研究のきっかけ
自宅前の排水路に草が生えているのを見て、校外学習で見学した水耕栽培に似ていると思った。水槽でドジョウも野菜も大きく育つ水耕栽培を目的に研究を始めた。野菜の肥料はドジョウの餌(えさ)として与える有機物であり、ドジョウも野菜も食べることができる点に意義がある。
これまでの研究
【小学4年生】自宅前の排水路やすいれん鉢、金魚鉢、ドジョウの水槽、牛ふん堆肥を溶かした水などで、チンゲン菜を水耕栽培した。金魚には根を食べられてしまったが、ドジョウの水槽ではチンゲン菜の根が伸び、少し育った。
【小学5年生】ドジョウを飼いながらの水耕栽培「家の中での植物工場」を目指した。ドジョウの餌を、米ぬかと「鰹ソリュブル」(カツオの煮汁を煮詰めたもの)で作った。農研機構(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構)野菜茶業研究所の篠原信さんの指導を受けて、「有機水耕」という新しい栽培法を試した。「餌の成分を分解できる水」(養液)作りもした。
【小学6年生】節電のために、ドジョウを飼いながら"省エネ"耕栽培を試みた。ドジョウが元気に、植物も大きく育つ方法を考えた。水中にたまった硝酸態窒素を肥料として利用するには、培地を使った方がうまくいく。ドジョウの餌、ふん、尿などを分解する「硝化菌」には酸素が必要で、何かの表面に着いて増え、活動する菌であることが分かった。
〈1〉ドジョウの飼育と水耕栽培の目的
ドジョウに限らず、魚は排泄(はいせつ)物としてアンモニア態の窒素を水中に出す。「アンモニア態窒素」は微生物によって「亜硝酸態窒素」となり、さらに微生物によって「硝酸態窒素」になって安定する。これらの微生物を総称して「硝化菌」と呼ぶ。
植物は硝酸態窒素を肥料分として根から吸収する。硝酸態窒素が蓄積した水槽水では藻(も)が繁殖するので、硝酸態窒素を減らすために、たびたび水換えをしなければならない。水槽内の硝酸態窒素を植物が吸収することは、魚にとっても、飼育する人にとっても都合がよい。
亜硝酸態窒素も有害な物質なので「どれだけスムーズに魚の排泄物を硝酸態窒素にできるか」が重要だ。農研機構の篠原さんのお話をうかがい、土を微生物源として、硝化菌が活動しやすい養液(水耕栽培の水)を作ってから、水耕栽培を始めることにした。篠原さんや農園会社「京丸園」の叔父によると、現在の水耕栽培は化学肥料100%で行われているので、有機物が水耕栽培の肥料にできれば「かなり価値がある」という。ドジョウについても食材として優良で美味しいと聞いたので、最終的にはドジョウも野菜も食べられることを目標にしたい。
〈2〉ドジョウの餌を何にするか
2年前に、米ぬかと鰹ソリュブルの練り餌を手作りした。しかしドジョウが思うように食べなかったので、鰹ソリュブルは水に溶けたが、米ぬかはいつまでも残り、水中を浮遊していた。ドジョウが死ぬこともあった。
ドジョウの餌としては「水に沈む餌」や「ドジョウが好むような臭(にお)いのある餌」「ドジョウがよく食べ、消化されやすい餌」「ドジョウが早く、大きく、美味しく育つ餌」ということが必要だと考え、次の2案を試した。
【案1】カツオ粉+ひき割り納豆+黒砂糖
市販の餌には、フィッシュミール(魚粉)が原料として使われている。スーパーには「サバ、イワシ粉」「カツオ粉」「あご(トビウオ)粉」などがある。最終的には硝酸態窒素になって植物の肥料になるのだから、その材料になるタンパク質を中心にしようと考えた。これらの魚粉の中から、臭いがよく、手に入りやすいカツオ粉を選んだ。魚粉だけでは米ぬかと同じく水中を浮遊してしまうので、固めるために納豆をプラスした。試すと、魚粉が固まって沈んだ。「よい香りで、微生物を元気にさせる」と勧められた黒砂糖も入れた。
【案2】乳児用粉ミルク+卵黄+黒砂糖
