを入れた方が葉にかかる力が小さくなる。切れ込みが縦でも横でも、切れ込みが長い方が葉にかかる力は小さくなる。しかし、切れ込みの長い葉と短い葉にかかる力の差は、切れ込みが横の方が大きい。切れ込みが縦と横のものを同じ長さ同士で比べると、どちらも横に切れ込みを入れた方が葉にかかる力が小さい。これらのことから、葉の中心からへりまでの長さのうち、切れ込みの占める割合が大きいほうが、葉にかかる力が小さくなると考えられる。
実験。-5
目的 切れ込みの占める割合が等しい時、切れ込みの長さの違いと葉にかかる力は関係があるのか。
方法 葉の長径と短径に切れ込みの占める割合が1になるように、切れ込みを入れる。
結果 切れ込みが占める割合が等しい時、パッケージ1、プラスチックとも切れ込みが長い方が、葉柄などにかかる力(負担)は小さくなる。
発見。 (1)切れ込みが長い方が水の抵抗が少なく沈める(2)横に切れ込みを入れた方が水の抵抗が少なく沈める(3)パッケージ1は全体的にかかる力が小さいが、差は大きい。プラスチックは全体的にかかる力が大きいが、差は少ない ジュンサイの切れ込みのない葉の形は、ジュンサイの絶滅ととても重要な関係がある。
課題。 ジュンサイは水位の変化に対応できる強さの葉柄を持っているのだろうか。
実験。-1
目的 ジュンサイの葉柄の強さを調べる。
方法 三つの葉柄に重りをぶらさげ、何gまで耐えられるか調べる。
考察 ジュンサイの葉柄が一番弱かった。葉の形から考えると一番強くなければならないはずなのに、ポキポキと折れてしまう。それはなぜなのか。ボクは葉柄の繊維に着目した。
実験。-2
目的 ジュンサイの葉柄が弱い原因を顕微鏡で調べる。
方法 三つの葉柄を砕き、顕微鏡で比べる。
結果 アサザの葉柄は、砕いてもきれいな黄緑色をしている。ジュンサイの葉柄は、砕くととても弱々しく見える。
考察 ジュンサイの葉柄の繊維は弱々しく、まばらだ。ジュンサイの絶滅と葉柄の繊維は大きな関係があると思う。
発見。 水位が上がると葉柄の引っ張られる力が最も大きいのはジュンサイ。葉柄の力が最も弱いのもジュンサイ。水位の変化に最もダメージを受けやすいのはジュンサイとなる。
発見。 ジュンサイの葉柄の繊維は、弱々しくまばらである。
まとめ
I 切れ込みのないジュンサイの葉は、うず巻きの波の影響を受けやすい。それは、切れ込みがあると、葉に力がかかった時、水が切れ込みから入り込んだり、外に逃げたりするために、余分な力がかからないが、切れ込みがないと、葉の全面で水から受ける力をもろに受けてしまうからだ。
II 切れ込みのないジュンサイの葉は、水位が上がると、とても大きな負担が葉柄などにかかってしまう。切れ込みがあると、Aのように、水から受ける力が大きくなる前に葉がロート状になり沈むので、葉柄などにかかる負担は小さい。それに対して、Bのように、切れ込みがないと、水から受ける力が大きくなるまで葉が沈まないため、葉柄などにかかる負担は大きくなる。
III ジュンサイの葉も、切れ込みを入れると、水位の変化でロート状になり、葉柄などにかかる力を小さくすることができる。
Ⅳ 切れ込みの入れ方と力のかかり方との関係は(1)切れ込みの長さが等しい時、葉の中心からへりまでの長さ(b)のうち切れ込みの長さ(a)の占める割合(a÷b)が大きいほど、かかる力は小さくなる(2)切れ込みの占める割合が等しい時、切れ込みは長いほど葉にかかる力は小さくなる。
同じ3cmの切れ込みでも、短径(3cm)に切れ込みを入れた時と比べて、葉にかかる力は小さくなる。
切れ込みの占める割合が同じでも、切れ込みが長い時(5cm)は短い時(3cm)に比べて、葉にかかる力は小さくなる。
Ⅴ ジュンサイの葉柄は弱く、大きな力がかかると、すぐに切れてしまう。また、繊維も弱々しく、まばらである。
以上から、次のことが言える。
(1)水位が変わると、水の影響を大きく受けるのはジュンサイ(2)水位が変わると、葉にかかる力が最も大きいのもジュンサイ(3)水位が変わると、葉柄などに大きな負担がかかるのもジュンサイ(4)葉柄が最も弱いのもジュンサイ よってジュンサイは、(1)切れ込みのない葉の形(2)まばらな繊維の葉柄、から絶滅が心配される。
指導について牛久市立牛久小学校 佐藤祐子
本校の学校ビオトープには、ジュンサイが生育している。切れ込みのない、美しい楕円形をしたジュンサイの葉…自生のジュンサイの減少は、この特有な葉の形と関係があるのではないかという素朴な疑問から、この研究が始まった。「葉の形の秘密」に焦点を当て、模型や実物を使って、多角的に追究していくことができた。波を受けたときに浮き沈みする葉の様子の観察、波により生じる水位の変化によって葉が受ける力の大きさ、実物の葉にいろいろな切れ込みを入れたときの力のかかり方の変化…謎のベールを一枚一枚はがすように、仮説に対する検証を一つひとつ着実に進めていった点が素晴らしい。
論理的に進められた研究の展開もさることながら、何よりも、「謎解き」への熱い思いをもち続けて熱心に探究し続けた五十嵐さんの研究姿勢に拍手を送りたい。今後もこの思いを大切にしながら、自然界や社会を見つめていってほしい。
審査評[審査員] 小沢紀美子
五十嵐光来さん、最高賞の受賞おめでとう。
この研究は、牛久沼にアサザやジュンサイをよみがえらせようと、意欲的に取り組んだものです。アサザもジュンサイも絶滅の危機にありますが、天然のジュンサイがアサザより少ないことに疑問を持ち、アサザと異なってジュンサイの葉に切り込みがないことに着目して研究を進めた秀作です。切り込みのない葉は「水位が上がると葉柄や根に負担がかかる」のではという疑問を仮説化し、波の影響の受け方を実物の葉を用いて水槽で実験し、さらにアサザやスイレンの葉と比較し、葉に切り込みがあると水の影響で沈んでも抵抗なく浮き上がることを証明しています。葉の切り込みの長さの違いによるジュンサイの葉にかかる力の違いや葉柄の強さの比較、繊維の強弱の比較など、仮説→課題→実験→考察→新たな仮説→と意欲的な研究態度が高く評価されました。
今後も新たなアイデアを積み重ね実験・研究を続けてください。
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