第63回入賞作品 小学校の部
1等賞

糸満市真栄里海岸におけるオカヤドカリの研究Ⅱ ~オカヤドカリの宿貝について~

1等賞

沖縄県糸満市立糸満南小学校 5年
上原 諒
  • 沖縄県糸満市立糸満南小学校 5年
    上原 諒
  • 第63回入賞作品
    小学校の部
    1等賞

    1等賞

研究のきっかけ

 小学校近くの真栄里海岸は700mほどの砂浜が続く半自然海岸で、姉はここで645種の貝類を採集調査した。調査を手伝っているうちに、ここには天然記念物のオカヤドカリがたくさんいることに気がついた。1987年と2006年に行われた沖縄県教育委員会によるオカヤドカリの調査では、この海岸は調査ポイントに入っていない。
 2021年に目視だけで調べたところ、オカヤドカリ、ナキオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ、オオナキオカヤドカリの4種が生息していることがわかった。この海岸には沖縄県による護岸整備計画や、糸満市による物流団地の造成計画もあり、工事が始まったらオカヤドカリの生育に影響が出るかもしれない。工事が始まる前にオカヤドカリの生息状況と、オカヤドカリが生きていくのに必要な宿貝について詳しく調べようと思った。

オカヤドカリとは

 ヤドカリは節足動物門、甲殻上綱、十脚目、異尾下目の生き物だ。左右に五対10本の脚がある。最初の一対はハサミ脚(第一歩脚)と呼ばれ、次の二対は歩脚(第二、第三歩脚)と呼ばれている。歩脚はヤドカリが歩くための脚だ。残りの二対が第四、第五歩脚で、他と比べ短く、貝殻の中にあって宿貝を支えるために使われる。第四、第五歩脚があるのは腹節という場所で、ほとんどが右にねじれた形をしている。貝類の9割ほどが右巻きなため、入りやすいように腹節もねじれているわけだ。ヤドカリの眼は複眼で、眼を支える部分は眼柄といって、種類を見分けるポイントのひとつとなる。触覚は短いものと長いもの、二対あってにおいや危険を感じるのに役立つ。
 オカヤドカリは海のヤドカリから進化し、子供のうちは海中、大人になると陸上で生活する。陸上にいてもエラ呼吸をしていて、貝殻の中にある空気を含んだ水で常にエラを湿らせ、呼吸をしている。雑食性なので、「海の掃除屋さん」と呼ばれている。

調査の方法

 2022年4月16日、5月22日、6月22日、7月18日、7月24日、8月9日、8月14日に、真栄里海岸の①海岸北側にある遊歩道道沿いの防災林、②A区間北側にあるガジュマルの木の下、③A・B区間の間にある水路付近で調査をした。
 調査の方法としては、天然記念物であるオカヤドカリに触れられる許可が下りるまで、観察をしたり写真や動画を撮ったりして記録した。6月24日に文化庁と糸満市教育委員会の現状変更許可が取れたので、以降は捕獲して観察、計測した後にすぐ元の場所に戻すようにした。
 捕獲の際にルールを設け、❶3分間で見つけられるオカヤドカリを捕獲し、左第二歩脚指節長と、可能な場合は前甲長をノギスで計測して記録した。❷オカヤドカリの数が特に多いポイント②では、1m×1mの枠の中にいるオカヤドカリを捕獲し、記録を取った(方形枠定量調査)。❸宿替え行動をするオカヤドカリの様子を動画に撮って観察した。 

調査結果

調査ポイントごとのオカヤドカリの数、種、大きさ

 今回、調査した結果は下記のとおりだった。

今回の捕獲による調査結果

①防災林、②ガジュマルの木の下、③水路付近、Ⓐオカヤドカリ、Ⓑムラサキオカヤドカリ、©オオナキオカヤドカリ、Ⓓナキオカヤドカリ、Ⓔ不明


オカヤドカリは真っ黒な眼と眼柄が平たい、体も黒っぽく大型化する


ムラサキオカヤドカリの大型の個体は紫色、白っぽい個体もいる、眼柄の下に黒色の斑がない


ナキオカヤドカリの色はさまざま、ハサミの外側に大きな斑点、あまり大型化しない


オオナキオカヤドカリは準絶滅危惧種、眼と眼柄が丸い、大型化する

オカヤドカリの宿貝

 38種の巻貝が宿貝に使われていた。最も多かったのは、マルアマオブネで27匹(13.5%)だった。貝の科で分類すると全16科が使われ、アマオブネ科、オニノツノガイ科、アクキガイ科のような岩場の貝が多く、ムシロガイ科やタマガイ科のような浅瀬の砂地の貝もあった。陸貝ではリンゴガイ科やアフリカマイマイ科も使われていた。

