研究の動機
私たちの学校のある岩黒島(瀬戸内海に浮かぶ、周囲1.6㎞の島)の北側に「黒浜」という黒い砂浜がある。昨年、地層や岩石を観察し、他地域の鉱物と比較したり潮流を調べたりすることで、黒浜に運ばれる堆積物のメカニズムを研究し、黒浜が「白っぽくなる原因」を解明した。さらに観察を続けると、季節や日によって黒さが変わり、波で削られた所に黒っぽい砂や白っぽい砂の層があることに気づいた。なぜそうなるのか、調べることにした。
【実験1】黒浜の黒さの変化を調べる
(1)黒さを測定する指標づくり。
《方法》
黒ゴマと白ゴマを一定量ずつ混ぜて、黒さを0~10までの11段階で表す指標を作る。それぞれを透明プラスチック容器(直径1㎝、高さ約5㎝円柱)に入れ、実際の砂の色と比較し、黒さの程度を判定する。
《結果と考察》
ゴマの粒が黒浜の砂の粒より大きすぎて、測定できなかった。昨年の研究で、黒浜の砂の粒の大きさは0.10~0.40㎜。白ゴマの粒は2.20㎜、黒ゴマの粒は2.50㎜もあった。
(2)黒浜の砂の粒とほぼ同じ大きさのカラーサンドで、黒さを測定する指標を作る。
《方法》
黒色と肌色のカラーサンドを一定量ずつ混ぜ、白っぽい色から黒っぽい色までの11段階の指標とした。
この指標を用いて黒浜の2地点(A、B)で採取した砂の色を調べ、砂の粒の大きさも測定した。A地点は波の打ち寄せの最高点で、黒っぽい砂が多い。2012年1月4日から9月4日までに計28回採取した。B地点は、季節風の影響で黒い砂の吹きだまりになっている。ここでは1月4日から26日までに計4回採取した。
その結果、A地点で最も黒かったのは8月28日の指標8、粒の大きさは0.27~0.83㎜だった。もっとも白かったのは3月13日の指標3、粒の大きさは0.42~1.05㎜だった。
8月28日の時期は、台風の影響で海が荒れ、激しい雨が時々降ることもあった。黒浜北海岸の粘土層が激しい雨や波で削られ、台風の影響による波で黒浜に運ばれたと考えられる。また指標7となった日の前日や数日前には雨が降っていることから、黒浜の黒さは激しい雨や波の影響を受けることが分かった。
砂が黒っぽい指標7、8のときの粒の大きさは0.83㎜以下と、小さな粒が多い。砂が白っぽい指標3、4のときの粒の大きさは1.00㎜以上と、大きな粒が多い。
黒砂の吹きだまりのB地点はいずれも指標9、粒の大きさ0.63㎜以下だった。A地点と比べて粒が非常に小さいのは、北西の季節風によって吹き上げられたからだ。
〈粒の大きさによる黒さの違い〉カラーサンドの黒色の粒の大きさは0.22~0.45㎜、肌色は0.21~0.36㎜。(1)のゴマ指標とカラーサンド指標を、同じ指標5で比較してみると、ゴマ指標の方が黒く見えた。カラーサンド指標は全体的に白っぽく、灰色に見えた。粒の大きいもので作った指標の方が黒く見えるということは、同じ黒さを表す指標のとき、小さな粒の砂ほど黒い粒の砂が含まれる割合が高いといえる。
昨年の研究で、黒浜の白っぽい砂粒は無色鉱物、黒っぽい砂粒は有色鉱物だった。そこで同じ指標の黒さで、粒が大きい他地域の浜の砂を採取し、無色・有色鉱物の数を黒浜の砂と比較してみる。
(3)指標9の黒浜の砂、鹿児島県指宿市の開聞岳近くの砂浜の砂で、1㎠あたりの無色・有色鉱物の数、粒の大きさを調べる。
《結果と考察》
指標9の黒浜の1㎠あたりの粒数1593個(無色鉱物47個〈2.9%〉・有色鉱物1546個〈97.1%〉)、粒の大きさ0.14~0.53㎜だった。開聞岳近くの砂浜は141個(無色35個〈24.8%〉・有色106個〈75.2%〉)、0.72~2.82㎜だった。大きい粒の方が有色鉱物の含まれる割合は低く、黒く見える。同じ黒さの砂であれば、粒が小さい砂は黒い粒の割合が高い。黒浜の砂は、含まれる有色鉱物の割合が高い。
粒の大きさ、無色鉱物と有色鉱物の割合によって、砂の黒さの見え方が違うことが分かった。しかし、黒さの見え方には鉱物の種類も関係しているのではないか。
【実験2】黒浜の砂の鉱物を鑑定する
(1)採取した砂を双眼実体顕微鏡で観察する。
《結果》
香川県自然科学館や産業技術総合研究所・地質標本館の協力で鑑定した。石英、長石、黒雲母、角閃(かくせん)石、輝石、カンラン石、磁鉄鉱、チタン鉄鉱(イルメナイト)の8種類の鉱物を確認した。
《考察》
これらの鉱物は、開聞岳近くの砂浜のものと比べて、角ばっている。水によって運ばれた影響をあまり受けていないからだ。このことから、岩黒島の北海岸の粘土層から流れ出した鉱物が、短時間で黒浜に堆積したものと考えられる。季節によって黒浜の黒さが変わるのは、堆積する鉱物の種類や数が変わるからではないか。
(2)実験1で採取した黒浜A、B地点の砂1㎠あたりの鉱物の種類、数を調べる。
《結果と考察》