「元気に育つ」で思いついたのが牛乳と卵だった。牛乳は水分が多すぎるので、消化もよく栄養も整った乳児用の粉ミルクを使う。粉ミルクはとても溶けやすく、固体にするために卵黄を使った。案1と同じ理由で、黒砂糖も加えた。
《実験方法》
(1)餌を1.0gずつのタブレットにする。餌がまとまり、作りやすい割合は【案1:カツオ粉40g・ひき割り納豆40g・粉黒砂糖4g】【案2:粉ミルク39g・卵黄(1個)20.6g・粉黒砂糖3g】。案1のひき割り納豆(1パック40g)はよく粘り、小さく刻んであるのでドジョウの口にも入ると考えた。黒砂糖は微生物の活性と香りのためなので、納豆の10分の1(4g)を入れた。カツオ粉は餌がまとまるまで徐々に入れ、40gとなった。案2は、卵黄1個分を基本にした。スティックタイプの粉ミルク(1本13g)は大変溶けやすくタブレットにできないので、3本(計39g)を卵黄に混ぜた。黒砂糖は、案1と同じ割合になるように、約3gを混ぜた。
(2)2つの水槽(くみ置き水10リットル・硝化菌のいる養液10リットル)にドジョウ(島根県安来市の「やすぎどじょう生産組合」から購入)を10匹ずつ(1匹の重さ約5g)入れる。各水槽に毎日、タブレット状の餌を1個ずつ入れる。
《結果》
餌を入れて1日目:案1の餌は入れて5秒もすると、ドジョウが次々と寄ってきて争うように食べ、3分で食べ終わった。案2の餌は、3分ぐらいで近くのドジョウがつつきだし、30分後にはなくなったが、養液は濁っていた。粉ミルクの成分が溶けたのだ。6時間後には養液が透明になっていた。案1の水槽も、餌を食べ終えてから少し濁ったが、しばらくして透明になった。
2日目:案1の餌には1日目よりも早くドジョウが来て、争って食べた。案2の餌には、そういった反応が見られず、数匹が交代でつついている。餌は30分後になくなり、養液は濁っているが、6時間後には透明になった。
3日目:案2のドジョウ1匹が死んでしまった。養液は昨日餌を入れてから20時間たっても、少し濁っていた。案1、2の水槽には、どちらもドジョウのふんらしきものが浮遊し始めた。底に落ちて来ると、吸い取るようにして再び口に入れることもある。砂を各水槽に1㎏ずつ入れた。どちらの水槽のドジョウも水面に呼吸に来る回数が多くなったので、エアポンプを入れた。
4日目:案2のドジョウが2匹死んだ。どちらの水槽のドジョウも、小さくなった餌やふんなど、砂表面に落ちたものを砂ごと吸い込み、砂をえらから吐き出していた。砂とろ過付きエアポンプを入れたので、浮遊物はなくなった。
5日目:案2のドジョウがさらに2匹死んだ。案1の水に比べ、案2の方が濁って見えた。案2のドジョウが計5匹死んだので、実験を終了した。
《考察》
案1の餌の方がドジョウには良かった。臭いがあってカツオ粉をまとめられるものとして納豆を選んだが、「納豆菌」という脂肪やタンパク質を分解する微生物を含んでいるので、それも、この餌でドジョウがうまく飼育できた原因かもしれない。
案2の水が濁ったことと、ドジョウが死んだことは無関係ではない。これまでの研究で、ドジョウは水作りが十分でない、つまり、硝化菌がスムーズにアンモニア態窒素から硝酸態窒素まで変えていけない水に大変弱いことが分かっている。案2は卵黄とミルクが粘土状になり、案1のカツオ粉や納豆に比べて食べにくかった。ドジョウにとっては魅力的な餌ではない。水中に溶けたミルクや卵黄成分は分解しにくいので、結果としてドジョウが死んでしまったと考える。
〈3〉水槽内の水(養液)作り
《目的》
アンモニア態窒素から硝酸態窒素に速やかに変わる養液を作る方法を追究する。2年前にカツオのソリュブルを速やかに分解できる養液を作り、ドジョウを入れて飼育・栽培実験をしたが、チンゲン菜の色が黒く、微量要素欠乏症になったり、ドジョウが死んだりしたので、改善の必要がある。
