第41回入賞作品 小学校の部
文部科学大臣奨励賞

ジャコウアゲハチョウの吐糸色(黒と白)の考察

文部科学大臣奨励賞

千葉県我孫子市立布佐小学校 6年
菅野 里子
  • 千葉県我孫子市立布佐小学校 6年
    菅野 里子
  • 第41回入賞作品
    小学校の部
    文部科学大臣奨励賞

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研究の動機

我孫子市新木野のジャコウアゲハチョウを観察して3年が経った。年々、食草のウマノスズクサの群落は小さくなり、ジャコウアゲハチョウの数も少なくなってきている。何とかしないと居なくなってしまうと思い、増やそうとした。昨年、まず食草を一部庭に移して大きくした。今年、人工交配(ハンドベアリング法) と人工採卵を試した。成功すれば家の中で世代が続き、 たとえ新木野の群れが途絶えても食草が回復すれば家の群れを放せばよいと思った。更に、人工交配(ハン ドベアリング法)と人工採卵が上手くいき、余裕が出たら昨年見つけたサナギの吐糸色(黒色と白色)の原因(遺伝か環境)を調べてみようと思った。
 また、デジタルカメラやパソコンのやり方を勉強してまとめに生かそうと思った。

研究のねらい

野外からジャコウアゲハチョウの卵を採集し、同 じ条件(温度・日長・食事)で飼育する。サナギの吐糸色の様子を観察する。

サナギの吐糸色が黒と白に分かれたら、それぞれ の色同士を人工交配させ、採卵して飼育し、吐糸色を 観察する。
研究の間に出る数多くのジャコウアゲハチョウ(成 虫・サナギ・幼虫)は新木野に戻す。また、一部を庭に放して増えるかどうか観察する。
研究のねらい

野外からジャコウアゲハチョウの卵を採集し、同 じ条件(温度・日長・食事)で飼育する。サナギの吐糸色の様子を観察する。

サナギの吐糸色が黒と白に分かれたら、それぞれ の色同士を人工交配させ、採卵して飼育し、吐糸色を 観察する。
研究の間に出る数多くのジャコウアゲハチョウ(成 虫・サナギ・幼虫)は新木野に戻す。また、一部を庭に放して増えるかどうか観察する。
使用した器具
一眼レフカメラ:オリンパスOM-2N
レンズ(TAMRONSP90mmマクロ)
デジタルカメラ:カシオQV-3000EX
パソコン:東芝D工NABOOKPX200
カラープリンター:EPSON PM800C
ノギス
飼育シャーレ
ハエよけカバー
研究の仕方

実験1 光にあたるとネンキンは変身するか

我孫子市新木野のジャコウアゲハチョウの生息地から卵50個を採集し、1匹ずつ、シャーレで飼育した。
サナギになった中から黒糸6匹、白糸6匹を選び、 人工交配を試みた。成功したらメスから探卵を試みた。
「蝶の交配と飼育」(阿江 茂/著)をよく読んで、準備をした。遺伝の観察には決まった親同士の人工交配 が必要だ。蝶の場合は雄と雌を両手に一匹ずつ持ち、 腹端を合わせて強制交尾をさせるハンドペアリング法 を行った。
採卵方法:市販のハエよけカバーに食事を入れ、部屋に放って置いた。成虫のエサは、カルピスやハチミツ水とした。
採卵した卵は、1匹ずつシャーレで飼育した。毎日観察して成長記録をとった。
カ記録(デジタル写真・測定値)はパソコンに入力し、表にまとめた。

結果

新木野から採集してきた卵は順調に成育して、次のようになった。
50匹中5匹死亡   
黒29(オス15、メス14)
白16(オス9、メス7)

人工交配は上手に出来た。
白組:1組成功(7月5日)
黒組:3組成功(7月5日)
採卵は成功した。
白組:32卵(7月7日~7月10日)7月12日死亡
黒組:81卵(7月7日~7月10日)7月12日死亡

白組、黒組それぞれの卵24匹を選び、飼育した結果は表1の通りであった。
白組:24匹中4匹死亡
白 5(オス3、メス2)
黒15(オス5、メス10)

黒組:24匹中2匹死亡
白 7(オス4、メス3)
黒15(オス7、メス8)

庭に放したジャコウアゲハチョウはどんどん増え、庭の食草を食べ尽くした。100近いサナギが庭で見られたが、80%以上が、寄生バエ・寄生バチにやられていた。

考察

吐糸色の黒と白は環境か遺伝か?

