ギンヤンマとクロスジギンヤンマの成虫の識別は比較的簡単ですが、幼虫の識別は容易ではありません。図鑑にも疑問があり、採集した場所から種類を限定するのにも、かなり無理を感じます。また生きているヤゴの下あごを、一匹一匹虫眼鏡で確認するのはかなり大変なうえ、ヤゴへの負担も大きいのです。これまでの実験・観察の結果を利用して、もっと手軽に見分けられる方法を考えてみました。
ギンヤンマのヤゴ(と思われる)は体長35mm前後、クロスジギンヤンマのヤゴ(と思われる)は体長45mm前後でした。それぞれ50匹を、1匹ずつガラスびんに入れておきます。これは共食いを防ぐためと、同じヤゴをくり返し実験に使わないようにするためです。
なお実験では、どちらのヤゴか確定できずに進めましたが、後日、成虫や羽化殻のかき手、死んでしまった場合もかき手から、それぞれのヤゴの判別に間違いなかったことを確認しました。
実験1
ギンヤンマは明るいところが好きで、クロスジギンヤンマは明るいところがきらいなことが分かっています。これを利用して、ヤゴを分類する実験をしました。
《方法》
① | ギンヤンマ、クロスジギンヤンマのヤゴを50匹ずつ、合計100匹を発泡スチロールの箱に入れます。 |
② | 半分を板でおおって、かげにします。 |
③ | 1時間後に日なた・日かげにいたギンヤンマ、クロスジギンヤンマのヤゴの数を調べます。(日・時刻を変えて6回実験し、その平均値を出しました) |
《結果》
日なたにいたヤゴの数は6回平均で43匹、すべてがギンヤンマでした。日かげにいたのは57匹、うち7匹はギンヤンマでした。クロスジギンヤンマは50匹全部が6回とも暗い方にいました。6回とも日なたにはギンヤンマしかいませんでした。
《このことから》
日なたに出ているヤゴはギンヤンマと判断してよい。クロスジギンヤンマは日かげにしかいない。ギンヤンマは日かげにもいる。
実験2
上からの光ではなく、底の色でも分類できるかどうか試してみました。
《方法》
ギンヤンマ、クロスジギンヤンマを50匹ずつ取り出し、水そうに入れる。水そうの底の半分に黄色い紙を、のこり半分に黒い紙をしく。
《結果》
黄色い方にいたヤゴは平均36匹、6回とも全部がギンヤンマでした。黒い方にいたヤゴは64匹で、クロスジギンヤンマは50匹全部が黒い方にいました。ギンヤンマは14匹は黒い方にいました。
《このことから》
黄色い紙の方にいたのはギンヤンマと判断してよい。クロスジギンヤンマは黒い方にしかいない。ギンヤンマは黒い方にもいる。
実験3
ギンヤンマのヤゴは光をきらわないけど、クロスジギンヤンマのヤゴは光をきらいます。それを利用して、ヤゴを見分ける実験をしてみました。
《方法》
① | ヤゴの入ったびんを、朝からダンボール箱の中に入れて暗くしておく。 |
② | 夜の10時ごろ、部屋の電気をつけずにダンボール箱のふたをあける。 |
③ | びんの中のヤゴに、ペンライトで光をあてる。 |
④ | 光に驚いて泳ぎ回ったのを「嫌がった」と判断する。あまり反応がなく、ペンライトを見ているのは「嫌がっていない」と判断する。 |
《結果》
嫌がらなかった19匹のヤゴはすべてギンヤンマで、この中にクロスジギンヤンマはいなかった。嫌がったヤゴにはギンヤンマ31匹も含まれます。
《このことから》
光を嫌がらなかったヤゴはギンヤンマと判断してよい。クロスジギンヤンマは必ず嫌がる。嫌がるギンヤンマもいる。
実験4
ギンヤンマはとても目がよく、えさとえさ以外のものを見分けることが出できます。これまでの観察では、えさ以外のものには、ほとんどあごを出しませんでした。このことを利用して、ギンヤンマのヤゴとクロスジギンヤンマのヤゴを分類する実験をしてみました。
《方法》
① | ヤゴが中にいるびんの外側を、鉛筆の先でツンツンとついてみます。 |
② | あごを出したヤゴと、出さなかったヤゴに分けます。 |
《結果》
あごを出さなかったヤゴ60匹中、50匹がギンヤンマでした。出さなかったヤゴの中に、クロスジギンヤンマが10匹いました。あごを出したヤゴ、40匹すべてがクロスジギンヤンマでした。
《このことから》
あごを出したヤゴはクロスジギンヤンマと判断してよい。ギンヤンマはあごを出さない。あごを出さないクロスジギンヤンマもいる。
