小さいころから昆虫や水生生物を採集し、飼育することが好きだった。なかでもイモリという両生類の行動に興味が引かれ、その行動から翌日の天気を予想する「イモリの天気予報」を小学6年生のときに発表した。これは午後7時のイモリの行動を観察し、飼育ケースの水中にいるときは「晴れ」、石や鉢の上など体全体が水面よりも上にいるときは「雨」、体の一部が水中につかっているときは「曇り」と予想するもので、同時刻前のテレビの天気予報よりも的中した。そこでイモリの行動を気温や水温、湿度、気圧などの気象データをもとに解明しようと試みたが、確実な結論を出すまでにはいたらなかった。次へのアプローチとして、イモリの体の特徴に向けることにした。
なお研究Ⅰでは2年生での研究内容、研究Ⅱで3年生での研究内容を報告する。
イモリの皮膚の特徴を探ることを目的に、似た形態を示す同じ両生類のサンショウウオ、爬虫類のトカゲ、ヤモリを、パソコン出力できる実体顕微鏡などで観察し比較した。
〈研究生物の採集・飼育〉
イモリ(アカハライモリ):以前からの研究で飼育しているもの。新たに福島市内でも採集。飼育するときの水は、汲み置き水は必要なく、水道水で十分だった。エサはイトミミズやオタマジャクシ。
サンショウウオ(トウキョウサンショウウオ):福島市内で採集。山中の環境に合うように冷所で飼育した。水は水道水ではなく、採集場所と同じ川水や湧き水を用いた。エサはイトミミズ。
トカゲ:カナヘビやこの辺りで「カナチョロ」と呼ばれるものではなく、トカゲである。福島市内で採集。ケース内に草やエサとしてのバッタを入れて飼育。
ヤモリ:福島地区では見つけられず、ペットショップのものは外国産だった。大阪の人の好意で国内産を入手できた。「人に向かって来ることがある」というので慎重に扱った。飼育ケースの上壁に張り付いていることが多く、刺激すると逃げ回る以外に、逆に威嚇するような行動が確認できた。エサはミルワームなど。
〈結果〉
(1)表面の特徴: 脚指は両生類が前脚4本・後脚5本(前脚に親指がない)、爬虫類は前・後脚とも5本ずつ(ただし観察したイモリで左前脚の指が5本のものがいた)。両生類では幼生のときにエラが観察できる。 |
(2)脚の粘着力: ヤモリの脚指の吸盤は有名だが、実際は指にある細かい毛により吸着がなされている。吸着力のある粘液のような分泌は見られなかった。ヤモリの脱皮した脚先部分に毛が確認できた。吸着の感触を直接触ってみると、植物のオナモミの実やイノコズチの実の吸着と似ている。サンショウウオは水中にいて、飼育ケースによじ登るような行動はなかった。イモリはケース側壁をよじ登ることができるが、吸着力はヤモリよりも弱い。トカゲはケース側壁をよじ登ろうとするが滑ってしまう。 |
(3)皮膚面の特徴: ヤモリの皮膚にある小突起は、観察した4種類の中でも特徴的だ。同じ爬虫類のウロコ(有鱗)でも、トカゲにはヤモリのような突起構造は確認できず、平坦構造だった。イモリやサンショウウオの皮膚にはウロコはなく硬い皮膚でおおわれているが一様ではなく、多少の凹凸がある。 イモリとヤモリの皮膚の温度差での比較:今回は夏場30℃下での観察だったが、生体をはさんだアクリル板の下面から氷で冷やし、温度20℃の環境を作り観察した。低温にした場合、ヤモリの皮膚の小突起の間隔が減少した。イモリでは突起物が減少した。天気予報に関する行動として「よく動くイモリ」と「あまり動かないイモリ」とでは、皮膚面の凹凸に差があった。 |
(4)再生力: ヤモリの「尾切り」の再生過程で、皮膚面の変化を確認した。元の皮膚のように戻る完全な再生ではなく、皮膚面での色調変化があり、骨成分も見られない。トカゲもヤモリ同様に再生境界に段差ができる。イモリでは失った左後脚の再生過程(完全再生)を確認できた。 |
〈考察〉
イモリでは同一個体で、温度差による皮膚面の凹凸の変化が見られた。また、よく動くイモリとそうではないイモリとでは皮膚面の凹凸に差があった。皮膚面での感覚の違いが「イモリの天気予報」となる行動を起こしているのではないだろうか。
研究Ⅱ:両生類の皮膚面の観察
アマガエルを加えた両生類を対象に、光量不足をLED発光で補った「自光型実体顕微鏡」で観察した。
〈結果と考察〉
カエル(アマガエル):背面の皮膚は、細かい構造の中に種々の色素単位で構成され、保護色化に役立っていると思われる。腹側にはヤモリに近い隆起構造が確認できるが、ヤモリよりまばらだ。しかし壁などに吸着できる構造と思われた。イモリやサンショウウオでは、皮膚面の薄い部位で血管や心臓が透けて見え、動きも観察できた。 さらにイモリでは、異なる「天気予報」を示した個体どうしの背中の皮膚面、同一個体でも異なる「天気予報」を示したときの背中の皮膚面を撮影し比較できた。今後は「天気予報」にかかわる感覚器官を検討できればと考えている。
重要な感覚器官としてのイモリやカエルの皮膚についてもっと調べたい。しかしこれら両生類は、外来種渡来によるカエル・ツボカビ症といった新たな問題だけでなく、従来からの土地開発や道路、排水溝などの整備によって個体数は着実に減少している。両生類が自然界で生きていける環境整備が大切だ。
審査評[審査員] 高家 博成
橋本君は小学校1年のときから、9年間にわたってイモリの観察を続けてきました。イモリの行動が天気によって異なることから、天気予報にも利用できるのではないかと考え、その結果は小学校6年生の時に発表しました。
その後、中学生になってからは、天候によって、両生類のイモリやサンショウウオの皮膚に変化が見られるか、顕微鏡で調べ写真撮影しました。また、よく似た形態をしている爬虫類のヤモリやトカゲの皮膚との違いも調べています。
その結果、温度による微妙な違いを、顕微鏡撮影することに成功しました。イモリの皮膚観察からは、よく動くイモリとそうでないイモリの個体差があることなどもわかりました。
顕微鏡を効果的に使っています。興味深い顕微鏡写真に、審査員の高い評価が得られました。
指導について橋本 直人
小学1年からはじめたイモリの研究も今回で9年になり、小学6年ではイモリの天気予報-6年間の観察記録-という研究で当コンクールにおいて1等賞を受賞しました。両生類イモリを飼育し、その行動から天気予報の判断基準を設定、TVニュースの天気予報と比較し、イモリの天気予報が勝っているという研究内容でした。中学2年からはイモリの天気予報がなぜ当るのかという疑問解明のためにイモリの皮膚面に着目しました。比較対象として同じ両生類やイモリと同じ形態を示す爬虫類の皮膚を観察しました。今回は前回使用した顕微鏡に加えて自光型の顕微鏡を用いました。動く標本のダメージを少なく固定する工夫やフォーカスを合わせ画像保存するのが難しく試行錯誤でした。中学3年では07年の年頭にカエルツボカビ症で両生類に絶滅の恐れという報道に驚き、カエルの皮膚との比較も行いました。今回の受賞を励みにさらなる発展に期待します。