学校で育てているオクラを夏休みに持って帰ったら、葉っぱに透明(とうめい)な水玉がついている。何だろうと思い、調べた。
水玉は、葉の表や裏(うら)や茎(くき)についている。色は透明、白くにごっているもの、茶色がかったものがある。丸いもの、丸くなく粒(つぶ)になったものもある。ピンセットで取ってもつぶれない。指でつぶすと、つぶれる。
①本で調べたが、透明な粒や虫の卵(たまご)については書いてない。葉の裏をよく見たら、水玉よりも小さい、黄色い粒がついていた。
②水玉と黄色い粒を比べた。水玉は直径(けい)1~1.5㎜。黄色い粒は、これよりも小さい。水玉は全部の葉にあるが、黄色い粒はいたみのある葉だけだ。
③黄色い粒をブラシで落とした。5日後に見たら、もともと虫食いだった葉のほかは、食べられていなかった。
(1)水玉の正体を考える(その1)
《ぼくの考え》
水玉はオクラにとって悪いものや、虫の卵ではない。
《理由》
①5日間そのままでも、虫食いはなかった。②水玉はどの葉にもある。悪いものなら葉がダメになるが元気だ。③悪いものや卵ならば、本にも書いてあるはずだ。
(2)水玉の正体(その2・観察)
7日間の留守の間、新しく虫食い葉になっていたのは3枚。葉は大きくかじられているが、水玉はいたんでない所にもたくさんある。水玉を顕び鏡で調べた。
《黄色い粒と水玉の違い》
黄色い粒は①ひものようなものが出ている。②葉の裏にしかない。③すぐに取れる。
《予そう》
水玉は透明で、つぶしたら中身が出て、かわいていく。水玉はオクラの葉や茎から出る「おしっこ」で、いらないものを出しているのではないか。
(3)水玉の正体(その3・実験)
「おしっこ」ならば、また出てくるのではないか。
《方法》
ブラシに水をつけ、水玉を取った。
《結果》
次の日見たら、4、5個しかない。3日したら、またたくさんつくようになった。
(4)水玉の正体(その4・インターネット)
「オクラの玉」で検さくした。「オクラの中から出てくるもので無害です。虫ではありません」とあった。でも「だれが答えているか分からないからダメ」とお母さん。
(5)水玉の正体(その5)
苗屋さんや他の店に電話で聞いても、はっきりしない。
(6)水玉の正体(その6)
日本植物生理学会のホームページに答えがのっていた。「小学生しつ問コーナー」を見たら、「『ムチン』というもので、オクラの実の中のネバネバと同じもの」とあった。毒(どく)でも病気でもないというので安心した。
(7)正体はムチン(ムチンとは?)
オクラの「ぬめり」はペクチンなどの食物せんいや、アラバンやムチンなどの糖(とう)タンパク質の一種からできている。ムチンにはタンパク質分解こう素が含まれ、消化を助けたり、ネバネバが胃のかべを保護したりするという。ムチンは「ぬめり」のもとだと分かった。
(8)水玉はネバネバしているのか?
これまでは1個ずつさわった。5、6個集めてさわったら、何となくネバネバする。
(9)オクラのネバネバを探(さぐ)る
《1》
どこがネバネバか。①葉:切り口はネバネバ。②茎:ネバネバしていない。③花:花びらはネバネバしていない。先のむらさき色の所はネバネバ。しぼんだ花も全部ネバネバ。④つぼみ:まわりはネバネバしない。切った内部はネバネバ。⑤実:外側の毛のところは湿ってネバネバ。切り口もタネもネバネバだ。
《2》
ほかにムチンがあるのはレンコン、里イモ、山イモなど。ヒトにもあって、目の表面を保護している。ウナギのヌルヌルもムチンだ。
(10)ムチンの出方
葉では出る時と出ない時があり、水玉の大きさも違う。オクラのムチンは自分の何を守っているのか。葉が弱っている近所のオクラは、出ていなかった。下の葉から上に番号をつけて観察した。ムチン玉は新しい芽や成長している所にたくさんある。古い葉に出ないわけではないが、元気な葉によく出る。
(11)黄色い粒の正体
ピンセットで取ろうとしたら、動き出したのでびっくりした。顕び鏡で見たら虫だった。図書館で調べると「アブラムシ」だった。
(12)アブラムシはどんな虫か
図鑑には230種類ものっていた。オクラのアブラムシは、いろいろな植物につく「多食性」のワタアブラムシのようだ。アブラムシは「胎(たい)生」といって、小さい虫の姿で生まれる。成長が早く10日くらいで成虫になる。オクラのアブラムシを全部取った。動くもの(虫)と動かないもの(粒)がある。次の日にまたわいた。
(13)ムチンの変化を観察する
ムチン玉は次の日には小さくなる。怪しい「ひも」と「とんがり」を発見した。茶色の長いものと赤い点もある。顕び鏡で見たら「何か」いる。
(14)ムチンとアブラムシ
花芽のがくのそばに、アブラムシのコロニー(集団)を発見した。いろいろな大きさ、色がいた。スコープで見たら、アブラムシは皮を脱いだ。おしりから白いものを出したアブラムシがいる。おなかに3、4個かかえたものもいる。白いものには赤い点がある。子どもかな。別の葉で、はねのある成虫を発見した。数が増えると、ほかの場所に移動するため、出てくるという。
(15)ムチンの変化
変なムチン玉6個を、新しく買ってもらった顕び鏡で毎日観察した。黄色い粒になったムチンの中にムシがいた。ムチン玉を一緒に入れておいた箱にもムシがいた。
(16)ムチンの中を見る
