第61回入賞作品 小学校の部
3等賞

守れ! ふるさとのヒダサンショウウオ

3等賞

岐阜県山県市立富岡小学校 生物部 4年・6年
尾関 将成・井戸 智南
  • 岐阜県山県市立富岡小学校 生物部 4年・6年
    尾関 将成・井戸 智南
  • 第61回入賞作品
    小学校の部
    3等賞

    3等賞

研究の動機

 富岡小学校生物部は、学校の横を流れる鳥羽川の上流にすむヒダサンショウウオについて調べている。毎週土曜日の朝8時から、約380mの渓流(標高約200mにあるわき水の滝から標高約130mの完全に地下にもぐる地点まで)を野外調査する。ここ数年、幼生の数が減り、標高130~150mの地点では見られなくなってしまった。ヒダサンショウウオは氷河期の贈り物といわれ、温暖化に弱いと考えられているが、なぜ減ったのか確かな理由はわからない。このままだと絶滅する恐れもあるため、「飼育繁殖」と「野外産卵の環境調査」に取り組んだ。
 「飼育繁殖」では成体が卵を産み、卵がふ化し、幼生が育ち、放流するまでの約6か月間、水槽で飼育できるようにすること、多くの幼生が元気に育つことを目指す。
 「野外産卵の環境調査」では、「ヒダサンショウウオは、わき水のある場所に産卵する」という仮説を立て、産卵場所の環境について調べた。
 ヒダサンショウウオは岐阜県で発見され、飛驒地方からその名が付いた。実際は中部地方から中国地方の広範囲に生息する。環境省などから準絶滅危惧種に指定されている。両生類で、メスは水中に卵の入った袋(卵のう)を2本産む。ふ化した幼生にはえらがあり、水中で水生昆虫やミミズを食べながら育つ。やがてえらがなくなり肺呼吸の幼体になると陸へ上がり、陸の昆虫やミミズを食べて成体へと成長する。日本には大型のオオサンショウウオの他に、ヒダサンショウウオのような小型のサンショウウオが44種類(2020年10月現在)いる。
 ヒダサンショウウオは一般に標高200~1000mに生息するが、私たちが調べているヒダサンショウウオは標高130~200mと、日本で最も低い場所にすむ。また、一般のヒダサンショウウオとは体表の模様が異なるので、この地域だけにすむ貴重な生物だと考えて、調査や研究に取り組んでいる。


山県市のヒダサンショウウオはヒョウ柄(左)、一般的な個体は星柄(右)

「飼育繁殖」の取り組み

産卵ケースの開発

 ヒダサンショウウオは、1~2月の寒い時期に水中で産卵する。メスは卵のうが流されないように、砂利地と石のわずかなすき間にあおむけに入り込み、石の裏側に卵のうを接着させる。岐阜県立高富中学校生物部が世界で初めてヒダサンショウウオの産卵行動の撮影に成功し、メスが石の裏に卵のうを接着させることや、産卵適温が水温10℃であることを紹介している。自然と同じ条件で産卵できるように、ケースを開発することにした。
 90cmの水槽に、網目のケース(100円ショップで購入)を並べる。それぞれのケースの底に、砂利に見立てた素焼きのくだいたもの(ベストサンド)を敷いた。その上にレンガ(スタンダード赤レンガ半片)を斜めに入れる。レンガは、メスが卵のうを接着しやすい平らなものを使用し、成体がケースから逃げ出さないように削ってケースの大きさに合わせた。渓流のような水流も必要なので、ケースの底にエアーストーン(円筒形エアーストーン25mm)を取り付けた。水温は産卵適温の10℃となるように、クーラー(ゼンズイクーラー)で設定した。


90cmの水槽と開発した8個の産卵ケース

卵の受精率を高める産卵を考える

 水槽には16個のケースを並べることができるが、産卵するメスは毎年、数匹しか見つからない。そこで、メス1匹に対してオスが何匹いたら卵の受精率が高まるのかを調べるため、5例の産卵行動を記録したビデオを高富中学校から借りて観察した。すると、オスが1匹では2本の卵のうに受精するまで時間がかかり、オスが多すぎても争いが起こってやはり時間がかかってしまう。効率がよいのは「メス1匹とオス2匹の産卵」だと考えた。

飼育繁殖の結果

 2019〜2020年の冬、見つけたメスは3匹で、使用したのは3つの産卵ケースだけだった。オスは26匹が見つかり、体が大きい6匹を残して生息地へ戻した。
 飼育繁殖の結果、3匹のメスすべてがケースで産卵した。卵の個数は3匹合計72個だったが、受精卵は71個、受精率は98.6%だ。自然環境で見つけた卵のうを調べたところ、受精卵は113個中89個、受精率は78.6%だった。
 受精卵は約2カ月半は卵のうで成長し、4月中旬にふ化する。71個の受精卵は100%ふ化した。ふ化から約2週間後に卵のうが自然に破れて、幼生が外に出る。破れないと死んでしまうので、2週間たって出てこない場合は、はさみで卵のうを切って出すようにした。幼生は卵のうから出るとすぐ、イトミミズを食べた。イトミミズは家の近くを流れる側溝の土から捕獲して与えた。2020年6月22日、えさを食べて順調に成長した71匹の幼生を、すべて生息地に放流することができた。
 開発した産卵ケースはその後、希少種のアマクササンショウウオの繁殖にも使われることになった。この研究が種の保全や繁殖に役立つと思うと、うれしくなった。

