第52回入賞作品 小学校の部
秋山仁特別賞

めざせ!ストライク名人

秋山仁特別賞

岐阜県関市立倉知小学校 4年
山田 佑哉
  • 岐阜県関市立倉知小学校 4年
    山田 佑哉
  • 第52回入賞作品
    小学校の部
    秋山仁特別賞

    秋山仁特別賞

研究の動機

 ボウリング場でストライクがとれなく困っていた時、出会った“ストライク名人”のおじさんから「右利きの場合、1ピンと3ピンの間にストライクが取りやすい“ポケット”がある」と教えられた。真正面の1ピンではなく、なぜ1ピンと3ピンの間なのか、なぜストライクが出やすくなるのか。僕もたくさんのストライクを取れるようになりたいと、研究を始めた。

《1》ストライクが出る「ポケット」はどこ?

【実験装置】

 家にあったおもちゃのボウリングセットを利用した。ピンはちょうど実物の1/2の大きさなので、ピンの配置なども1/2に調整した。ボールは傾斜レールで転がして当てる。角度は5ピンを基点に1ピンと結んだ線を0°とした。

【実験

ポケットの角度を探す。

《方法》

1ピンと3ピンの角度は、基点の5ピンから0°と30°。そのため右0°~30°の範囲でストライクの出た角度を調べる。ボールは1°ごとに10回ずつ(1ゲーム)転がす。

《結果》

ストライクが出たのは2°~15°の範囲で計45回、特に5°~10°に多く、ポケットもありそうだ。

【実験

 ストライク数の多い5°~15°に絞って、さらに20回ずつ(2ゲーム)転がす。

《結果》

実験との結果を合わせた5°~15°の3ゲーム平均ストライク数は、最多が8°の7.3回、次いで7°の7.0回、9°と10°の各5.7回だった。

【実験

より詳しいデータを得るため、範囲を6°~10°に絞り、さらに70回ずつ(7ゲーム)転がす。

《結果》

10ゲーム(100回)平均の角度別ストライク数は、8°が8.0回、7°が7.6回、9°が6.9回、10°が5.1回、6°が4.0回だった。

《結論》

ストライクの出やすい「最高のポケット」は1ピンと3ピンの間、5ピンを中心に8°近くにある。

《2》なぜストライクが出るのか?

 角度8°の所ではなぜストライクになりやすいのか。真正面の1ピン(0°)ではどうしてストライクは出ないのか。ボウリング名人は「ドミノ倒しが起きる」とも言っていた。どのようにドミノ倒しが起きるのか、8°ではドミノ倒しがたくさん起きるのではないか。

1ピンも3ピンも倒れる向きが7ピン、10ピン方向へ

【実験

ハイスピードカメラ(1秒間に30枚撮影)で、8°と0°の時のピンの倒れ方を調べる。

《結果と考察》

8°の場合、ドミノ倒しは3グループで起きてストライクが取れることが分かった。グループは1ピン→2ピン→4ピン→7ピンと倒れる「左端」グループ、3ピン→6ピン→10ピンと倒れる「右端」グループ、5ピン→8ピンの「真ん中」グループだ。9ピンは1ピンに当たったボールによって倒され、ストライクが取れる仕組みだ。これに対し、0°の場合は、1ピンによって5ピン、8ピン、9ピンの「真ん中」グループでしかドミノ倒しが起きていない。

【実験

 1ピンと3ピンの間にボールが入る角度15°では、左端・真ん中・右端の3つのドミノグループができないのか。ハイスピードカメラで撮影する。

《結果と考察》

15°でも3つのドミノグループはできたが、ドミノ倒しが2、3回続く「2ドミノ」や「3ドミノ」がなかったことが8°の場合と大きく違う。ボールの当たった1ピン、3ピンの倒れる向きが、ドミノ倒しを連続させるピンからずれているのだ。

《結論》

ストライクが出るためには3つのドミノグループとドミノ倒しが2、3回連続することの2つの条件が必要で、ボールの角度8°の時が一番条件にあてはまる。

《3》「ポケット」は他にもあるのか?

【実験

1ピンと2ピンの間にボールが入ってもストライクが取れた。右8°のポケットだけでなく、ここにもスポットがあるのか。左6°~10°の範囲でボールを1°ずつ10ゲーム(100回)転がす。

《結果》

角度別の平均ストライク数は左8°の時が8.2回で最多、次いで左7°の7.0回、左9°の6.0回だった。

《考察》

左8°も「ポケット」だが、僕と弟が取ったストライクは、1ピンから左右へ離れていくボールのコースだった。左右8°は5ピンに向かっていくコースなので、それとは違う。

【実験

右8°の角度線を左に1cmずつ、4ピンまで10㎝平行移動させた10本の線を描き、この10本の線に沿ってボールを10ゲーム(10回)ずつ転がす。

《結果》

ストライクが出たのは第1線と第5線、第6線の各1回だけだった。平行移動では新たな「ポケット」は探せない。

【実験

ストライクにつながる「3ドミノ」の起きそうなコースを検討した結果、左右17°の角度線を1ピンから左右に4.5㎝平行移動させたコースがよさそうだと考えた。1ピンから左4.5㎝、右4.5㎝の線にボールを10ゲーム(10回)ずつ転がす。

