好きなスポーツはサッカーです。ワールドカップで見た本田選手や遠藤選手のフリーキックはすごかったです。ボールのける場所によってボールがどのように回転し、曲がるのか、無回転フリーキックはどうして決まるのか、調べたくなりました。ふとんバサミのバネを使ったキックマシンを作り、実験しました。
(1)ボールのける場所を変えると、回転や飛び方はどのように変わるのか。
(2)ボールをける力を変えると、飛び方はどのように変わるのか。
(3)風の吹いている所では、ボールの飛び方がどのように変わるのか。
キックマシン「本田くん」
お父さんに手伝ってもらってキックマシン「本田くん」を作った。ボール(直径6㎝、重さ8.1gのプラスチック製)をはじく(ける)のに利用したのはふとんバサミだ。片方の腕を途中で切り、プラスチックの書類立てに針金で取り付けた。書類立ての底の部分には、ボールの発射台として発泡スチロールの板を置いた。発射台を支える割りばしの高さを変えることで、ボールに当たるキックの高さを変えることができる。また針金での固定の仕方を変えることで、横方向にもずらしてけることができる。さらに安定するように、書類立てを高さ6㎝のプラスチックのかごの上に針金で取り付けた。指サック(サッカーシューズがわり)をつけたふとんバサミの「足」を引いて離すと、ばねの力で発射台のボールをけることができる。ボールには回転方向が分かるように、模様をつけた。
〈方法〉
ふとんバサミの足を10㎝引き、キックする。ボールの回転の向き、6.5m先のかべに着くまでの時間、飛んだ距離、飛んだ高さ(一番高いところ)、着地点で横にずれた距離、かべに着いた時に横にずれた距離を測定し、10回繰り返した。なお、高さをタテ軸、飛んだ距離を横軸とした方眼グラフに測定結果を点でうち、10個の点の集まりの真ん中を各実験の「高さ」「飛んだ距離」とした。また着地点、かべでの横ずれの距離についても、同様の方法で中心となる数値を決めた。
〈結果〉
① | ボールの真ん中をけった時 回転の向き:無回転。かべまでの時間:1.56~1.98秒。高さ:28㎝。 飛んだ距離:2m。横のずれ:着地点でも、かべに着いた時にもなかった。 |
② | ボールの真ん中より1㎝下をけった時 回転の向き:逆回転。かべまでの時間:1.68~2.37秒。高さ:20㎝。 飛んだ距離:1.4m。横のずれ:着地点でも、かべに着いた時にもなかった。 |
③ | ボールの真ん中より1㎝上をけった時 回転の向き:飛んでいく方向にタテ回転。かべまでの時間:1.25~2.0秒。高さ:25㎝。 飛んだ距離:1.90m。横のずれ:着地点でも、かべに着いた時にもなかった。 |
④ | ボールの真ん中より1㎝右をけった時 回転の向き:上から見て、飛んでいく方向に左回転。かべに向かって左側にずれた。 かべまでの時間:2.35~2.81秒。高さ:38㎝。飛んだ距離:2.20m。 横のずれ:着地点で35㎝、かべに着いた時に75㎝。 |
⑤ | ボールの真ん中より1㎝左をけった時 回転の向き:上から見て、飛んでいく方向に右回転。かべに向かって右側にずれた。 かべまでの時間:1.97~2.53秒。高さ:33㎝。飛んだ距離:2.10m。 横のずれ:着地点で20㎝、かべに着いた時に75㎝。 |
〈分かったこと〉
① | ボールの回転:ける位置を変えると、ボールはいろんな回転の仕方をして飛んでいく。真ん中をけった時は、ほとんど回転しない。 |
② | かべに着くまでの時間:上をけって、ドライブ回転したボールが一番早くかべにつく。上や下をけってタテ回転したボールは横にずれないので、右や左をけって横回転したボールよりも早くかべに着く。 |
③ | 飛んだ距離:真ん中、上、右、左をけったボールは、だいたい2mくらいまで飛ぶ。下をけったボールは、飛ぶ距離が短い。 |
④ | 高さ:一番飛んだ高さは、ける場所によってバラバラだ。 |
⑤ | 横のずれ:真ん中、上、下をけった場合は、着地点でも、かべに着いた時も、横にはほとんどずれない。ボールの右をけると正面より左側に、左をけると右側にずれて飛んでいく。 |
〈方法〉
ふとんバサミの足を5㎝引き、キックする。ける位置はボールの真ん中。結果を〈1-①〉の場合と比べる。
〈結果〉
回転の向き:無回転。かべまでの時間:2.33~2.85秒。高さ:21㎝。飛んだ距離:1.05m。横のずれ:着地点でも、かべに着いた時にもなかった。