黒浜A地点の砂は、季節によって含まれる鉱物の種類や数が変化した。黒く見えるとき(指標7、8)は磁鉄鉱・チタン鉄鉱、角閃石・輝石、黒雲母が多く含まれる。黒浜B地点では、ほとんどが磁鉄鉱・チタン鉄鉱だ。現在黒浜が白っぽくなっているのは、堆積する磁鉄鉱・チタン鉄鉱の数が減ったためだ。そこで、過去に堆積した層の広がりや年代を調べることにした。
【実験3】黒浜の黒っぽい砂や白っぽい砂の層を調べる
(1)黒浜のA地点と、さらに西に50m離れたC地点をスコップで掘り、黒っぽい層や白っぽい層の深さ、含まれる鉱物などを調べる。
《結果と考察》
A地点では、掘ることのできた深さ141.2㎝までに計32層、C地点では深さ128.5㎝までに計21層確認できた。A地点ではうすい層が多く、C地点は厚い層が多いので、A地点の方が波の影響を受けやすい地点だと考えられる。
(2)結果をもとにA、C地点の柱状図を作った。
《結果と考察》
A地点とC地点は砂の黒さ、鉱物の種類、数などが大変似ているので、同じ時期に堆積した層だ。黒浜の砂の層は、東側のA地点から西側のC地点へ上り傾斜している。このような堆積の原因は、①A地点の方が潮流の影響を受けやすい。黒浜沖では満ち潮が西流、引き潮が東流だ。②A地点は深さ141.2㎝で角閃石片麻岩、C地点は128.5㎝で粘土層になっている。③黒浜は北側の海に面し、北西の季節風の影響を強く受ける――からだ。
(3)A、C地点ともに、波が打ち寄せる最高点だ。この地点に黒い砂(鉱物)が多く堆積することを、水槽を使って確かめる。
《方法》
高さ25㎝まで水を入れ、さらに黒い砂(指標9)を150g入れて水槽を3回傾け、端に集まった砂の様子を観察した。
《結果と考察》
黒い層と白い層ができた。黒い砂(鉱物)は粒が小さいので水に運ばれやすく、波の打ち寄せの最高点付近に堆積する。また、それらの鉱物は季節風で吹き上げられて、吹きだまりに堆積し、黒い層になる。A、C地点の地下にある黒い層はかつての砂浜の表層で、海水面がこれまでに約100㎝も上昇したことになる。海水面の上昇により砂浜の面積が減り、黒い砂が堆積する場所も減ったことが、黒浜が白っぽくなった原因の1つと考えられる。そこで、1月に黒い砂を採取したB地点が、白っぽくなっていたことに気がついた。白っぽい砂(鉱物)が堆積しているのではないか。
【実験4】B地点の層を調べる
9月5日に、表面から深さ36㎝までに8層を確認した。指標6の第2層(厚さ3.0㎝)が1月に採取した黒い層とみられる。その上に、白っぽい指標4の第1層(厚さ3.0㎝)が堆積している。北西の季節風の強い時期から9月までに堆積したと考えられる。第4層(指標5、厚さ2.5㎝)とその上の第3層(指標3、厚さ3.0㎝)も同様で、B地点では1年間に約6㎝の砂が堆積したと考えられる。
研究の感想と課題
黒浜の黒さを測る指標ができ、過去や現在の黒さが分かった。チタン鉄鉱も鑑定できて感動した。黒い層に現在も数多く含まれているのだ。今後も調査を続け、黒浜を見守っていきたい。
審査評[審査員] 邑田 仁
すべての現象には理由がある。岩黒島とか黒浜とかいうサスペンスドラマに出てきそうな名前にも科学的な背景があるということなのだ。本研究は、基本的な研究の進め方に沿って、お手本どおりに科学的な背景を解き明かしているといえよう。すなわち1)現象の観察、2)それに基づく予想(仮説)、3)仮説の検証(実験)、4)実験結果に基づく考察(仮説の修正)、である。本研究ではさらに、黒さの指標を製作するなどして観察結果を客観的なものにしており、また、黒い砂の運ばれ方についての水槽実験などを行って仮説を説得力あるものにしていることなども優れた点であると認められる。本研究のような自然に対する問いかけによって、見慣れた風景がとても意味のあるものに感じられ、作品中にもあったように、20年前の光景や20年後の光景さえ浮かんでくるようになるだろう。
指導について坂出市立岩黒中学校 平松 周二
平成22年から「岩黒島の岩石の研究」を続けています。岩黒島の自然を観察し、「なぜだろう」と不思議に思ったことから生徒が自分自身でテーマを設定し、調べる方法を考えて研究を進めてきました。昨年度は、岩黒島北海岸の粘土層の観察や潮流の調査から黒浜に堆積する鉱物のメカニズムを研究し、黒浜が白っぽくなる原因を解明しました。調べていると新たな疑問が次々に浮かんできます。今年度は、「黒浜の黒さの変化」、「なぜ白い層や黒い層ができるのか」を調べました。黒浜の黒さを客観的に表そうと、アイデアを出し合い、何度も失敗を繰り返しながら粒の大きさと黒さの関係を発見し、指標を作りあげました。地道な努力の成果です。ふるさとの自然を観察し、けずられていく崖や白くなっていく黒浜に気付き、それを守りたいという願いから研究がはじまりました。今後も岩黒島の自然から学び、自然環境を守る取り組みを続けていきます。