第53回入賞作品 中学校の部
継続研究奨励賞

ソデカラッパが伝えるメッセージ4
(カニの研究 PART 8)

継続研究奨励賞

沖縄県伊是名村立伊是名中学校 3年
東江 大
  • 沖縄県伊是名村立伊是名中学校 3年
    東江 大
  • 第53回入賞作品
    中学校の部
    継続研究奨励賞

    継続研究奨励賞

研究の動機

 小学2年のころから、いろいろなカニの脱皮を調べてきた。小学6年からはソデカラッパ※に興味をもち、脱け殻から生態を解明する研究をしてきた。昨年は「脱け殻の数と大きさ」のグラフから、ソデカラッパの脱皮の周期を見つけた。その中で、ソデカラッパとえさのカワラガイとの不思議な関係に興味をもった。さらに、干潟に生息する他の生物とのつながりは、どうなっているのか。継続調査して解明したい。

※編集部注 ソデカラッパ:カニの仲間。西太平洋からインド洋にかけての浅海に生息する。「カラッパ」とはインドの言葉で「ヤシの実」を意味し、丸い体をしている。2本の大きなハサミをもち、右のハサミの付け根に缶切りのような突起がある。これを使い、巻貝などの殻を壊して食べる。

研究の方法

 伊是名島の北側にある「内花干潟」を3区(A、B、C)に分け、干潮時に、ソデカラッパの生体や脱皮後の脱け殻の計測、生態などを観察する。干潟のように多種類の生物が共存する潮間帯では、生物同士が何らかの関係(相互作用)を保ちながら生息していると考えられる(仮説)。そのため、ソデカラッパのえさとみられる二枚貝のカワラガイなど、その他の生物についても観察する。

観察

期間: 2011年11月13日~2012年9月13日
記録: ソデカラッパは甲幅、カワラガイは貝殻の殻長と殻高を計測し、発見した区域と個数、感想などをノートに記載。その他の生物についても、気づいたことを書き込み、デジタルカメラで撮影した。

観察結果のまとめ

◇観察された主な生き物、気づいたこと

【ソデカラッパ】

 砂泥の中に生息しているが、時々地上に出てくる。脱け殻も外にある。◆甲幅3.0㎝のソデカラッパが食べられていた。脱け殻と食べられた死骸(がい)は、違いがあるのですぐ分かる。◆B区で脱皮していた。甲幅3.2㎝が4.2㎝に大きくなった。◆C区で脱皮してから、まだ軟らかいソデカラッパが弱っていた。12匹のムシロガイが集まり、食べようとしていた。◆小さなカワラガイを、ソデカラッパが細かく割って食べている。◆小さめのソデカラッパが甲に穴を開けられ、タマガイに食べられてあった。◆甲幅6.0㎝のメスが、外に出ていた。砂泥からメスが一斉に出て来る日がある。◆メスの脱け殻が多い日、オスの個体が多い日がある。◆スイショウガイ、イモガイが細かく割られ、食べられていることがあった。◆共存しているケガニやオウギガニ、リュウキュウオサガニ、ベニツケガニ、ガザミ、さらにワタリガニ科のカニの脱け殻も見つかった。

【カワラガイ】

 砂泥の中から口が見えたり、見えない日もある。◆小さなカワラガイが、ソデカラッパに食べられている。缶切りはさみ脚で割られていた。◆カワラガイが、白くて長い(10㎝)足を出して、キックして逃げた。◆シオボラが、大きなカワラガイに赤い管を差し込んで食べていた。タマガイも一緒に食べようとしていた。◆カワラガイが大きなリスガイ(タマガイ科)に襲われ、食べられていた。砂泥の中に引き込まれていった。◆小さな1.5㎝のカワラガイがタマガイに穴を開けられ、食べられていた。◆ケブカガニが、カワラガイの口に脚をはさまれていた。◆食べられて空っぽになったカワラガイの中に、ハゼが入って隠れていた。

【タマガイ科】

 砂泥の中に生息しているが、えさを求めて外に出てくる。捕まえたえさは粘膜に包んで体の後部に付け、砂泥の中に引きずり込んで食べる。◆小さなカワラガイをえさにしている。小さいソデカラッパも、甲に穴を開けて食べる。

発見したソデカラッパ(脱け殻)の甲幅と個数

◆タマガイも大きなリスガイも、殻を割られて食べられていることがある。◆クチグロタマガイのスナジャワン(砂茶碗:卵塊のこと)は小さく、リスガイのスナジャワンは大きい。同じ時期に産卵が見られる。◆リスガイが2匹くっつき、産卵をしていた。2匹で産卵するのかもしれない。

