研究の動機
虫採りをしていて偶然ピンク色のバッタを捕まえたことから、バッタの色に興味をもった。その後、家で飼育しているバッタが、草むらで普通に見られる緑色ではなく、茶色ばかりであることに気がついた。飼育する温度や明るさ、湿り気、紫外線などの条件を変えて、バッタの色を比較してみたが、多少の色の違いはあっても、自然で見られるような緑色のバッタはほとんどいなかった。
昨年、色を塗ったカップで飼育することで、バッタに当たる光の色を変えてみた。すると、緑色のカップのバッタが1匹だけ緑色になった。今年はそのことを確かめる。
研究の準備
◇バッタの幼虫:これまでは、毎年6月にトノサマバッタの成虫を捕まえて産卵させていた。しかし今年は、冬の大雪のせいか、トノサマバッタがまったく見つからなかった。代わりに、ショウリョウバッタの小さな幼虫がたくさん見つかったので、ショウリョウバッタの幼虫を飼育して色の変化を観察する。
◇飼育ケース:これまでは直径約7㎝のプラスチックカップで飼育していた。しかしそれでは、バッタが大きくなると狭く、脱皮に失敗して羽や足が曲がってしまうこともあった。そのため今年は、透明なアクリル板を使って、光がよく当たって写真も撮りやすい専用の飼育ケースを作った。
仮説1:バッタの体の色は、当たる光の色によって変わる
バッタは緑色の光をあびれば体が緑色になり、茶色の光ならば体色も茶色になるのではないか。
【検証1】バッタに当てる光の色を変える
〈方法〉
LEDライトに緑色、赤色、黄色のセロハンをかぶせた光、何もかぶせない白色の光をそれぞれ照射する4種類の大きな「部屋」を作り、その中で幼虫各10匹を1匹ずつケースに入れて飼育する。また、すべてのケースに紫外線ライトも当てる。幼虫が脱皮するたびに、体色の変化を観察する。
〈結果と考察〉
ショウリョウバッタはトノサマバッタに比べて成長が遅く、7~8月に3、4回脱皮した。初めは体色が緑色の幼虫もいたが、どれも光の色にはならなかった。緑色の光では5匹が茶色に、赤色光では4匹、黄色光では8匹、白色光では7匹が茶色になった。光の色を変えても、バッタの体色に関係がない。
仮説2:太陽の光が当たる所で育てれば、バッタの体色は緑色になる
昨年緑色になったバッタは、明るい縁側で飼育していた。バッタが緑色になるには、やはり太陽の光が必要なのではないか。
【検証2】バッタを明るい草むらで飼育し、体色の変化を調べる
〈方法〉
ケースに緑色、赤色、黄色のセロハンを貼り、検証1で飼育して、まだ幼虫のままのバッタ(緑色光で飼育3匹、赤色光2匹、黄色光4匹)を同色のケースに入れて、庭の草むらに置く。白色光で飼育していた幼虫(5匹)は透明ケースに入れて置く。
〈結果と考察〉
9月に入り、バッタたちは次々と成虫になり、ついに緑色のバッタも出てきた。緑色ケースでは1匹が緑色、2匹が茶色になった。赤色ケースで緑色になったのは1匹、茶色1匹。黄色ケースも緑色1匹、茶色3匹。透明ケースでは3匹が緑色、2匹が茶色になった。どの色のケースからも緑色のバッタが出たことは、バッタの体色は周りの色とは関係がないということか。LEDライトや紫外線ライトは、太陽の光と何が違うのか。
【検証3】LEDライトと太陽の光の明るさ違い
〈方法〉
照度計で検証1の各「部屋」の明るさ、草むらに置いたケース内の明るさを調べる。
〈結果と考察〉
「部屋」の明るさは、緑色が600ルクス、赤色が400ルクス、黄色が1,200ルクス、透明が2,600ルクス。ちなみに家のリビングは300ルクス、勉強机の上は1,300ルクスだった。庭の草むらのケースの中では、緑色が12,000ルクス、赤色が11,400ルクス、黄色が11,800ルクス、透明が18,200ルクスと、どれもが1万ルクスを超えて、とても明るいことが分かった。さらに屋外での太陽の光は、家の玄関前で72,500ルクス、ケースを置いた草むらは25,900ルクスもあった。太陽の光はLEDライトよりも圧倒的に明るい。
