第57回入賞作品 小学校の部
オリンパス特別賞

セミの翅脈の不思議 partⅡ

オリンパス特別賞

神奈川県藤沢市立高谷小学校 6年
宮本 夏帆
  • 神奈川県藤沢市立高谷小学校 6年
    宮本 夏帆
  • 第57回入賞作品
    小学校の部
    オリンパス特別賞

    オリンパス特別賞

研究のきっかけ

 小学3年生の時、道でセミの羽を拾った。よく見ると人の指紋のような線「翅脈(しみゃく)」が入っている。翅脈の模様が指紋と同じように1匹ずつのセミ固有のものならば、その羽を落としたセミが分かるのではないかと思い、死んだセミを集めて翅脈の特徴を調べるようになった。これまでの研究で、アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミの一部の羽に異常な翅脈があるのを発見した。また、すべてのセミの羽の同じ場所に、翅脈の飛び出し部分があることにも気がついた。今年も引き続き、研究する。

研究1:翅脈異常の発生頻度とそのパターン

 アブラゼミとミンミンゼミについて調べ、2014年、2015年の結果と比較する。

〈結果〉

◇アブラゼミの翅脈異常の発生頻度

2016年:531匹(オス362匹、メス169匹)のうち翅脈異常があったのは50匹(オス37匹、メス13匹)、発生頻度は9.4%(オス10.2%、メス7.7%)だった。
2015年:63匹(オス41匹、メス22匹)中、翅脈異常は11匹(オス9匹、メス2匹)、発生頻度は17.5%(オス22%、メス9.1%)。
2014年:46匹(オス31匹、メス15匹)中、翅脈異常は6匹(オス3匹、メス3匹)、発生頻度は13%(オス9.7%、メス20%)。

◇アブラゼミの翅脈異常パターン(2016年)

 羽のどこにどんな翅脈異常があるのか、翅脈の区画に番号をふって分類した。異常の発生は区画3(68.4%)に多く、次に区画5(10.5%)、その他は2~5%ほどだった。

◇ミンミンゼミの翅脈 異常の発生頻度

2016年:107匹(オス78匹、メス29匹)中、翅脈異常は13匹(オス11匹、メス2匹)、発生頻度は12.1%(オス14.1%、メス6.9%)。
2015年:19匹(オス14匹、メス5匹)中、翅脈異常はなかった。
2014年:11匹(オス7匹、メス4匹)中、翅脈異常は1匹(オス0匹、メス1匹)、発生頻度は9.1%(オス0%、メス25%)。

◇ミンミンゼミの翅脈異常パターン(2016年)

 区画5が71.4%と多く、次に区画13(14.3%)、区画1、12は1匹(7.1%)ずつだった。

◇アブラゼミとミンミンゼミの、2016年における翅脈異常の発生頻度の比較

 アブラゼミの発生頻度は9.4%(531匹中50匹)、ミンミンゼミは12.1%(107匹中13匹)。どちらが多いのか、パソコン(Excel)の機能を使って統計学の「カイ2乗(Χ2)検定」をしてみた。発生頻度に差があるならばp値は0.05(5%)よりも小さくなるはずだが、計算するとp値は0.387233となり、0.05よりも大きな値となった。よって「統計学的に有意な差はない」ということになり、アブラゼミとミンミンゼミの翅脈異常の発生頻度に差はなく、どちらが多いとは言えないことが分かった。

〈考察〉

 翅脈異常がアブラゼミでは区画3、ミンミンゼミでは区画5に多いのは、区画が広く、翅脈の根元から遠い区画であるからではないか。アブラゼミは区画3に余分な翅脈が1本増え、ミンミンゼミは区画4と5の間の翅脈が1本消えていた。元々あった翅脈が、羽化する時に中を体液が流れるか否かで、正常か異常かに分かれるのではないか。

研究2:翅脈はいつできるのか

 アブラゼミの幼虫が羽化する様子を観察する。

〈結果〉

 翅脈異常は、羽化とともに翅脈が伸び始めて、その時に起こるのではないかと予想したが、翅脈は羽化する時にはすでにできていた。観察した幼虫2匹は正常な翅脈だった。

〈考察〉

 羽化する前に何かが起きて、翅脈異常になったのだ。羽ができる時に翅脈もできていると思うが、これを調べるには幼虫を殺さなければならないので、やりたくない。

研究3:翅脈異常はどうやって起こるのか

 アブラゼミの翅脈で、枝分かれをするかのように少しだけ翅脈が飛び出した部分があることに気がついた。デジタル顕微鏡で観察する。

〈結果〉

 アブラゼミ25匹で、少しだけ飛び出た翅脈を確認した。ある1匹の羽の区画2では、枝分かれをする方向にある反対側の翅脈からも枝が途中まで伸びて、もう少しでつながりそうだった。

