第43回入賞作品 小学校の部
文部科学大臣奨励賞

これが本物スライムの正体だ! パート3
モジホコリの変身を見た!

文部科学大臣奨励賞

茨城県つくば市立桜南小学校 4年
鈴木 直歩
粘菌顕微鏡
  • 茨城県つくば市立桜南小学校 4年
    鈴木 直歩
  • 第43回入賞作品
    小学校の部
    文部科学大臣奨励賞

    文部科学大臣奨励賞

研究を始めたわけ

研究を始めたわけ
わたしは、2年生と3年生の時に、「ネンキン」という生物をテーマに研究をしました。
ネンキンは、とてもふしぎな生物で、寒天や、くさった木の上で生きる生物です。この生物は、子孫を残すため、変身をするらしいのですが、わたしはその変身を見たことがありません。この変身をぜひ見たいと思い、研究を始めることにしました。

研究の目的
ネンキンの変身を見る。
ネンキンはどういう時に変身するのかを調べる。
去年の研究で分かったこと

食べ物のすっぱさを調べた。
ネンキンはpH4より下はキライ。pH4より上は味によって動きがちがう。
すっぱい物があると、ネンキンは、すっぱさの広がっている所には行かず、その反対がわにのびて行く。
ななめの寒天の上にネンキンをのせると、ハラペコのネンキンは下に行く。まんぷくのネンキンは上に行く。ハラペコはとにかく早くエサを見つけたくて、動くのが楽な下へ行くのかなと考えた。
ネンキンがヨウソえきでそまったものを食べた後、ネンキンの足あとがむらさきにそまった。だからネンキンは動くためにデンプンをたべるのかな、と考えた。
研究方法・結果・分かったこと・考えたこと・感想

実験1 光にあたるとネンキンは変身するか

ネンキンの変身を本で調べていたら、「ネンキンは明るくかわいた所へ出て変身する」「もっとも良く研究されているモジホコリの変形体は、数日の飢餓期間の後に、光を1時間ほど照射すると子実体形成が始まる」と書いてあった。わたしは、いつもネンキンを暗い箱の中で飼っていたので、変身をみれなかったのかな、と考えた。そこで光をあてると変身するかを調べてみたいと思った。

1.目的

ネンキンを明るい所と暗い所におき、動き方と子実体の作り方のちがいを調べる。

2.方法


寒天6gに水300mlを入れてとかした
シャーレ10まいに入れた。
寒天がかたまったら寒天の上にネンキンをおいた。
ななめの寒天の上にネンキンをのせると、ハラペコのネンキンは下に行く。まんぷくのネンキンは5まいずつに分けて明るい所と暗いところにおいた。に行く。ハラペコはとにかく早くエサを見つけたくて、動くのが楽な下へ行くのかなと考えた。
3時間おきに写真をとるか、スケッチをして記録した。ステップ0から4までの変身度合を観察して記録した。
※実験中はエサをやらなかった。

3.実験結果

「変形菌の世界」の中の写真を使ってネンキンの変身度合を考えた。

   

4.分かったこと

動きの違い
実験を始めてすぐの動き方は、暗い方のネンキンが早く広がった。色も暗い方のネンキンの方がイキイキしているようだった。動きまわるためには暗い方がいいのではないかと考えた。
子実体の作り方のちがい
1.暗いよりは明るい方が子実体になりやすいようだ。ただ、シャーレ5まいのうちで、1つしか変身しなかったので、子実体になるにはあまり良い条件ではなかったと考えられた。
2.子実体になるステップは1日のうちでも変わっていくとが分かった。
生き残り方のちがい
明るい方も暗い方も11日目にはほとんど死んでいて、生き残り方のちがいはないように思えた。
子実体のすがた
1.子実体の子のうの大きさは、やく990ミクロン、へいの大きさは、やく950ミクロンだった。
2.子実体は、足あとの所から立ち上がっていることが分かった。
3.子実体が何個か合体したような大きな子のうを作ることもあることが分かった。
(5)ぎ問に思ったこと
「明るい3」は、実験をスタートして2日目で変身した。どしてこの1枚だけがこんなに早く変身したのか。ほかのシャーレのネンキンはなぜ変身しなかったのだろうか。シャーレの中はネンキンを変身させるのにはあまいり向かないのかもしれないと思った。
(6)感想
初めて子実体を見たときは、黒くて、なんだこりゃ!と思ったけど、けんび鏡で見たら、本と同じような形で、わぁ、すごいな!と思った。とてもうれしかった。
1つしか変身しなかったのはざんねんだった。次は変身する様子を見たい。明るさと暗さは、はっきりした結果は出なかったけれど、ステップ2の様子など、いろいろ見れて楽しかった。

実験2 何色の光で変身するか?

