第55回入賞作品 小学校の部
文部科学大臣賞

ジョロウグモはなぜ多い?
ジョロウグモの生きる秘密

文部科学大臣賞

岐阜県関市立武芸小学校 4年
山口加廉
  • 岐阜県関市立武芸小学校 4年
    山口加廉
  • 第55回入賞作品
    小学校の部
    文部科学大臣賞

    文部科学大臣賞

研究を始めた理由

 昨年、ジョロウグモの一生を1年間観察し、巣と糸について研究した。風で移動し巣を張ること、太陽光で糸を強くしていることなど、自然を上手に使って生きていることに驚いた。その後も登下校時に注意して見ると、周囲のクモのほとんどがジョロウグモだ。「なぜこんなに多いのか」と不思議に思い、研究することにした。

観察記録(2013年10月~2014年8月)

10月28日夕方:母グモが門わきのポスト裏に産卵しているのを発見。〝卵のう〟を保護する糸(子グモのエサになる)を出していた。糸がけは深夜1時ごろまで続いた。
10月30日:母グモがいなくなった。
11月14日朝:玄関軒下で母グモが死んでいた。
2014年4月23日:卵のうが少し大きくなり、白っぽかった色がピンク色に変わった。
4月30日:卵のうがまた少し大きくなり、ひびも入っている。もうすぐ子グモたちが出てくるのか。
5月3日:ポストの中が子グモだらけになっては大変と、卵のうを採取しビンに入れた。
5月22日朝:ビンの中の卵のうの下から、数百匹の子グモが誕生(出のう)した。
5月31日:子グモたちが2回目の脱皮。
6月21日:子グモたちがビンの上まで糸を張った。
6月23日:ビンの中いっぱいに糸が張られたので、すべてを「お茶の木」に逃がしてやった。

〈子グモたちのエサ〉

◇子グモは「自分の体長より大きな虫は食べない」のか。

【実験1】出のう後21日目の子グモたちのビンに、死んだミツバチとヒメナガカメムシを入れた。

《結果》

しばらく様子をうかがい、みんなで糸を出して巻いてから食べた。

〈リーダー子グモ〉

◇子グモたちにリーダーはいるのか。

【実験2】昨年のバルーニング(クモが糸を風に乗せて、空中を飛ぶ)実験で、1匹では飛ばず4匹では飛んだ。移動するときも、1匹を先頭に移動した。今回は子グモすべてを同時に「お茶の木」に放した。

《結果》

複数の小集団ができ、それぞれにリーダーの子グモがいて、その後を他の子グモたちがついて行った。リーダーの先導で木の頂上まで行きバルーニングしたが、リーダーが先に飛ぶわけではない。

〈ジョロウグモと気象〉

◇母グモの「産卵」「卵のうから離れる」「死ぬ」の行動と気象条件は関係するか。

【実験3】2013年10~11月の1日の最高・最低気温、日照時間、降水量などの記録を調べた。

《結果》

朝晩が冷え込み出し、最高気温が前日より上がった日に産卵、朝の最低気温が0.8℃と一番冷え込んだ日に死んだことなど、気象の影響を受けている可能性は高いが、母グモ1匹だけでは結論が出せない。

◇ジョロウグモの減少と気象は関係するか。

【実験4】2014年6月15日~7月27日の間、家の周辺6カ所の木(1カ所は子グモを放したお茶の木)にいるジョロウグモを2日ごとに数え、この間の気象記録と照合した。

《結果》

5カ所計130匹の残存数は34匹(26.2%)、お茶の木(数百匹)は残存0匹だった。とくに風速が強い日、降雨後に個体数は減少するなど、気象と関係があった。

〈ジョロウグモの個体数〉

◇周囲にはどんなクモがいるのか。

 家周辺の木ではジョロウグモが減少したが(実験4)、道を歩けばよく目につく。ジョロウグモと同じ円形の巣を張るクモを調べた。

【実験5】2014年6月下旬に、家の周辺と学校敷地内、保育園周辺の3カ所で調査した。

《結果》

クモの種類と合計個体数はジョロウグモ(337匹)、ナガコガネグモ(49匹)、アシナガグモ(12匹)、ゴミグモ(9匹)、コガネグモ(6匹)。やはりジョロウグモが多かった。その秘密を探るため、2番目に多いナガコガネグモと比べることにした。

