はじめに
僕の家にはクサガメが4匹います。これまで、歩く速さや利き手について調べました。でもカメは、あんなに大きな甲らを背負っているのに、どうして速く歩けるのかな。きっと力持ちなのだろう。カメの大きさや年れいによって、力も変わるのかな。調べることにしました。
研究の目的
カメの力をいろいろな方法で調べる。カメの筋肉量を調べるために、カメの比重を測定する。また、他の生き物の比重も測定する。
実験に使ったカメ
①かめちゃん:3年前に金沢の池でつかまえたクサガメのオス。5歳。おとなしい。エサをあまり食べない。
②ひめ:姫路城から名前をとった。今年の夏、姫路の沼でつかまえたクサガメのオス。8歳。ふだんはあまり動かないが、エサをばらまくとよく動く。
③じ:今年の夏、姫路の沼でつかまえたクサガメのオス。6歳。人なつっこく、指を出すとエサだと思って、甘がみしてくる。エサをいっぱい食べる。
④じょう:今年の夏、姫路の沼でつかまえたクサガメのオス。10歳。体が小さい割には、年を取っている。
〈1〉カメの体長・体重・体積
カメが運べる重さと体の大きさが関係しているかどうかを調べるために、体長を測定する。また、カメの比重を求めるのに必要な体重と体積を測定する。
①体長測定:カメの甲らにそってメジャーで測った長さをカメの体長とする。
②体重測定:はかりの上にカメを置いて量る。
③体積測定:本で読んだ「アルキメデスの法則」=容器いっぱいに水を入れ、量りたい物を入れてあふれた時の水の量(体積)が、その物の体積になる=を使う。
〈方法〉
ボウルいっぱいに水を入れ、下に受け皿を置く。ひもでしばったカメを水の中に完全に入れ、そっと取り出す。その時に受け皿にこぼれた水の重さを記録する。水1gの重さは1ccの体積として計算する。
・比重は、ある物体の単位体積あたりの重さが水の単位体積の重さ(=1)の何倍かという比のことで、次の式で求める。
水は比重1で、これよりもある物体の比重が大きいと、その物体は水に沈み、比重1よりも小さいと水に浮く。
〈結果〉
カメ | 体長 | 体重 | 体積 | 比重 |
かめちゃん(5歳) | 11.2cm | 149.1g | 130.2cc | 1.15 |
ひめ(8歳) | 18.0cm | 597.0g | 503.0cc | 1.19 |
じ(6歳) | 13.7cm | 242.9g | 209.9cc | 1.16 |
じょう(10歳) | 10.0cm | 99.0g | 87.7cc | 1.13 |
10歳の「じょう」が年の割に体が小さいのは、目をケガしていることに関係する。左目がないためにエサを食べるのがむずかしく、体が小さいのだ。他の3匹のカメは、年れいに対する体長・体重・体積・比重がいずれも、ほぼ比例関係だった。このことから「じょう」は5歳になるまでに目をケガしたと予想される。
〈2〉カメが歩く時の歩幅
カメの力の大きさは、足の使い方とも関係がある。カメの足に色を付けて白い紙の上を歩かせ、歩幅を測定する。背負っているおもりの重さが変わると、歩幅も変わるか調べる。
〈方法〉
スタンプインクや絵の具で4本の足それぞれに違う色を付ける。木の板に白い紙をはり、その上を歩かせる。おもりとしてマグネット・トレイ(①134.8g ②298.4g③462.0g)を背中に載せる。
〈結果〉
それぞれ3回歩かせて、4本足の歩幅の平均値をまとめた。途中でカメが板にお腹をするなど、測定できないものもあった。
おもり | かめちゃん | ひめ | じ | じょう |
なし | 95.55mm | 102.05mm | 89.43mm | 67.80mm |
① | 91.20mm | ー | 83.34mm | 65.61mm |
② | 77.17mm | 98.49mm | 81.60mm | 54.30mm |
③ | ー | 86.46mm | ー | ー |
・おもりを背負うと、歩幅はせまくなった。
・体長が大きいカメほど歩幅も大きくなった。
・しかし体長と歩幅の関係は、完全に一直線(比例関係)にはならない。これは、人にも大また・小またで歩く人がいるように、それぞれのカメの個性を表していると思う。
〈3〉カメが歩く時に足で踏む力
カメの足型が取れるやわらかい道を歩かせ、どれだけへこんだか調べる。
〈方法〉
市販の「防草砂」(水をかけると徐々に固まる砂)を使って道を作る。ノギスで足型の一番深い所を測定する。
〈結果〉
おもりの重さの違いによる、それぞれの4足の深さの平均値をまとめた。
おもり | かめちゃん | ひめ | じ | じょう |
