研究の動機
「液だれ」は生活の中でよく起きる。卵焼きを作ろうとフライパンに卵液を流すと、容器の縁から卵液がたれる。メープルシロップをかける時も、容器の口にたれてべとべとになる。醬油差しの口にも、たれた醬油のしみができてしまう。新しい醬油差しに替えたら、液だれは起こらなくなった。お母さんも「注ぎ口のある容器を使えば、卵液がたれないよ」と言う。どうして液だれが起きるのか、研究することにした。
研究の目的
「液だれ」が起きる原因と、防ぐ方法を見つける。
実験1:容器の素材、形状の違いと液だれの発生の関係を調べる。
〈方法〉
6種類の素材の容器をゆっくり、あるいは素早く傾けて水を流す。注ぎ口に液だれがあった時の角度を記録し、様子を観察する。用意する素材はガラス(注ぎ口のある計量カップ、醬油差し、びん、縁のない皿、 コップ)、プラスチック(ペットボトル、注ぎ口のあるペットボトル、コップ、縁なし容器)、ステンレス(縁のある鍋、コーヒー用ポット、おたま、レードル)、陶器(先のとがった器、マグカップ、急須、注ぎ口のある器)、紙(コップ)、木(コップ)。液体の流れや角度が分かるように、角度の目盛りを描いた黒色の画用紙を背景に張る。
〈結果と考察〉
①液だれが起きやすい素材はガラス、陶器、ステンレス、木。液だれが起きにくいのはプラスチック、紙だった。液だれが起きやすい素材では、水が容器に吸い寄せられているように見える。反対に、液だれが起きにくいプラスチックなどは水をはじき、水の表面張力がよくはたらいているように見える。
→素材は液だれの発生に大きく関係している。素材による違いは撥水(はっすい)力の違いではないか。
②液だれの起きやすい素材であっても、注ぎ口がとがったもの、縁のある形状の容器は液だれがしにくい。→容器の形状、注ぎ口の有無は、液だれの発生に大きく関係している。素材によらず、容器の形状を工夫することで液だれを防ぐことができる。
実験2:素材によって撥水性と親水性がどう違うか調べる。
〈方法〉
プラスチック、ガラス、ステンレス、陶器、紙、木の各容器の底面に、ストローで水を1滴たらし、水滴の広がり(接触面の大きさ)と素材との接触角を計測する。水のはじきが大きいほど撥水性が高く、水滴の表面 張力による接触角も大きくなる。逆に、水のはじきが小さいほど親水性は高く、接触角は小さくなる。
〈結果〉
プラスチック | ガラス | ステンレス | 陶器 | 紙 | 木 | |
大きさ (mm) | 7 | 15 | 12 | 13 | 8 | 10 |
接触角 | 80° | 10°以下 | 30° | 10°以下 | 75° | 30° |
〈考察〉
①素材によって接触角が違う。撥水性の高いものは液だれが起きにくく、親水性の高いものは水を引き寄せるので、液だれが起きやすい。
→水の表面張力のはたらきには、接する素材との関係が影響する。
②紙は本来が親水性の高い素材だが、紙コップは撥水加工をしているので水をよくはじく。しかし使っているうちに濡れやすく、液だれを起こしやすくなる。
→どんな素材も撥水加工をすれば、ある程度の期間は、液だれを防ぐことができる。
実験3:液体の種類によって液だれの発生に違いがあるか調べる。
〈方法1〉
水と8種類の液体(コーヒー、はちみつ、メープルシロップ、米油、醬油、ソース、洗剤水、卵液)をそれぞれ1滴ずつ、プラスチック容器にたらす。その広がりや様子を観察する。
〈結果〉
素材(プラスチック)への広がり具合は上から、 洗剤水・ソース・米油・醬油・コーヒー・卵液・メープルシロップ・はちみつ・水の順。丸まろうとする力が一番弱い洗剤水の表面張力が一番弱い。
〈方法 2〉
水(30ml)に片栗粉(5、10、20、30g)を溶かし、粘度の異なる液体による液だれの発生の違いを調べる。容器は水で液だれがしにくいものを使う。
〈結果〉
粘度の高い液体ほど、容器の口に残り、それが 液だれにつながった。
〈考察〉
液だれを防ぐには、液体の種類によって容器の素材、形状を変える必要がある。