〈考察〉

 この枝がつながった場合に、もう1本翅脈が増えるのではないか。翅脈異常が起きる原因としては、遺伝子の異常が考えられるが、これを交配実験で確かめるには、セミの卵が成虫になるまで5~6年もかかるので大変だ。ヒトの指紋は、遺伝子が同じでも成長環境の違いで完全に同じにはならないというから、翅脈異常も環境が原因なのかもしれない。
 また、がん細胞に新しい血管ができるという話を聞き、翅脈のでき方についても考えた。翅脈は羽ができる時に、何かの因子に引き寄せられて伸びていく。しかし何かの影響で別な因子があると、そこに新しい翅脈が伸びて異常翅脈ができるのではないか。

研究4:2015年の研究で気づいた課題

 昨年の研究で、アブラゼミやミンミンゼミなどのすべてのセミの羽の同じ3カ所(区画10と11、11と12、12と13)の翅脈に、枝のように飛び出している部分があることに気がついた。その部分を切り取って顕微鏡で観察したら、翅脈の断面に円い穴があり、注射器で水を注入すると、水は戻ってきた。今年も観察した。

〈考察〉

 すべてのセミにあるこの3カ所の飛び出しは、羽化する時に必要なのではないか。羽化の時は体液が翅脈を通って羽が伸びるからだ。その飛び出しは、伸びようとした先が行き止まりになっているため、風船のように膨らんだのではないか。この考えを「風船理論」と呼ぶことにした。

感想

 今年はこれまで以上にたくさんのセミを集めることができ、信頼できるデータを得ることができた。アブラゼミとミンミンゼミでは、翅脈異常のパターンが違うことに驚いた。また、アブラゼミでは翅脈が1本増え、ミンミンゼミでは翅脈が1本減る。どうして違うのか不思議だ。

指導について

指導について宮本 実

 子供の頃、何気なく捕まえていたセミの羽に、まさか娘が今回報告したような不思議が隠れているとは夢にも思わなかったので、彼女の発見には私もワクワクしました。今回、彼女は家族や私の会社同僚の力も借りて、例年を大幅に上回る500匹以上のセミを集めました。そのため羽の切り取り(私の役目)、観察、データ整理にも時間がかかり、とても大変そうでした。羽を切り取る間に私は彼女からいろいろなアイデアを聞くことができました。その際には「なぜそう思うの?」と繰り返し質問して彼女がアイデアを深めていく手助けをしました。セミの命を奪うことなく翅脈異常が起こる原因に迫るため、顕微鏡を使って細部観察を行ったことは彼女なりの工夫でした。今回の研究を通じて感じたワクワク感、疑問に対して考え続けることの面白さと大切さに気づいたこと、そしてこのような賞を戴いた感動は彼女にとって大きな財産になったと思います。

審査評

審査評[審査員] 小澤 紀美子

 小学校3年生(2013年)の時に見つけた1枚のセミの羽に翅脈を見出して、人の指紋と同じではとの問いから始まった研究です。研究の視点は3つです。まず2014年は、死んだアブラゼミとミンミンゼミの翅脈を調べ、引き続き2年間調べ異常翅脈を見つけ、羽のどこに異常が見出せるか翅脈に区画を設けてパターン化していく方法を用いて詳細に調べています。その結果、アブラゼミとミンミンゼミでの異常翅脈の発生頻度には10~20%の範囲にあるが有意な差は無く、翅脈異常のパターンは異なるという結果を導いています。2つ目は、1匹のアブラゼミの幼虫による観察で翅脈が羽化する前にできていることを推察していますが、死んだセミの調査に限定していますので、推察の域を超えることができていません。3つ目は、枝分かれしている翅脈の突起枝への考察で、顕微鏡による観察で、枝分かれ突起が反対側からも突起となって出ている翅脈の一部を見出し、遺伝子異変、環境、食べ物の3つの理由と体液の流れとの関係から風船理論としての実験も加えています。死んだセミだけを対象としての今後の継続研究に期待します。

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