〈ジョロウグモとナガコガネグモの巣の相違〉

◇巣の大きさ、糸の数

【実験6】各33匹の巣を調べた。

《結果》

ジョロウグモの巣は楕円形、ナガコガネグモは円形に近い。ともに体長が大きいと巣も大きくなり、大きさはジョロウグモが長手40.9cm、短手が32.1cm、ナガコガネグモは長手24.3cm、短手20.3cm(どちらも平均)。横糸間の幅は、ジョロウグモの方が巣の内側から外側までほぼ等間隔で狭い。こしき(巣の中心で縦糸が交差する部分)は、ジョロウグモでは巣のやや上寄りにある。

◇糸の強度

【実験7】巣の一番外側の枠(わく)糸が切れるまで、どれだけの重さに耐えられるか、各30匹の枠糸について、1円玉(重さ1g)をおもりに使って調べた。

《結果》

ナガコガネグモは平均10.8g。ジョロウグモは2013年7月調査の若グモが平均24g、同10月調査の大人グモが平均36g。ジョロウグモの方が2倍以上強い。

◇糸の伸び強度

【実験8】各20匹の枠糸(10cm)を、切れるまで引っ張った。

《結果》

ジョロウグモの伸びは平均14.5cm、ナガコガネグモは平均17.6cm。ナガコガネグモの方がよく伸びた。

◇糸の粘着力

【実験9】紙テープ(1.8×5.0cm)の端に横糸を5回着け、もう1枚の紙テープを貼り合わせる。これにクリップ(0.4g)を付けていき、何gで紙テープがはがれるか、各30匹について調べた。

《結果》

ジョロウグモは平均0.65g、ナガコガネグモは平均2.4g。ジョロウグモの方が弱かった。横糸にある粘球の大きさ、間隔に違いがあるのかもしれない。

◇横糸の粘球

【実験10】顕微鏡で観察した。

《結果》

粘球の直径はジョロウグモが1.0~5.5mm、ナガコガネグモは0.9~5.0mm。ともに大きさ、間隔も一定ではない。粘球自体の粘着力が違うのかもしれない。

◇巣模型実験

【実験11】実験6の結果を基に、段ボール箱にたこ糸を張り、ジョロウグモとナガコガネグモの巣の2倍模型を作った。横糸に水のりを着け、大(直径15mm)中(10mm)小(7mm)の糸玉を、巣模型の真上と側面から30回ずつ当てて、玉の捕獲(ほかく)率を調べた。

2倍の巣模型。ジョロウグモ(右)とナガコガネグモ(左)

《結果》

ともに側面から糸玉を当てた場合の捕獲率が低い。ジョロウグモの巣模型・側面では、大きい糸玉ほど跳ね返されて捕獲率が下がる。ナガコガネグモの巣模型・側面では中の糸玉が、ちょうど糸間にひっかかり、捕獲率が高かった。糸間隔よりも大きな糸玉がすべて捕獲できるわけではない。

《考察》

巣模型・側面が実際の巣に近いので、ジョロウグモの巣のように網目が細かく、粘球の粘着力も強くない場合、大きな虫はかかりにくい。かかった虫が逃げることもあるので、実際の捕獲率はもっと低いのではないか。