左第二歩脚指節長と宿貝の関係

 左第二歩脚指節長の平均が15mmを超える大型のオカヤドカリは、スクミリンゴガイや、アフリカマイマイ、チョウセンサザエを宿貝にしている。左第二歩脚指節長の平均が10mmほどの中型のオカヤドカリは、ツノレイシやリスガイ、フトスジアマオブネを利用している。平均が1〜3mmで特に小さいオカヤドカリは、カヤノミカニモリやリュウキュウウミニナ、オオシマカニモリ、ヒメオリイレムシロ、レイシダマシ、ヨフバイモドキなど、小型の貝殻を使っていた。

オカヤドカリの宿替え行動

 砂浜にオカヤドカリが群がっていたので見てみたら、ひとつの空いたリスガイをめぐって争っていた。何回か争いを繰り返すうち、そのリスガイの持ち主は決まった。観察を続けると、勝ってリスガイに入ったオカヤドカリがそれまで利用していたカンギクに別のオカヤドカリが引っ越しし、それで空いたマルアマオブネに別のオカヤドカリが引っ越しし、さらに空いたトウガタカワニナにも別のオカヤドカリが入り、最後に残った小さなウミニナカニモリにはどのオカヤドカリも関心を示さず解散した。
 引っ越しで空く貝殻に、次々と体の小さなオカヤドカリが入っていく様子が確認できた。最初の争いが繰り広げられている時から、小さなオカヤドカリが自分より少し大きなオカヤドカリの貝殻を狙って、貝を後から抱きかかえるようにくっついている様子も見られた。

考察と感想

 昨年は観察のみだったが、今回は現状変更許可をとり、オカヤドカリ、ナキオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ、準絶滅危惧種のオオナキオカヤドカリを、合わせて200匹記録した。
 海岸の隣りの防災林では大型のオカヤドカリがスクミリンゴガイやアフリカマイマイを宿貝にしていて、チョウセンサザエのように大きくて丈夫な海貝を宿貝にしている個体が少なかった。護岸沿いにあるガジュマルの木の下には、さまざまな大きさのオカヤドカリが生息し、浜辺中央の水路付近は小型のオカヤドカリが多く生息していた。
 宿貝として利用される貝は38種を見ると、小型のオカヤドカリが利用できるものは種も数も豊富にあるが、中型以上が利用するとなると限られる印象だ。
 オカヤドカリは浜辺のそうじ屋さんと呼ばれる大切な存在で、真栄里海岸は貴重な生息場所になっている。オカヤドカリを減らさないために、宿貝となる貝の育つ環境を守っていくことが必要だと思った。

指導について

上原 之映

 沖縄ではよく見かけるオカヤドカリですが、天然記念物だということは意外に知られていません。沖縄は開発や埋立工事により自然の海岸線が激減し、海岸の生物にとって厳しい環境になりつつあります。調査場所も人工護岸と天然の砂浜のある半自然海岸ですが、護岸工事の計画があり、生息状況を記録しておく必要があると思い調査を始めました。天然記念物は触れることができないため昨年は観察調査のみでしたが、今年は教育委員会の協力で現状変更許可を得られたため、オカヤドカリを捕獲し大きさの計測などができ、研究に深みが出て良かったと思います。こどもの興味に沿って先行研究を調べてわかりやすく説明し、小学生にもできる科学的な研究方法は何かということを一緒に考え、親子で楽しみながら取り組みました。オカヤドカリに触れ、研究を通して「沖縄の自然を守りたい」という気持ちが大きくなったことが何よりの学びです。

審査評

[審査員] 友国 雅章

 文化財保護法の現状変更許可を取得して、糸満市真栄里海岸に生息する4種のオカヤドカリを対象に、2022年4月から8月にかけて実施した7回の現地調査の報告です。「オカヤドカリの宿貝について」という副題が付いていますが、実際は宿貝ばかりでなく、観察地で見つかった4種類200個体のオカヤドカリの種別の生息状況、見つかった個体のサイズ(左第二歩脚指節長と前甲長)、種別の色彩変異、宿貝の種類とその殻の状況などを克明に調べた大変質の高い研究です。
 日本には7種のオカヤドカリが生息していますが、その全種が国の天然記念物に指定されており、サキシマオカヤドカリやオオナキオカヤドカリのように絶滅危惧種や準絶滅危惧種として環境省のレッドリストに掲載されているものもあります。上原さんが調査を行った真栄里海岸は沖縄県や糸満市による開発計画があり、それらが実施されればオカヤドカリ類の生息にも影響することが予想されます。この研究で得られたさまざまな知見はこれらオカヤドカリの今後の保護活動にも大きく貢献することが期待できます。

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