《方法A》
できた養液を薄めてドジョウ飼育を始める。養液は野菜栽培用であり、ドジョウが入ることによって環境が変わるので、硝化菌のバランスの整った養液を薄めて入れる。餌をごく少量から、少しずつ増やしていく。
《方法B》
ドジョウを飼育していた水槽のフィルターにたまったヘドロ状の排泄物や食べ残し(スラッジ)を使って養液を作る。
Aでは、水10ℓに、無農薬栽培をしている祖父の畑土を詰めた不織布、鰹ソリュブル10gを入れる。Bでは、スラッジを10g入れる。A、Bともポンプでエアレーションし、試験紙による測定で、アンモニア濃度が10ppm以下、亜硝酸が検出されず、硝酸濃度90ppm以上で養液の完成とする。
《結果と考察》
有機物が分解されると、まずアンモニア態窒素になり、アンモニアが亜硝酸態窒素になり、硝酸ができてくる様子が分かった。鰹ソリュブルでは最終的には高い硝酸態窒素の値を得られたが、スラッジではアンモニア→亜硝酸→硝酸の形は同じだが、全体的に低い値となった。亜硝酸がなくなった時点を「硝化」の終了とすると、スラッジは、水の作り始めから17日目、鰹ソリュブルは26日目だった。スラッジ自体に硝化菌がついていたのかもしれない。
〈4〉栽培装置作成のための実験
ドジョウ飼育と水耕栽培を同時にできる装置を作り、実際に栽培してみる。
【4‐1】水耕栽培のための養液成分
《目的》
ドジョウは〈カツオ粉40g・ひき割り納豆40g・粉黒砂糖4g〉の餌を好んで食べ、順調に育った。その時の水(養液)が水耕栽培にも適しているのか成分を検査し、不足を補う方法を考える。>《方法》
(1)その餌で1カ月飼育した水の成分を「JAとぴあ浜松」で分析してもらい、京丸園の養液と比較する。
《結果と考察》
(1)pHはドジョウ水槽の水の方が、京丸園の化学水耕の養液よりも高く、アルカリ度が強かった。EC(電気伝導度)は化学水耕の方が高かった。ドジョウ水槽ではナトリウムと塩素、アンモニアが多く、その他の成分は化学水耕より低かった。鉄は、ドジョウ水槽の水に全く含まれていなかった。これまで肥料としては、硝酸態窒素しか考えてこなかった。たくさんのものが植物を育てるには必要なのだ。必要な要素と働きを調べた。
餌としての成分はどうか。食品成分表で調べてみた。硝酸態窒素の原料となるのはタンパク質だ。実験で失敗した卵黄と調製粉乳の餌はタンパク質が少なく、脂質が多かった。その脂質をドジョウがうまく消化できず、水質も悪くなって死んだのではないか。そこで高タンパク、低脂質、カルシウムやマグネシウムなどが多く含まれる脱脂粉乳を追加して餌を変更し、最終的に〈カツオ粉40g・ひき割り納豆60g・スキムミルク(脱脂粉乳)40g・粉黒砂糖4g〉の配合にした。
(2)新しい餌でドジョウを飼育し、1カ月後に水槽のろ過装置にたまったスラッジを取り出して養液を作った。この養液と新餌でさらに35日間、10匹のドジョウを育てた。新餌は毎日1gずつ合計35g与え、体重は10匹合計で24g増えた。養液の成分も検査したが、鉄分はゼロだった。食品成分分析では、新餌100gあたり3.9g鉄分が含まれる。調べてみると、ドジョウ自体が鉄分を多く含む食品で、「ウナギ1匹、ドジョウ1匹」と言われるほど栄養価が高いという。ドジョウが新餌の鉄分を全て吸収したため、養液で検出されなかったと考えられる。微量要素については、有機水耕では「カキ殻」を用いて補うという。そこで500mlのペットボトルに50gのカキ殻(粒状セルカ)を入れ、上澄み液を毎日100mlずつ水槽に入れて飼育することにした。
【4‐2】培地は何が適しているか
《目的》
昨年は省エネのために培地を用いて水耕栽培をした。根が水中にあるよりうまく栽培できた。今回の養液でもそうなのか、さらにカキ殻を培地に混ぜ、同時に餌の量を変えて試してみる。
