第46回入賞作品 中学校の部
文部科学大臣奨励賞

風と羽根のコラボレーション
-その時、風車は回った!-

文部科学大臣奨励賞

沖縄県沖縄尚学高等学校附属中学校 2年
塚本 真依
  • 沖縄県沖縄尚学高等学校附属中学校 2年
    塚本 真依
  • 第46回入賞作品
    中学校の部
    文部科学大臣奨励賞

    文部科学大臣奨励賞

研究の動機

 奇妙な形の羽根を持った風力発電機をテレビで見た。通常の三枚羽根のプロペラ型風車に似てはいるが、そのプロペラ部分はらせん状の羽根が軸に取り付けられている変わったものだった。この風車がどのように回るのか、生み出す電圧はいったいどれくらいあるのか。いろんな形のブレード(羽根)を作り、その電圧や電流を測定し、比較してみたいと思った。

研究の目的

 水平軸風車の風力発電装置を作りブレードの形をいろいろ変えて、電圧・電流を測定する。その中で、効率よく電気を発生させることのできるブレードや条件を考察し、風力発電についての理解を深める。

研究の仮説
ブレードの面積が大きくなると、回転力も大きくなり、電圧・電流は高くなる。
ブレードの質量が大きくなると、回転力も大きくなり、電圧・電流は高くなる。
ブレードの枚数が多くなると、回転力も大きくなり、電圧・電流は高くなる。
ブレードの形によって、回転数や回転力は異なる。
研究を始める前に

《実験装置》

製作には綿密な作業が多く、時間を取られ、実験が出来なくなる懸念がある。 父や伯父と相談した結果、私が出来るようなところは、必ず自分でやること。 面倒なことでも手抜きしないこと。危険と思われる機械の操作は、集中してやること。 あきらめずに最後までやり遂げることなどを条件に、伯父が装置の製作をしてくれることになった。

〈風力発電装置〉

三枚羽根プロペラ型風車を基本とした風力発電装置を2基製作し、ブレードの取り替えが容易に出来るようにしてもらった。1号機はブレードのピッチ角を自動的に変えられるようにするため、低速のギアを付けたモーターを取り付けた。発電機には、ギア比(11.6:1)の変速機を付けたモーターを用いた。2号機は、ブレード自体が各々回転するような装置にしたかったため、ベアリングを入れ、回転しやすくした。(ピッチ角を変化させることはできない)発電機は1号機と同じである。1号機ではピッチ角によって回転数に変化があると思われるブレードでの実験を行い、2号機ではらせん状やねじれのある多翼のブレード実験を行った。

〈風洞装置〉

アクリル板を円筒状にし送風機を取り付け、風の流れを作り出す装置。ブレードを作り、扇風機の風によって回るかどうか確かめた際に、ちょうど台風時期ということもあって、他からの風の影響がとても大きいことに気がつき、この風洞装置を考え、作ってもらった。送風機の周りから、ドライアイスを用いて冷気を入れるための穴も開けてもらった。風洞内の温度を下げて、測定してみようと考えたからだ。

〈コントロールボックス〉

風力発電装置を風洞内に入れて実験をする際に、ブレードやヨー制御(風車を常に風の方向に向けるための方位制御)を風洞の開閉をせずに、風洞外から簡単に行うため、また、電圧・電流の測定を行うために製作した。ハブに取り付けられたピッチ制御用モーターからの配線や、ヨー制御用のコード、発生した電圧や電流の出力用コードなどを、風力発電装置のタワーから引き出して端子ボックスにつなぎ接続。風洞装置の送風機の電源スイッチや風量スイッチもコントロールボックスに接続した。

〈スリップリング〉

回転体から電力を取り出す際に、電線がねじれないように、回転するリング(円環)部分にブラシを回転接触(スリップ)させるための装置。今回初めてこのような仕組みを持った機械の存在を知った。回転体にコードが接続されていたら、コードはねじれてしまう。どうなっているのか、不思議に思っていた。銅板を細いリング状に切り、アクリル板に取り付け作っているのを見ても、仕組みを理解するのが難しかった。