カワラガイ

【シガイダコ】

 A~C区に20カ所の巣穴がある。使われている巣穴の入り口には、砂やサンゴのかけらがある。石やサンゴで入り口を隠す。◆時々外に出ていて、黒い墨を発射して巣穴に出る。捕まえようとすると、足が切れて逃げた。切れた足は吸盤でくっつき、生きているように動いて逃げた。◆甲幅5.0㎝のソデカラッパ2匹と、3.5㎝の1匹が1つの巣穴に引きずり込まれていた。3匹はすでに弱っていた。◆ルリマダラシオマネキやホソスジイナミガイが食べられて、巣穴の入り口にあった。

【ウミウシ】

 A〜C区には4種類が生息し、突然現れたり、消えたりしている。◆毎年B区の同じ石に、ウミウシのオレンジ色の卵がある。1週間で茶色に変わり、潮に流されていく。◆見たことのない大きなウミウシが弱って、B区に流されてきていたことがあった。

【その他の生き物】

 潮だまりには、ハゼや小さな稚魚、フグの子ども、「セーター」と呼ばれる小さなエビが生息している。時々、小さなクラゲも現れる。◆砂泥にはハボウウキガイの口も見える。9.0㎝の大きい口もある。時々割られて、食べられている。◆5月になると、ゼリー状の丸い袋に入ったタマシキゴカイの卵が出てくる。中の卵は赤、緑、黄色がある。ムシロガイが入っていたことも。◆殻長5.2㎝のスイショウガイがいた。割られて食べられていることもある。◆肉食貝のシオボラも時々、割られて食べられている。

研究のまとめ

 ソデカラッパだけでなく、シガイダコも同じ場所に生息し、カワラガイや二枚貝を食べていた。ソデカラッパもシガイダコのえさになった。カワラガイはタマガイ科のクチグロタマガイやリスガイにも穴を開けられて食べられ、そのタマガイをソデカラッパが割って食べていた。
 小さなスケールに多種類の生物が共存する干潟では、食べたり食べられたりの関係だけでなく、互いに何らかの関係を保ちながら存在している。生物同士のつながり、関わり合いが生物相互作用だ。特に競争関係や敵対関係は、生物を進化に向かわせる原動力になるという。ソデカラッパが脱皮の時に敵から身を守るために、2個体で助け合う習性や、カワラガイが殻の表面を、ビニール袋のような膜でおおい隠しているのも、進化の一つかもしれない。
 内花干潟では、ソデカラッパも他の生物も、毎年同じパターンを繰り返している。ソデカラッパの脱け殻のある場所は決まっており、カワラガイの口の見える場所も、シガイダコの巣穴の場所も決まっている。決まった場所でお互いが関わり合いながら生態系を形成し、関係を保っている。ソデカラッパも、この場所だから繁殖している。ところが、最近発表された野生生物のレッドリスト改訂版で「絶滅種」に指定された全国8種のうち、貝類の「リュウキュウカワザンショウ」を含む3種が沖縄県内の生物だった。伊是名島の海岸に流れ着く貝殻も少なくなった。自然と人間とのよい関係を考えなければいけない時期に来ていることを、ソデカラッパが僕たちに伝えている。

指導について

指導について伊是名村立伊是名中学校 大谷 欣人

 正直なところ、東江君の研究に対して、データ整理の仕方のアドバイス以外に指導らしい指導はしておりません。ただ、伊是名島で共に生活する1年半の間で、学業の努力を怠らず、部活動では地区選抜選手として活躍し、生徒会活動でも献身的ながんばりを見せてくれた超多忙な彼が、なぜここまで研究を継続することが出来たのかをお知らせしたいと思います。
 まず、伊是名島の素晴らしい自然環境に恵まれていたことは大切な要因でありますが、家族の力こそが本研究を継続たらしめた最大のエネルギーでありました。忙しい子育てに力を注ぎ、幼少期から、危険を伴う海での標本採集につきあい続けた両親の存在が、この貴重な研究データのもとになっています。自然環境と家庭環境の両輪がそろった故の研究結果であることが、本研究のもっとも素晴らしい点であると考えています。

審査評

審査評[審査員] 宮下 彰

 本研究は、小学校2年生から8年間の継続研究であり、ソデカラッパについては4年目の研究です。今年度は「干潟の中でソデカラッパと他の生き物は、相互関係を保ちながら生息している」と仮説を立て、ほぼ毎日、干潟に出かけ観察をしています。研究内容は、ソデカラッパの脱皮した抜け殻探しと食べられたカワラガイの貝殻探し。その数と貝の大きさ測定、標本としての保存。生きたソデカラッパやカワラガイの観察。他の生物についての記録。記録したデータから干潟の中でのソデカラッパと他の生物との相互関係を見つける。などをきめ細かく行っています。その結果、多種類の生物が共存する干潟では、生物間の相互作用が機能し独特な生態系を形成している、との考えに至っています。
 自分の生活している地域の自然に着目し、研究目的、研究仮説を明確にもち、長い年月をかけ蓄積した数多くのデータや標本などをもとに考察をしている素晴らしい研究です。島を離れてもさらなる研究を進めてください。期待しています。継続研究奨励賞の受賞、誠におめでとうございます。

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