小学2年生のときからスベリヒユ科の多年草「花すべりひゆ(ポーチュラカ)」について研究してきました。8月下旬の開花標準時刻は午前7時30分です。ところが、同月18日午前6時58分には、この日の開花予定の18個のつぼみのうち、8個が早く咲いていました。同じ環境にある花の開花時刻に30分以上の違いが出たのは、これまで初めてです。よく観察すると咲いている花の上部は虫に食べられたものです。まだ咲いていないつぼみ10個は正常でした。
虫に食べられた花が開花標準時刻よりも早く咲いたのは、虫に食べられたことで花の内部と外部のへだたりが薄くなり、花の内部にあるおしべが開花のきっかけとなる「外部の気温の上昇」を感知しやすくなったからだと考えました。
「おしべ」と限定したのは、これまでの観察や実験でつねにおしべがキーポイントになっていたからです。3年生の時の研究(Part2)では、一見不合理に感じられたおしべの短さから、花は「与えるために咲く」ということを学びました。また、おしべの色と花びらの外側の色が必ず一致していました。4年生のときの研究(Part3)でも、おしべは気温・限界時間(花すべりひゆは12時間以上は咲いていない)以外の花の閉じる原因と深く関連していました。
そこで今年の研究では、「花すべりひゆは、開花のきっかけとなる温度の上昇をおしべで感知する」ということを仮説に証明します。
① | 開花時刻の相違は虫食いに限らず、はなびらの重なりが薄くなる、または無くなることに起因することを確認する。 |
② | 根、葉、茎の有無が、開花に影響しないことを確認する。 |
③ | がくの有無が、開花に影響しないことを確認する。 |
④ | めしべの有無が、開花に影響しないことを確認する。 |
⑤ | おしべの有無が、開花に影響しないことを確認する。 |
⑥ | 気温の変化の異なる時間帯に、おしべの有無による開花時刻の相違を調べる。 |
⑦ | 1~6の実験結果から、花すべりひゆが開花のきっかけとなる温度の上昇を、おしべで感知していることを証明する。 |
※今回の実験・観察は、すべて自宅の駐車場南東のプランターで行います。検体として用いた花は、特に記述していないもの以外は10個ずつ10日分(8月19-28日)を用意し、結果は10日間の平均値で表示します。
実験
予想
・虫食いが原因ならば、つぼみの上部の有無に関係なく、上部の有るものも無いものも同時刻に咲くはずです。
・上部の有無が原因ならば、上部の有るものはこの時期の標準開花時刻の7時30分に咲き、上部の無いものはこの時刻よりも早く咲くでしょう。
結果
・上部の有るつぼみは標準時刻の7時30分に咲きました。
・上部を切り取ったものは22分早い午前7時08分に開花しました。
このことから
原因が何であれ、つぼみの上部が無いと花は早く咲くことが証明できました。実験
予想
・根、茎、葉が開花に影響するならば(あ1)(い1)(う1)(え1)のそれぞれの開花時刻が異なるはずです。(あ2)(い2)(う2)(え2)のそれぞれの開花時刻にも違いが出るはずです。
・根、茎、葉が開花に影響せず、つぼみの上部の有無だけが影響するのならば(あ1-あ2)(い1-い2)(う1-う2)(え1-え2)の開花時刻が異なるはずです。
結果
・(あ1)(い1)(う1)(え1)の開花時刻はほぼ同じでした。
・(あ2)(い2)(う2)(え2)の開花時刻もほぼ同じでした。
・(あ1-あ2)(い1-い2)(う1-う2)(え1-え2)開花時刻は30分以上異なりました。
このことから
根、茎、葉は開花時刻に影響しないことがわかりました。実験
・(お1)~(き2)について、それぞれの部位の有無による開花時刻の相違を確かめる。
※がくの基部は、タンポポでは明るさをチューリップでは適温を、マツヨイグサでは暗さを感知して開花をつかさどるといわれる部位です。
予想