勝木野から採集したジャコウアゲハチョウの卵50はシャーレに1匹ずつ入れた。50個のシャーレは室温でテーブルの上に置き、光の当たり方を一定にするため移動させなかった。全てに同一のウマノスズクサを与えた(湿度的にもほぼ同じと思われる)。結果は黒と白に分かれた。もし、環境であるなら、ほとんどが、黒 または白に偏った出方をするはずである。

サナギの色についてはアゲハチョウの緑色と褐色の2つについて調べられていて、サナギになる場所の色が影響していることが分かっている。ジャコウアゲハチョウは、シャーレの上ブタにサナギになる場合が一番多かったが、食事やシャーレの底の白いティッシュにサナギになったものもいた。白いティッシュにサナギになった中からも、黒と白が出た。結論として、原因は環境では無く、虫が生まれた時から持っているもの(遺伝)にあると考えられる。

吐糸色はどんな遺伝をするか?

 昨年、コムラサキの観察をした時に、メンデル式遺伝を勉強した。コムラサキの羽には、褐色型(優性)、 黒化型(劣性)があり、メンデル式優劣遺伝をする事が知られている。 そこで今回、黒×黒と白×白の2組から優劣遺伝するかどうか確認した。

優劣遺伝

・黒が優性の場合に予想される結果
 白は劣性だから白×白は全て白になる。
 黒×黒がヘテロの時は、黒:白=3:1
 黒×黒がホモの時は、全て黒になる。

  しかし、結果は次の通りだった。

 黒×黒→黒:自=3:1
 白×白→黒:自=3:1

黒同士、白同士とも同じ結果になった。もし今回、黒しか人工交配が上手くいかず、白抜きで実験していたら、見事に、黒:白=3:1となって、メンデル式遺伝をすると結論づけるところであった。

不完全優性遺伝

黒と白がホモで、ヘテロは中間色(灰色か)で、ヘテロ同士からは黒:白:灰色=1:1:2となる(今回灰色は無かった)。但し、中間色はどちらかの色に近寄る傾向もあるらしい。
 今回の実験では、単純な優劣遺伝ではないようだと 考えられる。今回、もし不完全優性で、しかも中間色 の幅(白~黒色)が広いとすると、いろいろの可能性が出てきてしまう。はっきりさせるには、黒と白がちゃんとしたホモかどうかを確認する必要がある(次回に持ち越し)。結果だけを見ていると、なんとなく法則性が無いわけではないし、多分、遺伝だろうなと思ってしまう。

 この実験をしているうちに100匹を超える幼虫、20匹を超える成虫が発生した。成虫は庭に放した。放した内、約半数近くが住みついて交尾し、産卵していった。近所の庭で花蜜を吸い、近くの木立をねぐらにして早朝・夕方に、オスは庭を活発に飛び回り、メスは日中に産卵に来た。しばらくすると、今まで居なかった布佐小学校のウマノスズクサにも卵・幼虫が見られるようになった。家から、約1キロメートルは離れているので、かなりの移動性もあるらしい。
 また、新木野では、予測通り8月には全く居なくなってしまった。下草刈りが原因と思われる。このため、幼虫約50匹を2週間後、新芽が伸びた頃、発生場所に 戻した。その結果、絶滅を防ぐ事ができたと思う。


 

 

感想

小学校3年生から始めた蝶の観察、今年で4回目になった。アオスジアゲハチョウ、ジャコウアゲハチョウ、コムラサキを観てきた。ジャコウアゲハチョウに関しては3年目になる。今年は、小学校最後の蝶の観察として、今までと違った2つの方法でやってみた。 1つは、パソコンを使ったこと、もう1つは、標本をあえて作らなかったことだ。
 パソコンは、学校でも、少しさわらせてもらったこ とがあった。家では、父と兄が、仕事や勉強のためによく使っている。友達の1人から、パソコンで遊んでいる楽しそうな話をよく聞く。県の作品展へ見学に行った時、パソコンを使った作品がたくさんあった事を思い出した。私の自由研究でも、使うことができないかなと思い、父に聞いてみたら、「じゃあ、少しやってみるか」と言ってくれた。

まず最初に、毎日ノギスで測定した数字を、パソコンに入力することを教えてもらった。初めのうちは、 面白くて、時間を忘れてやっていたが、だんだん大変になってきた。ノートに書けば、すぐ済むことなのに、 パソコンだと、スイッチを入れて、画面が出てくるまで時間がかかるし、まちがうと、また最初から入力しなければならなかった。途中でいつもと違う画面が出てきてしまったこともある。その時は、父か兄が帰ってくるまで、どうすることもできず、ただ、待っていた。どうしてこんな、面倒くさいことをしなければならないのかと、不思議だった。それでも何とか続けた。

8月の末、今までのデータをグラフにまとめる時が来た。これからが、また、大変だと思っていた。ところが、いつもと違う、グラフとプリンターのスイッチを押すと、きれいで、分かりやすいグラフが、どんどん出て来てびっくりした。今までは、1週間近く、夜 遅くまでかかっていたグラフ作りが、パソコンを使っ たことで、2日で終わってしまった。みんながパソコンを使う訳が、少し分かった様な気がした。