なし | 8.37mm | 7.93mm | 8.73mm | 6.91mm |
① | 8.44mm | ー | 10.49mm | 7.45mm |
② | 9.55mm | 9.27mm | 10.64mm | 9.59mm |
③ | 7.00mm | 9.63mm | 9.02mm | ー |
・体重が重いほど、また背中のおもりが重いほど足型が深くなる傾向がみられた。しかし「ひめ」に比べて体の小さな「じ」の方が深くなる場合もあった。それはカメの個性による違いや、4足をまとめて平均値としたことで、ばらついたのかもしれない。
・固まった防草砂をみると、どのカメも後ろ足の方が深くへこんでいる。カメが歩く時は、主に後ろ足に力がかかっているためだ。
〈4〉カメが運べる重さ
カメが出せる力を、運べるおもりの重さで調べる。
〈方法〉
カメの背中に鉛の小袋を載せていき、運べなくなった時の重さを計量する。
〈結果〉
カメが運べた(持てた)最大の重さは「かめちゃん」が2.1㎏、「ひめ」は14.1㎏、「じ」は3.8㎏、「じょう」1.8㎏だった。
「ひめ」が一番大きかったのはなぜか。運べたおもりの重さとカメの体長・体重・比重・歩幅との関係をグラフにして調べた。カメの体長・体重・比重が大きくなると、運べるおもりも重くなった。しかし歩幅に対しては、きれいな比例関係にはならなかった。
体重 | 持てた重さ | 持てた重さ/体重 | |
かめちゃん | 149.1g | 2,100g | 14.1 |
ひめ | 597.0g | 14,100g | 23.6 |
じ | 242.9g | 3,800g | 15.6 |
じょう | 99.0g | 1,800g | 18.2 |
持てた重さがカメの体重の何倍か(=持てた重さ÷体重)を調べ、グラフにした。
「じょう」の値を除くと、比例関係に見える。「じょう」は左目がなく育ったせいで体が大きくならなかったが、10年も生きているので、体の大きさの割には力がついている。
〈5〉人間(ぼく)が持ち上げられる重さ
ぼくが運べた重さは約50㎏だ。ぼくの体重は27.3㎏なので、体重の約1.8倍の重さを運んだことになる。でもカメは自分の14~24倍も大きなおもりを背負えるのだから、やはり力持ちだ。
感想
実験ではカメの歩幅の測定が大変だった。楽しかったのは、鉛のおもりを使ってカメの持てる重さを量ったことだ。どんどんおもりを増やしても、カメが動いたので、どれだけ運べるのかワクワクした。おもりがなくなり、これ以上やるとカメが倒れそうだったので実験を終了したが、もっと持てたかもしれない。4匹のカメたちも、実験に付き合ってくれて、ありがとう。お礼に、立派なおうちを作ってあげるね!
審査評[審査員] 秋山 仁
重い甲羅を背中に乗せてノシノシと歩き回る亀は、確かに力持ちそうです。この研究は亀が力持ちであることを科学的に証明したものです。リオ・オリンピックで三宅選手が、53kg級で111kgの重さ(体重の約2倍)を持ち上げて銅メダルを獲得したことからみると、亀が自分の体重の20倍ぐらいの重さのものを背負って歩き回れることは驚きに値します。この研究のいろいろな段階における測定でさまざまな工夫がされていることも評価の対象になりました。例えば、亀の体重、比重との関係を“アルキメデスの法則”を使って割り出したり、亀の歩幅を測るために亀の足にインクや絵の具を付けて紙の上を歩かせる等、苦労が目に浮かびます。よく君の亀は、あまりやりたくなかっただろう実験に、逃げ出さずに付き合ってくれたと思います。君の亀は力持ちであるだけでなく、忍耐力もあるようです。
指導について金沢大学理工学域自然システム学類生物学コース3年 高橋 和大
本研究は、過去3年間にわたるカメを対象とした研究を基にした独自の着眼点から導かれたものです。5月から構想に着手し、8月までカメと向き合いながら進められました。元気いっぱいのカメたちと格闘しながら、どうやったらカメの力を多様な視点から観察することができるか、と試行錯誤が続きました。生き物相手なので、傷つけず慎重に実験を行うことに苦戦していましたが、工夫して実験方法を見出し、より正確なデータとなるように繰り返し実験を行いました。考察においても、日頃から生き物に興味を持っている研究者ならではの視点が光りました。得られた結果から想像を膨らませ、また新たな疑問を発見し興味を持つ姿に生き物に対する愛情と科学への強い関心を感じました。これからも積極的に生き物と触れ合う中で、さらなる興味関心が育まれていくことを期待しています。