茨城百景の一つ牛久沼。昔は沼が前面に広がり、ヨシなどの草によって自然浄化ができていて、水がとてもきれいだった。かつてはオオサンショウウオもいたという。
しかし、生活の雑排水が入ってからは、今まで生きていたものが生きられなくなり、沼の景観も昔とはだいぶ変わってしまった。そのため本校の先輩達は、牛久沼での植物アサザの再生やメダカの絶滅の危機に対処しようと取り組んできた。沼やそこに流入する稲荷川では汚染がもっと深刻化しているとも聞くので、昨年度に引き続き水質調査を行い、汚染の原因を突き止めたいと考えた。
昨年度よりも調査の活動範囲を広げ、学校に昨年完成したビオトープの環境と比較することを主なねらいとして次の研究を進める。
① | 水質については水素イオン濃度(pH)や化学的酸素要求量(COD)、残留塩素。さらに家庭からの生活排水が原因とされるリン酸イオン(PO4)、亜硝酸、界面活性剤の各濃度も調べる。 |
② | 牛久沼と稲荷川にいるプランクトンの種類を調査する。 |
③ | 水生生物については「環境庁水質保全局」の資料を基に調査し、稲荷川の水質の変化を探る。プランクトンだけでなく水生動物についても調査する。 |
④ | 学校ビオトープの環境を昨年と比較し、生態系の変化をとらえる。また絶滅の危機に瀕しているアサザ、黒メダカの様子を観察する。 |
⑤ | 水生植物と水質の関連、そこに棲む水生昆虫などの生息環境を調査する。 |
⑥ | 定期観測し、ビオトープに来る昆虫や野鳥から学校周辺の自然環境を探る。 |
⑦ | 清流に棲むメダカの生態が、水環境とどのように関わっているかを調べる。 |
⑧ | 牛久沼や稲荷川などの河川とビオトープと比較し、そこに生息する水生生物と水質との関連を考察する。さらに水は生物とどのような関わりがあるかを調べる。 |
昨年度よりも調査の活動範囲を広げ、学校に昨年完成したビオトープの環境と比較することを主なねらいとして次の研究を進める。
※学校ビオトープは、失われつつある地元地域の自然を積極に復元し、自然を人間の手で守っていこうと昨年、校内に池を掘って造成した。過去から現在までの自然を調べ、牛久沼近辺の植物を採集して植え、稲荷川水系の池で捕獲した黒メダカを放つなどして、かつての生態系を復元した。
1.牛久沼、稲荷川の水質について
牛久沼漁業組合長の大野さんの話によると、今年は小魚の種類、量ともに昨年までと比べて大変多い。原因は動物プランクトンが増加したためだという。
プランクトンが増加したのは水質がよくなったからであり、牛久沼の水質は今年度になって大幅に改善されていると、私たちは考えた。
また、今回の調査中、稲荷川下流の三日月橋付近で黒メダカが数匹泳いでいるのを発見した。昨年は見つけられなかったので、この発見からして、きっと水質が大きく改善されたからだと確信した。
化学的酸素要求量(COD):河川や湖沼に産業排水や生活排水が多く流入していれば水中の有機物量が増え、その汚れをバクテリアが分解するために多くの酸素が消費され、CODも悪い値になる。
残留塩素:浄水場で水道水に入れる消毒用の塩素。浄水用の川の汚れがひどくなるとたくさんの消毒塩素を入れるので、水道水にはいつでも基準値以上の残留塩素が含まれる。その水が河川や湖沼に流れ、水質環境をさらに悪くする。
リン酸イオン:家庭からの生活排水、とくに科学洗剤を使用後の雑排水に多く含まれる。これが多量に湖沼に流入すると富栄養化が進み、アオコなどの植物性プランクトンが大量に発生し、他の水生の動植物に被害を及ぼすと言われる。生活排水が多く流入していれば、これも悪い値を示す。
亜硫酸などの窒素類:食べ物や家庭用洗剤、トイレ排水、化学肥料などを含む雑排水が湖沼や河川に流入すると、分解や溶解によって窒素類は有害なアンモニウムや亜硝酸、硝酸へと変化しながら水草などの植物に吸収される。分解途中の科学的に不安定な亜硝酸がたくさんあると、水は酸欠状態になり、生物は窒素死する。亜硝酸の濃度が高いと、比較的近くで汚れが混入している可能性が高い。
界面活性剤:石けんや洗剤のこと。生活排水に混入して湖沼や河川に流入すると植物への悪影響が心配され、魚のえさとなる植物プランクトンの減少につながると考えられる。
2.ビオトープの変化について
