研究の動機
ツマグロヒョウモンの研究を続けて6年目になる。昨年は「オスはメスをどうやってみつけるのか?」をテーマに、紙で作ったメスのモデルの色や形を変えながら実験した。オレンジ色だけの三角形の紙よりも、メスの前ばねに似せた白黒模様のある「三角白黒モデル」にオスが強く引かれた。オレンジ色よりもオスが引きつけられる色があるのか調べたい。
【実験1】 オレンジ色は大切か?
【実験1-1】
赤色、黄だいだい色、やまぶき色、緑色、ふじ色の5色で調べる。
《方法》
5色の三角白黒モデルを作り、庭先の高さ50㎝のところに30㎝間隔で並べてぶら下げる。オスが去ったら、モデルの並び方を順ぐりに変える。オスが来てホバリングしたモデルの色、時間を記録する。
《結果》
6月30日午前11時から午後3時15分までに90匹のオスがホバリングした(午後0時15~50分は休憩、無記録)。モデルごとにホバリングしたオスの数・時間(合計)は、黄だいだい色が48匹・93秒、赤色が34匹・51秒、やまぶき色が8匹・12秒。緑色とふじ色ではホバリングしなかった。
《考察》
黄だいだい色が一番オスを引きつけた。緑色とふじ色のモデルは、庭の草木の緑が背景になって目立たない。白黒模様があっても反応しない色があったのだ。黄だいだい色にオスが反応した時間帯は、午前11時台が7匹、午後1時台が21匹、午後2時台が14匹と、午後1時台が最も多かった。日差しの強さ、紫外線の量と関係があるのか。赤色にもオスの反応が大きかったのに驚いた。メスのはねに赤っぽい色があるからなのか。私には赤一色には見えないので、オスの見える色は私とは違うようだ。
また、ホバリング中にオスがモデルにタッチしたことが、黄だいだい色で3回、赤色で2回あった。タッチするのは、メスなのかを確かめようとしているのだ。昆虫博物館の先生によると、オスのチョウはメスのはねに触ってにおいを調べ、交尾をする体勢になるという。
【実験1-2】
実験1-1の5色にあかね色、だいだい色、黄色、紫色を加えた9色で調べる。
《方法》
実験1-1と同様な方法で、7月7日午前11時~午後0時までの1時間観察、記録した。
《結果》
15匹のオスが来てホバリングした。モデルごとのホバリングしたオスの数・合計時間は、黄だいだい色が5匹・11秒、だいだい色4匹・9秒、あかね色4匹・6秒、赤色1匹・2秒、黄色1匹・1秒。やまぶき色と緑色、ふじ色、紫色ではホバリングしなかった。
《考察》
全ホバリング数に対する各色のホバリングの割合は、黄だいだい色が33.4%と1位だったが、2位はあかね色とだいだい色が26.7%で同じだった。黄だいだい色とだいだい色は似た色だが、全然違うあかね色に来たのは不思議だ。日差しが関係しているのではないか。赤色は6.6%だから、あかね色より低い。黄色は6.6%、やまぶき色は0%と、色調が黄色に近づくとオスの反応は小さくなるようだ。実験1-1の結果を午前・午後で分けたら、黄だいだい色と赤色に対する反応が午前中では同じくらいだったが、午後に黄だいだい色の反応が大きくなった。今回の実験は午前中だったから、結果に影響したのだろうか。オスは、黄色からあかね色までの色調に反応しやすいことが分かった。
【実験1-3・その1】
あかね色、赤色、だいだい色、黄だいだい色、やまぶき色に、新たに朱(しゅ)色を加えて調べる。
《方法》
今回はさらに、オスがホバリングした時の紫外線の強さ(UV指数0~2は「弱い」、3~5は「中程度」)をUVチェッカーで測定した。
《結果》
7月14日午前9時15分から11時15分までの2時間で38匹のオスがホバリングした。モデルごとのオスの数・合計時間は、だいだい色13匹・36秒、黄だいだい色9匹・21秒、赤色6匹・8秒、やまぶき色5匹・11秒、朱色3匹・9秒、あかね色2匹・3秒。
《考察》
黄だいだい色よりもだいだい色の方が多かった。より赤みがかった色の方がオスは反応しやすいのだろうか。だいだい色の方が、背景の緑色に対して目立っていた。紫外線はデータが少ないので、続けて調べる。
【実験1-3・その2】
だいだい色と、新たに加えた青色での反応を調べる。紫外線の強さとの関係を調べる。
《結果》
7月15日午前9時15分から11時までと、午後2時40分から3時55分まで測定した結果、71匹のオスがホバリングした。だいだい色が20匹・48秒、朱色15匹・27秒、赤色14匹・33秒、あかね色12匹・24秒、黄だいだい色11匹・23秒。やまぶき色と青色は0匹だった。
《考察》
だいだい色が1位で、オスを引きつける色だ。午後にはあかね色や、特に朱色に反応するオスが出てきたので、午後からは赤系の色に対する反応が伸びてくるが、午前・午後ともオスがよく反応したのはだいだい色だ。青色には反応しないので、オスは白黒模様だけに反応している訳ではない。
◇UV指数とモデルに来たオスの数(その1・2)
紫外線のUV指数が1の時はだいだい色、黄だいだい色、やまぶき色といった黄色系の色調に、UV指数2の時はあかね色、赤色、朱色の赤色系の色調にオスがよく反応した。
【実験1-4】
だいだい色が背景の緑色の中で目立つことを確かめる。
《方法》
4.4㎝四方の緑色の紙の中央に色紙(あかね色~紫色までの9色)を貼り、何色か、目で確認できた距離を測る。私と母が5回ずつ行い、平均距離を求めた。
《結果》
だいだい色が19.3mと、一番遠い距離で目立った。2人ともよく色を見間違えた。オスも見間違えて、黄色から赤色まで反応したのかも。
【実験2】 白黒模様で見つけるのか?
