本に「ホッキョクグマの毛は白くない」と書いてあった。白だと思っていたのに、本当は何色なのか?なぜ白く見えるのか? 自分の目で確かめたい。
ホッキョクグマの毛を、神戸市立王子動物園で見せてもらった。
〈分かったこと〉
遠くからは白く見えるが、近くで見るとナイロンの糸のように透明だった。皮ふは黒かった。他の白い動物よりもホッキョクグマの毛の方が透明だった。買い物先のスーパーなどで商品を入れている透明ネットは、広がっている時は透明だが、細く重なったところは白く見える。生鮮物などを入れる透明袋もロール状に巻いてある時は白いが、1枚だとやはり透明だ。
《実験1》密度は関係あるのかな?
〈方法〉
透明ネットを広げた場合、両端を引っ張って集まりを密にした場合の見え方を、それぞれ黒い下敷き、白い下敷きの上に置いて比べる。ホッキョクグマの皮ふが黒いので、黒い下敷きを使った。
〈結果〉
ネットを広げた場合、黒い下敷きの上では半透明だった。白い下敷きでは透明だった。ネットを集めた場合、黒い下敷きでは白く見えた。白い下敷きでは半透明だった。
〈分かったこと〉
透明に見えるか、白く見えるかの違いには密度が関係する。黒い下敷きでは白く、白い下敷きでは透明に見えやすい。他の色の下敷きでは、どう見えるのか。
《実験2》色は関係あるのかな?
〈方法〉
下敷きの色を赤、黄、緑、青、紫に変えて、ネットの見え方を比べる。
〈結果〉
下敷きが赤、黄、緑の時にネットは透明で、青、紫の時は白く見えた。
〈分かったこと〉
下敷きの色が黒に近い方が白く見える。それぞれの色の下敷きの上でネットを広げて見た時、思わぬ発見をした。下敷きが赤の時→ネットの色は緑、黄の時→青、緑の時→紫、青の時→オレンジ、紫の時→緑という見え方をしたのだ。お母さんに聞いたら、それは「補色ではないか」という。
《実験3》カラーボールよ白くなれ!
透明ラップを重ねると白く見えるか? 下地の色でそれは変わるのか? を調べる。
〈方法〉
透明ラップ(5㎝×6㎝)を1枚ずつ黒、青、ピンク、黄、オレンジ、白のボールに重ねていき、白く見えるまでの枚数を数える。
〈結果〉
2回行った平均は少ない方から①黒~7.5枚②青~14.5枚③ピンク~17枚④黄~21.5枚⑤オレンジ~22枚⑥白~24枚だった。
〈分かったこと〉
透明ラップも重ねると白く見える。下地の色によって、白く見えやすかったり、見えにくかったりする。下地の色によって白くなる枚数は違うが、すべてのボールを並べると、ラップの重なり(枚数)が多いボールほどより白く見える。ボールの曲面にぴったり重なったツルツルのラップよりも、しわが寄ってクシャクシャになったラップの方が白く見えた。
《確認実験①》重なりは関係あるのか?
〈方法〉
白くなる枚数が一番少なく、下地の色が他よりも残っていた黒のボールに、白ボールが白くなった26枚のラップを巻いてみる。
〈結果〉
黒ボールが白になった。ラップの重なりが多いからだ。
《確認実験②》ツルツルとクシャクシャの違いは?
〈方法〉
どちらのラップが白く見えるか、ラップ1枚をクシャクシャにして、透明ラップと比べた。
〈結果〉
クシャクシャにすると、全体が白く光って見えた。反射が関係しているのでは。
《実験4》反射実験装置「光君」
〈方法〉
段ボール箱内の1面にアルミホイルを張り、反対面の穴から光(白、青、緑、赤)を当てる。クシャクシャのホイルの場合と比べる。
〈結果〉
ツルツルは光が一部分に集中し強く光った。クシャクシャはホイル全体が反射して光って見えた。光が当たる位置を直し、装置を改良した。
《実験5》反射実験装置「光君Ⅱ」
〈結果〉
ツルツルで光る様子は鏡に似ている。白、緑、青の反射は白いが、赤の反射は黄色く見える。
《確認実験①》光の進む道Ⅰ
鏡をはり付け、光の反射の仕方を見た。やはりツルツルと同じだった。
《確認実験②》光の進む道Ⅱ
光は鏡に当たった角度と同じ角度で反射する。クシャクシャでは反射する面が多いから、四方八方に反射する。
《実験6》たての密度はどう見える?
これまではホッキョクグマの毛の横方向での実験観察だった。毛の縦方向から光が当たった場合に、毛はどう見えるか。
〈方法〉
歯ブラシの毛の本数を1、3、5、10、20、30、36本にして見え方を比べる。
〈分かったこと〉
本数が少ないほど透明で、多いほど白く見えた。縦も横も見える条件は同じだ。柄の白い歯ブラシを使ったから白く見えたのか。
《実験7》柄が黒に近いとどうなるの?
