研究の動機
地域のイベントでパンケーキを焼いているときに、鉄板が虹色に輝いているのを発見した。なぜ加熱すると、金属が虹色になるのか不思議に思った。
研究を始める前に
身の回りの金属で虹色になっている物を探した。台所にある鍋の底が虹色になっている。しかし、全ての鍋がそうではない。油か何かが付いたのか。
追究1:いろいろと条件を変えて加熱し、どのように虹色ができるのか調べる
【実験1】金属の種類を変える。
《方法》
鉄、銅、ステンレス、亜鉛、アルミニウム、真ちゅうを、理科室のガスバーナー(温度約900℃)で3分間加熱した。
《結果》
亜鉛とアルミニウムは溶けて虹色はできなかった。真ちゅうは何回も虹色が出現したが、熱で徐々に曲がってしまった。鉄、銅、ステンレスに虹色が出たが、虹色の幅、変色する時間も違った。
【実験2】加熱の仕方を変える。
《方法》
ガスバーナー(基本形の青い炎、空気を少なくした黄色い炎)、ガラス細工用の強いバーナー、電熱器、ロウソク、アルコールランプで鉄板を3分間加熱した。
《結果》
鉄板が変色するまでの時間に差があったが、どの加熱方法でも虹色ができた。
【実験3】温度を細かく変える。
《方法》
ガスバーナーで一定温度で加熱するのは難しい。「スライダック」という電熱器の電圧を変える装置を使い、加熱温度を細かく変えることにした。電圧ごとの温度を調べた。電熱器の温度が安定してから、鉄板(4.5×2cm)を5分間のせて加熱する。
《結果》
加熱温度が110℃、140℃、160℃、180℃のとき、鉄板の色はそれぞれ茶色、紫色、青色、青白色。しかし、虹色にはならなかった。
【実験4】鉄板の厚さを変える。
《方法》
鉄板(厚さ1.0mm、0.5mm、0.1mm)をガスバーナーで加熱し、虹色ができるまでの時間、虹色の幅など調べる。
《結果》
厚さ1.0mmの鉄板は約250秒、0.5mmは約170秒、0.1mmは約25秒だった。
《考察》
鉄板が厚いほど、虹色ができる時間が遅く、虹色の幅が広くなる。なぜ広くなるのか。
【実験5】加熱する時間を変える。
《方法》
鉄板の加熱時間を1~10分に変えて調べる。
《結果》
約1分後から色が変わり始め、3分後には虹色が完成した。その後加熱しても、虹色は加熱している所から離れるように外側に移動し、色は変化しなかった。
追究2:なぜ虹色になるのか調べる
〈仮説1〉金属板に付いた「油」などが加熱すると、虹色になるのでは?
油ならば洗剤で取れるはずだ。虹色になった鉄板を洗ったが、虹色は取れなかった。
〈仮説2〉ガスなどの〝炎の素〟になっている物質が金属に付いて虹色になるのでは?
電熱器で加熱しても虹色ができたので、仮説はすぐに否定された。鉄も〝燃える〟こと、実際に台所のスチールウール(鉄)を燃やしてみて、鉄は加熱されると酸素とくっつき燃えることを知った。
〈仮説3〉金属板を加熱すると、表面に酸素が付いて虹色になるのでは?
ビデオ録画し観察したが、燃えている様子は見られなかった。酸素が付くと重くなるのでは。
【実験1】スチールウールを燃やした後で、重さが増えるか調べる。
《方法》
バーナーであぶりながら、しっかり息を吹きかけながら完全に燃やした。
《結果》
重さは平均で約32%、元のスチールウールより増えていた。
【実験2】鉄板も酸素が付いて重くなるか調べる。
《方法》
実験用ガスコンロで鉄板を十分加熱し、重さを量る。
《結果》
0.01gまで量れる電子てんびんで測定(10回)すると、重さが約0.01g増えていた。しかし本当に酸素がくっついているのか。
【実験3】鉄板に窒素を吹きかけながら加熱する。
《方法》
電熱器に鉄板をのせ、鉄板表面に窒素ガスをスプレーしながら加熱し、変化を見た。
《結果》
窒素をスプレーした所だけ、色が変わらなかった。
《考察》
やはり酸素がくっついて虹色になったのか。しかし、窒素気体によって表面温度が下がり、虹色にならなかった可能性もある。電熱器の鉄板表面にストローで息を吹きかけながら加熱したら、鉄板は虹色に変色した。空気中の酸素が鉄板にくっついたのだ。身の回りのいろいろな虹色を調べると、シャボン玉や水面の油膜などの薄い膜で「光が反射するパターン」、プリズムや水槽などで「光が屈折するパターン」がある。
〈仮説4〉金属表面の虹色も、水面の油膜やシャボン膜と同じ「光の反射」が原因ではないか?
