研究のきっかけと目的
昨年の研究で、カタツムリもナメクジもヌメヌメを出して体を守ったり、歩きやすくしたりして、危険な所も平気で進めることが分かった。でも、砂まみれの体をきれいにする方法に大きな違いがあり、びっくりした。歩いた後のテカテカは何日たっても残っていて、不思議だった。ヌメヌメのねん液についても知りたくなった。ヌメヌメに、ほかに同じところや違うところはないか、どんなパワーをもっているのか、くわしく調べることにした。
(1)ヌメヌメはどこから出すのかな?
《方法》
カタツムリとナメクジを虫めがねで観察する。
《結果》
カタツムリは、しっぽの近くで、少しへこんだ所から出ていた。進むときと体をきれいにするときに、サーッと出していた。ナメクジは、同じようにしっぽの近くから、いつでもヌルッとしみ出ていた。へこんだ所はなかった。
(2)ヌメヌメを顕微鏡で見たら?
《方法》
①ぬれているヌメヌメ(倍率70倍)②かわいた後の膜(200倍)③かわいたら結晶ができた(100倍)
〈カタツムリ〉ヌメヌメの膜がうすく、細胞がふりかけみたいにパラパラと浮き出ている。かわくと、細胞が集まって、太い幹と枝みたいに結晶ができた。歩いた後のすじはほとんど残っていない。
〈ナメクジ〉ヌメヌメの膜が厚く、つぶがからみ合っている。かわくと細胞が1列に並んだ。膜はゼリーみたいで、流氷のようにしき詰められている。
(3)ヌメヌメの重さはどのくらいかな?
《方法》
カタツムリ、ナメクジ各10匹。水分がかわいてしまわないように、湿度100%の大雨の日に、部屋を閉め切って実験した。プラスチック板の上で、ヌメヌメを出さなくなるまで歩かせておく。板についたヌメヌメの重さ、体重を精密ばかりではかる。
〈カタツムリ〉平均して体重の2.9%のヌメヌメを出す。全部出すとカラの中に閉じこもる。カラの中で体をしめらすと、また出て歩くが、元気がなく遅い。ヌメヌメは、最初は水分たっぷりだが、だんだん量が減って細くスカスカになる。
〈ナメクジ〉平均して体重の12.2%のヌメヌメを出す。全部出すと黒くちぢんで、動かなくなる。外から水分をもらうまで、何時間でもちぢんだままだ。ヌメヌメがなくなると、量が減って細くぬらして歩くだけになる。
(4)ヌメヌメの重さは、時間がたつにつれて変わるのかな?
《方法》
ヌメヌメがかわいて、0.01gずつ減っていく時間、様子を記録する。
〈カタツムリ〉ヌメヌメの重さ0.07gは9分40秒でかわいた。かわき方は0.01~0.02gは急げきにかわき、その後ゆるやかになって、また急げきになった。0.03gぐらいまではぬれていることが目で見て分かるが、それより軽くなると見えない。でもはかりの数字は減っていた。
〈ナメクジ〉ヌメヌメの重さ0.07gは10分20秒でかわいた。かわき方、見え方もカタツムリと同じだ。プルプル→テカテカ→シワシワ→ペシャンコというようにかわいた。
(5)テカテカはいつまで残っているのかな?
《方法》
プラスチック板でかわいてテカテカになったものを、庭(自然のまま)、日なた、日かげ、雨、風、部屋、プラスチックケース(湿度100%)の中に30日間おいて観察する。
《結果》
カタツムリ、ナメクジともに、テカテカは庭、日なた、日かげ、風、部屋、プラスチックケースでは30日間変化がなかった。パラパラ雨の場合は、カタツムリ、ナメクジともにテカテカが少しずつ消えてなくなった。溶け出したような様子はなく、いつの間にか消えていた。大雨に当たると、カタツムリ、ナメクジともにテカテカは一気に消えた。やはり溶け出した様子はなく、いつの間にか消えた。
(6)テカテカが消えてなくなる様子は?
《方法》
日なた、日かげ、くもり、雨の日に、5分おきに(変化が少ない場合は、なくなる日まで)記録する。
〈カタツムリ〉日なた、日かげ、くもりでは5分後にセロハンが反射したように虹色に見えた。さわっても何も感じない。大雨では12分後に油が浮いてきた。その後見えなくなった。
〈ナメクジ〉日なた、日かげ、くもりでは5分後に膜をはったように見え、さわるとのりが固まったように引っかかった。大雨では28分後に見えなくなった。
(7)ヌメヌメには、ほかにどんな性質があるのかな?
