研究の動機
昨年の自由研究で、マダイの顎(あご)の骨の中に歯の赤ちゃん「種(たね)」があり驚いた。魚の歯はどのように生えているのか、生え変わるのか。人間と同じように乳歯、永久歯があるのか知りたい。
研究の目的、進め方
魚の成長と歯の生え方、生え変わり方を知る。
(1)マダイ、ヒラメ、カスザメの3種類の魚(幼魚~成魚)で、それぞれの歯の数、一番長い歯の長さ、顎の長さを調べ、比べる。
(2)3種類の魚で、次の新しい歯がどのように準備されているのか観察する。
(3)マダイ、ヒラメの頭の骨にある「耳石」を採取し、それぞれの年齢を調べる。(カスザメは軟骨魚類なので耳石がない)
※耳石:魚の頭骨の左右の耳(内耳)にある平べったい〝骨〟。体の平衡バランスを保つ働きがあり、魚の成長とともに耳石も毎日少しずつ大きくなり、「日輪」という線の輪が、耳石の外側に1本ずつ作られていく。日輪の間隔は成長がよいと広く、悪いときは狭くなる。また夏冬の季節による成長の違いで、その年ごとに縞(しま)模様ができる。この縞を数えることで、木の年輪と同じように、年齢を推定することができる。
魚の骨格(顎骨)標本の作り方
◇マダイ、ヒラメ(硬骨魚類)の場合
①魚の頭を沸騰したお湯で3分ほどゆでる。②魚の身をピンセットでほぐし取り、さらに歯ブラシでこすり取る。③塩素系漂白剤(ハイター)に12時間ほどつける。濃度は水500mlにスプーン1杯程度。③顎骨を水に1日つけ、ハイターを洗い流す。④スチーマーを使い、歯をきれいにする。⑤乾燥させる。
◇カスザメ(軟骨魚類)の場合:軟骨魚類は歯肉の上に顎が乗っているだけなので、ゆでてしまうと、顎が落ちてしまう。
①顎についた歯肉をカッターで切り取る。②顎が開いたままの形にするため、紙枠で固定する。③腐らないように冷蔵庫でゆっくり乾燥させる。④さらに屋外で完全に乾燥させる。
【観察】《方法》
顎の骨は上下左右、4つの部分に分かれる。それぞれの歯の本数を、油性マーカーで10本ずつ色分けして数えた。顎の長さ、一番長い歯の長さ、耳石の縦横の長さをノギスで測った。魚は茨城県沖や県栽培漁業センター、個人が採取したもの、スーパーで購入した他県産のものなどを使った。
《結果》
マダイは計23匹(体長1.5~44cm、重さ0.1~2200g)、ヒラメは計26匹(体長2~50cm、重さ0.1~2400g)、カスザメは計7匹(体長24~91cm、重さ200~7900g)の顎骨標本を作製した。
◇マダイの歯
形:ほとんどが「円柱柵型」。左右の上顎に各2本の「キバ型」の前歯、左右の下顎にも各3本のキバ型の歯がある。
数:上顎は左右計40~50本、下顎は左右計30~40本。上下の顎とも、左右の歯の同数だ。
生え方:顎の外側に大きな歯が2列に並び、内側に小さな歯が数列並ぶ。
幼魚と成魚:幼魚には細かい剣山型の歯がたくさんあり、成魚の奥歯に、太く大きな円柱柵型が並ぶ。成長とともに顎は大きくなる。
耳石:成長とともに大きく、厚くなっている。
〈生態〉
成魚はキバ型の前歯で動いているエサを捕まえ、太い奥歯で貝などを割って食べる。幼魚には太い円柱柵型の歯がなく、成魚よりも歯の数が多い。プランクトンや小さな魚を捕食している。
◇ヒラメの歯
形:上下とも、内側に少し曲がった細くて鋭い「キバ型」が1列に並ぶ。とても長く、針のような形だ。
数:上顎の左右で歯の数は違う。右は13~18本、左は16~25本と、左側の方が多い。下顎は片側9~12本で左右対称だ。
生え方:顎の上に1列に並ぶ。
幼魚と成魚:ともに歯の形は似るが、大きさや長さが違う。成長とともに顎は大きくなる。
耳石:成長とともに大きく、厚くなっている。
〈生態〉
幼魚はケンミジンコなどを捕食するが、成魚は9割が小魚をエサにする。キバ型の前歯で、動いているエサを捕まえる。すべての歯が内側を向き、食らいついたら放さない。顎の骨はうすいので、しっかり嚙むよりも、エサを丸飲みにしている。
◇カスザメの歯
数:上下左右がそれぞれ同数、1列に約10本並んでいた。
生え方:1列の内側にさらに4段、5段の歯列が並ぶ。