(1)目的

お姉ちゃんの研究から、太陽の光は七つの色がまざっていることが分かっているので、ネンキンの変身には何色が一番てきしているのかを調べる。

(2)実験方法

1.寒天8gに水400mlを入れ、火にかけて、寒天をとかした。2.1の寒天を12まいのシャーレに入れた。3.寒天がかたまったら、寒天の上にネンキンをおいた。4.3まいずつとう明・青・赤・黄の4色のセロハンにつつんで明るい所においた。5.変身しそうな変化があったら、とう明は2時間おきくらいに観察した。赤・青・黄色のセロハンに包まれたシャーレは、セロハンから出すと光が変わってしまうので、12時間おきにすばやく観察した。
 ・実験に使ったネンキンは、十分にえさをやって、満ぷくにしたものから切った。
 ・実験中はえさをやらなかった。

(3)実験結果

7日目から変身しそうなけはいがあったので、観察を始めた。14日目には、量がとても少なくなり、色もこくなって、かたまったまま動かなくなった。どの色のセロハンをかぶせたシャーレも変身しなかった。

(4)分かったこと

色のちがいよりもっと変身するために大切なことがあるようだ。まずそれを見つけないといけないと分かった。

(5)感想

2時間おきにけいそくするのはとても大変だったし、ネンキンはなかなか変身してくれなかったので、いやになってしまった。色の結果も出なかったけれど、シャーレではいけないということが分かってよかった。

実験3 変身させるためにはどうしたらよいか?

(1)目的

実験の方法を改良して、どうやったらかく実に子実体を作るかを見つける。

(2)調べたこと

ネンキンの変身について、本(「変形菌の世界」)やインターネットでくわしく調べてみた。

調べてわかったこと

変身の条件:1.高い所、2.明るい所、3.かわいた所で変身することが分かった。
調べて考えたこと:
シャーレはあさいので、高い所がないから変身できないのかもしれない。風通しがあまりよくないので変身できなかったのかもしれないと考えた。

(3)実験方法

1.寒天10gを水500mlでとかした。 
2.1つのコップに50mlのとかした寒天を入れたコップを9つ作った。
3.寒天がかたまる前に発泡スチロールに立てかけて、ななめの寒天を作った。
4.りんごのしんぬきで、満ぷくネンキンをぬいた。
5.ななめの寒天のまん中においた。

6.アルミホイルでふたをしたコップ、シャーレをかぶせたコップ、ふたをしなかったコップを3つずつ作った。3つのグループの中のそれぞれ1つに、4日目にオートミールを小さじ1/2あたえた。
7.ネンキンが寒天のどこにいるかを、6時間おきに調べた。

 

(4)実験結果

1.ネンキンのいた位置の観察結果

2.子実体の位置を調べた結果

(5)分かったこと ネンキンの動き方について

1.ネンキンは1日のうちに上に行ったり下に行ったりよく動くことが分かった。
2.湿りけが多いほどよく動くことが分かった。
3.変形体は、夜は上に移動し、朝には下に移動する習せいがあるようだ。

(6)変身について考えたこと

(変身するかどうかはネンキンの体力で決まる)

空ふくにして5日目をすぎた時に、体力がどのくらい残っているかで変身するかどうかがきまる。
・体力がありすぎる時、変身しない。(変形体のまま)
・体力がなくなりすぎている時、変身しない。(死んでしまう)変身にちょうどよい体力の残りぐあいがあるようだ
体力があるほど子実体をたくさん作るようだ。
体力があるほど高い位置で子実体を作るようだ。