《方法》
2つの水槽にスラッジから作った養液を15ℓずつ入れ、各10匹のドジョウを飼う。もう1つの水槽には化学肥料を入れる。3水槽の底には、硝化菌が砂粒に付いて活動しやすく、ドジョウのいる2水槽ではドジョウが細かな餌を取りやすくするために、約0.5㎝の厚さで砂を敷いた。3水槽の水面に水切りかごをのせ、その中にチンゲン菜の苗を置いた。チンゲン菜の苗は、根が水中に届くようにしたもの、根が水中に届かないように不織布(だし袋)に入れた園芸用土「バーミキュライト」に植えたもの、さらに、その園芸用土にカキ殻(粒状セルカ)を少量混ぜたものの3種類とした。2水槽のドジョウには、それぞれ毎朝1回0.5g、1gの餌を与えた。蛍光灯の点灯時間も午前6時から午後7時まで一定にして、10日間観察した。
《結果と考察》
化学肥料の水槽では、チンゲン菜は7日目ぐらいまでは順調に育っていたが、養液が緑色になり、その後の生育はよくなかった。水中には硝酸態窒素の形で大量に窒素が溶けているので藻が増殖し、養液の肥料分を奪ったこと、藻が根に付き、根の働きが弱まったことが考えられる。また、化学肥料では養液の温度が25℃を超えると、栽培が難しいと京丸園で教えられたが、水槽の温度は昼間で29℃だった。
ドジョウの養液では、チンゲン菜は光不足や栄養不足などで、ひょろっとしているが、化学肥料のようにはしおれなかった。化学肥料による栽培では、養液に光が入らず、水温が上がりすぎないようにする必要がある。硝化菌は酸素を好む微生物であること、不織布の水分が蒸発する時に熱を奪うことから、夏の栽培には、不織布にバーミキュライトを入れた栽培がいいと考えた。その培地にはカキ殻を加えた方が良いが、チンゲン菜は全体的に色が薄くなった。
2水槽のドジョウは順調に大きくなった。餌1g与えた方が、0.5gのものより大きくなった。しかし、チンゲン菜の生育にあまり差がなく、餌1g与えた水槽の方が小さいものもあった。特に、養液中に根がむき出しのチンゲン菜は、ドジョウに餌0.5g与えた水槽の方が良かった。
次に、化学肥料の水耕栽培は中止して、培地での栽培をもう一度やってみた。2水槽にドジョウは各10匹。餌は毎朝1gずつ与えた。その結果、7日目に、カキ殻のない培地のチンゲン菜では双葉が黄色くなり、新しい葉の部分も少し色が悪くなってきた。カキ殻は上澄み液を養液に加えなくても、培地に混ぜることで微量要素を補うことができると分かった。。
〈5〉栽培プラントを作ってみる
ドジョウ飼育と植物の水耕栽培のできるプラントを考える。
(1)小さいプラント:幅40㎝の水槽では、食品用プラスチックトレーを水面の上にセットし、その内側に苗を入れたトレーを置いた。エアポンプで水槽の水をくみ上げ、バーミキュライトでろ過して、食品用トレー内に落とす仕組み。水がたまり過ぎないように、食品用トレーの側面に穴を開けて調節した。
(2)大きいプラント:幅90㎝の水槽(水80+養液70ℓ)の上に、「トロ箱」を置き、中に苗のトレー3個を入れた。水槽の底に厚さ約0.5㎝砂を敷き、ドジョウ200匹を入れた。水槽の水を高さ50㎝はくみ上げないといけないので、バスポンプを利用した。作動試験では2日目に水槽の養液が緑色になったので、朝1回、5分間のポンプ作動時間を1日4回、10分間ずつの作動に変えた。餌やりも朝から夕方に変えた。夜間に硝化が進み、植物が昼間光合成をするのに必要な水分や肥料分がくみ上がると考えたからだ。これでチンゲン菜、ニンニク、ホーム玉ねぎ、わけぎを栽培してみる。
〈6〉ドジョウ飼育水での野菜収穫
《目的》
ドジョウ飼育の水耕栽培で作った野菜はどんな味か。
【6‐1食味実験】
ドジョウ飼育水耕栽培、化学肥料による水耕栽培、スーパーの地元地産品コーナー、野菜売り場で売られていた4種類のチンゲン菜を家族5人が生で食べ、4段階評価した。