幼魚と成魚:歯の形は同じだが、大きさ、厚み、長さが違う。成長とともに顎は大きくなる。
耳石:ない。
〈生態〉
歯はカミソリのように薄く、鋭利だ。指も切れた。幼魚も成魚のように、動くエサに襲いかかり食べる。顎の軟骨が太く、しっかりしているので、何でもバキバキかめる。それぞれの歯が内側を向いているので、口の中のエサはのどの奥の方に押し込まれる。
魚の公式
それぞれの顎骨の観察データから、体長と顎の大きさ、耳石の大きさの関係を示す〝公式〟を見つけた。
〈マダイの公式〉 | 体長≒顎の大きさ×10 体長≒(耳石の縦+横)×14 |
〈ヒラメの公式〉 | 体長≒顎の大きさ×10 |
〈カスザメの公式〉 | 体長≒顎の大きさ×8 |
耳石について
耳石の「日輪」は顕微鏡を使わないと見られず、年齢を知るにも研究機関の装置が必要なことを知った。光にかざすと、耳石の厚いマダイの日輪は見られなかったが、耳石の薄いヒラメでは、年輪みたいなものが見えた。
まとめ:私が考える魚の歯の生え変わり
◇マダイ=縦スライドタイプ(ヒトと同じような生え変わりを、何回も繰り返すタイプ)
幼魚の細かい剣山型の歯が抜け、円柱柵型の歯が顎の骨の中から出てくる。出た歯が大きく成長するのではなく、少し大きなサイズの歯が次々に生え変わる。顎の骨の中に〝歯の種〟があり、常に生え変わる準備をしている。
◇ヒラメ=横スライドタイプ
顎の骨の中に、歯の種の準備がない。歯は顎の上に等間隔に並んでいて、古くなるなどして抜けると、奥から手前に歯がスライドして入れ替わる。歯はスライドしながら少しずつ成長する。
◇カスザメ=ベルトコンベア・タイプ
1列目の歯が抜けると、内側の歯がベルトコンベアのように外側に出て起き上がり、入れ替わる。後列には同じ大きさの歯が埋まっている。
感想
次の歯がマダイでは顎の骨に埋まっているが、ヒラメにはない。同じ硬骨魚なのになぜか。マダイの方が進化しているのか、単に環境、捕食・食性の違いなのか疑問だ。今度は魚を育てて実験したい。
審査評[審査員] 安齋 正彦
タイトルの通り、マダイの顎の骨の中で発見した歯の種に感動し、そこから知的好奇心が触発され今回の研究に至ったと感じます。
作品の一部には素晴らしい骨格標本も添えられ、実にその骨格が見事で美しく、審査でも感動いたしました。
本論に当たる標本観察は専門家に学びながら丁寧に根気強く取り組んだのでしょう。
まとめとして、マダイは縦スライドタイプで顎の骨の中に小さな歯がひかえていて歯が抜けて次から次へと生え変わること、ヒラメは横スライドタイプで顎の骨の中にひかえている歯が無く顎の骨の上に等間隔に歯が生えていて歯が抜けると奥から手前にスライドすること、カスザメはベルトコンベアタイプで内側にある歯が順々に外側に起き上がること、と見事に結論付けることができました。
来年度は、感想にもあるように、魚を育てながら歯の生え変わり方と、顕微鏡を使って耳石から魚の年齢を割り出し、それぞれの関係を調べていってほしいと思います。
指導について樋之口 修一
彼女は日常食べている魚にさまざまな形の歯があることに興味をもちました。そこで、30種類の魚の歯を形態ごとに分類、食餌との関係について研究しました。顎骨標本の作製においては幾度も失敗し「悔し涙を拭いながら」試行錯誤の末、納得できる標本をつくることに成功しました。魚の歯や顎がこんなにも形態に差があり、それぞれ目的があるのだと大人の私ですら興味深くワクワク!しました。6年生では魚の歯の大きさ、生え変わり方にテーマをしぼり、Excelを楽しみながら活用し「顎の大きさと歯の大きさの比例関係」を発見しました。夏休み中、彼女は毎日毎日魚の歯のことだけを考えていたように思います。そのひたむきな情熱に感動しました。この研究のために、さまざまな分野の方へ手紙を書きアドバイスを頂き、また、水産試験場や水族館の方々と直接お話しする機会を得て大きく成長したと思います。「なぜ?」と思う気持ちを今後も大事にし、色々なことに興味を持ち探究する心を持ち続けてほしいと思います。