実験5
これまでの観察で、ギンヤンマは生きているものしか食べませんでした。このことを利用して、ギンヤンマのヤゴとクロスジギンヤンマのヤゴを分類する実験をしてみました。
《方法》
① | びんの中のヤゴに、冷凍のエビを薄く切ってやってみます。 |
② | 1時間後、食べていたヤゴと食べていなかったヤゴに分けます。 |
《結果》
食べなかったヤゴは、58匹中50匹がギンヤンマでした。食べなかったヤゴの中に、クロスジギンヤンマが8匹いました。食べたヤゴは42匹すべてがクロスジギンヤンマでした。
《このことから》
冷凍エビを食べたヤゴはクロスジギンヤンマと判断してよい。ギンヤンマは冷凍エビを食べない。冷凍エビを食べないクロスジギンヤンマもいる。
ヤゴを確実に分ける方法(考え方A)
ギンヤンマ、クロスジギンヤンマのヤゴを分けるのに最も効率のよい方法を考えました。
① | 実験1を行い、日なたに来る43匹をギンヤンマと断定する。 |
② | 日かげの57匹に冷凍エビを食べさせる。57匹中少なくとも42匹が冷凍エビを食べると予想されます。 これら2段階の方法で15匹は確かめることができませんが、残り85匹は、43匹がギンヤンマ、42匹がクロスジギンヤンマと確定できます。 |
実際に確かめてみよう!
考え方Aにしたがって、実験を4回行いました。ただし、ヤゴが残っていないため、ギンヤンマ、クロスジギンヤンマのヤゴ25匹ずつで実験しました。それぞれ、のべ100匹中での結果を表します。
《結果》
日かげにいたヤゴは、4回合計で118匹(29+31+28+30)。このうち冷凍エビを食べたのは78匹(25+18+20+15)、食べなかったのは40匹(4+13+8+15)でした。
・ | ギンヤンマと予想したヤゴ(のべ100匹)のうち、日なたにいた82%をギンヤンマと確定できることが確かめられました。 |
・ | クロスジギンヤンマと予想したヤゴ(のべ100匹)のうち、冷凍エビを食べた78%をクロスジギンヤンマと確定できることが確かめられました。 |
おわりに
ギンヤンマ、クロスジギンヤンマのヤゴを、かき手の形から見分けるのは大変です。実は何度か無理をして、ヤゴの下あごがちぎれ取れたこともあり、かわいそうなことをしてしまいました。また、羽化殻の場合も太陽に透かして見て、やっと分かるくらいです。今回の研究で、仲間分けがヤゴへの負担なくできるようになって本当にうれしいです。
審査評[審査員] 高家博成
この観察は、よく似た2種のヤンマの幼虫を、習性や生態の違いから見分けられないかと思い、始めた研究です。私も非常に興味をもって読みました。というのは、トンボの幼虫「やご」は光や物陰によく反応して、おもしろい教材だからです。ところが、竹崎君は、ギンヤンマとクロスジギンヤンマのやごには、大きな習性の違いがあることを実験で発見したのです。
私も確かめてみたいと思います。また、やごを光や陰影に対する習性の教材として扱う場合に大いに参考にさせてもらいます。
竹崎君はいずれの実験も100%の結果が出なかった、とありますが、生物の習性の実験に、100%の結果を期待するのは困難です。精密な実験法の難しさもあるでしょうが、少し習性の違うものがいてこそ、別の性質へ進む機会があるのだと思います。
指導について竹崎良美
偶然の幸運に出会う能力を「セレンディピティ」というそうです。自分のコントロールの及ばない偶然の領域だから、チャンスはきっとみんなに平等にあるはずですよね。ただ、見返りを求めずにたく さんACTIONをおこした子には、ほんのちょっとだけ多くごほうびの出会いがあるのかもしれません。出会ったことに気づいて何とでもACTIVEにつきあう子には発見という名のたくさんの仲間ができるのかもしれません。ぎらぎらと輝く目を持つぎんやんまと駆動(ACT)が初めて出会ったあの日から、駆動が追い求めているものはぎんやんまの視力の解明です。傍から見ると糸口さえ見つからない長いトンネルのような地味な観察実験も駆動にとっては6年間楽くてしかたない“日常”だったようです。駆動は“楽しみを中学校に残しておく”と記しています。新しい仲間とも「偶然の幸運」を見逃さない柔軟な感性を磨きあってほしいと願っています。