実験1の結果、黄だいだい色(オレンジ色)より「だいだい色」の方が、オスを引きつけることが分かった。だいだい色のモデルで、白黒模様によるオスの反応を再確認する。
《方法》
だいだい色だけのモデル、だいだい色の白黒模様・白模様・黒模様モデル、オス・メス写真モデル、2枚の三角形を直交させて、回転すると白色と黒色、あるいは白黒とだいだい色が点滅して見えるように作ったモデル(4-A、4-B)で試す。
《結果》
7月23日と25日の計7時間50分の間に、47匹のオスがホバリングした。「だいだい白黒」が17匹・47秒、「メス写真」10匹・12秒、「だいだい白」7匹・10秒、「だいだい黒」6匹・6秒、「オス写真」5匹・21秒、「4-B」1匹・2秒、「だいだい」1匹・1秒。「4-A」は0匹だった。
《考察》
25日午前に「だいだい白黒」に8秒間ホバリングし、モデルの上に乗ったオスがいた。初めての観察だった。「メス写真」にオスが集まったのも、白黒模様があるからだ。「オス写真」へのホバリングは勢いがすごく、追い払う「縄張り行動」だったのではないか。
【実験3】 においもつけてみた?
【実験3-1】
オスを一番引きつけた「だいだい白黒」モデルにメスのお腹を押し付けてにおいを付け、反応をみる。「メス写真」中央のヒョウ紋柄をオスのものに替えた「着せ替えメス写真」で反応をみる。
《結果》
7月25日午後2時~4時にオス67匹がホバリングした。「だいだい白黒・におい」が21匹・285秒、「だいだい白黒」13匹・48秒、「着せ替えメス写真」13匹・28秒、「着せ替えメス写真・におい」9匹・18秒、「メス写真」6匹・8秒、「オス写真」2匹・4秒、「メス写真・におい」2匹・2秒、「オス写真・におい」1匹・1秒。「だいだい白黒・におい」では105秒以上ホバリングしていたオスがいた。その間10回以上モデルに飛び乗った。
《考察》
「だいだい白黒」は、においがあってもなくても、オスを引きつける。においがあると劇的にホバリングが増え、オスが乗ることも多くなる。はねの模様が色濃く鮮やかな方がオスを引きつける。
【実験3-2】
メス写真のはねのヒョウ紋柄をだいだい色に替えた「着せ替えメス写真」で反応をみる。
《結果》
7月26、27日の計7時間50分の間に48匹のオスがホバリングした。「だいだい着せ替えメス写真・におい」は21匹・50秒、「だいだい白黒・におい」14匹・34秒、「着せ替えメス写真・におい」10匹・27秒、「メス写真・におい」2匹・2秒、「オス写真・におい」1匹・1秒。
《考察》
ヒョウ紋柄がなくても、だいだい色にオスがより反応する。1位と2位の大きな違いは白黒模様だ。
【実験3-3】
「だいだい白黒」の黒帯を太くしたもの、黒い縁取りがあるもので反応をみる。
《結果》
7月28日の2時間15分の間に、19匹のオスがホバリングした。「だいだい白黒・におい」6匹・10秒、「だいだい白黒・縁取り・におい」5匹・23秒、「だいだい白黒・黒帯・におい」4匹・17秒、「だいだい着せ替え・におい」4匹・8秒。
《考察》
ホバリング時間は「縁取り」「黒帯」が1位を上回った。「縁取り」がだいだい色をより引き立たせているのではないか。
感想
やらないと何も分からない。何でもやってみると、分かることが出てくる。「試しにやってみよう」と思うことが大切だ。
審査評[審査員] 赤石 保
小学1年生のときからツマグロヒョウモンに興味を持って、6年間も研究を継続したことにまず敬意を表します。また、実験の手順がしっかりしていて、一つ一つの実験の条件をそろえることで、結果がはっきりと出て次の課題につながっています。
夏の暑い中、庭でじっとチョウがやってくるのを待ち続けて、ホバリングの時間を計って記録する作業は大変だったと思います。その結果、今回の実験で使ったメスのモデルが29種類。実験時間が10日間で28時間15分。飛んできたオスのモデルが395匹と貴重で多くのデータが得られました。これらの要素を時間の経過と共にしっかり記録して、結果を整理して、「だいだい白黒」というパターンのモデルにオスが一番反応することを突き止めました。写真や絵が素晴らしく実験の内容や様子が効果的に表現されています。さらに、結果のグラフや表も分かりやすくまとめられていて素晴らしい作品に仕上がっています。
指導について臼井 浩詞・恵子
本人が1年生の時に興味をもって観察を始めたツマグロヒョウモンですが、6年生の今では、自然の不思議を教えてくれる特別な生き物になっているようです。今回の研究は、本人がチョウと遊んでいて「おや?」と不思議に思ったことがきっかけで始まった5年生の研究の続編です。6年生になった本人が、条件を統一させて実験を繰り返すことの大切さを、理科の教科書を開いて説明してくれた時には、学んだことを自分の研究に生かそうとする意欲を感じました。これまでにも、図書館や理科の先生、博物館の先生のお話から、多くのことを学んできたようで、本人の成長を温かく見守ってくださったことに、心より感謝しております。本人にとって、飛んでいるチョウを相手にする実験は容易ではありませんでしたが、粘り強く課題を追究することができました。
これからも、チョウに遊んでもらったことを忘れずに、自然を大切にする大人に成長してほしいと思います。