〈方法〉
柄が茶色の歯ブラシと白い歯ブラシ、毛先が普通にカットされたもの、細くなったものでも比べる。
〈結果〉
柄の茶色の歯ブラシは毛が透明に見えたが、光を反射させると白く見えた。毛先の細い歯ブラシは、普通の毛先の歯ブラシよりも白く見えるが、光を反射させると普通の歯ブラシの方が白く見える。
〈分かったこと〉
透明な毛は下地の色を透過するので、柄が黒いと白くは見えない。皮ふの黒いホッキョクグマの毛が完全な透明だったら“クロクマ”に見えるはず。
《実験8》毛が白く見えるには太さは関係あるのか?
〈方法〉
太さ0.15㎜のテグスと0.5㎜の光ファイバーを長さ1㎝に切り、それぞれ100本をスポンジに刺して観察する。
〈分かったこと〉
近くで見るとどちらも半透明だが、太い光ファイバーの方が透明感がある。
《実験9》平面と曲面に違いはあるか?
〈方法〉
発泡スチロールのボール(直径2㎝)を半分に切り、それぞれの半球の曲面部分、平面部分を黒くぬる。曲面、平面のそれぞれ0.5㎝四方の範囲に光ファイバー(直径0.5㎜)を50本ずつ刺して、上から光を当て、上と横から観察する。
〈結果〉
平面では上から見ると透明で、横からは根元が白っぽい。曲面では上、横からともに白っぽい。平面では光ファイバーが垂直に立っているので反射部分は少なく、曲面では毛先が広がって反射部分が多いので、より白っぽく見える。
《観察》
岡山理科大の福田勝洋教授にホッキョクグマの毛を顕微鏡で見せてもらった。毛にはたくさんの泡のような穴があった。毛は透明だが、真ん中(芯)に空洞があって白く見える。はく製の毛は空洞がなく、生きている毛よりも透明に見えた。
《まとめ》
ホッキョクグマの毛は透明で、透過した光が黒い皮ふで反射される。この反射光と太陽光が、毛の中の空洞と泡状の無数の穴に当たって乱反射を繰り返すので「白く」見えるのだ。
他のほ乳動物(モルモット、ウサギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ヒト〈白髪〉)の毛を顕微鏡で観察した。その結果、ホッキョクグマの毛は、特殊な構造をしていた。極地に住んでいるから、こんなに違う構造をしているのだ。進化のすごさを感じた。
地球の気候変動の影響で、ホッキョクグマが絶滅のおそれがあるという。防ぐにはどうしたらいいのか。本当に二酸化炭素(CO2)によって気温が上がるのか、自分の目で見たいと思った。
《実験》
袋にドライアイスと水を入れて発生させたCO2を「ジップロック」(食品保存用の密閉袋)に入れて、朝昼夕の温度を計った。CO2は袋から抜けてしまい、8月の1日間だけの記録だったが、昼にCO2は55℃以上と温度計を振り切った。別の袋の空気は52.5℃止まりだった。
《考察》
地球温暖化の影響で、北極では1976年~2006年に全体の14%(60万平方㎞)の氷が失われたという。ホッキョクグマは北極に住むために、特別な進化をとげてきた。氷やアザラシなどのエサがなくなると南方に行き、毛も黒くなるかもしれない。ホッキョクグマが絶滅するのが先か、究極の進化が先か。僕たちの手にかかっている。
審査評[審査員] 赤石 保
圓城さんは「ホッキョクグマの毛は白くない」という本の記述から自分で確かめようと研究が始まったと書いています。「本当は何色か?」『えっ、白じゃないの!』と逆に相手に疑問を持たせるような大変興味深い研究テーマです。
テーマ1で、数多くの実験結果から、ホッキョクグマの毛が本当は透明なのに「なぜ白く見えるのか?」の結論を出しています。一つ一つ自分の目で確かめ、いくつかの実験結果を組み合わせて結論を導き出そうとする考え方は大切で素晴らしいと思います。
また、「ホッキョクグマの絶滅の危機」というキーワードから、地球温暖化と二酸化炭素の関係を調べたり、地球温暖化をめぐる国際社会の動向にまで研究内容を広げたりと、一つの結論が出て終わるのでなく、そこから新たに興味を持ったことに研究を広げ、追究する姿勢も高く評価します。
指導についてサイエンスラボ岡本校 北村知恵子・田野尻七生
毎年、圓城君の自由研究を楽しみにしています。今回のテーマを聞いたときも、どんな結論にたどり着くのかワクワクしながら見守っていました。
この研究の見どころは、身近な歯ブラシの毛や光ファイバーなどを用いて毛のモデルを作り、代替実験を行った点だと思います。本物の毛を見るために動物園に行ったり、大学の教授に会いに行ったりと、圓城君の行動力にも感心させられました。自分の目と耳と足を使った労を惜しまない研究に、私たちは自然と惹きつけられました。最後には、生息地と毛の構造の関係性から、このまま地球温暖化が進むとホッキョクグマはどうなるのか、という壮大なテーマについて深く考察をしています。今回の研究で培った環境への意識や、幅広い情報収集力を、今後の研究や将来の進路に役立ててほしいと思います。そして私達は、今後も圓城君のような小さな科学者を応援していきたいと思います。