話題の燃料にバイオガソリンがある。トウモロコシやサトウキビから精製したエタノールをガソリンに一定量混ぜた燃料で、温室効果ガスの排出量も減らせる環境を考えた燃料だ。エタノールには水を含ませることができる。バイオガソリンはエタノールを含むので、水をある程度混ぜても燃料として利用でき、使う量も減らすことができるのではないだろうか。研究では実際にエンジンを動かさなければならない。自動車エンジンでは不可能なので、燃料駆動のラジコンカーを使うことにした。燃料はメタノールとニトロメタン潤滑油の混合だ。アルコール燃料の一種なので、水を含ませることができる。この成果はバイオガソリンの研究にもつなげられると考え、取り組むことにした。
① | ラジコンカー用の燃料に水を混入しても、エンジンはかかるのかどうかを調べる。 油や灯油などに水を入れると、白濁して混じり合わない。しかし、アルコールに水を混入しても無色透明のままだ。ラジコンカー用の燃料に水を混入しても白濁せず、燃料として利用できるのではないか。ただしエンジンがかからなければ、燃料としての価値はない。 |
② | ラジコンカー用の燃料に水を混入したものと通常の燃料とでは、燃費に差があるのかどうかを調べる。 エンジンが稼働しても、エンジンの性能が発揮できなければ燃料としての価値は下がる。いろいろなエンジン性能のうち、燃費について調べてみる。 |
〈仮説〉
燃料に対し5%の程度の水であれば、混入してもエンジンはかかる。バイオガソリンの場合、エタノールを5~20%程度混合して利用していることから、水でも同程度混合させてもエンジンはかかると考えた。水が多すぎても、気化したときの威力が落ちてエンジンを始動することができないのではと考え、「5%程度」とした。
〈方法〉
ラジコンカー用燃料20gに対し、水を2滴(約0.1g)ずつ60滴まで、さらに4滴ずつ100滴まで、それ以上は10滴ずつ加えていき、それぞれエンジンのかかり具合を調べた。
〈結果と考察〉
エンジンは燃料20gに対し240滴(約12g)まで水を加えてもかかった。250滴でかからなくなった。質量で考えた場合、ラジコンカー用燃料に対し60%の量まで水を加えることができるということだ。水を加えてもエンジンは始動するが、せいぜい5%程度までと予想していた。ところが実際には、60%もの水を加えても始動した。10滴(約0.5g)の水を加えたところ燃料が白濁したので、この時点でエンジンはかからなくなると考えたが、一向にその気配はなかった。水を加えることで、かなりの燃料節約が期待できることが分かった。しかし、エンジンがかかった後に車体が動き出し、加速できなければ燃料としての価値はない。
〈仮説〉 エンジン始動後の加速は、燃料の燃焼温度が高い方がいいと考える。水を加えたことでその温度が低くなる分、加速は衰えるのではないか。 〈方法〉 ラジコンカーに記録テープを固定し、記録タイマーでエンジン始動後の運動の様子を記録する。燃料は水0滴、50滴(約2.5g)、100滴(約5g)、150滴(約7.5g)、200滴(約10g)の5種類。 〈結果と考察〉 やはり加える水の量が多いほど、加速は衰えることが分かった。しかし衰えの度合いは、想像よりも小さい。 |
エンジン始動後1.8秒の速さは、水を多く混ぜた燃料ほど遅い。燃焼時の水の蒸発体積が小さいことが理由として考えられる。
優れた加速性能が求められるレーシングカーと違い、一般的な車は安全運転のためにゆっくり加速し安定して走ることが求められる。燃料についても、長時間安定して動く性能が求められるのではないか。
〈仮説〉
実験1で燃料に240滴の水を入れてもエンジンがかかった。水を混ぜた分だけ、走る時間ものびるのではないか。
〈方法〉
燃料20gに対し水0滴、50滴、100滴、150滴入れた4種類の割合の燃料を用意。それぞれの燃料を10g、20g、40gずつ使う(誤差を修正するため)。グラウンドに4個の標識コーンを置いて作った25m×25mの正方形コースでラジコンカーを走らせ、燃料を使い切って止まるまでの時間を測定する。走行は各3回ずつ行う。アクセルを一定にするため、コントローラーの引き金レバーに割りばしをはさんだ。
〈結果と考察〉
使った燃料の量で結果が違った。一番誤差が少ないと考えられる燃料40g走行での結果をみると、加えた水が多いほど走行時間がのびることが分かった。水150滴の燃料では、走行時間は純粋な燃料(水0滴)に対し30%ほどのびた。実用的な値として考えてもよいのではないか。
〈仮説〉
実験3で大幅に走行時間がのびたので、それに伴い走行距離ものびる。
〈方法〉
実験3と同様な方法で、エンジンが停止するまでの距離を測る。
〈結果と考察〉
燃料の量によってばらつきが大きかった。一番長く走った燃料40gでみると、水を多く加えた燃料ほど確実に走行距離をのばした。
アルコール燃料には約60%の水を混ぜてもエンジンを始動させることができる。燃料に水を混ぜると加速性能は悪くなる。しかし走行する時間や距離をのばすことは可能だ。エンジン本体の調整や改造を行わなくても、以上のような成果を上げることができるので、実用的な燃料だ。
今回の実験では、燃料の調整が大変だった。水をピペットで垂らしながらの調整にはとても神経を使った。エンジンをかける都合から室内での実験はできず、グラウンドでの走行実験は35℃を超える中での暑さとの戦いだった。
この実験の成果が、地球温暖化の防止や化石燃料の節約に少しでも役立てばうれしい。これからはエンジンそのものを調整することで、さらに燃費や加速性能を伸ばしていきたい。
審査評[審査員] 秋山 仁
秋山仁賞の選定において、いつも留意していることは、日常生活の中にある不思議に端を発していること、結果が常識を覆すようなビックリ発見であること、さらに、できればそれが生活に応用可能であること、などです。本作品は昨今、世間の関心を集めているバイオガソリンの精製のしくみを分析し、エタノールには水を含ませることができることに、特に注目している。ガソリンに水が混じったらエンジンのかかりが悪いのではないかと思っていたが、あにはからんや、半分以上混じっても大丈夫だそうだ。結論は水を加えるほど加速は落ちるが、燃費がのび、ひいては環境保全に役立つという画期的なものである。この驚くべき結論を導き出すため、アルコール燃料に混ぜる水の量を少しずつ増やし、実際にラジコンカーのエンジンの作動している時間、走行距離を丹念に測定し、科学的推論を重ねている。これらの事実より、本作品は本賞にふさわしい作品であると認める。
指導について稲敷市立新利根中学校 松田 光朗
この研究は私にとって分らないことばかりでした。エンジン式のラジコンカーは、知っていましたが、燃料の成分を知る由もなく、ましてや水を混ぜた燃料でエンジンそのものが始動するのかすらも見当がつきませんでした。しかし、生徒は、研究に燃えていた。
「少しぐらいなら水を混ぜてもいけるんじゃないかな?」と、確かに少しならいける。もし、その水がシリンダーの中で蒸発し体積が大きくなればその分余計に車が走るかもしれない。それは、ガソリンの節約、環境破壊の防止などにつながります。
研究を指導していると、生徒の発想や努力は、できないことを可能にするものだと感じます。ガソリンの高い品質が求められる中、今回はまったく逆の発想です。生徒が考えるのは身の回りの現象を取り入れたものです。生徒の柔軟な発想を生かしたり、引き出したりするそんな指導を心がけていきたいと思いました。