身近な水源でもある霞ヶ浦と流入河川の水質を調査してきた。2005年度は霞ヶ浦の白濁の原因となった「白い浮遊物」の正体を探究し、これに金属が含まれていることをつかんだ。06年度はその金属がリンとアルミニウムであることを突き止めた。07年度はこれらの金属がどこから来るのか調べることにした。その調査中に流入河川の1つの大須賀津川でエビの大量死に遭遇したので、合わせて原因追究する。
〈1〉流入河川の水質調査
霞ヶ浦の流入河川のうち大須賀津川、大塚川の上流、中流、下流における水と浮遊物を調べる。
〈方法〉
① | 採取した水については透視度、DO(溶存酸素量)、電導率、塩分、COD(化学的酸素要求量)などを測定。 |
② | 浮遊物については、採取した水をフィルター(孔径10μm)でろ過し、ろ紙に残ったものを3N塩酸で溶かし、水酸化ナトリウムで中和した後、CODやPO4、金属濃度などを測定する。 |
〈結果と考察〉
金属(Fe、Al、Zn)は水中よりも浮遊物中に多く含まれ、PO4、NH4は浮遊物中よりも水中に多い。上・中・下流別にみると、CODやPO4は下流よりも上流の方が高かった。
しかし金属濃度や電導率は上流よりも中、下流の方が高かった。中流付近の岸から金属濃度や電導率を高める物質が流れ込んでいるのではないか。
〈2〉流入河川流域の土質調査
浮遊物中の金属は、流入河川の途中から流れ込んでいると考え、上・中・下流域の土中の金属濃度を調べる。
〈方法〉
川岸や川底から採取した土20gを3N塩酸20mlで溶かす。その液をろ過して3N水酸化ナトリウムで中和後、金属濃度などを調べる。
〈結果と考察〉
土中の金属濃度は全体的に、中下流よりも上流の方が高かった。前記の調査では、水中や浮遊物中の金属濃度は上流より中下流の方が高かったので、これは予想に反する結果だった。自然界では雨水によって土から金属が溶け出す。上流の土中で金属濃度が高ければ、河川に溶け出す金属も上流で多くなるはずだが。
〈3〉水田、蓮田、霞ヶ浦の水質調査
近くにある水田や蓮田では金属を含む浮遊物が多く、流入河川や霞ヶ浦の水質にも影響していると考えられる。
①ろ過による水質変化:
〈方法〉
水田、蓮田、霞ヶ浦の水を、孔径10、1、0.1μmのフィルターでろ過し、ろ過前と後での水質変 化を調べる。
〈結果と考察〉
Fe、Al、Znの金属濃度やPO4、NO3、NH4、CODは下がり、電導率、pHは上がった。とくに電導率は、孔径1μmフィルターでろ過したときが最も高かった。
②浮遊物の成分:
〈方法〉
孔径10μmフィルターでろ過。ろ紙に残った浮遊物を3N塩酸で溶かし、水酸化ナトリウムで中和後に測定する。
〈結果と考察〉
水田、蓮田、霞ヶ浦とも浮遊物中に金属や有機物が多かった。浮遊物の少ない霞ヶ浦に比べて、浮遊物の多い蓮田が金属濃度は低かった。しかし蓮田のPO4は水田、霞ヶ浦よりも高かった。また、浮遊物が茶色がかったときは全体的にAlやFeが多くなり、黄色がかったときはZnが多くなる傾向があった。
③プランクトンの調査:
〈方法〉
採取した水を孔径10μmフィルターでろ過し、ろ紙に残った浮遊物を観察する。
〈結果と考察〉
霞ヶ浦は珪藻類、藍藻類、動物プランクトンの割合が高かった。水田では藍藻類、緑藻類、ごみの割合が高く、蓮田ではごみ、緑藻類が多かった。04年度の研究で、PO4が高いとプランクトン数も多いことが分かった。PO4が高い蓮田では、やはりプランクトン数も多いと予想したが、調査した5~7月にかけてプランクトンの割合は約40%から約20%に少なくなった。
流入河川の調査中、大須賀津川でエビが大量に死んでいた。その時の川の水質は、電導率がいつもの約2倍、塩分濃度は約10倍もあった。その原因追究の実験を行った。
①どんな物質が電導率や塩分濃度を高めたのか:
〈方法〉
塩化アルミニウム、炭酸ナトリウムなど一般的な工場廃水に含まれている物質、洗剤や和風だしなど生活排水の物質など様々な70種類の物質0.1gを水100mlに溶かして測定。
〈結果〉
無機物が電導率や塩分濃度を上げた。有機物は上げなかった。電導率と塩分濃度との関係がエビ大量死の時と同じだったNaCl、KCl、Na2SO4、AlCl3が死因に関係していると考えた。
②エビの死骸で塩分濃度は高まるか:
死骸3匹を水1褄に入れ、定期的に数値を測定したが、上がらなかった。
③本当に高い塩分濃度が死因か:
〈方法〉
濃度1%、0.5%のNaCl川水などでエビを飼育。
〈結果〉