・がくが開花に影響するならば(お1)(か1)(き1)のそれぞれの開花時刻にも違いがでるはずです。
(お2)(か2)(き2)のそれぞれの開花時刻にも違いがでるはずです。
・がくが開花に影響せず、つぼみの上部の有無だけが影響するならば(お1)(か1)(き1)のそれぞれの開花時刻は同じはずです。(お2)(か2)(き2)のそれぞれの開花時刻は同じはずです。
結果
・がく、おしべとも180度開いた。(お1)(か1)(き1)の開花時刻、(お2)(か2)(き2)の開花時刻はほぼ同じだった。
このことから
がくは開花時刻に影響しないことがわかりました。実験
・(く1)~(け2)について、それぞれの部位の有無による開花時刻の相違を確かめる。
予想
・めしべが開花に影響するのならば(く1)(け1)のそれぞれの開花時刻が異なるはずです。
(く2)(け2)のそれぞれの開花時刻にも違いがでるはずです。
結果
時刻、(く2)(け2)の開花時刻はほぼ同じだった。
このことから めしべは開花時刻に影響しないことがわかりました。
実験
・(こ1)~(さ2)について、それぞれの部位の有無による開花時刻の相違を確かめる。
予想
・おしべが開花に影響するならば(こ1)(さ1)のそれぞれの開花時刻が異なるはずです。
(こ2)(さ2)のそれぞれの開花時刻にも違いがでるはずです。
結果
・おしべをのけると、がく、花びらとも180度開かない。(さ1)は(さ2)よりも30分早く咲いた。(こ1)と(こ2)はあまり違わずに咲いた。(ただし標準時刻より75分も遅い)。
このことから
おしべがないと開花時刻が遅くなる。おしべがないと180度開花しないことが分かりました。実験
・実験Ⅴの結果を受けて、おしべに気温の情報を感知させれば開花が早くなるはずと考え、次のような実験をしました。
結果
・失敗。あまりに直接過ぎておしべも花びらもしおれてしまいました。
実験
予想
・つぼみの上部を切り取った花のほうが、より気温を感知しやすいはずだから、早く180度開花するだろう。
結果
・上部を切り取った20個の花の平均開花時刻は午前7時13分、切り取らない20個の花の同時刻は午前7時29分だった。
このことから
上部を切り取った花のおしべの方が、外部の温度上昇敏感に感知しやすい可能性は十分にあるといえます。実験
・開花のきっかけとなる気温の上昇を感知するのはおしべであり、上部の無いつぼみはより敏感にそれを感知する---ことを証明するために、日の出前後の気温上昇の著しい時間帯に実験をしてみました。
方法
・「午前4時につぼみの上部を切り取り、その後30分ごとにおしべをのけたもの」と「上部はそのまま残し、その後30分ごとにおしべをのけたもの」について、それぞれの開花時刻を比較します。それぞれ40個ずつ用意して、30分ごとに5個ずつ処理します。開花時刻はその5個の平均値とします。
・8月下旬における駐車場南東のプランター周辺の気温は、午前4時の24℃が午前5時にはいったんやや下降します。午前5~6時は23.5℃から27℃へ、1時間で3℃以上も上昇します。午前6~7時は1時間に2℃、そこで(1)気温の上昇がない午前5時30分まで(2)気温の上昇が大きい午前5時30分~午前7時(3)午前7時以降、の3つに区切って開花時刻を調べます。
予想
・上記(2)の時間帯においておしべがあり、つぼみの上部があるもの(a)と上部が無いもの
(b)の開花時刻のうち、(b)が早い場合は、おしべは気温上昇を(a)よりも敏感に感知していると言えます。しかし(a)(b)の開花時刻が同じの場合は、そうは言えません。
結果
・午前5時30分までにおしべを取り除いた花は、(a)(b)ともに午前8時45分まで咲かなかった。これは標準時刻より75分も遅い。
・午前6時30分以降におしべを取り除いた花のうち、(a)の上部有りは午前7時25分(標準時刻より5分早く)咲いた。(b)の上部無しは午前7時15分(標準時刻より40分早く)咲いた。