実験4 ネンキンの体力と子実体の位置と数

(1)目的

実験3の結果で、オートミールをやったネンキンが、元気が出て高い所に子実体を作ると考えたが、本当かどうかをたしかめる。

(2) 方法

1.実験3と同じ方法でシャーレでふたをしたコップを9つ作った。
2.5日間まどぎわにおいた。
3.5日目の22時にオートミール0.1g、0.2g、0.4gを、それぞれ3つのコップの中に入れた。

(3) 結果

(4) 分かったこと

実験3で考えたことは正しかったと思う。
オートミールの量が多いほど、子実体の数は多くなり、高い位置で子実体を作ることが分かった。

観察 ネンキンの変身をみる

(1) 目的

ネンキンが変形体から子実体に変身していく様子をくわしく知る。

(2) 方法

変身をはじめたネンキンを少し別のシャーレに切り出して、けんび鏡の下においた。デジタルカメラをセットし、タイマーで2分おきに写真をとった。

(3) 観察結果

変身の様子

分かったこと

1.ステップ1.5から変身終了までにやく5時間かかる。
2.最初の1時間半で形が変わり、最後の50分で色が変わる。
3.ネンキンは夜中に変身する。

(4) 感想

ネンキンがのびたり、色が変わったりとおもしろい変化をしながら子実体になっていくところにすごく感げきした。本で見た写真では

といきなり子のうが黒くなったけれど、本当はうすいピンク色も通って黒くなっていったところもすごくおもしろいと思った。私は11:30ごろまで起きていたが、あとはカメラにまかせたので、ちょっと安心した。

感想とこれからのこと

実験1はなかなか良い結果が出ず、実験2では全部子実体にならなくて、その時はとても困った。けれど実験3は大成こうでとても良い結果が出た。実験4は一番子実体になり安いオートミールの量が分かり、ネンキンの変身もコントロールできるようになっていった。
3年間ネンキンの研究をしてきたけれど、どんどんレベルが上がっていって、研究をするのもどんどん大変になった。大変だったけれどけっこう楽しい3回の研究だった。まだまだなぞの多いネンキンだが、少しでもそのなぞをといていきたい。

指導について

指導についてつくば市立桜南小学校 山本直美

直歩さんと『ネンキン』との出会いは、小学2年生の時。学校の近くにある池の自然観察会に家族と出かけ、『動物でも植物でもない生き物-ネンキン』という専門の先生の話に興味を持ち、この研究は始まりました。2年生ではネンキンの好きな食べ物や動く速さを測り、3年生では低いpHを避けて動くことを発見したり重力に対する反応を調べたりしました。そして、さらに“変身”を見てみたいと今年、本研究に取り組んだのですが、なかなか実験は成功しませんでした。しかし、彼女は、諦めることなく文献やインターネットで情報を集め、さらに実験方法を改良し、新たに挑戦していったのです。この実験方法の改良によって、更なる発見や疑問が生まれ、そこから「変身と体力」という仮説を立てて研究を進めていきました。そして見事、変身に成功。最後にはネンキンの変身をコントロールできるまでになったのです。それは、1つ1つの実験・観察を丁寧に時間をかけて行ったからこそ生まれた結果であり、彼女の追究心には感心させられています。
これからも、子供たちの「なぜだろう?」という素直な疑問や興味を大切に支援していきたいと思っています。

審査評

審査評[審査員] 金子明石

鈴木直歩さんおめでとう。よくぞ同じ材料を三年間も追究しましたね。しかも、二年生、三年生、四年生と着実に新しい事実を明らかにしています。作品もていねいに仕上げてあります。
粘菌類の研究では、南方熊楠(1867~1941年)先生が有名ですが、知ってますか。鈴木さんの研究は分類ではなく、モジホコリカヒの活動です。生きている状態を維持させて研究するのが大変なことは、多くの生物学者が体験し、十分にわかっています。「子実体を見たい」という夢が実現できたのも、培地や温度などへの気くばりがあったからだと思います。
多分、鈴木さんは知っていると思いますが、粘菌類の世界では、散在して生きていた単細胞がある条件で集合し、多細胞生物のような行動をとり子孫を残すための子実体をつくります。このことは科学映像もつくられていて、見ようと思えば見ることができます。
今後とも粘り強さを発揮して、科学の心を磨いて下さい。

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