《方法》
①のびる長さ②石けんでヌメヌメは取れるか③酸性かアルカリ性か④何かを溶かす性質があるのか、を調べる。
〈カタツムリ〉ヌメヌメは1.8cmのびた。水につけると、すぐにかたくなり、のびない。石けんのあわがついた瞬間からヌメヌメが溶け出し、プチプチとあわがはじけてどんどん消えた。弱アルカリ性だが、身の周りの石油製品や食品、紙、ゴム、鉄など、何も溶かさなかった。
〈ナメクジ〉ヌメヌメは2.9cmのびた。水につけるとすぐにかたくなるが、のびる。石けんには変化がない。弱アルカリ性だが、カタツムリと同じように、身の周りのものは何も溶かさなかった。
(8)ヌメヌメに、虫やカビをよせ付けない力があるのかな?
ぬれているときのヌメヌメ、かわいた後のテカテカは変なニオイだ。
《方法》
①ヌメヌメを付けたプラスチック板と付けていない板を置き、10分間に虫が何匹よって来るか調べる。②食パンにヌメヌメをつけ、カビがはえる様子を観察する。
〈カタツムリ〉ヌメヌメに虫はあまり来なかった。来てもすぐ逃げた。板にぬってなくても、近くにあるだけで虫は来ない。白カビ、青カビ、黄カビがはえた。カビをおさえることはできなかった。
〈ナメクジ〉ヌメヌメに虫がいっぱい来た。ヌメヌメを食べに来た虫もいた。近くにヌメヌメがあればよって来る。カビについては、はえた量はカタツムリより少ないが、完全におさえることはできなかった。
(9)ヌメヌメは、食べ物によって色やねばり気が変わるのかな?
昨年は、食べ物によってフンの色や様子が違うことが分かった。今年はヌメヌメも違うのか実験した。
〈カタツムリ〉かたい物(土、きな粉、トマト、ニンジン、キュウリ、パプリカ)を食べると、食べ物の色がつぶになって、ヌメヌメの中に出てきた。水分だけの氷みつ(赤、黄、緑)は、同じ色の水玉となって出てきた。水分の多い物を食べた場合、ヌメヌメのねばり気が少なくなり、水のようになった。皮のかたい食べ物(ナスビ、トマト)では、ヌメヌメはねばり気が多い部分と少ない部分に分かれた。
〈ナメクジ〉土やナスビの皮のような黒っぽい色の物を食べた場合、ヌメヌメは透明で色は出なかった。水分の少ない物では、ヌメヌメは粘り気が強く、厚みもあって、ゼリーの固まりのようだ。
カタツムリもナメクジも、ともに食べ物の色やかたさ、水分の量によって、ヌメヌメの色やねばり気に影響を受けることが分かった。
感想
カタツムリとナメクジでは、ヌメヌメの量やねばり気の強さ、のび方などに大きな違いがあった。このねばり気と量の違いから、ナメクジが砂まみれから、脱皮するように砂を脱げる理由が分かった。カタツムリは水分が蒸発するのを防ぐために「夏眠」することが分かった。祖先は同じでも、長い間のうちに、生活しやすいように変化してきたのだ。今年初めて顕微鏡や精密ばかりを使い、今までとは違う世界をたくさん見ることができて、すごく感激した。
審査評[審査員] 髙橋 直
カタツムリとナメクジのヌメヌメ(専門用語では粘液というのだが)についての研究である。体重あたりのヌメヌメの重さがカタツムリよりナメクジの方がずっと多いこと、ナメクジのヌメヌメの方がカタツムリのものより粘り気があること、カタツムリのヌメヌメの方が乾きやすいことを定量的に見いだすとともに、両者が這ったあとに残るヌメヌメを顕微鏡で観察して、はった直後のヌメヌメ、時間がたって乾いたヌメヌメのそれぞれで、さまざまな違いを見いだしている。さらに、食べ物によってヌメヌメの色や粘り気がちがってくることも観察しており、ここでも顕微鏡が活躍している。 本研究はナメクジに興味を持って始めた3年目のものということだが、今年初めて精密なはかりや顕微鏡を使用したことにより新しい発見をしている。着眼点、方法それぞれについて着実に進歩していることが見てとれ、まだ3年生であることを考えても、今後の発展が楽しみな論文である。
指導について片岡 美佐子
保育園の時に見つけた「カラをぬいだカタツムリ」に端を発し、1年生の時からナメクジとカタツムリの生態を調べ、両者の共通点や相違点をたくさん見つけてきた。その中で粘液にも多数の違いがあることに気付いた。今年はその粘液の違いを詳しく調べることにした。初めて顕微鏡や電子秤を使用し、数値化することにも挑戦した。慣れない機器の指導は大変だったが、顕微鏡で見るとやわらかいはずの粘液が実はゴツゴツした岩のようで、まるで宇宙みたい!と感激した。電子秤では0.00の単位まで量ることができ、見ても触っても感じない重さが数値で表れることに感動の連続で、目を輝かせて取り組んだ。一方で、ナメクジが脱走し姉の靴に入り大ブーイングだったり、兄の研究中のダンゴムシにナメクジのヌメヌメが絡み動けなくしたりと、ハプニングの続出で大騒動だった。世間ではとかく嫌われがちな両者に、本人はだんだん愛情が湧き「かわいい」と言うまでになってきた。