・アサザの開花時期が、昨年と比べて遅れている。天候が悪いためともいわれるが6、7月になっても葉も小さく、開花するのか心配。
・昨年放流したメダカの姿が5月には確認できたが、その後アサザやマコモなどの植物に隠れて、なかなか確認できない。
・他の植物はよく生長している。
・水質は生態系の中での浄化作用により、よく保たれている。
・4~6月にトンボの抜け殻が多数見つかり、カエルや野鳥も多く見られることから、やって来る生き物はだんだん増加している。
1.牛久沼、稲荷川の水質について
調査は昨年も行った稲荷川の9地点に加え、今回は新たに牛久沼の9地点でも行った。これは沼に流入する3つの河川(稲荷川、東谷田川、西谷田川)との関係を調べるためだ。
科学的酸素要求量(COD)の測定:アルカリ性過マンガン酸カリウムによる方法を用い、検定液はグルコース標準液を用いた。
残留塩素の測定:ジェチル・フェニレン・ジアミン(DPD)によるパックテストを使った。DPDを水に溶かすと残留塩素に反応し、塩素濃度が高いと濃い赤色、低いと薄い赤色を示す。これを比色表で判断する。
リン酸イオン濃度の測定:モリブデン青法によるパックテストを用いた。
亜硝酸の測定:ナフチル・エチレン・ジアミン比色法を用いた。
界面活性剤の測定:ユニメーター(天谷式簡易測定法)を用いた。水道法の基準は0.2ppm以下。
2.水生生物の観察
プランクトンの採集はプランクトンネットを用いて、今回新たに牛久沼で行った。
水生生物の調査は環境庁水質保全局の「水生生物による水質の調査法」を基に行った。川底の石の裏にいる生物や受け網で救い上げた生物を捕獲し、これらを「指標生物」として川の水の状態を調べた。
3.ビオトープの水質と動植物
1.アサザの生長の様子②植生の変化③水質(化学的酸素要求量・リン酸イオン・残留塩素など)4.黒メダカの繁殖の様子⑤やって来た生物(プランクトン、昆虫、野鳥など)---を調べた。
4.ビオトープと牛久沼、稲荷川の水環境や動植物を比較し、環境保全のあり方を探った。
1.稲荷川の水質について
平成15年 稲荷川水調査結果 (ppm)
地点 | COD | 残留塩素 | リン酸 | PH | 亜硝酸 | 界面活性剤 |
牛久沼 | 10 | 0.1 | 0.2 | 8.5 | 0.05 | 1 |
三日月橋 | 15 | 0.1 | 0.2 | 8.4 | 0.05 | 1 |
刈谷橋 | 5 | 0 | 0.1 | 7.5 | 0.05 | 0.5 |
小茎橋 | 10 | 0.1 | 0.5 | 7.5 | 0.01 | 1 |
古橋 | 20 | 0.2 | 0.5 | 8.5 | 0.05 | 0.75 |
高崎橋 | 5 | 0 | 0.1 | 7.8 | 0 | 0.5 |
稲荷川橋 | 7 | 0 | 0 | 7 | 0.05 | 0.5 |
小野川橋 | 10 | 0 | 0 | 9.3 | 0.05 | 1 |
小野川408 | 13 | 0 | 0.1 | 7.5 | 0.02 | 1 |
平均 | 10.556 | 0.056 | 0.189 | 8.000 | 0.037 | 0.806 |
平成14年 稲荷川水調査結果 (ppm)
地点 | COD | 残留塩素 | リン酸 | PH | 亜硝酸 | 界面活性剤 |
牛久沼 | 20 | 0.2 | 5 | 8.3 | 0 | 0.8 |
三日月橋 | 15 | 0.4 | 0.1 | 8.2 | 0.05 | 0.1 |
刈谷橋 | 15 | 0.4 | 0.4 | 8.3 | 0.05 | 0.5 |
小茎橋 | 20 | 0.2 | 0.5 | 8.8 | 0.05 | 0.5 |
古橋 | 15 | 0.2 | 0.2 | 8.2 | 0.05 | 1 |
高崎橋 | 10 | 0.1 | 0.1 | 8.2 | 0.03 | 0.5 |
稲荷川橋 | 20 | 0.6 | 0 | 7.2 | 0.02 | 1.5 |
小野川橋 | 20 | 0.7 | 0 | 7 | 0.02 | 1 |
小野川408 | 20 | 0.7 | 0 | 8.3 | 0.07 | 1 |
