第66回入賞作品 中学校の部
オリンパス特別賞

両利きになることを支援する装置の開発3

オリンパス特別賞

静岡県静岡大学教育学部附属静岡中学校 2年
辻 知里
  • 静岡県静岡大学教育学部附属静岡中学校 2年
    辻 知里
  • 第66回入賞作品
    中学校の部
    オリンパス特別賞

    オリンパス特別賞

研究の動機

 3年間、みんなの生活効率をより良くすることを目指し、「両利きになることを支援する装置の開発」というテーマで研究を行っている。左利きの私は、日常生活で不便を感じることがある。ペットボトルの蓋や、フライ返しなどのキッチン用品、ドアノブの位置など、右利き用に作られているものが多いからだ。利き手でない右手で、さまざま行わざるを得ないこともある。
 利き手がふさがっていても、もう片方の手で同じように作業を進められる両利きなら、効率良く生活ができて便利なのではないか。そう考えて、非利き手でものを操作する困難を解決し、両利きになることを支援する装置の開発を始めた。

研究の目的

 1年目の研究では、非利き手の動きをサポートするトング型の補助箸や、親指が軸になる補助箸を製作した。補助具で非利き手の角度を利き手と同じに固定することで、非利き手で箸を使う動作を改善させることができた。
 それでも最初は、自分が両利きになるための装置作り研究であり、非利き手から補助具をはずしても利き手同様に動かせるようになることを目標にしていた。研究を進めるうち、病気や怪我などで利き手が使えなくなった人をサポートできる可能性を考えはじめ、装置をつけた状態で利き手同様の動きができるなら、多くの人により簡単に使ってもらえると思うようになった。
 そこで2年目の研究は、装置をつけて利き手と同等の動きができることを両利きの定義とした。また書くことに注目し、書くことをデザインする装置を作った。手の動きを動画に撮り、利き手で書く時とペンの角度や動きを同じにするための補助装置を4号まで製作した。試行錯誤して目標に近い装置を作ることができたが、今年度はより多くの人に使いやすい装置の開発を進めたい。

基準となるデータを集める

 過去の研究から、利き手で書く時とペンの角度や動きが同じになる装置をつければ、非利き手でもスムーズに形の良い字を書くことができるという仮説が立てられる。仮説を裏付けるためにはまず、基準となる利き手で書く時のデータが必要だ。実験1では、多くの人から、利き手で書く時の画像データを集めた。

実験1

 実験の方法は次のとおりだ。
 被験者のおおよその年齢と利き手を確認し、利き手でペンを持って書く構えを撮影する。写真のように、机からペンを持つ指までの高さをA、Aの指からペン先までの長さをB、ペン先からAの起点まで机上の長さをCとした。A〜Cの長さを測定し、机に対してペンがどれだけ傾いているか、傾きの角度も測定する。手のひらを撮影し、手首から中指の先までの長さも測定した。


利き手でペンを持ち書く構えをする

 撮影や長さの測定には写真のアプリケーションを使い(長さは描画機能の定規の目盛りで測定)、カメラからペンを持った手の手首までの距離を30cmと統一した。Googleフォームを使ってアンケート形式で集めたり、被験者を直接撮影したりして、最終的に44名分の利き手データを収集した。
 集まったデータを見ると、44名のA、B、Cの平均値はそれぞれ2.6cm、2.6cm、3.7cmだった。A、B、Cで作る三角形3辺の比率は1:1:1.4となり、三平方の定理1:1:√2と一致することから、ペンの傾きの角度は45度となる。この値が最適なものかどうか、44名のBの長さと、ペンの傾きの角度を散布図にして確かめた。するとBの長さは2〜3cm、ペンの傾きの角度は40〜50度に多いことがわかった。この実験1の結果から、3辺の比が1:1:1.4、ペンの傾きの角度が45度になるように、手の形を維持する装置を作ることにした。

装置1号の製作

 今回の装置の素材は粘土にしようと考えた。塊として製作できるため衝撃に弱い接続部分が減り、強度が増す。設計図に合わせ、簡単に加工できる利点もある。あらかじめ、木粉ねんど、オーブンねんど、紙ねんど、素焼き調ねんど、石粉ねんど、軽量樹脂ねんど、軽量紙ねんどの7種類を用意した。重さや加工のしやすさを比べた結果、紙ねんどを使うことにした。乾燥後も重量があって手に装着した時に浮く心配がなく、カッターの刃は入らなかったがやすりで削っても崩れなかった。
 製作を目指す装置1号の設計図は右のとおり。手の甲側に壁を作り、手を支えて適切な角度を保つ。軽量紙ねんどを水につけて少し溶かし、隙間に詰めて補強した。紙ねんどの粉っぽさが気になったため、スプレータイプのニスで塗装し、完成させた。

