研究の動機
2019年の研究で、クロメダカとヒメダカをかけ合わせるとどんな子や孫が生まれるかを調べたところ、メンデルの法則どおりの結果だった。メンデルの法則は例えば、クロメダカのクロ(黒)の遺伝要因をR(優生遺伝子)、ヒメダカのヒ(緋)の遺伝要因をr(劣勢遺伝子)とし、純系クロメダカがRR、純系ヒメダカがrrの遺伝要因を持つとする。純系クロメダカと純系ヒメダカの両親から生まれる子供の遺伝要因はすべてRrとなり、クロメダカになる(雑種)。雑種のクロメダカRr同士を交配させると、生まれる孫は純系クロメダカ1:雑種クロメダカ2:純系ヒメダカ1に分かれる、というものだ。
2019年の研究では、『メダカと日本人』(岩松鷹司著)という本に、「純系のメスのシロメダカとオスのヒメダカをかけ合わせ緋色を決定する遺伝子が性染色体Y上にあるオスメダカを選んで、シロメダカとかけ合わすと、生まれてくるオスはいつもヒメダカになる」の一文を見つけた。クロメダカとヒメダカのかけ合わせでも同じことがいえるのか、調べてみようと思った。また、祖父母の種を逆にしたり、かけ合わせるメダカの性を変えたりしながら、確かめたい。
第1章
家系図A
雑種のクロメダカのオス(父・純系クロメダカ、母・純系ヒメダカ)に、純系ヒメダカのメスをかけ合わせ、生まれたメダカの雌雄を判別する時、クロメダカの遺伝子を持つのか、ヒメダカの遺伝子を持つのか、両方の遺伝子を持つのかを調べた。
家系図B
雑種のクロメダカのメス(父・純系ヒメダカ、母・純系クロメダカ)に、純系クロメダカのオスをかけ合わせ、生まれたメダカの雌雄を判別する時、クロメダカの遺伝子を持つのか、ヒメダカの遺伝子を持つのか、両方の遺伝子を持つのかを調べた。
家系図C
雑種のクロメダカのメス(父・純系ヒメダカ、母・純系クロメダカ)に、純系ヒメダカのオスをかけ合わせ、生まれたメダカの雌雄を判別する時、クロメダカの遺伝子を持つのか、ヒメダカの遺伝子を持つのか、両方の遺伝子を持つのかを調べた。
生まれた孫メダカは1容器ずつに分けて育て、屋内で観察した。1日2回、ふんなどをスポイトで吸い取り、カルキ抜きした水を足してえさをやり、容器が汚れれば水を入れ替える。メダカが成長したら、ふ化した順に大きい容器へ移す。調査ポイントは、次のとおり。
家系図A
『メダカと日本人』では、孫世代のオスはいつも優性遺伝子を持つメダカになるとされる。家系図Aは祖父が優生遺伝子を持つクロメダカであること、純系の祖父母から生まれた子がオスであることから、生まれてくる孫のオスはいつもクロメダカになると予想した。
現実に生まれた孫は、下の図のとおりだった。
孫のオスはクロメダカの遺伝子を持つもの、クロメダカとヒメダカ両方の遺伝子を持つものが生まれた。孫のメスはクロメダカの遺伝子を持つもの、ヒメダカの遺伝子を持つもの、両方を持つものが生まれた。孫のオスは、劣勢遺伝子であるヒメダカが生まれてこなかった。
家系図B
祖母が優性遺伝子を持つメダカであること、純系の祖父母から生まれた子供がメスであることから、生まれてくる孫のメスはいつもクロメダカになると予想した。
現実に生まれた孫は、オスもメスもクロメダカだった。オスもメスもヒメダカや両方の遺伝子を持つものは生まれなかったが、家系図Bは最終的に残った孫が2匹と少なく、法則を断定できなかった。
家系図C
家系図Bと違うのは、純系祖父母から生まれた子供とかけ合わせるのがヒメダカのオスであるところだ。生まれてくる孫のメスはいつもヒメダカになると予想した。
現実に生まれた孫は、下の図のとおりだ。
孫のオスには劣勢遺伝子を持つヒメダカが生まれず、孫のメスには優生遺伝子を持つクロメダカが生まれなかった。しかし家系図Cも最終的に残った孫が6匹と少なく、法則を断定できなかった。
第2章