【検証4】紫外線ライトと太陽の光の違い
紫外線がバッタの体色の変化に関係しているのか調べる。
〈方法〉
当たっている紫外線の強弱を検知する紫外線チェッカーで調べる。紫外線チェッカーは、紫外線が強いほど紫色が濃くなる。
〈結果〉
紫外線ライトを照射した4つの「部屋」での紫外線は、「弱い」~「中くらい」で、紫外線ライトからはそれほど強い紫外線は出ていない。草むらに置いたケースの中も「中くらい」だった。その周辺の草むらでは「強い」、日当たりのよい玄関前は「とても強い」だった。太陽の光には強い紫外線が含まれているが、セロハンやアクリル板におおわれているケースの中はそれほど強くない。
研究の考察
これまでの研究では、バッタの周りの色や温度、湿り気、明るさ、紫外線、当てる光の色など、いろいろな条件でバッタの体色の変化を調べてきたが、バッタのほとんどが茶色になった。それらは太陽の光がほとんど当たらない室内や日陰で飼育したものだった。
茶色のバッタが緑色になったのは、6年間でも数匹だけで、そのすべてが家の縁側で飼育したものだった。今年はその縁側の明るさ、紫外線の強さを調べた。結果は明るさが5,900ルクスと、室内でのLEDライトよりもずっと明るいことが分かった。ガラス越しに差し込む紫外線は「中くらい」の強さだった。
さらに今年の研究では、室内でLEDライトを当てて飼育して茶色になったバッタを、太陽の光が当たる明るい草むらに移動し飼育したら、ケースの色に関係なく数匹の緑色の成虫バッタが出てきた。これらのことから、バッタの体色は光の色や紫外線よりも、育った場所の明るさに関係していると考えられる。
感想
来年はもっとLEDライトを増やしたり、ケースをライトにより近づけたりするなど、条件や実験方法を工夫して、バッタの体の色が変わる仕組みを突きとめたい。
審査評[審査員] 邑田 仁
自然現象には一見複雑に見えて単純なものと、単純に見えてじつは複雑なものがあります。バッタの体色の変化はどちらでしょうか。この研究では昨年までトノサマバッタを使って実験していましたが、今年はうまく採れなかったため、材料をショウリョウバッタに変えて実験したそうです。そして、明るいという条件によって緑色のショウリョウバッタができるというユニークな結論を出しました。では、明るさだけが条件で、光の色や周囲の色は関係ないのでしょうか。昆虫はどこで明るさや色を感じるのでしょうか。トノサマバッタでも同じような変化が見られるのでしょうか。今年得られた結論はまだまだ確かめたり調べたりする必要がありそうです。このような課題はたいていそう簡単には解決できないものですし、だからこそ継続的な研究が大切です。どのような順番で実験を行ったらいいか、来シーズンになる前によく考えて進めてください。期待しています。
指導について井町 吉寿
ピンク色のバッタを偶然発見したことから、バッタの体の色の違いに興味をもち、その色の変化のしくみを姉弟で根気強く調査してきました。昆虫採集から始まった研究は年を追うごとに発展し、我が家の「バッタグッズ」もどんどん増えていき、「バッタのお世話」がいつのまにか夏の恒例行事となりました。毎年、子供たちなりにテーマを決めて取り組み、予想とは異なる結果の中からも新たな発見を積み重ね、それを翌年の研究につなげてきました。研究を通して、バッタだけでなく他の生物の生態にも関心をもつようになり、タブレットやデジタルカメラの扱いも年々上達しているように思います。研究はまだ道半ばですが、子供たちはすでに来年のテーマを決めているようです。今回このような形で地道な努力の成果を評価していただいことで、今後も自信をもって研究に励んでいってくれることを期待します。