・午前6時におしべを取り除いた花のうち、(a)の上部有りは午前7時40分(標準時刻より10分遅く)咲いた。(b)の上部無しは午前7時15分(標準時刻より15分早く)咲いた。
このことから
・午前5時30分~6時(最も気温上昇の著しい時間)におけるおしべ、つぼみ上部の有無が開花時刻に大きく影響している。おしべはこの時間帯に、開花のきっかけを感知していると考えられます。まとめ
以上の観察・実験の結果を総合的に考えて、現時点では「花すべりひゆが、開花のきっかけである温度の上昇をおしべで感知しているという可能性はきわめて高い」。反省
おしべの処理の際、上部を切り取ったつぼみの場合は、ピンセットや毛抜きなどで割りと簡単に取り除くことができました。しかし、上部を残したままおしべを取り除く場合は、花びらなどをかなり傷つけてしまいました。観測値に影響があっただろうと思います。また実験Ⅵについては、もう少し工夫ができれば良かったとも思います。感想
私は小学2年生のときからずっと、花すべりひゆの研究を続けてきました。5年間の研究で「科学の楽しさは、湧き上がってくる不思議を仮説と実験で解き明かすことだ」と知りました。今年はさらに「新鮮な知的好奇心は、積み重ねてきた知識と観察を土台にして、ますます広がるものだ」としりました。観察・実験はとても地道な作業で、時に投げ出したくなることもありましたが、私に発表の場があったことが継続への大きな後押しの一つであったことを、付け加えておきます。
指導について竹崎良美
2年生の夏、たった一つの不思議から始まったこの研究は、夏姫にも私にもたくさんのことを学ばせてくれました。ひとつの不思議を科学的に追究したさきで彼女が出合ったものは、単なる数字や事実ではなく、生命の持つ力強さと温かさでした。「花すべりが、いい種を残したい気持ちいっぱいでお招きした花蜂もその花粉で自分の大切な大切な幼虫を育てているのです。わたしはなんだかとっても幸せな気持ちになりました」---これは3年生のめしべの研究の結びの1文です。4年生のおしべの研究では「花は実を結ぶために咲くのではなく、仲間に実を結ばせるために咲くのです。わたしはそこに植物のすごさを感じます」と結んでいます。私は、専門的な科学知識を持ちませんので、彼女の研究の科学的意義はわかりませんが、彼女に命の偉大さを伝えてくれた科学にただただ感謝しています。また、今年の研究では「新鮮な知的好奇心は積み重ねてきた知識と観察を土台に益々広がるものだ。湧き上がってくるふしぎを仮説と実験で解き明かすことが、科学の楽しさだ」と記しています。
彼女の今後の研究が、生命の尊厳と神秘を感じ伝えられるものであって欲しいとそれだけを願っています。
審査評[審査員] 金子明石
研究は継続することがレベルを高めることにつながります。同一方向の研究を重ねていると細かい所に気がつくようになり、それを追究しようと思い立ったときにレベルは一段と高い所に昇っているのです。竹崎夏姫さんはまさに上に私が述べたことを実行している貴重な研究者の卵です。小学校の低学年から花の構造や開花について研究し、環境条件との関係を中学年で、更に高学年では、開花をうながす気温上昇をオシベが感知していることを明らかにしています。花についての研究の他に研究材料の花すべりひゆは炎天下でもしおれない植物であり葉の構造を調べたりしている。花の観察記録が詳細で色々の情報を得ることに成功している。スケッチ、グラフともしっかりしている。受粉と花の動きに関してハナバチが来た時だけおしべが真ん中にぐんと集まってくるなどいくつかの事実を明らかにしている。
とにかく小学校6年生にしては素晴らしい作品でした。中学生になってもぜひ研究を続けて欲しい。
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