「野外産卵」の環境調査

産卵場所の環境を明らかにする

 NHKの番組で、オオサンショウウオがウロと呼ばれる穴で産卵し、ウロにはわき水があることを知った。ヒダサンショウウオの産卵場所はどうなのか、 顧問の先生によると「産卵場所は、常に水の流れがある石の下や砂利の中」で、「今まで生物部が確認した産卵場所は15か所ほど」とのこと。ただ、大きな石の下は確認できないし、大量の砂利を掘って探すこともできないので、私たちに見つけられる産卵場所は全体の1%ほどだそうだ。
 そこで「ヒダサンショウウオはわき水のある場所で産卵する」と仮説を立て、それを確かめる研究をした。

仮説を検証する方法

 産卵場所にわき水があると考えたのは、卵が干上がる心配がない、水温が一定、ばい菌が少ないなどの理由だ。自然環境のヒダサンショウウオは、光があまり届かない直径30cm以上の石の裏に産卵するため、30cm×30cmの瓦を10枚用意した。確認済みの15か所の産卵場所から、わき水があると思われる場所や、毎年産卵が確認できる場所を10か所選んで、産卵用の瓦を沈めた。
 オスは11月頃から水中に入り、メスを待つ。メスは12月下旬から水に入り、産卵時期は1月中旬から2月中旬までだ。産卵活動が見られる11月から2月中旬まで、毎週土曜日に気温と渓流の水温、瓦を沈めた10か所の水温を計測した。2020年2月15日には、瓦を上げて産卵の有無を確認した。その結果、10か所のうち1か所でオスの成体2匹、もう1か所で卵を持ったメスの成体1匹を確認したが、瓦に産卵されることはなかった。

環境調査からの考察

 今回、瓦に産卵はなかったが、3か所の石の下で1〜3対の卵のうを確認できた。3か所はいずれも水の流れの真ん中であり、渇水してもふ化するまで確実に水がある場所を選んでいることがわかる。仮説「ヒダサンショウウオはわき水のある場所で産卵する」は、必ずしも間違いでないことがわかった。発見できなかった多くの産卵場所にわき水があることを信じて、次回も調べたい。産卵場所を調べて保全することで、ヒダサンショウウオの減少を食い止めたい。


発見した卵のう(左)と発見場所(右)

指導について

山県市立富岡小学校生物部顧問 福田 英治

 職員室前の廊下には、学校の横を流れる鳥羽川の魚たちや県の天然記念物のハリヨ、イモリ、スッポン等の水槽が8つ並んでいます。毎朝、2人が世話をしてくれるので、全校児童が毎日水槽を覗いています。また、ヒダサンショウウオ研究用の90cm水槽が2つあります。今回は、ヒダサンショウウオの幼生の減少から、「飼育繁殖」の取り組みと野外産卵の環境調査を行いました。2人で研究方法を話し合い、京都大学准教授の西川先生や岐阜高校の先生、アクア・トトの学芸員さんからアドバイスを受けて進めています。有り難いことに、日本爬虫両棲類学会からも、「みなさんの飼育繁殖が、他の絶滅危惧種のサンショウウオに応用できる。また、産卵場所とわき水の関係は誰も調べたことがない。」と評価をいただいています。現在は、「わき水と集団産卵」について、野外調査と水槽実験を行っています。毎週土曜日の野外調査はとても楽しいです。今後の研究にもご期待ください。

審査評

[審査員] 小澤 紀美子

 関東から中国地方の山の渓流にすむ準絶滅危惧種のヒダサンショウウオの産卵場所の調査と繁殖の実証実験に取り組んでいる研究です。テレビ番組や地域の中学生の取り組みに刺激を受けていますが、卵の受精率を高める産卵を考え、水槽の中に自作の産卵ケースを設置して3匹のメスから100%近く受精させて、産卵ケースの実用性も証明しています。そうして生まれた幼生にイトミミズを与えて育て、生息地の渓流に放流したのちにも、放流された幼生の越冬幼生に与える生態系の影響を観察しています。一方、野外産卵の環境調査を行い、ヒダサンショウウオは「湧き水のあるところに産卵する」という仮説のもと、過去に卵のうや成体が確認された渓流のポイント10か所に産卵用の瓦を設置してきめこまやかに温度を測定して産卵の確認を行っている粘り強さに敬意を表します。今後も研究を継続してヒダサンショウウオの保全活動が広がることを期待しております。

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