〈ジョロウグモとナガコガネグモの身体能力の相違〉

◇持久力

【実験12】どれだけ糸を出し続けられるのか。幅15cmの糸巻き器を自作し、クモがぶら下がりながら出す「しおり糸」を巻き取り、長さを測った。

《結果》

ジョロウグモ(30匹)は平均10.6m(平均体長2.3cmの約460倍!)、最長は21mもあった。ナガコガネグモ(同)は平均4.5m。ジョロウグモの方がたくさん糸を出せるので、高い所にも移動でき、糸をふんだんに使った網目の細かい巣を作れる。


 昨年の実験で、ジョロウグモは巣に乗せた綿毛をエサと間違えた。脚で触り、エサではないと分かると去った。エサを巣の揺れで感じ、脚で確かめるのか。

◇視力

【実験13】ラップで2つに仕切った箱の一方にクモを入れ、もう一方にバッタ、マイマイガ、カエル、カマキリをそれぞれ入れて、クモの行動を調べた。

《結果》

ジョロウグモ、ナガコガネグモはともに仕切りをくぐって相手に近づいたが、襲うことはなかった。ジョロウグモはカマキリに食べられた。

◇視力

【実験14】ジョロウグモ(30匹)、ナガコガネグモ(同)の巣に、死んだ10匹のガとハチ、ガガンボを1匹ずつそっと置いた。

《結果》

ともに昼間は食べなかったが、夜9時ごろに食べていた。夜、巣を張り替える時に、虫に気がついたのではないか。巣にかかったエサを目で見ているわけではない。

◇聴力

【実験15】ジョロウグモ(2013年秋30匹、14年夏30匹)、ナガコガネグモ(30匹)の巣を、音叉(周波数440㎐)、携帯電話(バイブ)、手で揺らした。

《結果》

どのクモも手での揺れをエサと間違えなかった。13年秋に実験した大人のジョロウグモは音叉と携帯に反応し、とくに音叉をエサと間違えた。14年夏の若いジョロウグモは音叉と携帯にも寄って来なかった。ジョロウグモが音叉に反応する・しないは、体長約4.5cmが分かれ目のようだ。

◇好む揺れ

【実験16】体長4.5cm以下のジョロウグモ(30匹)、ナガコガネグモ(同)の巣に、7音(ラシドレミファソ)のハンドベルを当てて揺らす。

《結果》

どの音にも反応が悪かった。昆虫の羽音の周波数(1秒間の振動数)はハンドベルより低い。身の周りにある、音叉よりも低い周波数はハンド・マッサージ機(150㎐)、天敵スズメバチの羽音周波数と同じだ。

◇振動への反応

【実験17】ハンド・マッサージ機でジョロウグモ(40匹)、ナガコガネグモ(30匹)の巣を揺らした。

《結果》

ジョロウグモの50%が反応し、ほとんどが逃げた。反応する・しないは体長4.0cm付近で分かれる。ナガコガネグモは90%が反応し、ほとんどがエサと間違えて近づいた。

◇聴毛

【実験18】クモの脚にある「聴毛」(振動を感じる毛)を観察した。

《結果》

聴毛の本数はナガコガネグモの方が多い。ジョロウグモの第1脚にある聴毛の本数は左右それぞれ約28本。体長が約4.0cm以上で、聴毛が急に増える。

◇音への反応

【実験19】音叉をクモから約10cm離して鳴らした。

《結果》

ジョロウグモ(30匹)は67%、ナガコガネグモ(同)は83%が反応し、動いた。

◇揺れの衝撃

【実験20】折り紙(15×15cm、1g)の1/2大、1/4大、1/8大、1/16大、1/32大、1/64大の紙を手で丸めて、巣に落とした。

《結果》

ジョロウグモは小さい紙ほど反応し、ナガコガネグモは大きい紙ほど反応した。

◇巣の振動場所

【実験21】体長4.5cm以上のジョロウグモ(30匹)とナガコガネグモ(同)の巣の上側下側右側左側の順に音叉を当てた。

《結果》

ともに音叉を当てた順番に反応が悪くなった。クモは振動を覚えたのではないか。またジョロウグモは巣の上側の振動にはよく反応したが、方向違いが多かった。これは巣の上側は網目が不規則で、振動が伝わりにくいこと、ジョロウグモの後ろ脚の聴毛の数が少ないことが関係している。だから、こしきも巣の上寄りに構えているのではないか。