濃度が高い1%NaCl川水で死ぬのが早かった。
④炎色反応:
〈方法〉
大量死現場の水を蒸発させてできた結晶とNaCl、KClなどの炎色を比較。
〈結果〉
結晶はNaClの炎色と同じオレンジ色だった。
⑤「検量線」による原因物質の特定:
〈方法〉
物質が溶ける量と塩分濃度、電導率は比例する。この関係を用いてNaCl、KCl、NH4Clについて定量測定した「検量線」をグラフに描き、大須賀津川(上・中・下流)の水の測定値をプロットした。
〈結果と考察〉
塩分濃度は上・中・下流いずれの水もNaCl、KClに一致した。電導率は中・下流の水がNaCl、KClに一致したが、上流の水だけは一致せず低い値が出た。①~④の結果と合わせ、大量死の原因物質はNaClだと確認できた。
今回の水質調査で、電導率が川の中・下流よりも上流で低かったこと=研究Ⅰ(1)・研究Ⅱ⑤、水をろ過すると電導率がろ過前より上がったこと=研究Ⅰ(3)①=の原因として「マスキング効果」を考えた。これは「水中である物質を別の物質が取り囲み、ある物質本来の測定値よりも低い値が出る」という現象、効果だ。さらに、06年度に研究解明した「水の白濁のメカニズム」(AI水溶液にリン酸イオン水溶液を加えると、水溶液が白濁しAl値が下がること)をもとに、電導率に対するマスキング効果モデルを考案した。同モデルは、「電導率を上げる物質」(主に金属)が「電導率を上げる効果のない物質」(アミノ酸などの有機物)に水中で取り囲まれるように結合し、ろ過前には低い電導率を示す。ろ過後にはフィルターで「電導率を上げる効果のない物質」がこし取られたため、ろ液の電導率が高まる――というものだ。
「電導率を上げる効果のない物質」にはどんなものがあるか調べた。NaCl、KCl、硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、リン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ブドウ糖の各水溶液に、金属(Al、Fe、Zn)水溶液を滴下していき、電導率と塩分濃度の変化をみた。電導率を最も下げる効果のあったのはアルギン酸ナトリウムで、水溶液も白濁した。これは水中で金属とアルギン酸が結びつき粒になったもので、アルギン酸が金属を取り囲んでいるものと考えられる。
① | 有機物による電導率や金属に対する「マスキング効果」を調べる。 |
② | ろ過すると、電導率のほかにpHも上がった。その理由を考え、「マスキング効果」説を確立する。 |
③ | 校内アンケートの結果、霞ヶ浦に関心を持っていない人が半数以上だった。もっと関心を持ってもらうための活動をしていく。 |
審査評[審査員] 瀬田 栄司
学校近くの霞ヶ浦に注ぎ込む水中浮遊物の金属がどこからくるかを調べるために、流入河川と河川周辺土壌を採取し、科学の技法を駆使して様々な観点から調査した。今回の調査内容とこれまでの研究成果を応用して調査結果を得ることができた成果は大きい。そして、エビの大量死を目の当たりにして、これまでに習得した技法や理論によって、様々な観点から考察し、検証を行いモデル形成し、結論に導いた点がすばらしい。大変根気強く、論理的に追究していく姿勢がよく、11名の科学部員の総合力を発揮した成果だと思われます。今日、環境問題が重要課題であり、その要因は複雑で、一般的に原因追究が難しいが、本研究は身近な問題を正面から取り組み、地道に、そして確実に調査研究し、結果を出したことは大きな成果です。今後も期待したいところです。
指導について美浦村立美浦中学校 桑名 康夫
生徒たちは、人々に霞ヶ浦に関心を持って欲しいというささやかな願いの実現を目ざし、日々流入河川の水質調査や水質変化要因の追究に取り組んでいます。
今年度は、偶然にエビ大量死の原因追究を通して、別の視点での学習が深まりました。おかげで、河川上流での水質変化に疑問を持ちました。いつもは上流の汚れの度合いが高く、上流から汚れの原因物質が流れてくると予想していました。しかし、今回は何らかの原因で上流の測定値が低くなったのではないかと考えるようになり、水質の変化する要因を追究することになりました。
私は、生徒を支援・指導する中で、この調査や研究を通して生徒の科学的見方・考え方が育ってきていることを実感しています。また、調査に対してひたむきに取り組んだ卒業生、そして在校生たちに敬意を表したいと思います。来年度の研究も何か発見があったらいいなと楽しみにしています。