〈分かったこと〉
ける力を弱くすると、ボールは無回転だ。かべに着く時間はおそくなる。飛んだ距離は半分ぐらいになる。高さも低くなる。
〈方法〉
ボールの飛ぶ方向の左側に3台のせん風機を置き、風を当てながらボールをける。着地点までの距離、着地点がどれだけ横にずれたか、さらに、かべに着いた時にどれくらい横にずれたかを調べる。せん風機の風がうまく当たるように、高さ45㎝のイスの上に「本田くん」を置いて、10回ずつボールをけった。
〈結果〉
① | ボールの真ん中をけった時 飛んだ距離:2.80m。 着地点でのずれ:右に30㎝。 かべに着いた時のずれ:右に72㎝。 |
② | ボールの真ん中より1㎝下をけった時 飛んだ距離:3.25m。着地点でのずれ:右に8㎝。かべに着いた時のずれ:右に20㎝。 |
③ | ボールの真ん中より1㎝上をけった時 飛んだ距離:2.80m。着地点でのずれ:右に18㎝。かべに着いた時のずれ:右に24㎝。 |
〈分かったこと〉
① | 風が当たると、ボールをける位置が真ん中、下、上のどの場合も、飛ぶ距離は同じくらいだ。 |
② | 風の中では、ボールの下、上をけって逆回転やドライブ回転を与えたボールに比べて、真ん中をけり無回転で飛んだボールの着地点のずれは2~3倍も大きい。かべに着いた時のずれも3~4倍になっている。 |
ボールのどこをけるかで、ボールの回転や飛び方がかなり違うことが分かった。ビデオで見たワールドカップでの遠藤選手のフリーキックが、ボールの右側をけって左側にカーブして飛んでいくところが、今回の調べた結果と一緒だったので、うれしくなった。本田選手のほとんど真っすぐ飛んだ無回転ボールを、ゴールキーパーが止められなかったのが不思議だった。実験でグラウンドの様子に少しでも近づけるために、扇風機で風を当ててみると、無回転ボールはびっくりするほど風の影響を受けることが分かった。ボールに回転がかかるようにけると、ボールは主にその回転の方向に飛んでいくが、いろいろな方向から風が吹く屋外では、無回転ボールがどのように曲がるか分かりにくいから、ゴールキーパーも取りにくいのだと思った。また実験では、無回転ボールは発射直後に真っすぐ勢いよく飛び出したが、その勢いがなくなってボールが落ち始める時に、スーッと曲がっていく動きも見られた。無回転ボールによるシュートが決まる理由は、他にもあるのだと思う。
審査評[審査員] 秋山 仁
小学校2年のサッカー少年がサッカー(特にシュート)を科学した作品である。2010年は南アフリカでサッカー日本代表が大活躍し、日本中が大いに沸いた年であったので、この年に適わしい作品である。
ボール(プラスチック製)をけり出すバネ仕掛けの“キック・マシン”を工夫して作り、ボールをける位置を、その中心、上、下、左、右に変え、ボールの飛距離や回転について科学的に調査、分析している。その結果、以下の結論を導いている。
(1)ボールの右側をけると、ボールが左側にカーブして行く。これはデンマーク戦の遠藤選手のフリーキックのときと、同じ現象である。
(2)無回転のボールは風の影響を受け易い。
(3)無回転のボールは発射直後は真っすぐに飛ぶが、落ち始めると速度が落ち、風の影響を受け、急に曲がる。よって、キーパーは落下位置を特定しにくい。
次の研究では、本物のボールを用いて実験を継続し、自分で得た結論をサッカーの実践に取り入れていただきたい。
指導について鹿児島大学教育学部附属小学校 久保博之
塚田君は、ワールドカップでゴールを決めた本田選手の無回転シュートの秘密に疑問をもち研究を始めました。そして、疑問を解決するために、無回転シュートの装置を身近な物を使って製作しました。これは生活科でのおもちゃ作りの体験を生かしていると感じます。実験では、ボールを置く位置を少しずらしてボールを蹴る位置を変えたり、装置の引き方を変えてボールを蹴る力を変えたりしました。そして、無回転シュートを蹴るにはボールの真ん中を蹴ればよいことや、カーブをかけるには、ボールの真ん中から左右にずらして蹴ればよいことを繰り返して実験を行うことで科学的に妥当性のある結果を導き出すことができたことは素晴らしかったです。夢中になって実験を繰り返して行う姿から、自然に対しての「なぜ」という気持ちが調べていく上での原動力になったと思います。今後も自然を科学的に追究する喜びを味わわせることができる指導をしていきたいです。