〈ヨー制御角度確認装置(私が勝手に命名)〉

風洞内で風力発電装置をヨー制御した時に、その角度を確認するための装置。いくつかのアルミ管の小さな穴をのぞき、風力発電装置の基準が見えた時のアルミ管の位置が、ヨー制御の角度となる。これは「象限儀」という昔の測量道具から思いついて、作ってもらった。象限儀は縦になっているが、この仕組みを横に用い、水平方向に 角度5°ずつの間隔で置いたアルミ管を通して確認できるようにした。

〈ピッチ角確認板〉

風洞内で最も高い電圧を得ることの出来たピッチ角を、後から確認するために考えたもの。ブレードの厚みによってピッチ角の基準となる位置が異なるため、確認板に直線を引き、これに対して直角になるような線をブレード面から下ろしてきて基準とする。実験後に風洞装置から出し、この基準とブレードとの角度を測りピッチ角とする。

〈ブレード〉

ブレードはアルミ板で作ることにした。面積の違いが分かりやすいように、平面でねじれのないブレード。質量の違いによる測定にはアクリル板を用い、中に水を入れて重さを変える工夫をして作ってもらった。また、曲がりを入れたブレードも作った。アルミ板を切っている時に、アルミ板がねじれてくるのを見て思いついたもので、実験3、4、5で用いた。

予備実験

 製作したいろいろな形のブレードを使い、電圧・電流がどのくらい出るものなのかを調べた。このとき風量は「強」とし、ピッチ角・ヨー制御角度は最大電圧となるように設定し、測定値を出した。風力発電装置は1号機を用いる。

《考察》

ブレードの形によって、回転数(目視)や電圧・電流は変わる。同じブレードでも、回転軸に取り付ける向きを変えるだけで出力に違いがあった。最大出力が出るようにピッチ角・風向を個々に探した。ブレードの形状の違いで最適なピッチ角・風向が違うのは予想していたが、同じブレードでも取り付けによって変わるとは思わなかった。風受け面の抵抗によるものだろう。ブレードの羽根の枚数が多ければ、出力もより大きくなると思ったがそうではなかった。

実験1 ブレードの面積の違いによって電圧・電流は変わるか?

《仮説》

ブレードの面積が大きいほど、電圧・電流はともに大きくなるのではないか。

《結果》

《考察》

やはり、面積の違いによって電圧・電流は違うことが分かった。これは風を受ける面が大きくなることによって、回転力が大きくなるからだと思われる。
風量によって電圧・電流の差がみられた。目視による回転数の違いは、小さいブレードの方が速く回っているように感じたが、出力は小さかった。風受け面が小さいため、回転数は多いが、回転力にはつながらなかったのかもしれない。ピッチ角の3°の差は、測定の誤差や回転軸のブレによるものかもしれない。ヨー制御による風向の角度が大きいことが予想外だった。送風機が近いための影響なのだろうか。

実験2 ブレードの質量の違いによって電圧・電流は変わるか?

《仮説》

ブレードの質量が大きいほど、電圧・電流ともに大きくなるのではないか。

《結果》

《考察》

アクリルのブレードにしたのは、浮き輪の中に空気を入れるようにブレードの中に色水を入れるような工夫をすれば、重さ(質量)の違うブレードが出来るのではないかと考えたからだ。しかし色水によって重くなりすぎ、ブレードは動かず、測定不能となってしまった。入れる色水の量を減らせばと考えてもみたが、これでは、回転によりブレードの重心が常に変化してしまい、回転軸に余計なブレを生じさせてしまう。さらに、今後の実験にも支障が出そうだったので、実験を中止した。

実験3 羽根の枚数の違いによって電圧・電流は変わるのか?