平均 | 17.222 | 0.389 | 0.700 | 8.056 | 0.038 | 0.767 |
1.化学的酸素要求量COD、残留塩素・水素イオン(pH)濃度
(ア)CODは牛久沼中央と牛久沼南水門で高い数値を示した。
(イ)残留塩素は全体的に低く0.1ppmだった。
(ウ)pH値は平均8.5とアルカリ性の強い結果だった。
2.リン酸イオン(PO4)・亜硝酸・界面活性剤濃度
(ア)PO4は稲荷川と東谷田川で高く、南側で低かった。
(イ)亜硝酸濃度は0.05ppm~0.1ppmの範囲だった。
(ウ)界面活性剤濃度はほぼ1ppmだった。
2.牛久沼の水質について
平成15年 牛久沼水質調査結果
地点 | COD | 残留塩素 | リン酸 | PH | 亜硝酸 | 界面活性剤 |
三日月橋 | 15 | 0.1 | 0.2 | 8.4 | 0.05 | 1 |
稲荷川河口 | 10 | 0.1 | 0.7 | 8.3 | 0.05 | 1.5 |
牛久沼北 | 25 | 0.1 | 0.1 | 8.4 | 0.05 | 0.75 |
根古屋川河口 | 10 | 0.1 | 0.2 | 8.5 | 0.05 | 1 |
牛久沼中央 | 40 | 0.1 | 0.2 | 8.7 | 0.07 | 0.5 |
牛久沼東 | 13 | 0.1 | 0 | 9 | 0.1 | 1 |
牛久沼南水門 | 90 | 0.1 | 0 | 8.5 | 0.1 | 1 |
西谷田川河口 | 17 | 0.1 | 0.2 | 8.5 | 0.05 | 1 |
東谷田川河口 | 11 | 0.1 | 1 | 8 | 0.1 | 1 |
平均 | 25.667 | 0.1 | 0.289 | 8.478 | 0.069 | 0.972 |
1.化学的酸素要求量COD、残留塩素・水素イオン(pH)濃度
(ア)CODは牛久沼中央と牛久沼南水門で高い数値を示した。
(イ)残留塩素は全体的に低く0.1ppmだった。
(ウ)pH値は平均8.5とアルカリ性の強い結果だった。
2.リン酸イオン(PO4)・亜硝酸・界面活性剤濃度
(ア)PO4は稲荷川と東谷田川で高く、南側で低かった。
(イ)亜硝酸濃度は0.05ppm~0.1ppmの範囲だった。
(ウ)界面活性剤濃度はほぼ1ppmだった。
3.生物学的な調査結果
1.水生生物から稲荷川の汚れを探る。
昨年の調査では「(Ⅳ)大変きたない水の指標生物」のエラミミズ、センジュユスリカ、チョウバエ、「(Ⅲ)きたない水の指標生物」のミズカマキリ、ミズムシ、「(Ⅱ)少しきたない水の指標生物」のオオシマトビゲラ、スジエビが見つかったが、今回は「(Ⅲ)きたない水の指標生物」のヒル、ミズムシだけだった。
2.牛久沼のプランクトン調査
特にプランクトンが多かったのは牛久沼に流入する河川の河口付近。沼中央や南水門付近は水質も悪くプランクトンも少なかった。
4.ビオトープの水質と動植物
1.アサザは今年は結局花が咲かなかった。
2.サンカクイやミクリ、マコモが池面全体を覆うように繁殖していた。
3.水質調査結果
ビオトープの昨年と今年の水質調査結果 (ppm)
調査項目 | COD | 残留塩素 | リン酸 | PH | 亜硝酸 | 界面活性剤 |
昨年 | 16.5 | 0.6 | 0 | |||
今年 | 20.3 | 0.1 | 0.2 | 7.5 | 0.01 | 1.6 |
4.昨年黒メダカを15匹放流した。今回は春と夏に数匹が泳ぐ姿が確認されたが、稚魚は見られなかった。繁殖できなかったと考えられる。しかし牛久沼の三日月橋付近で黒メダカの群れを発見した。
5.水中ではアオミドロやケイソウ、マルミジンコなどが確認された。トンボ(アキアカネ、シオカラトンボ、アオイトトンボなど)やチョウ、ミツバチ、クワガタ、トノサマガエルなども見られた。野鳥ではスズメ、ツバメ、ムクドリのほかに今年はセキレイの姿があった。
アキアカネのヤゴの抜け殻調査 (個)
採集日 | 5/6 | 6/6 | 6/13 | 6/17 | 6/18 | 6/23 | 7/2 | 7/9 |
捕獲数 | 26 | 47 | 11 | 13 | 4 | 5 | 1 | 2 |
経過日数 | 28 | 7 | 4 | 1 | 5 | 9 | 7 | |