実験2

 装置1号の効果を確かめるため、実験2を行った。40代右利きの被験者1と、10代左利きの被験者2が、利き手、非利き手、装置1号をつけた非利き手それぞれで「AIによる手書き文字の採点アプリLetters」に平仮名の「ほ」を書き、出された点数を比較した。「ほ」はとめ、はね、縦線、横線、むすびが含まれ、利き手と非利き手で書いた時に差が出やすい文字だ。被験者1〜2は利き手、非利き手、装置1号の非利き手でそれぞれ10回ずつ30回、いずれも5秒以内にほの字を書いた。
 その結果、被験者1には装置1号の効果が認められたが、被験者2には1号による改善がほとんど認められなかった(右上の表)。装置をつけた写真を比較すると、被験者2はペンの部分を握っているが、被験者1は装置そのものを握って字を書いている。被験者2の装置の壁が手の甲をあまり支えていない様子も確認でき、装置との一体感の差が結果につながったと推察できる。


左が被験者1、右が被験者2が書く様子

装置2号の製作

 改良型の装置2号を製作した。装置2号は人差し指と親指で直接装置を握って書くように形を変え、手と装置を固定するバンドを取りつけた。

実験3

 装置2号を使って実験2と全く同じ方法で実験を行った結果が、下の表だ。


改良した装置2号

 実験3では被験者1も被験者2も非利き手だけで書くより、2号をつけた非利き手で書いたほうが平均点が高かった。非利き手で書いた字は1号が10回連続して書くと点数が下がっていくのに対し、2号の字は最後まで下がらない。非利き手でも、正しい手の形を保つことができた。
 この装置は右利きでも左利きでも同じように使え、手の大きさが違っても効果がありそうだ。シンプルなデザインで使い心地の良いものになり、多くの人に使ってもらえる装置を作る目標が達成できたと思う。

指導について

静岡STEAMフューチャースクール 安本 重幸

 静岡STEAMフューチャースクールを受講して3年目の中学生です。知里さんは自分が左利きのため、非利き手である右手も自由に使えたらとの理由で研究を始めました。当初は自分が両利きになりたかったそうですが、補助具を作れば病気やけがで利き手が使えなくなった人の生活のサポートになると思うようになり、研究を進めていきました。被験者が少なかったので「被験者を可能な限り増やす」というアドバイスを行い、Googleフォームを使って、学校の仲間、STEAMの受講生、家族など44人分のデータを集めました。知里さんが工夫した点は、そのデータをもとに補助具を設計し、紙粘土で作製したことやAIによる手書き文字の採点アプリを使い、非利き手で書く手書き文字の採点を行ったことです。装置を1号から2号と改良していくことで、文字の採点が上がることだけでなく、人が使いたくなる使い心地やデザインまで追究したことは素晴らしかったと思います。

審査評

[審査員] 田中 史人

 本研究は3年間継続して行ってきた研究です。日常生活の中で、ペットボトルの蓋を開ける方向やキッチン用品などについて、左利きの辻さんは日用品の多くが右利き用に作られていることによる使用時の不便さを感じており、そこから本研究がスタートしました。左利き用の商品を開発するのではなく、両利きになることを支援するための装置の開発・研究を行いました。実験装置についても、実験を進めていく上で生じた課題を改善するため、進化した装置2号を製作しました。ペンの傾きの角度を調整したり、紙粘土の滑りが悪かったため底にプラバンをはったりするなどの工夫を行いました。実験の実施にあたっては40名を超える被験者の方々の協力を得て、本研究を進めることができました。楽しみながら研究に取り組むことで、より良い装置の製作を進めることができた点は、非常に評価できる研究です。今後はさらに研究を発展させ、将来的には多くの人が利き手と非利き手にこだわることなく日常生活を送ることができる装置の実用化に向けて開発を進められることを期待します。

ページトップへ

  •  
  •  
  • LINE

RECOMMEND

RECOMMEND

おすすめの関連コンテンツ

風と羽根のコラボレーション2 -回って、回って、回って...

文部科学大臣奨励賞
沖縄県沖縄尚学高等学校附属中学校
塚本 真依さん

「すいふよう」の花の色変わり

佳作
岐阜県各務原市立那加第一小学校
石垣 知香さん

めざせ水切り名人! ~水切りのコツをさぐる~

佳作
宮城県聖ドミニコ学院小学校
 森 晃子さん

カイコのひみつ PART2 遺伝の不思議

佳作
東京都和光鶴川小学校
 辻 ゆうりさん
  • 第66回シゼコン 表彰式
  • 自由研究のヒント
  • シゼコン Youtube CHANNEL
  • シゼコンせんぱい
ENTRY? LINE
ABOUT SHIZECON
自然科学観察コンクールとは?
ENTER SHIZECON
第66回自然科学観察コンクール 募集終了
2025年度(第66回) 募集終了