 羽根の枚数が異なる「ねじりブレード」によって電圧・電流は変わるのかを、ダリウス型風車を水平軸にしたものを作り、実験した。

《仮説》

羽根の枚数の多い方が電圧・電流ともに大きくなるのではないか。

《結果》

〈おまけ1〉

さらに羽 根の枚数を12枚に増やして調べた。予想に反して電圧・電流は低かった。しかし測定値の変動範囲は最も小さく、より安定していた。目視による回転数や回転音も一定していたように思う。羽根が1辺に2枚固定されていることにより、ブレード内部に風の渦ができ、回転を妨げるような力が働いたため、回転数が上がらなかったが回転力が増し、一定の出力を得られたのではないか。

〈おまけ2〉

さらに出力を上げてみたいと思い、ブロワーで風を送ることにした。この小さな発電装置で、電池と同じぐらいの1.56Vの電圧が出るなんて考えもしなかった。風は台風並みだった。 ブレードの重さがあり、回転力があるために、こんな出力が出たのだと思う。ペットボトルなどの軽いものでは、回転数は相当数あるだろうが、回転力にはならないだろう。

実験4 ブレードの大きさの違いによって電圧・電流は変わるのか?

実験3で用いた4枚羽根の変形ブレードの大きさを変えて、電圧・電流が違うか調べた。

《仮説》

羽根の大きい方が電圧・電流は大きくなるのではないか。

《結果》

《考察》

ブレードが大きくなると、やはり電圧・電流は大きくなる。風受け面積が大きいほど高出力となるが、回転する速度は遅くなってくる。ブレードが大きくなると回転による軸のずれがあり、風量を変化させると一時、極端な出力低下がみられた。風量が弱くなると、ブレードの大きい方が、小さいものより電圧・電流の下がる度合いが大きい。ブレードが大きければ出力は増すが、回転させるにはそれなりの最小限の風量が必要となるためなのだろう。回転数が少なくても回転力が大きい、ということなのだろう。

実験5 ブレードの形状の違いによって電圧・電流は変わるのか?

実験4で用いた「小」のブレードと同じ長さで、太さと形を変えたブレードを比較してみる。

《仮説》

形状の違いによって、電圧・電流は異なる。 風受け面の一部を切り取ったことにより、回転数は増え、出力も大きくなる。

《結果》

《考察》

実験3、4で回転する「ねじりブレード」をよく見ていると、そのねじり具合によって、風を受けて回転しようとする面、その逆に働こうとする面、そのどちらでもない面があるように感じた。その「どちらでもない」部分をなくしてしまえば、ブレードは効率よく回転するのではないかと考えた。ブレードに紙をはり、この部分を写してハサミで切り取ると、残ったものはプロペラの形をしていた。プロペラの両端を固定位置にして回転させているのが、このブレードなのだ。両端を固定することによる曲がりが、プロペラのねじりと同じような作用をする。そして、接点(固定部分)が2つあるよりも1つの方が、より効率よく回転数を得られることも理解することが出来た。
  結果はやはり、この無駄な部分を削り、プロペラ様にしたブレードの方が出力は大きかった。ブレードの重さや面積も大きくなったため、電圧・電力の測定値の変動範囲も狭く、安定していた。

実験6 らせん状ブレードは回転するのか?

《仮説》

3本のらせん状のブレードが回転し、さらにローターが回転するならば、より多くの出力を得ることが出来るのではないか。

《結果と考察》

風力発電装置2号機で実験した。これはハブに取り付けた3本の軸に各モーターをつなぎ、それぞれのブレードに回転を与えることができるようにしたものだ。らせん状のブレードそれぞれが回転する力(自転)と、ローターが回転する力(公転)が合わさったら、より大きな力となって発電装置のモーターを回せるのではないかと考えた。結果は、わずかに動いたが、電圧を測定できるような回転にはつながらなかった。
 次に、各ブレードがモーターではなく、自由に動くようにしたハブに取り替えて実験した。3本のらせんは同時に回転することはなく、1本が自転しても他の2本は動く気配すらない。ローターの回転によっては、その1本も止まってしまった。風量をより強くするためブロワーを用いた結果、らせん2本はよく回り、他の1本は回らなかった。ローターはわずかに回転した。 さらにらせん自体の回転は止まっても、ローターは回転し続けていた。これは、らせんがいくつかの羽根のような役割をもち、3枚羽根プロペラの1枚のブレードに複数の小さなプロペラが付いているのと同じことになるのではないか。
 また、風量が弱い時はらせん自体の回転があり、風量が強い時はらせんの回転が止まった。これは、強風時にブレードのピッチ角を変えて回転を抑えることに似ているのではないか。らせんはねじれによって風を受ける面と、逆に風を逃がす面を持っている。強風時には、らせんの隙間に風の小さな渦ができて回転を止めてしまうとは、考えられないだろうか。