最近、学校でも、動物愛護の話をよく聞く。私が今まで標本にした蝶達も、かわいそうなのかなと心配になった。そのままなら、全部の卵が死んでしまったはずの所から、 できるだけたくさんの卵を家に持ち帰って、育てた。
成虫になった内のほんの一部を標本にしたのだから、 いいと思っていたけれど、 その標本になった蝶にも、確かに命があった。それで今回は、一つ一つの卵の命を大切にするために、標本のかわりに、全て、写真で残した。実際、標本と写真とでは、比べ物にならないほど、違っていた。写真はやっぱり絵でしかなかった。少し残念な気がしたが、数字でしか表せない小さな卵の命とは、しっかりつき合うことができた。幼虫になった時、ちょっとだけのん気だったり、怒りん坊だったりする違いがある位で、あとは、ほとんど同じ育ち方をするジャコウアゲハチョウだけど、天気の良い日、外に放すと、皆、勢い良く飛んで行っ た。何だかうれしかった。

 この4年間、蝶の観察の中で、気づいた事がある。 どんどん蝶の居る場所が減った事だ。食草の場所がはっきりと、なくなってきている。流山では、住宅地の開発で、緑が土になり、新木では、大きな病院と駐車場に変わった。それに毎年、農薬のヘリコプターによる散布と、草刈りによって、ウマノスズクサの群落がなくなっている。ただ、今のところ、機械を使った草刈りがないので、枝が残るため、なんとか生き残り、 ジャコウアゲハチョウは卵を産みつけている。でも、 あの川の土手が、コンクリートになってしまったら、あっという間に、絶滅だ。

2年前、キアゲハを育てた時、食草がなくなり、スーパーで買ったパセリで代用した事がある。翌日、そのパセリを食べたキアゲハの幼虫は皆、死んでしまった。多分、使われている農薬のせいだろう。人間には 害にならないほど少量の農薬でも、蝶は死んでしまう。 農薬は少しずつなら安全でも、それがいっぱい重なれば、人間にとっても、きっと害になるような気がする。 蝶がいる所は、とても自然で、安全な所だと思う。蝶が元気に生息できる自然を守る事は、人間の健康を守る事だと言える。蝶は人間の健康を守る信号ではないだろうか。あんな小さい蝶が、私にこんな事を考えさせてくれた。

 吐糸色の実験の結果としては、予想通りにはいかなかった。遺伝によるという事は出て来たが、遺伝の仕組みについては、はっきりしなかった。できれば続けて調べてみたい。
 こんな1ミリメートル位の小さな卵の中に、不思議な自然がいっぱいつまっている。自然てなんて面白いのだろう。


(参考にした本)

原色日本蝶類図鑑/保育社
 原色日本蝶類幼虫大図鑑(1)/保育社
 原色日本蝶類生態図鉱(1)/保育社
 虫を採る・虫を飼う・標本をつくる/催成社  近所の虫の飼い方(1)/偕成社
 蝶の交配と飼育/グリーンブックス2
 蝶の幼虫の形態/グリーンブックス70
 基礎遺伝学 改定版/裳華房


指導について

指導について千葉県我孫子市立布佐小学校 今村 博子

 4年生から続けているジャコウアゲハチョウの研究。1年目は ウマノスズクサにいるジャコウアゲハチョウの数を調べ続け、2年目は食草による違いを観察し、今年となる3年目は吐糸色による遺伝はあるのか実験しました。  昨年まではたくさんいたジャコウアゲハチョウが、今年は激減、卵や幼虫から育てることになってしまいました。そのおかげで、サナギの吐糸色の違いに着目し、色によるペアリングを行い、今年度の研究としてまとめることになりました。
 考察を進める中で、あらためて環境にも考えがおよび、「蝶が住めない所には人間も住めない」という、環境問題を考えさせるまでになりました。今後の課題として考えさせていきたいと思います。
 研究の裏付けとして今までは標本を主にしてきましたが、今年は、パソコンやデジカメを利用し観察記録を克明に綴ることができたと思います。
 すでに来年度の課題として取り組む内容を考え、現在準備を進めています。身近な事象に目を向けることの大切さを忘れず、新しい発見をする喜びを見出していきたいと考えています。

審査評

審査評[審査員] 高家 博成

 菅野さんは蝶の研究者の間でもあまり注目されていない、ジャ コウアゲハチョウがサナギになるときの吐糸色について、遺伝的なものかどうか、たくさんの幼虫を飼育したり、人工交配したりして詳しく研究をしてきました。その研究方法は、きわめてていねいで、細かく記録がとられていることに、審査員の皆さんが感心していました。
 この結果から、遺伝的な現象は確かめることはできませんでしたが、では、いったいどのようにして糸の色が黒と白に分かれるのでしょうか。今後の研究に待ちたいと思います。
 似たような糸状物質を吐くほかの昆虫の例から考えてみますと、糸の硬化着色過程の問題かもしれませんね。この方面の研究もしてみてください。

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