《結果》
ドジョウ飼育水耕栽培が甘味、うまみがあり一番だった。化学肥料のものは苦味、えぐみがあって美味しくなかった。スーパーのものはひどい苦味はないが、甘くもなかった。苦味の原因は、葉に含まれる硝酸態窒素だろうと祖父が教えてくれた
【6‐2硝酸態窒素の測定】
硝酸態窒素の含有量は、ドジョウ飼育水耕栽培のチンゲン菜がかなり低値だった。この値が食味実験の結果と深く関係している。他の野菜と比べて、チンゲン菜は硝酸態窒素の値が高い。同じチンゲン菜でも、どうして8倍近い差ができるのか。
《考察》
植物は根から硝酸態窒素の形で吸収し、それを材料にタンパク質を作る。化学肥料は水に溶けて、植物が吸収しやすい形でいるので、根からの吸収が早い。使い切れない硝酸態窒素が葉に残ってしまうのだ。夏は特に吸い上げる水の量が多いので、葉に硝酸態窒素がたまりやすい。トマトで比較的少なかったのは、蓄積されるのは葉なので、実には影響が出ないのだという。
硝酸態窒素が多く含まれる野菜を「美味しくない」と感じるのは、人間には必要のない物質だからだ。硝酸態窒素を大量に摂取すると健康を害することも分かった。EU(欧州連合)などでは、野菜に含まれる硝酸態窒素に規制値を設けている。3000PPM以下が基準なので、私が調べた葉物野菜は基準を大きく上回っていることになる。
研究のまとめ
スーパーで売っている材料で、ドジョウがたちまち寄ってきて食べる餌ができた。栄養成分に着目し、餌の栄養を計算で求めたこともうれしかった。ドジョウの排泄物の成分を分析したことも意義があった。ドジョウを食品としての観点から研究できた。自分が大きくしたドジョウを料理して食べたら、とても美味しかった。硝酸態窒素の少ない、美味しいチンゲン菜を栽培でき、ドジョウも大きく美味しくなったことで、1つの形ができたと思う。
審査評[審査員] 高橋 直
水耕栽培で通常用いられる化学肥料を成分とした養液ではなく、ドジョウを育てる飼育水を養液として用いて、野菜を育てようという研究である。ドジョウが排泄するアンモニア態窒素を微生物の働きで硝酸態窒素に変え、この硝酸態窒素を野菜の肥料分として利用しようというわけである。硝酸態窒素が野菜によって消費されることでドジョウの飼育環境改善にもなる。成長したドジョウも野菜も両方食用に供せるという一石二鳥を狙ったアイデアは素晴らしい。ドジョウの飼料について成分や投与量を検討し、ドジョウがよく育ち、かつその飼育水が野菜の生育に適するようにする他、有機水耕栽培で起こりやすい問題を回避するため栽培装置についても色々と工夫している。
育てたチンゲンサイが化学肥料による水耕栽培で収穫されたものよりおいしくなったという結果は注目に値する。将来実用化されたこの方法で育成されたおいしい野菜とドジョウが市場にお目見えすることになるかもしれないという期待を抱かせてくれる傑作である。
指導について 露木 里江子
今年で4年目の研究である。校外学習で水耕栽培を見学し、自宅前の排水路で育つ草を見て、ここで野菜も育つのではないかと考えたようだ。いろいろな水で試し、飼っていたドジョウの水槽でチンゲン菜が少し育ったことから始めた飼育栽培である。農研機構の篠原さんの指導で微生物環境が整い硝化がスムーズに行われる養液を作ることができたことが、この飼育栽培法を大きく前進させた。今年はドジョウを食べたことが本人は印象的だったようだ。できた野菜の硝酸態窒素量が低かったことにも注目したい。水耕栽培は無機の化学肥料であるという常識を覆し、有機物しかも固形物質が水耕栽培肥料となったことが大きな成果だと思う。この研究はドジョウの生態、植物の栽培、微生物の働きなど総合科学であると感じる。御協力いただいた多くの先生方、生産者の皆様に感謝して科学の基礎知識を広く身に付け楽しみながら進めていってほしい。