◇記憶力

【実験22】実験21とは順番を変え、音叉を左側右側下側上側の順に当てた。

《結果》

音叉を当てた順に反応が悪くなった。やはりクモは記憶力がある。

◇瞬発力

【実験23】クモがエサに向かう様子をビデオ撮影し、エサへの移動速度を測定した。

《結果》

ジョロウグモ(12匹)の平均速度は秒速728mm、ナガコガネグモは秒速587mmだった。

◇エサの捕り方

【実験24】巣に生きたエサ(チョウ、トンボ、ハムシ、イナゴ、バッタなど)を乗せ、クモの狩りの仕方を観察した。

《結果》

エサが巣にかかると、ジョロウグモはかみつき糸巻き運ぶ食べる、ナガコガネグモは糸巻きかみつき運ぶ食べる、という順番。

《考察》

ジョロウグモのエサは、ほとんどがすばしっこい小さな虫。網目は細かいが粘着力の低い巣ではすぐ逃げられる。そのため速いスピードで近づき、まずかみついて相手の動きを止める。ナガコガネグモは、巣には割と大きな虫がかかりやすい。大きな虫は動きも大きく、反撃されやすい。かみついて注入した毒もすぐには効かないので、真っ先に太い糸で、相手の動きのある部位を封じる攻撃をする。

研究を終えて

 ジョロウグモは、ナガコガネグモに劣る点もあるが、それは必要ないからだ。自分で工夫して生きているから、今の環境でも個体数が多いのだ。クモは一見、気色悪いけど、本当は害虫を食べてくれる良い生き物だ。これ以上、人間が環境を変えてはいけないと思う。

指導について

指導について関市立武芸小学校 藤岡 比呂志

 「なぜジョロウグモが多くいるのか」という疑問に対して強い探究心を持って、今年度の研究に取り組んだ。今年度は昨年度を土台とした継続研究であり、特に定量化して明確に結果を出すことの重要性について指導した。的を絞って、データを多くとり、ほかとの比較実験を行うことで、より説得力のある考察ができると助言した。彼女は、比較して実験観察をすること、グラフでの平均と広がり具合の示し方などをきちんと理解した上で、地道にジョロウグモとナガコガネグモを対比し、ジョロウグモが生き残る理由についてさまざまな可能性を網羅して検証した。研究では、まず興味を持つこと、その中で抱く素直な疑問に対する知的探究心が大切で、意欲とこだわりを持った追究姿勢が重要である。その姿勢を彼女は持っており、とことん実験し観察した姿勢は本当に頭が下がる思いである。

審査評

審査評[審査員] 安齋 正彦

 昨年度、ジョロウグモの一生を1年間かけて観察し、自然に生きる生き物の知恵について学びました。さらに今年度は、個体数の多さの秘密に着目し、その解明に当たって、種別個体数を調査した上で2番目に多いナガコガネグモを用いて比較観察した点に感心しました。
 また、昨年の観察から生まれた新たな疑問についても、仮説を立てて実験し、その真偽を丁寧に明らかにし秘密の解明に役立てようとしました。子グモたちのエサ、リーダー子グモの検証や個体数の減少に気象条件が関係していることを明らかにしたことがそれに当たります。
 本論の追究では、それぞれの巣について、大きさ・糸の数や強度・粘着力など実験と考察を粘り強く繰り返し行い、その手法は身体測定の膨大な実験数にまで及びました。そして昨年得たデータを実験や考察に役立て、研究の効率化を図ることもできました。
 着眼点の発想に優れ、文献やネットなども活用し、レイアウトも論理的で、結論も分かりやすくまとめられた説得力のある作品です。

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