1日あたりの捕獲 | 1.68 | 1.57 | 3.25 | 4 | 1 | 0.12 | 0.28 |
1.化学的酸素要求量、水素イオン濃度、残留塩素濃度は産業排水の汚染度を示す。稲荷川ではこれらが昨年に比べ低値だったので、工場で排水される汚れが改善された。しかし稲荷川と牛久沼での界面活性剤の濃度数値が高く、家庭からの生活排水の流入による汚染はほとんど改善されていない。
2.牛久沼でのリン酸イオン濃度は、稲荷川や東谷田川の河口付近よりも沼の南側ほど低値だった。沼の動物プランクトンがリンを分解したものと考えられ、昨年よりも動物プランクトンが増加したことと関係がありそうだ。
3.稲荷川の水生生物調査で昨年発見した「(Ⅳ)大変きたない水の指標生物」は今回見つからず、その上のレベル「(Ⅲ)きたない水の指標生物」だけだったので、水質は「大変きたない」から「きたない」に改善したとみられる。
4.牛久沼の水質の良し悪しの程度は、プランクトン量の多少にも関係している。3つの流入河川のうち稲荷川と東谷田川の水質が改善され、多くのプランクトンが牛久沼に入って来ていると考えられる。
5.ビオトープの水質は大変良い状態に保たれている。冷夏の影響かアサザは開花しなかったが、理想的な動植物が復元された。牛久沼も水質が改善されれば、以前のような環境に戻すことができるはずだ。
今年度の研究では稲荷川の水質調査に牛久沼の調査を加えることで、牛久沼流域の環境が見えてきた。さらに学校ビオトープとの比較で、学区内の環境も探ることができた。今度も次のような視点で調査を続け、研究を深めていきたい。
① | 調査範囲を東谷田川、西谷田川も広げたい。 |
② | 「生活排水の何が環境破壊につながるのか」を水の透視度やアンモニア性窒素、硝酸性窒素、溶存酸素量、電気伝導率の測定などを通して調べていきたい。 |
③ | 稲荷川の流域に広がる帰化植物キクイモの生態を探り、植生の変化を調べたい。 |
④ | 牛久沼のプランクトン調査を継続し、水質沼の動植物との関係を調査したい。 |
⑤ | 野鳥観察を四季継続し、その生態も把握したい。 |
指導について牛久市立牛久第三中学校 寺田和央
本研究では科学的な調査と生物学的な調査の両面から総合的に水質汚染状況を判断しようとしました。一般的に行われているCOD、リン酸イオンの濃度、残留塩素、水素イオン濃度の調査だけでなく、生活排水の流入を調べるために亜硫酸濃度や界面活性剤濃度の測定を試みたり、指標水生生物やプランクトン調査を広範囲で行うなど多方面からアプローチしました。また、今年度は稲荷川上流から牛久沼まで10地点にも及ぶ広範囲の測定結果を昨年のデータと比較したり、牛久部間の中心や河口付近9地点の調査比較を行い水質の変化に考察を加えました。さらに学校ビオトープの水質や植生・昆虫や野鳥など人工的な環境と牛久沼を比較し、牛久沼の本来あるべき姿を探り出しました。今年度は多くの方法でデータを収集し、暑い夏休みも地道に活動したこと、自分達の住んでいる地域の自然環境を知り、その自然環境を大切に守っていかなければならないという気持ちが強まったことが大きな成果だと考えています。
調査が広範囲に及び、データ処理が大変でしたが、結果をグラフで表し比較検討する方法や継続して調査する意義を理解できたと思います。今後も一層努力して欲しいです。
審査評[審査員] 小沢紀美子
科学部の皆さん、最高賞の受賞おめでとう。
この研究は2年間にわたり継続されている研究であり、稲荷川、牛久沼の水質汚染の実態を化学的に、生物学的に多角的に調べ、かつ、学校ビオトープで生態系の復元を実証的に行っている点に特徴があります。そして水質汚染の原因が産業排水の影響が少なくなり、生活排水による影響が大きいことを実証しただけでなく、ビオトープの水辺の変化やアサザの成長の変化を気候などとの相互関連で探求し、ビオトープの動植物が復元できるよう研究を進め、提言していこうとする意欲的な研究態度が評価されました。
今後も科学クラブのチームワークを活かして多角的に取り組み、科学への探求を深めてください。
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