【実験4】膜の厚さを調べる。
油膜:油10滴分の重さと体積をはかり、1滴分の体積を計算する。1滴を水面にたらして広がった油膜(虹色)の面積をはかり、「体積÷面積=膜の厚さ」を出そうとしたが、油膜が不規則に広がり、面積を求めることができない。
シャボン膜:針金で直径10cmの円形枠を作り、計量計に置いたシャボン液の中につけて引き上げ、円形枠にシャボン膜を作る。それを繰り返して、シャボン液が0.01g減ったときのシャボン膜の枚数からシャボン膜1枚の厚さを求める。
《結果》
シャボン液1cm3の重さは0.98g、同液0.01gで6.5枚の膜が作れたことから、シャボン膜の厚さは0.000199mmと分かった。
鉄板表面の膜:①スチールウールを加熱して増えた重さから、できた物質の重さを求める。②できた物質の重さから、できた物質の体積を求める。③できた物質の体積を鉄板の表面積で割り、膜の厚さを求める。
《結果》
鉄板(4.5×15cm)の表面積は4.5×15×2(両面)=135cm3。できた物質の重さ=0.041g。できた物質1cm3当たりの重さ=6.9g。できた物質の体積0.041÷6.9=0.0059cm3。できた膜の厚さは0.0059cm3÷135cm2=0.0000437cm=0.000437mmだ。
〈仮説5〉金属にできる膜の厚さの違いが虹を作っているのではないか?
【実験5】スライダックで電熱器にかかる電圧を変え、色が変わったときの温度と増えた重さを調べた。
《結果》
温度が高くなると、重くなった。温度が高くなると膜の厚さが少しずつ厚くなり、色が変わるのだ。
〈仮説6〉熱が順番に伝わることで膜が少しずつ厚くなり、虹色になるのではないか?
【実験】鉄板の端をガスバーナーで加熱したときの温度分布と虹色の様子を、サーモカメラで観察した。
《結果》
温度分布が虹色の様子と一致した。
追究3:金属によって虹色の様子が変わるのはなぜか調べる
【実験1】金属の種類と温度、変色の関係を調べる。
《結果》
鉄は茶110℃、紫140℃、青150℃、白180℃。銅は赤140℃、青150℃、黄160℃、茶180℃、黒200℃。ステンレスは黄270℃、青360℃となった。同じ色でも、金属によってできる温度が違う。
【実験2】金属の種類と熱の伝わり方を、サーモカメラで調べる。
《結果》
一番熱が伝わったのは銅だ。鉄は銅よりも遅い。ステンレスはなかなか温まらず、熱の伝わりも極端に遅い。
追究4:金属が厚くなると虹色の幅が広くなるのはなぜか調べる
〈仮説〉厚くなると熱がゆっくり伝わるからではないか?
【実験】鉄板を1枚、2枚、3枚と重ねて加熱し、サーモカメラで観察した。
《結果》
鉄板を重ねるほど、熱はゆっくり伝わった。温度分布が広くなるため、虹色の幅も広くなる。
追究5:鍋の内側に、どうして「薄い虹」ができるのか調べる
〈仮説〉水の中の成分が水が蒸発したときに残って薄い膜を作り、虹色ができるのではないか?
【実験】蒸留水と水道水をステンレスのさらに入れて加熱し、水を蒸発させた。
《結果と考察》
水道水の皿だけ「薄い虹色」になった。やはり水の蒸発後にわずかに残った成分が、鍋に薄い膜を作り、虹色を作ったのだ。
感想
研究で大変だったのは、虹色ができる仕組みが細かく、直接目で見えなかったことだ。小学生の私たちには追究できないことも数多く残った。これから中学校や高校で学習すると分かるかもしれない。その時を楽しみに待ちたい。
審査評[審査員] 秋山 仁
秋山仁特別賞の評価の基準は着眼点や発想の良さに力点を置いています。
すなわち、日常の生活の中で、見過ごしてしまいがちな現象を捉えて、他の人と異なる視点から予想や観察を行い、科学的に考察し、ユニークな結論を導いているかを評価します。
本作品は、パンケーキを焼くときに用いる鉄板がなぜ虹色に輝いているかに着眼し、いろいろな金属を用い、その厚さや温度による変化を子細に観察しています。その結果、金属は加熱されると、空気中の酸素とくっつき表面にものすごく薄い膜を作ることを突き止めています。その膜の厚さは加熱する温度によって変化し、反射する光が異なり、虹色に輝くと結論づけています。ナルホド、納得しました。上領さん、増田さんの将来には、虹色に輝く未来が待ち受けていると思います。
指導について刈谷市立住吉小学校 鈴木 竹久
私は「当たり前の現象」の中に隠されている科学に注目するように、子どもたちにつねに語り続けています。そんな中、熱した鉄板にできる「虹」に彼女たちは注目しました。追究は困難を極めました。加熱することで、金属の表面が変化していることは予測できるのですが、それを確かめる方法がなかなか見つかりませんでした。彼女たちは、家族や先生のアドバイス、全校の子どもたちのアンケートをもとに、さまざまな仮説を立てながら追究を進めていきました。指導していく中で、一番心がけたことは、「小学生らしく」ということでした。常に彼女たちと話し合いながら、彼女たちの理解を超えないように、ていねいに追究を進めていきました。今回、彼女たちの努力を認めていただき感謝しております。今後も、一人でも多くの子どもたちに自然を追究する楽しさを感じさせたいと思います。ありがとうございました。