第47回入賞作品 中学校の部
オリンパス特別賞

校庭のワカメの謎を探る-第3報-

オリンパス特別賞

茨城県稲敷市立東中学校 3年/2年
阿部由菜 他3名
  • 茨城県稲敷市立東中学校 3年/2年
    阿部由菜 他3名
  • 第47回入賞作品
    中学校の部
    オリンパス特別賞

    オリンパス特別賞

研究の動機

 先輩たちが校庭で見つけた“ワカメ”の謎を追って3年目。“ワカメ”の正体はラン藻類の植物「イシクラゲ」だ。少しずつその生態も明らかになってきたが、まだまだ未知の部分は多い。昨年までの疑問点をさらに追究したいと考えた。

目的
イシクラゲはどのように繁殖するのか明らかにする。
イシクラゲの光合成は、生命体のどこで行われているのか明らかにする。
仮説
条件をいろいろと変えて観察すれば、イシクラゲがどのように繁殖するかが分かる。細胞の増殖の様子も顕微鏡で観察できる。
イシクラゲにも光合成色素が含まれているとの予想から、薄層クロマトグラフィーで色素が分離できれば、どこで光合成を行っているか知ることができる。

【研究1】イシクラゲの生息分布

学校の敷地内、近くの小学校、田園センターの3カ所について生息状況を観察した。

《考察》

学校敷地内では生息場所に増減はない。全体的に生息量は減った。色については、昨年までは緑色や茶色、黒色のものがあったが、今年は水分を含んだものでも黒色をしたものが多かった。夏休みに入ってからの観察日の天気は晴れや曇りが多かったことから、イシクラゲが乾燥して黒く見えたのだろうか。さらに、夏休みの数日前に除草剤がまかれていたことから、その影響もあったのかもしれない。夏休みの終わりから9月中旬にかけての再観察では、a地点で緑色のものが多くなっていた。a地点では昨年イシクラゲをたくさん採取したが、今年もほぼ同じく生息していたことから、また繁殖したようだ。近くの小学校や田園センターでは昨年とあまり変わらなかったが、草の手入れがされていない所ではたくさんのイシクラゲが観察された。繁殖場所は草の上や土と小石の間、コンクリート階段の上、コケの間などさまざまだが、いずれの場所にも必ず土があった。イシクラゲの生息には土が必要だ。

【研究2】イシクラゲの生命活動

イシクラゲの光合成に着目。

除草剤による影響
他の陸上植物、海藻との比較
生息場所の違いによる比較
デンプンや糖の生成について

調べた。

《方法》

気体検知管による酸素、二酸化炭素の濃度測 定。BTB液反応検査。
では細胞の顕微鏡観察、ではヨウ素液、ベネジクト液による反応検査を行った。

《結果と考察》

イシクラゲの光合成は、除草剤をかけたものでは弱かった。細胞同士の間も少し開いて見えた。やはり除草剤により影響が出る。他の陸上植物(マリーゴールド)や海藻(緑藻、紅藻、褐藻)の光合成に比べ、イシクラゲは活発だ。太陽に当たると、水中のイシクラゲからたくさんの気泡が出てくる。植物の気孔のようなものがあるのではないか。イシクラゲはヨウ素液に反応しなかったが、ベネジクト液に対しては、対照としてのアジサイの葉ほどではないが、少しだけ反応した。イシクラゲは光合成でデンプンは生成せず、少しの量だけ糖をつくっている。少ない養分で自分の体を維持しているのかもしれない。

【研究3】イシクラゲの繁殖

どうやって増えるのか。イシクラゲは花をつけず、実もできないことから有性生殖ではない。無性生殖だとすると胞子で増えるのかと思い観察したが、胞子嚢も胞子のようなものも見当たらなかった。そこで細胞を中心に観察した。研究2からイシクラゲには糖が必要と考え、糖を含んだ寒天培地で増殖させた。

pH25の違い
水の違い
土中成分の違いによる増殖の様子

を調べた。

《結果と考察》

強酸性(pH2)、強アルカリ性(pH13)では増殖が妨げられた。しかし石灰水をうすめたpH8の弱アルカリ性、および中性(pH7)の水道水や水たまりの水では、細胞の真ん中に線が入り、細胞分裂が進んでいるような様子も観察された。液体肥料(pH7)では、かえってイシクラゲの成長の妨げになるようだ。
市販されているミネラル成分の違う水4種類と水道水、雨水で調べた。何日たっても変色などの変化はなく、いずれにも細胞が分裂しているような様子が観察された。やはり、イシクラゲの成長や生息に水が影響している。
イシクラゲが繁茂している土と、していない土とでは、ともに含まれるリン(P)、窒素(N)、カリウム(K)の量は少なかったが、繁茂している土の方がP、Nの判定色は濃く、Kについても検出液の点滴数から含有量はほんの少しだが多かった。微量ながらも、イシクラゲの成長には必要だ。