家系図Aで生まれた孫のメダカ(9/11夜ⓖと名付ける)が2020年3月4日に1匹で卵を産み始めたため、環境が影響したのではないかと考えて、環境と産卵の関係を調べることにした。
卵を産んだ理由として、2つのことが予想できた。1つは水温が上がったこと(メダカは春から夏にかけて産卵することが多い)、もう1つは住環境が変化したこと(9/11夜ⓖは2020年2月22日に大きな容器に移した)。
水温を調べる
9/11夜ⓖの産卵日の2週間前から、水温がどう変化していたのかを調べると、3月に入ると少しずつ水温が上がり始めていた。同じ時間帯での水温が3日連続18℃と一定すると、9/11夜ⓖは卵を産んでいた。卵を産みやすい環境は水温が一定していること、水温が18℃以上になると産卵を開始することがわかった。
容器の水の体積を調べる
9/11夜ⓖが2019年11月24日〜2020年2月21日まで過ごした容器の水の体積と、2020年2月22日以降の容器の水の体積を調べてみた。その結果、以前の容器は168㎤、入れ替えた後の容器は336㎤になっていた。水の体積は2倍の大きさになり、泳ぐスペースも2倍に広がっていたことがわかった。運動し、多くのえさを食べ、体を大きくする住環境が産卵をうながしていた。
第2章では他にも、環境と1日の産卵数との関係性について調べ、メダカの容器を置く場所が特に重要であることがわかった。物音がしやすい場所に置くと産卵数は減り、物音や振動がない場所に置くと産卵数は増えた。水温の変化は、1日の産卵数には関係していなかった。
全体のまとめ
今回の研究で遺伝子の仕組みについて、新たにわかったことがあった。体の特徴から、クロメダカとヒメダカ両方の遺伝子を持つメダカは2種類あることもわかった。メダカの産卵条件についても同時に調べ、光や水質以外の産卵必要条件を見つけることができた。他にも産卵条件があるのか、調べてみたい。第1章で法則を断定できなかった家系図BとCは、次回の課題にしたい。
[審査員] 田中 史人
本研究は小学校3年生から4年間継続して行っている研究です。メダカについて疑問に思ったことをさまざまな観察や調査を行い解決してきました。今年度は、昨年メンデルの遺伝の法則の検証を行ったことについて、メダカの品種を増やしその法則について遺伝子の研究を通して検証しています。
結果を予想し、観察から得られた結果をもとに考察しています。産卵に至るまでのメダカの様子、産卵した数と卵の変化の様子、孵化した後のメダカの様子など、長い期間継続して毎日観察し記録を取り続けました。ていねいに継続して観察したことで、気が付いたことや得られたデータなどとても多く、上手にまとめてあり努力のあとがうかがえます。
生物教材を扱う場合には水温の変化や水質、光の量、行動スペースなど育成する環境についても工夫する必要があります。また、生物同士の相性などさまざまな条件も関係してきます。今後はより多くの数のメダカをサンプルとして扱い、研究をさらに継続・発展させていくことに期待します。
成田 理恵
娘が小学4年生の時、祖母からメダカをもらい、毎日観察・記録・分析するところから研究が始まりました。本研究では、メンデルの法則を発展させ、クロメダカオスとヒメダカメスの子供オスと純系のヒメダカメスをかけ合わせると、オスはすべて優性遺伝子のクロメダカが生まれてくることがわかりました。また、メダカの産卵条件についても、以前の研究でわかった光と水質以外に、水温・泳ぐスペース・ストレスを生みにくい環境について調べ、考えを深めていきました。愛情をもって育てることが根本にあり、「この先はどうなるのだろう?」という疑問を疑問だけでは終わらせず、「では調べてみよう」と思い、「そのためにはどう調べたらいいのか、そのためには何が必要か」を考え、「研究を継続させること」が大事だと気づきました。まだまだ本人は疑問に思うこと、研究したいことが尽きないようですが、今後も親としてその意思を尊重し協力していきたいと思います。