研究の動機
僕の住んでいる入善町の海岸近くにスギの多い林がある。これが国の天然記念物に指定され、全国でも珍しい平地の湧水地に生育する自然林として保護されている「杉沢の沢スギ」である。その沢スギにすんでいる生き物についての研究を1年生から毎年続けている。これまでの調査で、沢スギの水温は年間を通して15℃程度と低く一定であり、このことにより、多くの水生生物が一年間を通して確認でき、水生生物に限らず現在ではあまり見られない生き物を含めて75種、115種類の生物がいることが分かった。これまでの調査の中で不思議に思ったことがある。それは、沢スギで多くの数のニホンアマガエルを確認できているが、オタマジャクシはこれまでに一匹も確認できていないことである。そこで3年生からは、沢スギの生き物について調査を続けながら、このなぞについて調べている。4年生の時には、沢スギのいろいろな場所(11地点)と田んぼの違いを探るため、天敵の数・水温・水の流れの速さ・水の深さ・水質(pH/硬度/残留塩素/透視度/COD)・オス・メスの割合を調べた。その結果、沢スギの内にオタマジャクシが確認できない理由として、次の3つが考えられた。
そこで今年は、水温や有機物の影響を調べることで、沢スギ内にニホンアマガエルは多く確認できるがオタマジャクシが確認できない理由を解明することにした。
結論と感想
田んぼと沢スギの状況を再現するために、自作の田んぼを作製した。地下水を流し続けることで、沢スギの湧水と同じ状況を再現し、この田んぼを用いて研究を行った。「研究1 ニホンアマガエルの産卵に水温は影響するか」では、ニホンアマガエルは田んぼと同じ水温では卵を産んだが沢スギの湧水のような低い水温では卵を産まなかった。「研究2 卵のふ化に水温は影響するか」では、田んぼの水温では79%以上の卵がふ化したが、沢スギの湧水のような低い水温でふ化した卵は25%未満で、ほとんどふ化できなかった。「研究3 オタマジャクシの成長に水温は影響するか」では、沢スギの湧水のように水温が低いと、田んぼと比べてオタマジャクシの成長は約2.6倍遅くなった。「研究4 COD値と藻はオタマジャクシの成長に影響があるか」では有機物と藻のある・なしはオタマジャクシの成長にほとんど影響を与えなかった。
実験装置の水温の記録から、自作田んぼと沢スギ田んぼは、それぞれ田んぼと沢スギの水温を再現できていた。研究4の結果からCOD値や藻の状況は自作田んぼと沢スギ田んぼに差はなく、2種類の田んぼの違いは「水温」と「水流」だけであると言える。研究1では水流のない状態で実験を行うことができたため、産卵には水温が関係しているといえる。研究2では、水流の影響を除くことができなかった。水槽を用いての実験も考えたが、以前水槽でたくさんの卵をふ化させると、先に生まれたオタマジャクシが他の卵をたべてしまう場合があったために行うことができなかった。そのため、ふ化率については水温と水流の両方の影響が考えられる。研究3では、ペットボトルの水槽を用いて、水流はほぼない状態にすることができたので、オタマジャクシの成長には水温が関係しているといえる。これらのことから、沢スギ内にニホンアマガエルは多く確認できるがオタマジャクシが確認できない理由は、沢スギの湧水の水温が低く、ニホンアマガエルが沢スギ内の水のあるところに産卵することをさけていると考えられる。この研究で水温が影響していることはわかったが、ニホンアマガエルは水温をわかっているのだろうか。まだ謎が多いので研究を続けたい。