《観察の結果》

イシクラゲは細胞が分裂して増えていく。成長した生命体をさらに観察すると、裏側に1~2mmの小さなイシクラゲがたくさんついていた。乾燥させてみると、砂粒よりも小さな黒い粒となった。この状態で他の場所に運ばれ、繁殖するのではないか。

【研究4】イシクラゲの光合成色素の分離

イシクラゲは活発に光合成を行っている。しかしイシクラゲの細胞では、光合成を行う葉緑体は見つからない。光合成は葉緑体の中の光合成色素が行うことから、この分離を薄層クロマトグラフィーで試みた。

《結果と考察》

イシクラゲにはクロロフィルaやカロテン、フェオフィチンなど7~9種類の光合成色素が含まれていた。ツバキや海藻(緑藻、紅藻、褐藻)と比較すると、イシクラゲにしかない光合成色素が4種類あった。イシクラゲの色は緑、茶、黒などとさまざまだが、緑色のイシクラゲにない光合成色素が、茶色のイシクラゲには含まれていた。イシクラゲの色の違いに、含まれる光合成色素が関係しているのではないか。

3年間の研究から

イシクラゲが、これほどまでにさまざまな秘密を持っていたなんて、驚きの連続だった。他の陸上植物や海藻類などと引けを取らない生命活動は、まるで地球の救世主のようだ。イシクラゲが地球の太古から生息している藍藻類だからこそ、乾燥に強く、生命維持能力も繁殖力も高いのではないか。将来はイシクラゲを活用して、地球の環境保全のために、何かできたりするといいな。

指導について

指導について稲敷市立東中学校 幸田裕子

先輩たちが校庭で見つけたワカメのようなものは一体どんな生物なのだろうという疑問からこの研究はスタートしました。調べてみると、環境によって色(黒・茶・緑)や生命体のようす(乾燥した膜状~水を含んだゼラチン状)を変化させて生息しているイシクラゲ(ラン藻類の一種)という植物であることが分かりました。また、葉緑体を持たないイシクラゲは、細胞の中の光合成色素で活発に光合成をしていることをつきとめました。条件を変えながら栽培し、毎日顕微鏡で観察を続け、イシクラゲの増殖は、
細胞レベル細胞の連鎖体レベル生命体レベルでの分裂を経て行われることを推測しました。
 試行錯誤しながら様々な観察や実験を繰り返す姿は、まるで小さな科学者のようでした。新たな発見を得たときの生徒たちの顔は輝いていました。生徒たちの抱いた疑問とそれを解き明かそうとする熱意、そして豊かな発想を大切にしていってほしいと願っています。そしてこれからも、生徒と共に探究を楽しみたいと思います。

審査評

審査評[審査員] 中村日出夫

 校庭で見つけたイシクラゲについて研究を継続し、その生態の謎を追究した本研究はきめ細かい観察や実験を行い科学的な方法で解明しようとした努力が大変評価されます。イシクラゲはネンジュモ属の藍藻の一種で各地の裸地の土の上に生育し、雨が降った後などに藍緑色寒天質の群体が突然目立つようになるため気味悪がられることもありますが、昔から食用にもされています。その生態についてはまだ不明な点もあり、本研究では繁殖の仕方や光合成の色素の存在について化学的手法や顕微鏡観察の多くのデータを基に中学生らしい分析と考察をしています。光合成の実験では気体検知管を用いたり、土の成分の分析など技術的に高度な実験も取り入れようとしたことは評価できますが、定性的な実験から定量的な実験となるよう検討し、自分たちで考察して立てた仮説を検証する実験計画ができると更に生態の謎に迫ることができる研究として発展が期待できます。

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