《結果》

平均ストライク数は、左右4.5㎝ともに5.0回だった。

《考察》

最高の「ポケット」(8°)の平均ストライク数は8.0~8.2回で、その前後でも4.0~5.4回なので、17°の5.0回は「ポケット」とまではいかなくとも、ストライクが出やすいポケットだとは言えそうだ。

【実験

ハイスピードカメラで、角度17°の左4.5㎝へボールを転がした時の映像を撮影する。

《結果》

ピンの倒れ方を見ると、やはり3つのドミノグループで、2、3回のドミノが起きていた。

《結論》

左右17°の角度線を、それぞれ平行移動させた1ピンから右へ4.5㎝、左へ4.5㎝にも「ポケット」はある。
どの「ポケット」でも、3つのドミノグループで2、3回のドミノ倒しが起きるのでストライクになる。

《4》ボールの速さや重さは、ストライクに関係があるのか?

【実験

ボールが速くなると、ストライクは出やすくなるか。実験装置の傾斜レールの角度を変えて、速いボール、遅いボールを転がす。1、3ピンねらいの右8°でそれぞれ10ゲーム(100回)行う。

《結果》

速いボールの平均ストライク数は7.2回、遅いボールは2.9回。《1》の実験での8°のデータ(ふつうの速さのボール)では8.0回だったので、ボールが遅くなると明らかにストライク数は減るが、速ければ増えるわけではないようだ。

《考察》

結果に納得がいかないので、実験データを詳しく調べた。倒れずに残ったピンの本数を比べたら、遅いボールで10ピンが残ったのは62本と、ふつうのボールの約3倍、速いボールの約10倍と多かった。これは、ドミノの「右端」グループで3ピンから6ピンまでに倒れる勢いが小さく、6ピン→10ピンまでのドミノが起きにくかったからだ。速いボールでは、残った本数が10ピンが6本と少なかったが9ピンが23本と、ふつう・遅いボールの約2倍と多かった。速いボールは「2ドミノ」で10ピンを倒す勢いがあったが、ボール自体が曲がらず進むことが多いので、9ピンが残りやすかったと考えられる。

《結論》

ボールには「2ドミノ」が起きるくらいの勢いは必要だが、それ以上速くなると、勢いが強すぎて「理想のドミノ倒し」ができなくなる。

【実験

ボールが重いほど、ストライクはでやすくなるか。ふつう・軽い・激軽いのボールでのストライク数を調べる。右8°で、各10ゲーム(100回)行う。

《結果》

重さ別平均ストライク数は軽いボールが8.4回、激軽いは0回、ふつうボールは8.0回(《1》の実験データから)だった。

《考察》

倒れずに残ったピンは、激軽いでは7~10ピンが50本以上もあった。いずれも一番奥の4列目のピンであることから、ピンを倒す勢いが小さく、4列目までドミノが起きなかったと考えられる。

《結論》

ボールには、「理想のドミノ倒し」が起きる程度の速度・重さは必要だ。しかし、それ以上速くても重くても、ストライク数には関係がない。

研究を終えて

 ボウリング場での疑問を実験で確かめて、いろいろな発見ができたことに満足です。でも頭で分かっていても、実際にやるのは難しいことです。もっと練習をして、いつかストライク名人のおじさんと一緒にプレーしたいです。

指導について

指導について山田 茂樹

 本人は、昨年の表彰式の講演で秋山仁先生から「科学するための数字の魅力」を学んだようで、これまでの生物の観察から方向転換し、物理領域の研究にチャレンジしました。
 このため、一貫して「科学に数字をどう活かすのか?」という視点を大切にしました。
 まずは、モデル実験を繰り返し行い、数多くのデータを集めることを重視しました。その際、データが多くなるほど、平均値が安定し、それらをグラフに表すことで規則性を見出しやすくなることを指導しました。
 また、ハイスピードカメラなどの情報機器を使って、ピンが連鎖して倒れる様子を分析し、図を使って考え、表現できるようにしました。
合計2080回の膨大な実験データを集めることができたと共に、数字やグラフ、図等を活用して考え、表現できたことに科学することのおもしろさを実感できたようです。

審査評

審査評[審査員] 秋山 仁

 ボウリングでストライクを取るには、何を目安に投げれば良いかを追求した力作である。そのために実験を繰り返し、ハイスピードカメラでボールの軌跡を調べ、統計的方法によってベストな球すじ(すなわち、ポケット)を探し当てている。ストライクになるためには倒れたピンが次々と別のピンを倒す、いわゆる“ドミノ倒し現象”を生じさせることが不可欠で、そのためには1ピンと5ピンを結ぶ直線Lに対し、5ピンを目指す球筋が直線Lから8°を成すことが最高のポケットであることを導いている。2000回を超える実験を行い、楽しみながら、かつ、科学的に役立つ結論を得ていることは評価に値する。

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