研究のきっかけ
アサガオの研究は今年で3年目。昨年、アサガオに色水を吸わせて、花びらに色を付ける実験をしたが、分からなかったことが2つある。今年はそれをはっきりさせるために研究する。
昨年の実験で分からなかったこと
①アサガオの茎を切って色水の中に入れると、咲いてから色水に入れたアサガオの花に色が付いたが、前日の夜8時ごろ、つぼみのときに色水に入れたアサガオは花が開かなかった。「つぼみが開く、開かない」は色水に入れた時間と関係があるのか。
②花の「曜(よう)」(花の中心から放射状に伸びるすじ)の部分に色が付いたアサガオが、たまたま2回ほどできた。私は「ミラクルアサガオ」と名前をつけた。どういうときにミラクルアサガオができるのか。
〈1〉「開く、開かない」の原因
◇ヒルガオでの実験
私が植えたアサガオがなかなか咲かないので、道路沿いに咲いていたヒルガオを取ってきて実験することにした。観察すると、ヒルガオは昼に咲くのではなく、早朝に咲き、夕方4時から6時の間にしぼむ。朝8時ごろに咲いているヒルガオの花の茎を切り、4種類の濃度(全体20ccのうち染色水の量が1/4、2/4〈=1/2〉、3/4、4/4)の色水を吸わせると、ヒルガオは花びらの縁(ふち)から染まり、濃度4/4のときが強く色が出た。
【実験1】つぼみを色水に漬ける時間の違いによって、翌日の咲き方がどう変わるか調べる。
《方法》
午前9時ごろ、正午ごろ、夜9時ごろにつぼみを色水に入れ、翌日朝に観察する。色水の濃度は①1/4(25%)②2/4〈=1/2〉(50%)③3/4(75%)④4/4(100%)の4種類。
《結果と考察》
つぼみは濃度が濃いと花が咲かない。濃度は①がちょうどいい。いつ色水に漬けても咲く。しかし咲いている花だと一番濃い④でも染まるのに、つぼみはなぜ開かないのか。
◇アサガオでの実験
【実験2】アサガオは「9時間以上暗いと感じないと咲かない」という。ヒルガオとホームセンターで購入したアサガオで試した。
《結果》
朝まで室内の明るい場所に置いたもの、深夜2時ごろまでやや明るい部屋に置いてその後暗くしたものでは、どちらも翌朝に開かなかった。昨年の実験で、色水につけたアサガオのつぼみが開かなかった原因の1つが分かった。
【実験3】色水の濃度の違いが、アサガオのつぼみが開くことに関係するのか調べる。
《方法》
つぼみを午前11時、午後3時、夕方、夜9時に濃度①~④の色水に入れ、翌朝に観察する。夜は段ボール箱をかぶせ、暗くする。
《結果》
濃度①の場合、どの時間帯のつぼみも開いたが、濃度③④ではどれも開かなかった。濃度②は正午ごろと夜9時ごろのつぼみが開いた。
《考察》
色水に入れた時間ではなく、濃度が関係していることが分かった。昨年の実験結果は、色水が濃かったことが2つ目の原因だ。
〈2〉ミラクルアサガオ
昨年の実験で偶然できた「ミラクルアサガオ」と同じようなヒルガオの茎が見つかった。根元側から先に向かって、明日咲くような大きなつぼみ、明後日咲きそうな中ぐらいのつぼみ、さらに小さな「赤ちゃんつぼみ」が3つ、つらなった茎だ。
【実験4】
《方法》
夜8時に、濃度①の色水(オレンジ色)に漬けた。
《結果》
翌朝は大きなつぼみが開き、黄色い花を咲かせた。次の翌朝は中ぐらいのつぼみの花が咲いた。その翌朝に「赤ちゃんつぼみ」が開き、曜の部分に色が付いた「ミラクルヒルガオ」が咲いた。驚いたことに、この「ミラクルヒルガオ」は夕方になってもしぼまず、翌日の朝になっても花は開き続けた。ずっと色水を吸っているのに、なぜ、曜以外の部分に色が付かないのか。
【実験5】別に見つけたヒルガオの茎で、もう一度確かめる。
《方法》
根元側から咲いた花が2つ、さらに、つぼみ(大)、つぼみ(中)、「赤ちゃんつぼみ」がつらなった茎を、午前11時ごろに濃度①の色水(青色)に漬けた。
《結果》
咲いた花は縁から染まり出し、その日夕方には全体が青色になった。翌日はつぼみ(大)が開き、縁と真ん中が染まり、時間がたつと全体が青くなった。次の日につぼみ(中)が咲いたが、〝微妙なミラクル〟だ。スターがくっきりせず、花びらの裏側まで青く染まっている。「赤ちゃんつぼみ」は大きくなって、青い通り道ができて、さらに次の日にミラクルヒルガオになった。咲き続ける〝微妙なミラクル〟には、前日以上の通り道は出来ていない。
【実験6】〝微妙なミラクル〟に違った色水を吸わせると、縁に色が付くか調べる。
《方法》
花のすぐ下で茎を切りオレンジ色の色水に漬けた。
《結果》
縁に色は付いていない。次の日も花は開いていたが、新しい通り道はできず、変わっていない。