実験4:容器の注ぎ口の広さによって液だれの発生に違いがあるか調べる。
〈方法〉
内径が 15mm、12mm、10mm、8mmの4種類の試験 管(ガラス製)に水を満杯に入れ、それぞれ角度 30°、 60°、90°、90°以上に「早く」「ゆっくり」傾けた時の、液だれの発生の有無や様子を観察する。
〈結果〉
口が細い(8mm)試験管は、逆さに傾けても水が 流れ出なかった。重力よりも表面張力が勝っているのか。少し太くなると(10、12mm試験管)、ある程度の角度までは水が試験管内にとどまり、90°以上で流れ出た。12mm試験管は「ゆっくり」速度で傾斜 60°と 90°の 時に液だれが発生した。さらに太いもの(15mm試験管) は「ゆっくり」速度、傾斜 30°~ 90°で液だれが起きた。
〈考察〉
液体の種類や表面張力によって、液だれが発生しやすい口径の大きさがある。さらに液体同士が程よく引き合っていると、液だれは発生しにくいのではないか。
実験5:液だれが発生しにくい注ぎ口の形状を考える。
〈方法〉
プラスチック製のチューブ(内径 12mm、24mm) の注ぎ口を、角度を変えて斜め(70°、45°、30°)に切断する。注ぎ口に上向きのカーブをつける。注ぎ口に液体を誘導する針金を入れる。注ぎ口の内縁や外縁を斜め (45°)に削る。注ぎ口の外側に溝を作る――などの加工をする。洗剤水と片栗粉を溶かした水をそれぞれ流し、液だれの発生をみる。
〈結果〉
注ぎ口を上にカーブさせたもの、外側に溝をつけたもの、液体を誘導する針金を入れたものは、液だれがほとんど発生しなかった。
〈考察〉
出てくる液体が容器の外側に接触しないような形状であれば、液だれが防げる。
まとめ
液だれが起きやすい液体、起きにくい液体があり、表面張力が弱く、粘度の高い液体ほど液だれしやすい。さらに容器の素材、撥水性か親水性かによっても液だれ が起きやすくなったりする。注ぎ口の形状を工夫することで、液だれを防げることも分かった。
感想
普段から困り、不思議に思っていた液だれ現象の原理が分かった。液体の種類によって最適な素材や注ぎ口の形状があると思う。機会があったら、ガラスや陶器でも注ぎ口の形状をいろいろ変えて調べてみたい。
審査評[審査員] 小澤 紀美子
本研究は、日常生活で誰もが抱く「どうして液だれができるのか」という疑問から始めています。実験・実証では、容器の形状だけではなく、その素材にも注目して進めています。素材は、ガラス、プラスチック、ステンレス、陶器、紙、木を用いて、さらに形状も注ぎ口あり・なし、縁あり・なし、素材が厚い・薄いなどの違いごとに普段の生活で目にするモノで、液体(水・コーヒー・醤油・洗剤 水・卵・米 油・メープルシロップ・ソース・ はちみつ)別に容器に移すときの角度と速度を変えて実験を5種類行っています。その結果として、容器の素材の撥水性、液体 の表面張力や粘度の違い、容器の口径の違いによる「液だれのしやすさ・しにくさ」を導き出している興味深い作品です。日常の生活上の不便や不思議に光を当てた研究として評価され ました。次の課題にむかって今後も研究を継続されることを期待しています。
指導について千葉市立打瀬中学校 大野 貴子
卵焼きを作る際に容器の縁が汚れてしまった経験から、液だれについてより深く知りたいという日常生活の疑問から本研究 は始まりました。生徒は容器と液体の組み合わせによって、液だれのしやすさが変化するのではないか、と仮説を立て、実験によってその仮説が正しいことを確かめました。そして、組み合わせによって液だれのしやすさが変わるのであれば二つの物体の接触 面に秘密があるのかもしれないと考え、二つ目の実験を行いました。「実験の結果から次の実験を」というように一つ一つの実験の結果からさらに仮説を立て、それを実証できたことがこの研究の魅力です。その結果として、液だれを防ぐために着目すべき液体の 性質を見いだし、それに合った容器の材質と容器の形状を追究できました。今後も、身の回りの「なぜ」を大切にして、新たなテーマへの挑戦を期待します。