付録の実験

 夏と冬で風力発電によって得られる電気に差があるのか、という疑問をもった。暖かい空気は軽く、冷たい空気は重い。ブレードにこれらの空気(風)が当たる時に、回転数や回転力に影響はないのだろうか。重いものがぶつかった時の方が衝撃は大きい。ならば、冬の冷たい(重い)風の方が電圧・電流ともに大きくなるのではないか。
風洞装置の送風機の周りからドライアイスで冷気を送り込み、測定してみた。

《結果》

《考察》

温度によって空気の重さに違いがあるという。わかりやすく、空気より冷たい(重い)ドライアイスの風を当てることにより、回転力も増すのではないかと考えた。やはり風の温度によって、電圧・電流に違いが出た。外気温と風洞内温度の差がもっとあれば、その違いはもっと歴然としただろう。

まとめ

ブレードの面積が大きくなると風受け面も大きいため、力強く回転し、出力は大きい。
ブレードの質量が小さい方が回転数は多くなる。しかし、回転数の多いことが回転力となるわけではない。
ブレードの形状によっても出力は異なる。
風が強い方が出力は大きい。
ブレードの形状によりピッチ角が異なる。また、風向の角度も異なる。
ブレードのねじりの度合いによっても出力は変わる。
  温度の変化によっても出力は変わる。

――これらのことを、実験によって確かめることができた。  尽きることのない自然のエネルギー「風」を理解し、活用していくことの難しさを知った。風の全エネルギーをすべて取り出すことが出来ないということも、この実験を通して改めて分かった。

おわりに

 風力発電に対する認識の甘さを実感した。「ブレードを回して電圧・電流を測定する」という単純なことではなく、分からないこと、理解しがたいことが多かった。実験をしていく中で、風の動きやその性質がわずかに分かりかけてきた。反省点も多かった。事前学習の不足、実験計画の甘さ、実験装置に対する理解不足など。途中で、必要な装置や操作があることを知り、そのたびに追加の作業があった。調べたいこと、やってみたいこと、疑問もわいてくる。それをできる状況にあることに感謝したい。

指導について

指導について沖縄尚学高等学校附属中学校 伊元九弥

 偶然、テレビで見た奇抜な形状の風力発電機に対する好奇心から始めた研究である。いくつかの仮説を設け、それぞれを検証するために必要と思われる機材のほぼ全てを製作している。とくに、可能な限り一定の風を送るための風洞製作や、ブレードと呼称されている羽根に角度をつける際には細心の注意が払われている。それら一つ一つをとってみても、大人顔負けの装置であるが、羽根の代わりに紙の団扇を使ったり、CDを使ったりと子供らしいユニークな発想も織り込まれている。
  また、昨年の研究と同様に、自分の仮説が覆されたり失敗したりすると、立ち止まることなくそこから新たな発想を展開させている。その柔軟性こそが、好奇心を好奇心のままでは終わらせない彼女独自の持ち味であろう。これからも分野を問わない好奇心を持ち続け、さらなる可能性の飛躍を期待している。

審査評

審査評[審査員] 小澤紀美子

真依さん、文部科学大臣奨励賞受賞おめでとう。小学校時代からの実績を着実に積み重ねて得た受賞ですね。小学校4年生の時にアメリカで見た風力発電の風車のカタチに興味を持ったという下地があったとはいえ、テレビの画面からも素早く一般的なモノとの違いを読みとる感性に感服します。さらに大がかりな実験装置を作り上げ、きめ細やかな実験と試行錯誤を繰り返す、その粘り強さと探究心はすでに科学者です。
  今、地球環境の最大の課題は温暖化問題です。真依さんが近い将来、エネルギーの分野の科学者として活躍してくれることを大いに期待しています。

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