【実験7】キキョウ咲きアサガオ(白色)で調べる。
《方法》
根元側から2つの小さなつぼみ、大きなつぼみ、中ぐらいのつぼみ…と、計7個のつぼみが付いたアサガオの茎に、濃度①の色水(赤色)を吸わせた。
《結果》
夜に暗くするためにかぶせた段ボール箱が当たったのか、朝7時ごろ見ると、茎が色水に入っていなかった。急いで漬けたら、3時間後に大きなつぼみが咲いてきた。花の模様は、対面する花びらだけが赤色になった、まるで折り紙で作った風車「ミラクルかざぐるま」だ。翌日に開いた、その上のつぼみ(中)も同じだ。さらに次の日に開いた上のつぼみは白色の花。その翌日には根元側の2つのつぼみも咲き、1つは「ミラクルかざぐるま」だったが、もう1つは花びらが破れて開いて白色。つるの一番先のつぼみは途中でだめになった。1つ残ったつぼみを切って色水に漬けたらピンク色になり、色水が茎の「導管」を通ったことが分かったが、花は完全に開かず、「ミラクルかざぐるま」になったか確認できなかった。
《考察》
水を吸い上げる導管には、花びらの曜やその他の部分に行くものなど、いろいろな導管があるのだろうか。「ミラクルかざぐるま」は、いくつかの導管がたまたま生きていたから、花びらの一部に色が付いたのかな。
【実験8-】導管の働きを止めて、つぼみの様子をみる。
《方法と結果》
つぼみのすぐ下を切り、水のない容器に夜9時に入れて、翌朝7時に見た。すぐに色水(濃度①)に漬けたが、つぼみは開かず「かざぐるま」にもならなかった。
《考察》
ネットで調べたら、導管はホースのようなもので、生き死にはないという。なぜ「かざぐるま」のように色水が通ったのかな。
【実験8-②】
《方法》
大きなつぼみのほかにも、葉や小さなつぼみが付いたつるで、再び8-①の実験をした。
《結果》
色水に漬けると、つぼみは花の全体に色を付けて開いた。翌日には別のつぼみも同様に色が付いて咲いたが、「かざぐるま」はできなかった。
気づいたこと
「赤ちゃんつぼみ」は、同じ茎につぼみ(大)がついているとミラクルになる。赤ちゃんつぼみだけで液を吸わせても、死んでしまう。ミラクルになる赤ちゃんつぼみは、開く前日まで、がくまでしか液が通っていない。新しく液を吸わなくても、少しずつ大きくなれる。
【実験9】「かざぐるま」ができたキキョウ咲きアサガオで、「ミラクルアサガオ」ができるか試す。
《方法》
大中の2つのつぼみ、3つの「赤ちゃんつぼみ」が付いた太めの茎を色水(赤色)に漬けた。
《結果と考察》
すべてのつぼみに色水が通ったが、「ミラクルアサガオ」はできなかった。「ミラクル」にならないアサガオの品種もあることが分かった。
研究のふり返り
今年私が植えたアサガオの花が咲かず、心配した。研究をやめようと思ったとき、ヒルガオに出合えてよかった。実験の失敗もしたが、あきらめずに頑張った。今度は新しい研究をしてみたい。
審査評[審査員] 邑田 仁
アサガオと3年間付き合って、みんながよく知っていると思っているアサガオに、まだまだ多くの疑問があることが明らかになりました。今年の研究では、染色液を吸い上げさせることにより、花の曜の部分だけが着色する「ミラクルアサガオ」をつくることが主な目的になっていますが、自分で発見したとてもよいテーマで、疑問がまだ解決していないということが、今後の研究の可能性を示しています。園芸品種の多いアサガオだけではなく、ヒルガオも同じように実験に使えるということを見つけたのもよかった。これからは、花の中の導管の走り方と染まり方というような形態的見方、花の細胞の吸水が何によって進むかというような生理的な見方など、問題点を整理してそれぞれを検討することが必要だと思います。ぜひ継続して研究をレベルアップしてください。
指導について澤田 希弘子
娘は昨年、白いアサガオに染色液を吸わせて任意の色のアサガオを作ってみたいと考え、この研究を始めました。簡単に出来ると思っていたようですが、実験は難航、四苦八苦した中で偶然、曜の部分だけが色に染まって花が開く現象が起こりました。星形に染まったアサガオを「ミラクルアサガオ」と名付け、ミラクルアサガオの謎を解くことを目標に、これまでの疑問をひとつひとつ整理しながら実験を重ね、解決していきました。植物相手に条件をそろえることは大変難しく、多くの失敗と時間をかけることになりました。「実験すればするほど、わからないことが出て来る」とつぶやいていた娘ですが、ミラクルアサガオの存在を明らかに出来たことは、今夏一番の喜びとなりました。本研究で、工夫するとはどういうことか、大きな失敗をした時、どう立ち向かうか、深く勉強したのではないかと思います。