オクラの全部のムチン玉を取って調べた。赤い点、黒い長いひもが見えるもの(17個)・形がくずれ透明なもの(10個)・形がくずれ黄色いもの(5個)・だいぶつぶれて、ひしゃげたもの(56個)。1個を顕び鏡で見ていたら、ムシが飛び出した。次の日の朝新しいムチン玉2個を発見し、箱に入れておいたら、夜には黄色いものが散らばっていた。
(17)ムチンとアブラムシを考える
アブラムシは、ムチン玉に赤ちゃんを産んでいると思う。「小学生しつ問コーナー」の先生方に聞いてみた。アブラムシは「卵胎生なので、ムチン玉に卵を産むことはない」「液を吸うので、ムチンのような固体がえさになることはない」「ムチン玉が大きくなるとき、くっついて、中に取り込まれたのではないか。取り込まれると死に、水滴がかわいた後に、ひからびたムシが残る」などという。
《し育箱実験》
ムチン玉を箱に入れておくと、アブラムシの脱皮のあとや、黄色い皮みたいなものがいくつもある。やはり、ムチン玉からムシが出てくるのではないか。
(18)花芽のまわりと葉の観察
アブラムシはどうやってムチンの中に入るのか。たくさんいる花芽のがくや葉を観察した。
(19)変な所にいたアブラムシ
オクラの花は朝咲くと、昼にしぼんで、夜落ちる。落ちた後には小さな実ができている。受粉(じゅふん)実験のために、花のめしべを切り取ったら、そのめしべのわきにアブラムシの赤ちゃんがいた。
(20)葉のアブラムシの観察
脱皮しているアブラムシがいた。し育箱実験で箱に落ちていたのは、やはり脱皮のあとだったのかな。
(21)ムチンのある所
葉のどこから出てくるのか。ムチン玉を取ったあとに、白と緑色の穴がある。その白い穴の上に、何か小さな白いものがあった。
《ぼくの考え》
アブラムシは口ふんでオクラの液を吸い、その近くで赤ちゃんを産む→そこにムチンが出てくる→ムシが中に入る。ムシのいないムチン玉は1個しかなかった(8月27日)から、アブラムシは、ムチンが出てきそうな所に赤ちゃんを産むのではないか。
(22)アブラムシのいないムチン
以前の顕び鏡と今の顕び鏡では、ムチン玉の見え方がほとんど同じなので、8月27日観察したのは本当の、きれいなムチン玉と考えていい。
《ぼくの考え》
アブラムシは寄生する植物によって、体の色や形、生き方も違う。オクラに寄生するのに一番いいやり方を考えたのだ。
(23)ムチンをつぶしてみる
アブラムシとくっついたムチン玉は、ゆっくりしぼんでいく。針でついてみたら、赤い点やアブラムシのようなかたまりが見えた。
(24)染色液で染める
エオシンY(赤)では、ムチン玉の中にいくつかの部屋ができているように見えた。メチレンブルー(青)では、アブラムシの形のような中に、黒く丸くなったものが見えた。でも、よく分からなかった。
(25)てんとう虫が来た
3枚の葉に卵を産んでいった。アブラムシは食べられるかも。
(26)オクラの成長
持って帰った時は高さ51㎝、10月24日には143㎝になった。アブラムシがたくさんいると弱くなるらしいが、葉を切った後から一番下に葉が出たし、花も咲いた。オクラは強い。ネバネバがあるからかも。
(27)最後のムチン玉の観察
10月29日、てんとう虫の幼虫がいても、アブラムシはまだいた。ムチン玉の中にはムシがいて、出てくると考えていい。
葉の水玉がムチンと分かって安心した。でもアブラムシがいて、ムチンの中も変だと分かり、どんどん難しいことになった。研究を通して「ムチンは取った方がいい」と教えてあげたい。
【シゼコン事務局よりお知らせ 2024.3.27】
※かつては植物より分泌される粘質物もムチンと呼んでいたこともありましたが、現在ではムチンは動物より分泌される粘質物だけを指します。
審査評[審査員] 邑田 仁
日常で野菜として食べているオクラの観察から出発した研究である。研究テーマは「ムチン」という物質と推定される玉の正体なのだが、長時間の幅広い観察からそれについてのいろいろな疑問点を拾い出し、またそれを解決しようとしている。同じ現象を違う角度から幾度も観察しており、なんでも見てやろうという強い意欲が感じられる。最初から的を絞った仮説検証型の研究も大切だが、初心者にとっては自然現象をありのままに捉えることから出発するのが大切だと思う。3年生のレベルでまだ結論にたどりついてはいないが、簡単に解決できないテーマに行き当たったことはしあわせなことである。4年生、5年生と進むにつれてより実験的な観察と深い考察ができるようになると期待される。本研究では、外部の専門家とのやりとりがあり、本人の成長が感じられる点も好感が持てる。先生より物知りになるまでこの姿勢を続けて欲しい。
指導について佐伯 淳子
顕微鏡やデジカメに興味があり、観察も自分なりに工夫をしながら、顕微鏡にカメラをつけて、ズームをしたり、動画撮影をしたり、ファインダーを通してオクラとアブラムシに向き合っていました。そのことが、この研究を面白くしたと思います。写真は、肉眼では気がつかないものを写してくれていたし、データを見て後から気がつくという行為を通して考察を深めることができました。謎の多い研究でしたが、探求心を持って観察を続けていくと必ず次のステップヘのヒントになる発見があり、知りたいという情熱が未知の扉を開くのだと気付かされました。専門家の回答と違っても、自分が見たものを信じて推理をし、真実を知りたいと頑張りました。今回は仮説を証明することはできませんでしたが、自然科学研究の面白さと奥深さを感じることができたようです。
今後も、自由で豊かな発想を大切にしながら、ワクワクする研究を続けて欲しいと思います。